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 第144回 『教皇フランシスコ』

「風」編集部

NEW 19/11/30

令和元年に実現した超VIPの来日

 11月23日から26日にかけ、ローマ教皇フランシスコが来日した。教皇の来日は1981年ヨハネ・パウロ2世以来となる38年ぶり。長崎、広島への訪問では、被爆者への祈りを捧げ、核廃絶をうったえるメッセージを残した。続いて訪れた東京では、東京ドームで約5万人が参列する大規模なミサを行い、皇居にて天皇との会見も実現した。2013年の教皇就任から6年たっての初来日は、新しい天皇の即位直後という絶妙なタイミングで実現したといえる。
 今年3月に刊行された『教皇フランシスコ/南の世界から』(乗 浩子著、平凡社新書)は、twitterのフォロワー数は1800万人を超えるなど、SNSを含めさまざまなメディアを駆使して世界中に大きな影響力を持つ、教皇フランシスコその人の素顔に迫る。
 カトリックが歩んできた歴史、ローマ教皇が「南出身」とはどのような意味があるのか、ということなど、キリスト教、とりわけカトリックになじみが深いとはいえない多くの日本人にとってもより理解が深まる一冊となっている。その上で、カトリックに限らず、現代の世界で宗教が抱える課題についても考えさせられる。

南半球 「地の果てから来た」教皇

 ヨーロッパ以外からの教皇選出は実に1300年ぶりだという。アルゼンチン出身の教皇が今日に至るまでたどった足跡とはどんなものだったのか。1932年にホルヘ・マリオ・ベルゴリオ(のちの教皇フランシスコ)はイタリア系移民二世としてブエノスアイレスに生まれた。サッカーに夢中だった少年が聖職者になり、重要な役職に就くまでの道のりは、軍事政権の成立によるアルゼンチン国内の政治・社会的混乱もあり、平坦ではなかった。
 ベルゴリオが司教になって任されたのはブエノスアイレスで最も貧しい教区であり、スラム街が集中する地域。深刻な麻薬問題に取り組み、「貧しい人から学べ」というのが口ぐせだったという。教皇に選出された際の第一声は「地の果てから参りました」だったが、バチカンから見れば、南米大陸の南に位置するアルゼンチンは、まさに「地の果て」のように別世界と思われていたのだろう。
 本書では、「弱者に寄り添う」とする教皇が、「聖職者による子どもの性的虐待」「人工妊娠中絶の容認」「LGBTに対する人権問題」といった、現在バチカンが抱える深刻な課題にどう対処しているかも解説している。

巨大宗教市場のアフリカ・アジア

 本書に掲載されている世界の主な宗教の地域別(アジア、アフリカ、オセアニア、北アメリカ、ヨーロッパ、ラテンアメリカ)信者人口のデータをみると、アフリカのキリスト教徒の伸びが著しく、いずれ現在世界第1位のラテンアメリカを抜いて世界一となることは間違いないという。アジアのキリスト教徒の規模も既に北米、オセアニアをしのぐ。キリスト教は欧米の宗教というこれまでの常識はくつがえり、「アフリカとアジアで活性化している」と著者は指摘する。
 特に注目したいのが、人口の多い、インドと中国での信者数の動きだ。ヒンドゥー教が多数派であるインドのキリスト教徒は2.3%と「少数派」、それでも仏教徒の0.7%をはるかにしのぐ5000万人近くの信者をもつ。
 中国も、実は巨大キリスト教国といえる。文化大革命時代に迫害を受け一度壊滅状態になったが、その後さまざまな制約がありながらも復活している。現在、中国のキリスト教人口は、プロテスタント2100万、カトリック500万、非公認の教会の信徒を加えると、1億3000人ともいわれている。中国政府は「共産党統治の政党を脅かす」として、宗教に関する規制を厳しくしており、現に、イスラム教やチベット仏教への監視を強めるなど宗教活動への規制を強めている。
 現在、中国はバチカンとの国交を結んでいない。全世界の教区ごとに司教を任命するバチカンの制度を、中国政府は「内政干渉」とみているからだ。中国政府はバチカンとの国交樹立にあたって「台湾との断交、内政不干渉」という条件を求めてきたという。「欧州で唯一外交関係をもつ」バチカンと断交することになれば、台湾は国際関係でより厳しい立場に追い込まれるようになると著者は指摘している。バチカンと中国の距離が今後どう変化するか、注視しておきたい。
 教皇フランシスコは就任以来、プロテスタントや東方正教会といったキリスト教諸宗派との対話を積極的に行っている。また、ユダヤ教、イスラム教、など他宗教各宗派との対話も進め、外交関係改善の仲介的役割を果たすなど、国際社会において圧倒的な存在感を示している。多様な価値観を尊重し、宗派間・宗教間に「壁ではなく橋を」と呼びかける教皇の思想と行動について、来日を機によく知っておきたい。
(編集部 湯原葉子)

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