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第116回 『部活があぶない』

「風」編集部

NEW 17/07/31

 待ちに待った夏休み。子どもたちは学校から解放され、思い思いの時間を過ごす……というのはもはや少数派。各種の大会、コンクールなどが多く催される夏休み期間中は、ふだんより部活の時間が増え、校内やグラウンドには朝から夕まで子どもたちが途切れず姿をあらわす。
 部活に打ち込む主人公の挫折や成長の姿は、青春時代を描く小説、漫画、映画の題材の一つとしても欠かせないものでもある。日本人の多くが今も昔も熱中してきた「部活」だが、最近、光と影の「影」の面にも注目が集まっている。
 顧問による体罰や暴言・セクハラ、先輩から下級生へのいじめ、ケガなどの事故。休日がほとんどなく、過労死寸前になることもある顧問教師の労務実態なども明らかになりつつある。自主的な活動という名の下、生徒にとっても教師にとっても「ブラック化」しつつあるその実態について、新聞報道などでも問題とされるようになってきた。長らく日本の学校教育のなかでも重要な位置を占めてきた部活がなぜ、いま「ブラック」と呼ばれるようになったのか。
 2012年には、大阪市立高校でバスケットボール部のキャプテンだった男子生徒が、顧問による体罰や理不尽な指導を理由に自殺するという事件が起きた。『部活があぶない』(島沢優子著、講談社現代新書)では、新聞記者としてこの事件を取材した著者が、部活をめぐる問題のその社会背景に迫る。体罰や恫喝指導といった、一部の問題教師に関わることよりも深く根強い原因を明らかにしていく。

部活の「ブラック化」を助長するもの

 本書の著者は、自身も高校時代にバスケット部で体罰を受けていたという。30数年前にはいわば当たり前に行われていた体罰指導だが、近年では当然ながら問題視され、殴って指導するような時代はとっくに終焉したと思い込んでいた、と告白する。
 大阪市の男子生徒の死を機に取材を始めると、大阪市の件は氷山の一角であり、部活での体罰や恫喝による指導はまだ終わっていないことに衝撃を受けたという。週刊誌で「理不尽強いるブラック部活」という記事を書くと大きな反響を呼んだ。
 暴力が一切許されないはずの教育現場で、いまだに暴力や暴言などを含む理不尽な「指導」がなかなかなくならない背景に、大会などの活動の成果によって自己承認欲求を満たそうとする顧問や親の存在をあげている。
 部活の成績が彼らの「評価」や学校の知名度につながると信じている大人たちが部活の加熱化を支えている面がある。活動に熱心になるあまり、成績がよい部活ほど、指導者がまるで「教祖」のようになり、問題があっても誰も何も言えなくなることも多い。さらに、若い頃に自分が叶えられなかった夢を「わが子でもう一度」という親も、部活を熱狂させ、体罰指導や休日のない過度な練習を黙認する形で、結果的にブラック部活を支えていることになる。「ブラック化」を生み出すのは決して一部の問題指導者だけではないことを、あらためて考えさせられる。どんな状況や理由においても暴力は許されない、ということを繰り返しうったえた上で、本来の部活は、生徒たちが主人公であるべきものであると主張する。
 もちろん、一連の問題は運動部だけではなく文化系、特に熱心に活動することが多い吹奏楽部にもみられる。音楽が好きで部活をやっているはずの若者たちだが、目先のコンクールの結果などにしか興味がなく、本物の音楽にふれる機会である、プロの演奏会に行く時間ももたない。そうした現状を目にすることが私の身近にもあり、個人的には非常に疑問を感じ、残念に思う。

部活の主人公は誰か

 本書の著者が、部活が抱える問題について、「解決を急ぐべき」とうったえるのは、2020年に予定されている大学入試改革では「人物重視の多方面な評価」として、部活が今以上に生徒を評価する項目としてクローズアップされることにあるからだ。さまざまな課題を抱えていても「部活に入らない」「部活を途中で辞める」という選択肢を生徒がとりづらい、と思ってしまうことが、ブラック企業同様、部活のブラック化を何より進めてしまうのではないか。
「生徒の自主的・自発的な活動」という本来の目的に立ち返ることは簡単ではないかもしれない。「多少キツくても途中で投げ出さず最後までやり通すべき」「理不尽なことにも我慢させるのが美徳」「部活を休ませて生徒たちをぶらぶらさせるな」などという学校の「外」、つまり世間という圧力が何より大きいものだからだ。
 部活は楽しむもの、という原点に立ち返れば、部活の活動時間を縮小し、一年中一つのスポーツにのみ取り組むのではなく、「シーズン制」をとってさまざまなスポーツも体験する、というような方法もいろいろ模索できる。本書では、怒鳴り散らす指導をやめるなど、指導法や練習内容の改革により成績を上げた例も、指導者の声をふまえて紹介する。
 部活改革など、悠長なことを言っている場合ではない、いま苦しんでいる子どもたちをどうしたらいいか、というケースに関してもアドバイスしている。部活問題に悩む人に、届いてほしい一冊である。

(編集部 湯原葉子)

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