風
 
 
 
 
 
 
[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
新書で考える「いま」 旬の話題や気になっている問題。もっと知りたいとおもったとき、まずは新書にあたってみる。そこで出合うだろうおすすめの1冊を中心に「いま」を考えてみる。
第119回 『これを知らずに働けますか?』『誰が「働き方改革」を邪魔するのか』

「風」編集部

NEW 17/10/31

働き手を守るルールなんていらない?

 政府が「働き方改革」という言葉を提唱してから約1年。行き過ぎた長時間労働の是正や、多様な働き方を認めていくための労働環境の改善は、いまや待ったなしの状況といえる。
 しかし、今の労働環境の何がどう問題か、「働き方改革」を語る以前に、知っておくべき基本的なことを今の若い人たちはあまりにも知らされていない。そう指摘するのが、『これを知らずに働けますか?/学生と考える、労働問題ソボクな疑問30 』(竹信三恵子著、ちくまプリマー新書)の著者。働く現場の取材を中心に新聞記者として長く働いた後、今は大学で教えている。
 ブラックバイトなど、身近にも起きている労働問題についてさえ、どこか他人事で、これまで常識と思われてきた働くルールの基本など「聞いたことがない」という学生たち。若い人たちがあまりに働く現場の実情にうとく、無防備であることに危機をおぼえているという。
 本書は、講義などを通じて学生たちが著者にぶつけてきた、著者世代にはトンデモ質問にも思える「ソボクな疑問」の数々に対して、正面から向き合い、回答していったものである。著者の授業に対する「感想文」には、表立っては聞こえない学生たちの本音や、周囲に刷り込まれてきたのではと思わされる言葉もひそんでいる。「いまどきの若者たちは無知だ」ですませるのではなく、彼らはなぜ何も知らされてこなかったのか、これまでの「常識」が通用しなくなってきたのはなぜなのか、と考えさせられるようになっている。

「労働基準法」について知っていてもソン?

「最低賃金を上げたら会社はつぶれてしまうから、やめたほうがいいのでは?」「長時間労働はいけないといっても、会社は慈善事業じゃない。長時間働かないと日本の会社はもたないのでは?」「労働法を知っても、勇気がないので戦えません。就職に不利になりそうだし、知らない方がいいのでは?」……。
 こうした質問からは、学生たちが、人を雇う側の企業の論理や、経営者の視点に立ってしまっていたり、労働基準法の「基本のき」について理解していなかったりと、社会に出る前までに勤労者としての「常識」を学ぶ機会がなかったことがうかがえる。
「正規と非正規の賃金格差は当然」「解雇規制を撤廃して、年配者をクビにすれば若者に仕事が増える」「生活保護をもらうのはズル」「失業者は人生の負け組」……。
 弱者を切り捨てるこのような言説も、どこかで刷り込まれたものかもしれないが、自分がその「弱者」側に立つことになる可能性を考えてみたことがないのだろう。
「労働法なんてきれいごとを言っていては競争に勝てない」「労働法など知ってしまうと、現実との落差に暗い気持ちになる」……。
 このような言葉を言わせているものは何なのか、自分自身もそうした言葉に逃げてはいないか、若い人だけではなく、大人こそ読むべき一冊ではないだろうか。


「働き方改革」を邪魔するのものは何なのか

 
個性を尊重した働き方の多様化が叫ばれながら、その実現がなかなか進んでいるとはいえない。「働き方改革」を阻むものは何か。『誰が「働き方改革」を邪魔するのか』(中村東吾著、光文社新書)の著者は、経営や企業に関するインタビュー記事や書籍などの編集に携わってきた経験を生かし、これからの日本に必要な戦略は、「これ以上頑張りたくても頑張れない人」の環境改善だけではなく、「頑張りたくても頑張れない人」を活用することにつきるのでは、とうったえる。
 変化の激しい現代、多様な人材を生かすためにも、働き方を変え、そうした多様な働き方を認め合うことができるかどうか、日本は岐路に立っている。
 個性を求められ、多様な働き方が制度として認められるようになっても、個人個人がいつまでもこれまでの「働き方」にこだわっているようでは、「隣の芝生が青い」と、他人の環境を羨んだり、妬んだり、自分自身の待遇に劣等感を抱いてしまうことになりかねない。また、他人と比べてしまう人は、自分と同じようには働けない人の存在を疎ましく思ってしまいがちだ。
 政府や企業が旗ふりをする「働き方改革」だけではなく、働く側の一人一人が、自分自身を肯定できるような意識改革の重要性を説く。

(編集部 湯原葉子)

関連する新書マップテーマ
PAGE TOP
Copyright(C) Association Press. All Rights Reserved.
著作権及びリンクについて