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第113回 『物流ビジネス最前線/ネット通販、宅配便、ラストマイルの攻防』

「風」編集部

NEW 17/04/30

声を上げ始めた宅配業者


[ヤマト運輸 運賃最大20%値上げ 27年ぶり、9月実施]

宅配便最大手のヤマト運輸が9月に基本運賃を最大20%程度引き上げる方向で最終調整していることが25日、分かった。個人を含め全ての顧客が対象となる。値上げは消費税増税時を除くと27年ぶり。ヤマトは既に再配達の受付時間を繰り上げるなどサービスの縮小を始めている。値上げで消費者は負担が増す一方、利便性は低下する。
(毎日新聞 2017年4月25日より)

 宅配便、ネット通販のない生活にはもう戻れない。多くの人がそう感じているのではないか。『物流ビジネス最前線/ネット通販、宅配便、ラストマイルの攻防』(齊藤実著、光文社新書)では、物流研究の専門家が、日本の物流の現状と課題を分析している。
「ラストマイル(last mile)」とは、もともと通信の世界で使われていた言葉で、通信ネットワークをつなぐ末端の最終工程のこと。ネット通販でも、注文された商品を物流センターなどから、各家庭や事業者などの購入者に届ける最終工程の配送のことをいう。工場で生産された大量の商品を大型トラックでまとめて物流センターに配送するような輸送と比較すると、いつどこでどの程度発生するかわからない膨大な品数にのぼる商品の注文に備え、ときには商品1個を個別に迅速に運ぶことが求められる、煩雑で効率の悪い輸送といえる。
 本書では、アマゾン、ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便といった日本の物流を支える大企業を中心に、ラストマイルが抱えるさまざまな課題をどう解決しているかを紹介する。このラストマイルのコストをどう効率化させていくかは、運送業者、ネット通販事業者のみならず多くの業界で他社との競争力を高めていくカギになるとしている。
 本書は2016年7月に刊行されているが、この時点で、受取人不在によって何度も同じ場所へ配送が余儀なくされる「再配達問題」が、ラストマイルを担う宅配便事業者の大きな負担になり、ネット通販での最大の課題になっていると指摘している。著者は、これは宅配事業者の問題にとどまらず、労働力不足、環境への負荷といった面から見れば大きな社会的問題として捉えるべきで、放置しておくべきではない、としている。
 その対策として、ネット通販で購入した商品をコンビニ等の自宅以外で受け取る方法を考える、駅などの公共の場所に宅配ロッカーを設置する、再配達をしない人へポイント付与などの優遇策をとる、時間指定や再配達へ追加料金を課す、などを著者はあげている。
 今回、ドライバーの長時間労働が限界を超えていることを世間に周知するきっかけをつくったのはヤマト運輸だったが、本書を読むとその「異変」は、2013年に、佐川急便がネット通販最大手のアマゾンの配送業務から撤退を決めたあたりから始まっていたことがわかる。佐川急便や、ヤマト運輸ほどの巨大企業であっても、荷主企業に対して運賃やシステムの改善を要求するのは困難だったということだろう。佐川、ヤマトが声をあげるまでには、数多くの中小零細運送業者が苛烈な競争を余儀なくされ、結果として労働者に過重な負担を強いてきたに違いない。

物流サービス「崩壊」を避けるには

 私自身も、本や日用品、食品、家電まで、ネット通販を日頃から利用している。スーパーや大型ショッピングモールも気軽に利用できる環境にいるが、ネット通販や宅配便が全く使えなくなる事態は想像したくない。宅配便の再配達問題や配達員の労働環境の苛酷さが話題になってからは、これまでの「無料送料」は、宅配便業者や、さらに弱い立場にある宅配ドライバー個人に負担をおしつけるかたちで辛うじて成り立っていたのかと思い至り反省した。
 これまでのように頻繁に、気軽に注文するのは控え、とりまとめて注文するように工夫したり、特に急がないものや近所の店でも買える場合はネット通販を控えるように意識している。それは宅配便ドライバーたちの待遇を懸念するだけではなく、このまま宅配便というシステムが崩壊して、利用できなくなったり、大幅な値上げにつながるようでは正直言って困るからだ。
 以前は自宅前の道にひっきりなしに停まっていた宅配便の配送車の数も、最近明らかに減ってきているのをみると、同じように不要不急のネット通販や宅配の利用を控える人は増えているのだろう。一方で、日常の買い物が不便な地域に住む「買い物難民」解消策としての宅配や、高齢者向けネットスーパーや生協の宅配など、宅配便は一種の「インフラ」として、なくてはならない存在になりつつあることも忘れてはいけない。宅配便の持続可能なあり方について、利用者も深刻に考えていく時期を迎えている。
 きめこまかいサービスが限りなく発展しつづけてきた日本で、業界は過当競争から「降りる」選択をとりはじめ、消費者側も「サービスの低下」や費用負担の増加を容認できるかどうか、かつてない社会実験が始まっているのではないか。

(編集部 湯原葉子)

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