風
 
 
 
 
 
 
[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
新書で考える「いま」 旬の話題や気になっている問題。もっと知りたいとおもったとき、まずは新書にあたってみる。そこで出合うだろうおすすめの1冊を中心に「いま」を考えてみる。
第150回 『仕事の未来』

「風」編集部

NEW 2020/05/31

『仕事の未来 「ジョブ・オートメーション」の罠と「ギグ・エコノミー」の現実』
(小林雅一 著、講談社現代新書)

「新しい生活様式」

 4月7日に出された緊急事態宣言は、残っていた一都三県を含め5月25日付けですべて解除された。学校教育は段階的に再開され、さまざまな業種での営業自粛も段階的に解除され始めている。人の移動が増えれば、新型コロナウイルスのリスクも増える。
 厚生労働省は5月4日に、新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」について発表している。

 ここでは、感染症に対する基本的な対策を引き続き徹底するように求めている。さらには、買い物の仕方を工夫し、多人数での会食は避ける、旅行を控えるなど、「生活様式」を変えていくことを求めている。日常生活に加え、働き方についても「新しい様式」を示している。例えば、「テレワークやローテーション勤務」「時差通勤でゆったりと 」「会議はオンライン」……。いずれも、「緊急事態宣言」下において、数週間にわたって試行錯誤してきたことだ。
 5月6日に外出制限を緩和した韓国では、その後ソウルなどで集団感染が相次ぎ、本日から再度2週間の行動自粛要請が行われるという。日本でも、いずれ来る第二波、第三波に備えるために、これまでとは全く違う働き方が求められているのだ。

新型コロナで失われた雇用、儲けた巨大IT企業

 先に述べた通り、本書の主なテーマは、「ジョブ・オートメーション(仕事自動化)」技術や、「ギグ・エコノミー」(スマホアプリやインターネットを使って単発または短期の仕事を請け負う労働環境)の最新とその実態である。 
 本書では「AIの教師」という最近生まれた新しい職業を紹介している。多数の労働者が大量の写真やビデオ映像をチェックし、「これは何々」と「ディープラーニング」と呼ばれるAIに教え込むという延々続く膨大な作業である。
 ここでは、アメリカのアウトソーシング会社の、インド東部にいる社員がその仕事に従事している様子を紹介する。自動運転車に「これは赤信号」「これは一時停止のサイン」と教えるのも、がんの自動診断技術を支えるために内視鏡ビデオからポリープ画像を大量にチェックするのも、有害コンテンツや残忍な動画を自動検出・削除する技術を支えるのも、生身の人間による地道な単純作業である。顧客企業の目的は従業員たちには知らされない。著者は、大正時代の「女工哀史」とかわらないのでは、としている。こうした仕事のアウトソーシング先は、今はインドだけでなく、日本を含め世界各国に広がっている。
「未来を切り開く夢のテクノロジー」ともてはやされるAI。「AIロボに3K労働を任せ、人間がそれらの過酷な労働から解放される」「人間には清潔・安全かつ快適でクリエイティブな仕事が残る」というのが、理想として描かれる未来の仕事像だが、まだ現実はその理想とは遠いことをさまざまな事例から紹介する。

シリコンバレーでも完全在宅勤務には戸惑い

 本書では、今回の非常事態に際しての、米国シリコンバレーのIT企業の対応も紹介している。アップル、グーグル、フェイスブックなどは自社のクラウド業務システムを活用するなどして従業員に在宅勤務を呼びかけた。IT企業の社員がテレワークに移行するのは難しくないように思えるが、うまくいくケースばかりでもなかったという。自宅の通信回線が遅く業務がスムーズに進まなかったり、開発中の新製品に関する業務では、守秘義務規定から社内システムの重要な部分には社外からアクセスできないようになっているからだという。フェイスブック社では、児童ポルノなど有害コンテンツの監視・削除を担当している部署では業務の性質上、社外での作業が禁止されていて、やむなく出勤する社員もいたという。
 世界に名だたる巨大IT企業ですら、緊急事態下で会社の想定通りの在宅勤務体制が実施できなかったことは興味深い。
 一律の在宅勤務要請は、生産性の観点からも疑問があるという。業務の性質上、在宅勤務は絶対に不可能、という職場ももちろんある。しかし、通勤電車の混雑緩和や、長距離の移動、人と人と接する機会を減らすためには、可能な業種・職種では、できる限り在宅勤務やオンライン会議などを継続することが、これからも求められるだろう。
 今回の「危機対応」を機に、より合理的で人間的な「新しい就労スタイル」が生まれることもあるのでは、と著者の小林氏は期待を寄せている。

(編集部 湯原葉子)

関連する新書マップテーマ
PAGE TOP
Copyright(C) Association Press. All Rights Reserved.
著作権及びリンクについて