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第165回 『他者を感じる社会学』

「風」編集部

NEW 2021/08/31

「ホームレスの命はどうでもいい」

「メンタリスト」という独自の肩書きで活躍するDaiGo氏が、登録者数200万人超、という自身のYouTubeチャンネルで、生活保護受給者やホームレスに対する差別的発言を繰り返し問題となった。当初は、自身の発言について「個人の考え」と、開き直るような態度を見せていたが、各方面から批判が集中する「大炎上」となり、スポンサーも撤退という状態になってようやく、「無知が招いた失態だった、謝罪します」という趣旨の動画を発表した。

「ホームレスの命はどうでもいい」
「いないほうがよくない? 正直、邪魔だしさ。」
「生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら、猫を救ってほしい」

 このような発言をする人はDaiGo氏が初めて、というわけではもちろんないかもしれない。しかし、視聴者数の多いYouTube動画は、若者を中心に相当多くの人に繰り返し視聴され、元の動画を削除した後も拡散され続ける。一度発信された言葉の影響力の大きさは、テレビやラジオ、雑誌などの従来メディアとは到底比べられない。唯一の救いは、彼の実弟を含む多くの著名人が「この発言は許せない」と公に批判していることだ。
 厚生労働省は、DaiGo氏の発言に関して直接的には言及していないが、公式ツイッターで「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずにご相談ください」と、話題になった早い段階で積極的に発信している。生活保護への負のイメージがこれ以上増幅されないよう、「生活保護はセーフティネットであり、申請は権利である」ということは、当時者だけでなく、世間一般に向け再三強調してもしすぎることはないだろう。

差別はあたりまえに起きるもの

 差別や排除をしてはいけない。差別的発言を許してはいけない。多くの人はそう考えている。しかし、「差別する人は問題がある。自分は差別などするはずがない」と、差別について「考える」こと自体を避けていると、知らず知らずのうちに他者を傷つけてることになる。そう示唆するのが、『他者を感じる社会学/差別から考える』(好井裕明著、ちくまプリマー新書)である。
 本書の著者は、差別を「自分の利益のために他者を排除し、攻撃する行為」と定義する。単に「してはいけないこと」とだけとらえて差別を日常から排除するのではなく、常に「自分事」として差別とは何かを考えることで、差別を「しても意味の無いこと」「愚かでくだらないこと」にしていくことができる、としている。
 差別とは、どこか特別な場所で起こるのではない。私たちが他者とともに日常を生きているあたりまえの世界で、なかば必然的に起きてしまうのではないか。私たちが他者を理解しよう、他者とつながろうとする過程で、なかば必然的に生じてしまう現象である。だからこそ、「見ないふり考えないふりをして、自分とは関係のない出来事だと回避できるものでもない」と著者は論じている。
 差別が明らかになるのは、差別を受けた側が「痛い!」「なんとかしろ!」と世の中に向けて声を上げるからである、という。今回の発言が大きく取り上げられ、批判が相当広がった背景にはコロナ禍にあり、少なくない人々が「生活保護受給やホームレス状態」を「他人事ではない」と感じたこともあるのかもしれない。
「人は誰でも差別する、あるいは差別してしまう可能性がある」と、本書の著者は繰り返す。「ホームレスは正直邪魔だ」と発言することと、生活が苦しく家を失う人の存在すら全く想像したことがない自分を「差別しない普通の人間」と考えることに、それほど差はないのではと気づかされる。

(編集部 湯原葉子)

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