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第148回 『救急車が来なくなる日』

「風」編集部

NEW 2020/03/31

東京の「感染爆発」は防げるか

 世界各国で新型コロナウイルスの感染拡大による死者数が爆発的に増えている。日ごとに報道される感染者数、死者数は東京都や大阪府など都会を中心に増加の一途をたどる。現在、死者数が1万人を超え、医療崩壊しているイタリアの後を追わずにすむのか、日本の医療体制はここで踏みとどまることができるのだろうか。
 119番をコールすれば日本全国どこにいても、救急搬送を受けることができる、ということになっていた。しかし、一刻を争う事態で救急車を呼んでも救急車がなかなか来ない。救急車が来ても、医師が少なく、万全な治療を受けることができない。日本の地域によっては既にそんな状況が起きている。そう警鐘を鳴らすのは『救急車が来なくなる日/医療崩壊と再生への道』 (笹井恵里子著、NHK出版新書、2019年8月刊)である。本書では、各地の患者受け入れ数が多い救命救急センターに取材をしたものである。日本の救急医療が「既に」危機に瀕している状況をうったえ、このままでは2025年には医療崩壊が起こる、と警告する。
 本書の刊行は2019年の8月。新型コロナ感染症が起こる半年以上も前の、いわば「平時」の状況である。それでも、「このままでは日本の救急医療は崩壊する」と予見しているのだ。

「最後の砦」を守る医師からの問いかけ

 救命救急医療は、一刻を争う時間で、限られた条件のなか処置を迫られる、とりわけ過酷な現場である。医師として求められる資質、能力も高い。経験も重要で、他の科と比べても常に医師不足が悩みだという。
 いまや救命救急センターは70代、80代高齢者で埋め尽くされているという。耳が遠い患者に対して、医師や看護婦は繰り返し説明する必要が生じ、診察や処置に時間がかかるという。生命に関わる病態であることも少なくないという。高齢化が進む2030年には、救急車の出動が現在の1.36倍になるという予測もあるという。救命救急センターは重症患者にとって「最後の砦」ともいうべき場所である。そこで働く医師から、「今のようにすべての命を平等に助けるのが正しいのでしょうか」という悲鳴のような言葉が出てくるという。平等にというのは、「90歳の寝たきりの高齢患者にも、30代の働き盛りの患者にも同じエネルギーをさくべきか」という意味である。
 無情なようだが、それが現場からの「リアル」な声だ、と著者は言う。

救命救急医療を崩壊させない

 本書では、救急医療をスムーズに受けるために私たちができることとして、「既往症や服用中の薬名、家族への連絡先を記載したカード」を財布などに入れいつも持ち歩くことをすすめている。自宅で倒れることもあり、家族のそうした情報を冷蔵庫のドアポケットや玄関の扉の内側などに貼っておけば、緊急搬送に来た救急隊員が患者にまつわる情報を得られ、緊急治療を即座に始められるという。
 本書では2025年頃、と「予告」された救急医療崩壊は、新型コロナ感染症という目に見えない敵により、目前に迫ってきている。
「昨日まで元気だったのに」と急変した患者を前に家族は言うが、それは明日の私たちかもしれない。
 新型コロナ感染症の急速な拡大は、そのものによる脅威はもちろん、通常なら助かったかもしれないさまざまな緊急治療が受けられなくなることを意味する。新型コロナウイルスを「自分はかからないだろう」「かかっても大したことないだろう」と軽く見るのは本当に危険だ。 本稿の準備中に、タレントの志村けんさんが新型コロナウイルスによる肺炎で亡くなる、という衝撃的なニュースが入った。10日ほど前から重度の肺炎で入院し、「新型コロナウイルス」の陽性がわかり、重篤な病状だという報道があったばかりである。「ほんとに死んじゃうんだぞ、手を洗え、家にいろよ」という彼の声が聞こえてくるようだ。行動を変えなくてはいけない。

(編集部 湯原葉子)

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