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第132回 『認知症フレンドリー社会』

「風」編集部

NEW 18/12/31

「天皇としての旅を終えようとしている今…」

 宮内庁は毎年、天皇誕生日に際し、代表質問に答える形で「天皇陛下お誕生日に際し」というメッセージを発表している。新聞、テレビでも必ずとりあげられる。天皇誕生日が12月23日という年の瀬にあたることもあり、自然と「今年一年を振り返る」メッセージになっている。
 来年4月に退位を控えて、「平成最後の天皇誕生日」ということもあり、今年の会見メッセージの全容には、いつも以上に関心を寄せて聞いた人も多いのではないだろうか。私もその一人だった。
 例年にも増して多かった災害についてふれ、その犠牲者や被災者について心を寄せる。世界の動きにも目を向け、平和についての所感を述べる。人柄がにじみ出る静かな語り口は例年と変わらずといったところだ。それでも、やはり「天皇として迎える最後の誕生日」でのメッセージということもあり、個人としての思いがあふれて出ることを抑えきれず、宮内庁もあえてそのまま国民に届けようとしたのでは、と思わせる部分がいくつもあった。
 感極まり震えた声で、「天皇としての旅を終えようとしている今……」と、皇后陛下に対して長年の苦労を労い、感謝の気持ちを伝えたメッセージは、聞いている方にも胸に迫るものがあった。定められた役割を果たすことしか許されない、天皇制とは何と過酷なのだろうか、と改めて考えさせられる。天皇としての役割を「旅」とみなすことで、その重要な任務を皇后陛下とお二人で、乗り越えることができたのかもしれない。

周縁の人々に寄せる思い

象徴天皇の旅/平成に築かれた国民との絆』(井上 亮著、平凡社新書、2018年8月刊)は、そうした人生そのものである「旅」に皇室担当記者として数多く同行するなど、傍で見守ってきた著者による一冊である。
 本書によると、「天皇陛下は即位後、全都道府県を二巡している。皇太子時代に一巡しているから、三巡したことになる。訪問した離島は54。外国訪問は皇太子時代に42ヵ国、即位後は36ヵ国にのぼる」という。これほど国内外を旅して回った日本人は、ほかにはまずいないのではないか、と著者は指摘している。当然、その旅の行き先、スケジュール等に意思決定の自由はない。そうした「旅」を続ける過酷さは、想像をはるかにこえる。
 天皇の旅は文字通りの分刻みのスケジュールで、行事ごと、行き先ごとに行くべき場所、会うべき人が定められている。特に外国訪問では政治的な影響が懸念され、そのタイミングと訪問先には神経を尖らせてきた。宮内庁は、高齢となった天皇皇后両陛下への「肉体的・精神的負担」や警備の都合を理由に、現地での記者会見を取りやめることもあった。「生の声」を発信する機会を減らそうとする宮内庁の姿勢に、異を唱えてきた宮内庁担当記者たちもいた。おきまりの「お言葉」「お声かけ」だけではない、生の声を聞き出し、伝えようとする記者たちもいたことが記されている。本書でも、訪問先での記者とのやりとり、現地で会った人との何気ない会話や表情から伝わってくる、両陛下の肉声を伝えようとしている。
 また、著者は、天皇陛下が、象徴的行為として特に大切なものとしているものに「遠隔の地や島々への旅」をあげていることを紹介する。島や僻地に住む人々と、中央に近いところにいる人々とのさまざまな格差。周縁の地と人々、災害や公害に見舞われた人々に目を配り続ける、という姿勢を生涯発信し続けたことにに、象徴天皇として旅を続けて来た理由があるのかもしれない。

日系人の歴史で示唆したもの

 ちろん天皇は、政治的な発言は一切許されない。それでも、折にふれ、その許されるギリギリのところで、個人的な考えを示されているのではないかと思われる。今回のスピーチでいうと、"沖縄の人々が耐え続けた犠牲に心を寄せていくとの私どもの思いは,これからも変わることはありません。"という部分や、"日系の人たちが各国で助けを受けながら、それぞれの社会の一員として活躍していることに思いを致しつつ、各国から我が国に来て仕事をする人々を,社会の一員として私ども皆が温かく迎えることができるよう願っています"という部分などだ。
 政治的に影響を与えるような、また利用されるような発言をしてはいけない。そのように幼少のころから厳しく教育され、長年努めてこられたに違いないが、個人としての譲れない思いを静かに示唆されているように、私は解釈した。
「最後の天皇誕生日」に語られたメッセージの重さを、忘れてはいけないと思う。

(編集部 湯原葉子)

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