風
 
 
 
 
 
 
[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
新書の「時の人」にきく
02 音楽の聴き方、ジャズの読み方
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3.本当の初心者のために入門書はない
4.生涯100枚主義
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本当の初心者のために入門書はない
――
活字と音楽ジャンルとの関係について考えた場合、本を読む人はどちらかというとクラシックかジャズのような…。
中山
 インドア派ですね。マーケットの規模からいくとロックやポップスのほうがはるかに大きいんです。ジャズやクラシックはロックの敵にもならないですよね。でも専門誌の数とか売れ行きとか、新書の数からみると勝っているわけですよ。活字信仰の読者が多いのか、活字中毒者がジャズやクラシック中毒になっていく確率が高いのか。
 それはジャズやクラシックが難しいからですね。あるいは難しいと思われているから。特にジャズはそうですね。クラシックは一応学校教育の一環で触れてきている。ジャズは、普通の人から見るとちょっと謎の部分ですよね。ちょっと怖いから、“保険”として新書でも読むかという気になる。ジャズに関する入門新書の多さは、ジャズが難しいっていう意識を持つ人の多さと比例していると思います。ビートルズやロックには入門書は必要ないんです。だからそれらにはもう少し違う聴き方を提示できる本が求められているんです。
――
中山さんの『超ジャズ入門』は他のものとは視点が違いますよね。
中山
 ぼくは、入門書を入門者に向けて書いたことは1回もないんです。入門者はいないと思っているんです。いたとしてもごくわずか。これからジャズを聴く人よりも、今、ジャズを聴いている人の方がはるかに多いんですから、ビジネス的にもこっちに重点を置かないと。ぼくは、ジャズを10年、20年聴いている人の中にも初心者はいるという考えです。その人たちに向けて、自分が聴いてきた方法が正しかったのかどうか、ということを書いています。再入門ですね。本当の初心者の人たちも確かにいるんですけど、その人たちは意外と読まない、読んでもわからないと思うんです。例えば、パソコンを初めて買っていきなり分厚い解説書を読んでも分からないじゃないですか。半年ぐらいたって読み直すとよく分かる。だから、初心者をターゲットの中心に据えすぎると売れないと思います。
――
初心者はどういう経過を経て、準初心者というか、ある程度経験を持った人になるのでしょうか。
中山
 初心者がいないというもう一つの根拠は、普通は初心者から中級、上級、マニア、となるわけですけれど、この流れが今やもうないんです。つまり、初心者の人は生涯初心者で終わるんです。マニアはいますけれど、この人たちはどんどん数が減っていってそのうち…。初心者というのはその先エスカレーター式に進歩することを前提にしている言葉ですよね。去年初心者だったけど、今年はこう…というような。こういう流れがいまや崩壊しているから、全部等価というか、分散しているんです。
――
中級以上のレベルに移らないんですね。
中山
 移りたくないっていう人がいっぱいいます。ジャズの歴史は別に知らなくてもいい、マイルスのCDを全部持たなくてもいい、ノラ・ジョーンズだけでいい、っていう人がいっぱいいる。今までは初心者から上級者への流れがつながっていたので、昨日の初心者は明日のマニアみたいな部分で専門誌も成り立っていたんですけれど、今はもうぶつ切れになっている。だから初心者は万年初心者です。それで、その人たちは毎年ベスト版ばっかり買うんです。名曲シリーズばっかり。これはジャズだけじゃなくて、他の分野でも似ているような気がします。
――
その動きのなさ、というのはどうして生じるのでしょうか。
中山
 わからないですね。ぼくらは学生時代、「今はお金がないけれど将来あのブランドのものを買いたいから節約しよう」と思っていた。今はよほどのおしゃれでなければ、とりあえず全部ユニクロでもいい。探求心もないですね、ジャズファンだけ見ているとまさにBGM的なものでいいと思っていますよね。インテリアのような。ぼくらから見ると、満足度というか、要求度は低いです。一つにはタダで音楽が聴けるようになったこと、アマゾンで1000円ぐらい出せばCDが買えるようになったり。音楽に対する価値観が、これはCDになってから顕著なのですが、崩壊しましたね。これは悪いことばかりではないのですが、入門者にとっては難しいかなと。
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生涯100枚主義
――
『超ジャズ入門』がこれだけ読まれたということは、ジャズを聴きたい、という人だけでなく、もう少し違う層に読まれているのでしょうか?
中山
 ジャズを今まで聴いてきた人が買ってくれたんです。聴いてきた人はベテランだから自分でジャズ観というものを持っています。それに対して、著者はどう思っているかというやりとりですね。普段そういう人たちは、自分のほうが詳しいと思っているから、そういう入門書を買う必要がないんですが、たまたま手に取ってみたら何となく響いたので、ということだと思います。
――
ジャズの入門書をいくつか読んではみるのですが、わかるところはわかるけど、わからない部分はいつまでたってもわからないまま、という感じです。活字として音楽を紹介する時に、どういう書き方をしたらいいか、どういう段階をふんだらいいか。
中山
 それはたぶん基本的なことで、まず、具体的に指示してあげないといけないんです。『超ジャズ入門』で書いたのは、新しいCDは月に2枚でいい、ということです。最終的にそろえるCDは100枚でいい、101枚目ができたら1枚手放して、常に100枚でいい。生涯100枚主義。
――
わかりやすいですね。
中山
 それらを繰り返し聴けばいい。ぼくの考えでは、1枚のCDを100回繰り返して聴けばその人は100枚のCDを持っているのと同じです。本物の音楽はそれだけ聴いても飽きない。最初は聞こえなかった音がどんどん聞こえるようになってくる。これはいい装置で聴く、とかそういうことではなくてね。マイルスやビートルズなど天才的な人たちの音楽は素人のぼくらが4、5回聴いてわかるようなものじゃないんです。わかるのは、好きか嫌いかだけです。あとは、いつか本物に出合うまで無駄金をつかえ、ということですね。
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