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第173回『ドキュメント 〈アメリカ世〉の沖縄』

「風」編集部

NEW 2022/04/30

沖縄返還から50年

 1972年5月15日、沖縄がアメリカから日本に返還された。今年は「本土復帰50年」記念の年であり、4月から放映中のNHKの朝ドラ「ちむどんどん」は復帰前後の沖縄本島が舞台となっている。物語はアメリカ統治下時代の1964年から始まり、日常の買い物に米ドルが使われている様子などが描かれている。
 米国陸軍の記録にも、「ありったけの地獄を一つにまとめた」と記されるほどだった沖縄戦の悲劇は決して忘れてはいけない。しかし、現代につながる沖縄の悲劇はそれだけではない。日本が米国から独立して「主権を回復した」後、米国が沖縄を統治していた時代に起きたことを、「私たちはあまりにも知らなすぎるのではないか?」と問いかけるのが『ドキュメント 〈アメリカ世〉の沖縄』(宮城 修著、岩波新書)である。
 本書のタイトルにある〈アメリカ世〉の「世(ゆー)」とは、しまくとぅば(琉球の言語)で「時代」を指す。琉球・沖縄の時代区分について、その時々の大国との関係で表現することばだという。琉球王国が明国や清国との秩序の中で国家を運営していた時代を〈唐ぬ世〉(とうぬゆー)、琉球王国が明治政府に併合され沖縄県となってからを〈大和世〉(やまとゆー)、そして、日本から切り離され占領・統治された時期を〈アメリカ世〉と呼ぶ。
 再び〈大和世〉になって半世紀の今、〈アメリカ世〉について語るのはなぜか。住民の命や生活より軍事が優先される〈アメリカ世〉の状態は、今も続いているからだ、と著者はうったえる。

終わっていない〈アメリカ世〉

 1972年の5月に返還されるまで、沖縄はアメリカの施政権下にあり、「軍事植民地」状態に置かれていた。「パスポートがないと本土と行き来ができなかった」「車が米国式の右側通行だった」「米ドルが使用されていた」ということは知られているだろう。しかし、米軍基地が圧倒的な存在であり、日本国憲法で保障される「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義」が、沖縄にだけ保障されていなかったということが、どれだけ理解されているだろうか。
 田畑や集落は潰され、飛行場、兵舎などの軍用地として一方的に奪われる。米軍人による殺人、強盗、強姦など凶悪事件も後を絶たない。戦闘機が小学校に墜落する大惨事も起きた。さらに、米国統治を正当化し、日本復帰を求める声を抑えるよう、米軍は諜報活動や検閲、報道機関の監視を行なった。メディアの統制を行なったため、占領期に沖縄住民の苦境を広く伝えるメディアもなかった。
 本書は、沖縄の地元紙「琉球新報」の連載企画「沖縄戦後新聞」(2016年6月から2017年5月)で取り上げた出来事を元に構成されている。「沖縄戦後新聞」は、〈アメリカ世〉27年間に起きたいくつかの重大な事件を振り返る。解禁された公文書や証言やその後明らかになった事実をもとに事件を再現したものだという。
 日本政府、米国政府、沖縄の視点から〈アメリカ世〉を眺めることで、沖縄に基地負担をしわ寄せする差別的な仕組みがどのようにつくられ、そして現在も続いているかを知ってほしいとしている。
 沖縄出身の著者(1963年生まれ)は、1972年の5月15日、沖縄が再び〈大和世〉になった日の、お祝いムードとは全く無縁だった父親の姿を覚えているという。〈アメリカ世〉のことを知れば知るほど、50年たってもなお、「復帰」を手放しで祝えるようにはなっていないのでは、と考えさせられる。

(編集部 湯原葉子)

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