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第156回 『新型コロナ 7つの謎』

「風」編集部

NEW 2020/11/30

「ステージ4は絶対に避ける必要がある」

 政府の「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は、11月25日に新たな提言を発表した。地域によっては、既に医療提供体制への負荷がより一層高まる段階の状況にあり、「年末年始を穏やかに過ごすためにも、この3週間に集中して」対策の強化を、とうったえている。
 分科会では、国の指標で既に「ステージ3以上(感染が急増している)相当」にあるという北海道、大阪、愛知、東京23区を中心に、酒類を提供する飲食店における営業時間の短縮、GoToトラベル事業の一時停止、Go Toイートの運用見直しなどの対応を求めている。西村康稔経済再生担当相は、「緊急事態宣言」を検討することになる「ステージ4(感染爆発)」は絶対に避けるべき、と記者会見でうったえた。
 今年2月以降、政府による「感染拡大を防ぐのは今が正念場」「短期間で集中して強い対策を」という言葉を度々聞いてきた。経済活動を止めないためにも、再度の「緊急事態宣言」を避けたいというのは誰もが感じていることだ。しかし、こうした「自粛」「我慢」「強い対策」を続けるにも限界がある。
 昨年末の新型コロナウイルスの発見からもうすぐ1年がたつ。情報は相変わらず錯綜しているが、これまでに科学的にわかってきたこと、まだわかっていない部分とを整理して、より適切な対応にしていく必要があるだろう。

新型コロナ 7つの謎/最新免疫学からわかった病原体の正体』(宮坂昌之著、ブルーバックス)の著者は、大阪大学フロンティア免疫学研究センター・招へい教授という肩書きの、日本での免疫学の第一人者といえる人物。11月に刊行されたばかりの新著では、免疫学者による専門的な目で収集・分析した最新の科学・医学情報をもとに、この病原体の「正体」に迫る。「COVID-19がなぜこのようなパンデミックを引き起こしたのか」、「日本人が欧米人に比べて重症化率・死亡率が低い理由はあるのか」「症状に個人差が大きいのはなぜか」などの7つの「疑問」に、「現時点での回答」を示している。
 世界中でさまざまな論文が発表されているが、その内容は「玉石混交」であり、怪しげな情報に踊らされると感染リスクを逆に高める行動をとることにつながったり、無用なストレスに悩まされることにもなる、と指摘する。
 集団免疫とは何か、抗ウイルス薬が働く仕組み、ウイルスに対する検査の違いなど、誤った情報に惑わされないためにも、理解しておくべき内容が整理されている。

有効なワクチンが開発できるのか

 いま世界中で注視されているのが、新型コロナウイルスに対するワクチン開発の状況である。300近い数の会社が開発に参画して、米国や英国の大手製薬企業では、早いものでは既に「第三相試験」といわれる臨床試験の最終段階を済ませたものもある。「90%以上の予防効果があった」という報告もあり、緊急承認の手続きが終わり次第、年内または年明けには供給が始まるのでは、とも報道された。
 本書の内容は、こうした報道より前になるが、「安全で予防効果の高いワクチンが出てくるまでにはかなりの時間がかかるのではないか」というのが免疫学者である著者の見解だ。ワクチンを接種したあと、からだに抗体ができる仕組みから考えると、「ウイルスをやっつけてくれる良い抗体(善玉抗体)」だけができるとは限らず、「病気を悪くする抗体(悪玉抗体)」や「ウイルスに対してまったく働かない抗体(役なし抗体)」ができることがあるという。
 ここでは、代表的なものであるDNAワクチン、RNAワクチン、不活化ワクチンの仕組みとメリット・デメリットを紹介する。いままさに熾烈なワクチン開発競争の先頭を切っているいくつかの会社で最終段階に入っているのがRNAワクチンだという。さまざまなメリットはあるが、実用化されたものはまだないというのが最大のネックである。
 これまでにも、海外の第三相試験のデータだけを基にスピード認可された新薬が、日本の患者でのみ死亡例が多発し、一時使用が停止されたケースがあったという。先にできたワクチンが良いということも限らない。日本政府が、ワクチン獲得競争に急ぐあまり、厳格な審査を緩めてワクチンの認可をしようとしているのではないか、と著者は警告する。ワクチンと並行して開発が進む、有効性の高い新型コロナウイルス感染症の治療法とその可能性についても解説する。

まず敵を正しく知ること

 宮坂氏は本書を執筆したきっかけとして、「多くの日本人が重症化して亡くなる」「少しでもウイルスを吸い込むと感染する」と煽るような報道が続く一方で、「風邪やインフルエンザと変わらないから怖くない」「ワクチンがすぐに実用化される」「集団免疫ができるだろう」などの「雑」な報道が目に余ったから、としている。
 マスコミ関係者の自然科学に関するリテラシーが欠如していることも、取材依頼を受けたことで実感したという。連日の報道の結果、新型コロナウイルスを「過度に怖がる人」と「大したことはない、経済を優先しろ」という人に分かれてしまっているのが問題だという。
 著者は「どちらの姿勢も正しくない」として、随筆家の寺田寅彦による「ものをこわがらな過ぎたり、こわがりすぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしい」という一文を引用している。このことばを昨今、『「ただしく恐れる」ことが大事だ』という解釈で引用している人が多いが、宮坂氏の解釈は似ているようで全く異なるという。ウイルスや病気に対しては「正しく理解する」ことが必要で、そうすればむやみにこわがることはないはず、と指摘する。「まずは敵を正しく知ること」。第三波を乗り切るためにも、改めて冷静に学んでおきたい。

(編集部 湯原葉子)

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