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第137回 『上皇の日本史』

「風」編集部

NEW 19/04/30

「国民参加型」の改元イベント

 4月1日の新元号発表以来、国内は「令和」カウントダウンのお祭り気分ともいえる雰囲気に包まれている。「平成最後の○○」を体験し、「令和前夜」を楽しもうなどと、「国民参加型」の改元イベントのような空気になった。
 およそ30代以下の若い世代は当然知らないと思うが、約30年前、「平成前夜」というようなものは、リアルタイムには存在しなかった。昭和天皇の危篤状態が長く続き、緊張感のなか近く「Xデー」が来ることを誰もが予期してはいたが、それを口にすることができるような状況ではなかった。
 改元が天皇の死を意味することだったから言うまでもないが、社会全体が今日のようなお祝い気分とは真逆の、重苦しい空気だったことを、まるで昨日のことのように覚えている人も多いだろう。
 約30年前とは様々な事情が異なるが、今回の改元で最も大きなことは、これまで歴史の中でしか知らなかった「上皇」が登場することである。天皇皇后両陛下のことは、これから「上皇陛下」と「上皇后陛下」とお呼びすることとなる。長年にわたり公務で超多忙な毎日だった両陛下の、これからのスケジュールはどうなるのだろうか。

上皇という特殊な存在

 歴史上「200年ぶり」という天皇譲位を前に、上皇とは何なのか、日本にしかない上皇という存在について詳しく書かれているのが『上皇の日本史』(本郷和人著、中公新書ラクレ)である。
 天皇陛下の「生前退位」の実現にあたってはあくまで「今代限り」ということで、「皇室典範特例法」により様々なことが定められている。退位された陛下をどうお呼びするべきか、ということも議論になった。著者のような歴史研究家からすると、古代の昔から皇位を下りた天皇は「太上天皇」略して「上皇」とお呼びするのが「当たり前」だという。
 しかし、「上皇」という呼び名が決まるまでに有識者などによる数回の議論が必要となったというから、すんなり決まったわけではないらしい。「上皇」には、一線から退いた後にも「院政をしく」といって黒幕のような、よからぬイメージがつきまとっていることがあるのではないか、と著者は指摘している。
 また、皇后には「皇太后」ではなく「上皇后」、秋篠宮には「皇太弟」ではなく「皇嗣」という呼称が定められた。伝統を重んじる、としている割には皇太后や皇太弟といった伝統的に使われてきた名称を避けることになったのは、さまざまな議論の結果なのだろうが、歴史の専門家からすればやや違和感があるようだ。
 同じく「皇室典範特例法」で定められた上皇の英語表記は「retired emperor(引退された皇帝)」となっている。英語には「上皇」に該当する特別なことばがないということは、そういう存在がヨーロッパの歴史にはなかった、ということだ。現代王室がある国でも、生前退位は普通に行われているが、その場合、国王の地位を譲り渡した人は「前国王」として国事行為とは無縁となるのが原則だという。
 著者の本郷氏は、日本の天皇について「現在の終身在位も特殊だったし、歴史的に政治の実権を掌握する上皇というあり方も特殊だった」としている。歴史上、なぜ上皇が天皇に優位を保ってきたのか。本書では、「地位」より「人」が優先されてきた日本の権力構造の特殊事情を解説している。
 今回の「生前退位」にあたり、政府は皇室典範に手を加えず、特例法の制定によって対応した。「女性天皇を認めるか否か」という、皇室が抱える大きな問題を検討するためにも、皇室典範の改定が必要だったのではないか、と著者は「個人的な感想」として述べている。
 皇位継承をすませた上皇陛下が5月以降、「普通の日本人」になれるとは誰も思っていない。セキュリティ上、生活や移動のさまざまな制約も、これまで通りになるだろう。しかし、あくまで「retired emperor」として、敬意を表しつつもこれまでとは違う第二の人生を過ごしていただくという意味で、シンプルに「前天皇」という呼び方でもよかったのかな、と考えてしまう。

(編集部 湯原葉子)

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