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第118回 『希望の政治』

「風」編集部

NEW 17/09/30

誰にとっての「希望」?

 9月28日、衆議院が解散された。安倍首相自ら「国難突破解散」と名づけたが、いつの間にか主役の座は交代していた。小池百合子都知事である。
 都知事就任後に「都民ファーストの会」を設立、代表を務めた小池氏だが、都議選後には辞任、10月30日には主宰する政治塾「希望の塾」を立ち上げている。そして今回、総選挙に向け、自身が代表となる新党「希望の党」の設立を発表した。
 一方、9月初旬に党代表が交代したばかりの民進党が、「総選挙には候補者を擁立せず、希望の党を全力で支援する」と発表した。ここ数日は、民進党が党として「希望の党」に「合流」する、「党代表は無所属で立候補する」、「党としての「合流」ではなくあくまで個人として……」など発言が錯綜している。民進党とは何だったのか、と思わざるをえない。
 解散総選挙を機に再び国政の場に登場した小池氏だが、当然ながら着々と準備をしてきたようだ。『希望の政治/都民ファーストの会講義録』(小池百合子編著、中公新書ラクレ)は、小池氏が主催する政治塾の講義録をもとに、この8月に刊行されたものである。これを読むと、政治家としての理念、求めていく政策が見えてくるのだろうか。

「書かれていないこと」が知りたい

 情報公開の重要性を説き、メリハリのついた予算編成を、とうったえる。女性の活躍につながる待機児童対策に力を入れる。既得権益と化していた予算枠を撤廃する。知事給与の半減を公約にし、実行している。女性の視点で都政を変えるため、知事室で「女子会」を開き、女性管理職と意見交換の場を設けている。
 18歳のときには女性が国際的に活躍できる仕事を、とアラビア語の通訳をめざし、カイロ大学への留学を決めていたという自身の生い立ちにもふれ、外国語ができると世界の見方が変わる、とも伝えている。
 環境を重視したオリンピックへ向けての東京の都市デザインをどう考えるか。豊洲新市場移転の凍結についても書いている。
 自身が主催する「政治塾」の講義録だから当然とはいえ、素晴らしい理念、政策が並んでいる。
 本当のところはどうなのだろうか。大改革の副作用は出ていないのだろうか。小池氏のいう「しがらみ」はすべて悪なのだろうか。ここには書かれていないことが知りたい。

「この国には何でもある。ただ、『希望』だけがない」

 
最終章で、小池氏は「日本には、東京には、あらゆるモノがあふれています。この東京には何でもありますけれども、一つ足りないものがあると思います。“希望”です。」と語る。この表現に、村上龍氏の小説に出てきた言葉を思い出すのは私だけではないのでは、と思う。

「この国には何でもある。ただ、『希望』だけがない」
(『希望の国のエクソダス』村上龍著、2000年より)

 この作品は、閉塞感の漂う「現代」日本で、約80万人の中学生が大人を見捨て、日本を見捨てる、というストーリーである。
 現実の日本でも、若者が日本を見捨て、国を捨てるような事態が起きないとも言い切れない。「希望」という一見美しい言葉で語られるものに対して、「明るい」「前向きな」イメージを持ち、無批判に反応するのは危険ではないかと思う。政治家たちが何を語り、何を語らないか、これまでやってきたことや発言の数々とともに、冷静に見極めていく必要があるのではないだろうか。

(編集部 湯原葉子)

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