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第125回 『ワクチンは怖くない』

「風」編集部

NEW 18/04/30

麻疹の怖さを警告

 先月下旬から、沖縄県や愛知県などで、「麻疹(ましん、はしか)」の患者が急増している。ウイルス性の感染症である麻疹は感染力が極めて高く、大型連休を前に感染のさらなる拡大が懸念されている。

 国立感染症研究所のウェブページでは、麻疹について下のように記している。

『麻疹は、接触、飛沫、空気 (飛沫核)のいずれの感染経路でも感染します。麻疹ウイルスの直径は100~250nm(ナノメートル)であり、飛沫核の状態で空中を浮遊し、それを吸い込むことで感染しますので、マスクでの予防は難しくなります。唯一の予防方法は、ワクチン接種によって麻疹に対する免疫をあらかじめ獲得しておくことです。』
麻疹Q&A(国立感染症研究所のページ)

 かつては「麻疹輸出国」とも揶揄されていた日本も、近年ほぼ患者がなくなり、2015年にようやく世界保健機関(WHO)から「日本の麻疹排除達成を確認」と認められるまでになっていた。しかし、「麻疹制圧に成功した」とされるアメリカでも、海外から持ち込まれたウイルスが広がるなどして、何度もアウトブレイクが起きている。
ワクチンは怖くない』(岩田健太郎著、光文社新書)では、日本が「麻疹はほぼなくなった」状態であっても、健康上の理由などで予防接種ができない人に感染すれば、今後もアウトブレイクが起きる、と指摘している。地球上から麻疹ウイルスが消えてなくなるまでは麻疹ワクチンは欠かせない、と感染症専門医の著者は警告している。

 麻疹含有ワクチンについては、現在は1歳以上の第1期、小学校入学前1年間の第2期の2回にわたり、公費でのワクチン定期接種が制度として定められている。この制度が定められた1990年(平成2年)4月2日以前に生まれた人の中には、ワクチン接種の機会が1回しかなく免疫がつかなかった人、あるいは免疫が弱くなっている人、さまざまな理由で接種の機会が1回もなかった人も相当数いると思われる。
 一方で、現在40代以上の世代が子どもの頃は、麻疹に自然感染することがまだ珍しくはなかった。昭和世代にとって「はしか」は、「誰もが一度はかかるもの」「かかってしまったほうが免疫ができてよい」という「常識」だったため、予防接種をする必要を感じていない人も多いのではないだろうか。麻疹ワクチン接種率の上昇で自然感染が激減し、ワクチンを一度しか接種していない世代が大学生になる2007年、2008年に麻疹のアウトブレイクが起きたのは当然予測できたとことともいえる。
 麻疹が「ほぼ」なくなった状態になると、麻疹患者を身近に見る機会も少なくなる。麻疹患者を診察した経験をもたない医師も当然増え、初期症状を見逃してしまい、感染を拡大させてしまうことも十分考えられる。麻疹の怖さはウイルスそのものに加え、各種合併症による死亡率の高さであり、ワクチンが接種できない「妊婦、1歳以下の乳幼児、免疫力の低下した人」が罹ったときの危険性ははかりしれない。麻疹は、罹ったら重症化する、必ずワクチンで予防しなくてはいけない感染症だ、ということを健康に問題がない人も知っておきたい。

ワクチンの「怖さ」とどう向き合うか

「麻疹ワクチンを打つと自閉症になる」という「噂」がアメリカや日本でも流れ、大規模な調査でその主張が否定された今も、自閉症をおそれて予防接種を拒否する多くの親がいるという。予防接種は「強制」はできない。さまざまな情報をもとに「ワクチンはすべて悪」と拒絶する人に対し、どうすれば「ワクチンのリスクと利益」についての理解が得られるか、難しい問題だ。
 本書では、ワクチンがもたらしてきた重大な問題、負の側面にもふれながら、ワクチンの効果とリスクを冷静に検討するために必要な知識を丁寧に解説していく。現状では「ワクチン後進国」と呼ばれても仕方がない、という「ビジョンのない予防接種行政」についても厳しく批判している。

 著者は医療のプロとして、「予防接種は怖くない」と主張するが、もちろん、怖くない=リスクがないことではない、と強調する。また、ワクチンを「怖い」と拒絶する感情とどう向き合うべきか。手術や薬といった他の医療ツールと同様に利益とリスクの両方を見ること。ワクチンのリスクは、「起こるかもしれない感染症その他の病気のリスク」と比べること、そうした視点になることで根拠なく怖がる人は減るのではないかと指摘する。
 ワクチンの「副作用」をどう配慮し、補償制度はどうあるべきか。麻疹ワクチン、インフルエンザワクチン、そして現在日本で最も議論になっている「子宮頸がんワクチン」などについて、ワクチンの是非を考える上で重要な論点を整理している。

(編集部 湯原葉子)

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