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第160回 『プライバシーという権利』

「風」編集部

NEW 2021/03/31

プライバシー保護はデータビジネスの前提

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【LINEでの行政サービス停止 総務省】
NHKNEWS WEB 2021年3月19日 19時02分

通信アプリのLINEが利用者の個人情報を業務委託先の中国の会社がアクセスできる状態にしていた問題で、武田総務大臣は事実関係の把握を急ぐとともに総務省がLINEを通じて提供している行政サービスの運用を停止する考えを示しました。

LINEをめぐっては、システムの管理を委託している中国の会社が日本国内のサーバーに保管されている利用者の名前や電話番号といった個人情報にアクセスできる状態になっていたことが明らかになっています。
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 さまざまな通信アプリがあるなか、日本では圧倒的なシェアをもつLINEは、2011年の東日本大震災の際に、「大切な人と連絡を取ることができるサービスが必要」という理念で、日本で2011年6月にスタートしたことで知られている。「日本でスタートした」が、開発した当初の親会社はNAVER(ネイバー)という韓国企業であり、開発を牽引したのも韓国人だった。
 メッセージアプリのサービスを提供しているのはLINEに限らない。GAFAと呼ばれる、巨大IT企業が提供するインターネット上の無料サービスを利用している人も多いが、こうしたサービスは利用者の個人情報を収集・利用することで成り立つビジネスモデルである。そうした会社が個人情報を含むデータをどう扱っているか、つまり、膨大なデータを扱う「サーバ」がどの国に置かれているかなどを理解している人はどれほどいるだろうか。多国籍企業である以上、業務委託先や技術者の「国籍」の制限ができるとも考えられない。
 ビッグデータや人工知能の利用による技術革新は、私たちの生活をより便利なものに変えてくれた。その反面、自分の「プライバシー、個人情報」がどのように扱われているか、万が一不適切な扱いが生じた場合のリスクにはどのようなものがあるのか、私たちの想像を超えるような事態にもなっている。
 プライバシーとは何のためにあるのか、なぜ保護されるべきなのか。個人情報保護法はいったい何のためにあるのか。『プライバシーという権利/ 個人情報はなぜ守られるべきか』(宮下 紘著、岩波新書)では、プライバシーの権利の核心に迫り、「プライバシーの権利」というものがどのように生まれ、法制度が整備されてきたか。アメリカとヨーロッパのプライバシー権の思想の違いにもふれながら解説している。

「データの国籍」をどう考えるか

 プライバシーは西洋の概念だが、そのスタート地点から、「自由至上主義」を軸足に発展してきたアメリカ、「人間の尊厳至上主義」を基盤としてきたヨーロッパと、二つの異なる主義があり、この二つがプライバシー権を発展させてきたといえる。規制の方向性、個人情報保護の法制度をみても両者の差異は大きい。データ時代となっても、その文化の対立・衝突は避けられない。
 さらに、中国やロシアでは、データローカライゼーションという、海外から移転されたデータを自国の設備に保存することを義務づける法律があるという。これを、データを自国のものにしようとする「データナショナリズム」志向という。
 アメリカは安全保障上の理由として、中国企業によるデータの利用を規制しているが、「自由」の国アメリカでどこまでこれが有効なのか、今後の動向が注目されている。個人のプライバシー権は、誰のデータであれ、そのデータがどこに保存されていようと保護されるべき、というヨーロッパの思想も、この「データローカライゼーション」と衝突している。インターネット空間には国籍がないが、このプライバシー権をめぐる「データの国籍」を法的にどう解釈すべきか、いま注視すべき課題の一つだろう。

 新型コロナウイルスの流行により、入館時にカメラを通じて自動で「体温を測定する」機器が、空港などはもちろん、街中のいたるところに置かれるようになっている。このカメラに顔を向けるのにすっかり慣れてしまっているが、いつの間にか高性能の顔認証カメラが導入され、体温チェックだけではなく、生体認証として情報を収集、個人の識別に利用されるようになっていても、私たちには知るよしもない。
 個人情報のデータを扱うサーバが国内にあるかどうか、情報を見られるのが日本人かどうか。問題はそんなところだけにあるのではないだろう。守るべきものは何か。データやプライバシー権をめぐる最新の国際情勢を、注意深く見ておく必要がある。
(編集部 湯原葉子)

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