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第132回 『認知症フレンドリー社会』

「風」編集部

NEW 18/11/30

『認知症フレンドリー社会』
(徳田雄人著、岩波新書)

長寿社会の宿命「認知症」とどうつきあうか

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【第一生命が認知症保険】

"第一生命保険は20日、認知症と診断された場合の生活費などを保障する保険に参入すると発表した。米ニューロトラック社と組み、認知症の進行を確認する専用アプリも開発、12月中旬から提供を始める。高齢化で認知症にかかる人も年々増えており、認知症の予防や治療に対応できる保険の需要は高いと判断した。"
(2018/11/20 19:00日本経済新聞 電子版)
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 「認知症保険」をうたった新しい保険商品が生保、損保ともに続々と誕生しているという。予防や治療費用に備えるもののほか、患者が徘徊して行方不明になった際の捜索費用も保険でカバーされるものもある。また、認知症の前段階とされる「軽度認知障害」でも保障されるものや、認知症と診断された人でも加入できる商品もあるという。将来、認知症になるのでは、と不安を抱く人や、認知症の家族を抱える人にとっては、心理的負担を軽くすることにもつながるかもしれない。
 しかし、そうした備えができるのは、経済的な余裕のある人に限られるのは間違いないだろう。ではどう対処したらいいのだろうか。
 認知症がもたらす課題を従来のような医療やケア、福祉の観点からのみ考えるのではもう社会は成り立たない、と指摘しているのが『認知症フレンドリー社会』(徳田雄人著、岩波新書)である。
 人口統計から推計すると、2018年の時点で日本全国には500万人を超える認知症の人がいるとみられる。こうした人々の中には、医療機関で診療を受けず、介護サービスを受けずに普通に暮らしている人も含まれている。おおまかに計算すると、高齢者のうち7人に1人が認知症、と考えられる数の規模、というと想像がつくだろうか。
 これほど多くの認知症の人が普通に生活できるようになったいま、「認知症の人が一定数生活している」ことを前提に社会設計を「アップデート」する必要がある、著者はそのように提案している。

社会システムを認知症対応に「アップデート」する必要性

 著者は本書のタイトルである「認知症フレンドリー社会」という言葉について、「漠然と『認知症のひとに対して"やさしい"社会』というようなものをイメージされると思うが、この本で紹介したいのはそういうことではない」と、まず断りをいれている。認知症対応に現代日本のさまざまなシステムが準備できているのかを問う、そういう提案である。
 超高齢社会を迎え、多くの認知症の人が施設や病院ではなく地域で日常生活を送るようになってきているが、現代の社会はそうしたことを前提に設計されていない。個々の法律や制度などは、パソコンでいうと「アプリ」に相当するものであり、それで対処するには限界がある。基盤となる社会全体の「OS」をアップデートする時期に来ているのではないか、と著者は主張する。

 例えば、認知機能が衰えて自分でATMの操作をして日常に必要なお金の出し入れが困難になってきた高齢者の場合、これまではATMではなく、銀行の窓口で行員のサポートを受けながら解決し、自立した生活を送ることができていた。しかし、支店の統廃合の影響により窓口がなくなり、ATMを使わざるを得ない状態になると、ATMの複雑な画面操作ができない人はお手上げ状態になる。
 日常的なお金の管理がひとりでできないとなると、他には健康上問題がなくても「介護施設に入るべきなのだろうか」と考えてしまう。こうした場面すべてに福祉の関係者がサポートするという考え方で解決しようとするのは、財政的にも限界がある。そこで、例えばATMならば、表示を認知機能が低下した人でも使いやすいものを設計する、というアプローチで考えるのが「認知症フレンドリー」社会の考えかただという。
 交通機関、通信手段、金融機関、スーパーやコンビニ、行政サービスなど、私たちを囲む生活環境はより便利に変化し続けている。ただし、それらのモノやシステムは、認知機能が衰えた人にとっても使いやすいものだろうか。企業側の商品やサービス、接客などを工夫することで認知症の人の生活を便利に改善できる部分はあるのではないだろうか。本書ではさまざまな具体例をもとに、認知症の課題とはなにか、社会で改善できることはなにか、を提案する。

「認知症になりませんように」だけではなく

 認知症に関しては、介護者の負担に加え、当事者が引き起こす交通事故や徘徊患者による鉄道事故なども大きく報道され、対応について深刻な問題となっていることは事実だ。そうした不安をあおるように、認知症予防の生活、食事、運動、サプリメントなどの話題を、新聞や雑誌の特集、テレビ番組など目にしない日はない。生活の改善に取り組むこと自体はよいことだが、「認知症にならないように」「認知症になったらおわり」「認知症になったらいくら必要になるか」と不安ばかり考えてしまうようならば、長寿の恩恵を受けて幸せだといえるだろうか。認知機能が低下したとしても、ここまでできれば自立できる、ここから先は支援が必要、という具体的なイメージがあり、備える道筋が見えれば、そうした不安も軽減されるのではないだろうか。
 本書の著者は、これまでのように、福祉的な考えで認知症当事者を「支援する」というのではなく、ちょっと先をゆく「先輩」としてみることが重要だ、という。「先輩」が日常的に困っているちょっとしたことを、具体的に解決できる手立てはないか、そう想像することで、将来の自分が暮らしやすい社会に変わっていく。認知症の人を社会から排除するのではなく、地域住民として、消費者として、時には「はたらき手」として、できるかぎり尊重できるような時代のために、あたらしいOSへのアップデートが必要だ。

(編集部 湯原葉子)

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