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第154回 『コロナ不安に向き合う』『苦しい時は電話して』

「風」編集部

NEW 2020/09/30

『コロナ不安に向き合う/精神科医からのアドバイス』
(藤本 修著、平凡社新書)

 秋の4連休、「Go Toトラベルキャンペーン」が功を奏し、あちこちの観光地は久しぶりに多くの人で賑わう様子が盛んに報道された。10月1日からは東京もキャンペーンの対象となる予定で、行楽シーズンが活気づくことが予想される。大規模コンサートやスポーツなどのイベントに関しても徐々に収容人数規制が緩和され、感染症対策と経済振興の両立へ向け、模索が始まっている。
 地域差もあるが、以前のような日常生活を取り戻しつつある人も増えている。一方で、感染を警戒し、引き続き不自由な生活を続けている人もいる。国内が自粛一辺倒だった時期と比べ、より敏感な人が、より強い不安を感じ、そうでない人との「温度差」に苦しんでいるのではないか、最近そう感じることが増えた。
 今月刊行されたばかりの『コロナ不安に向き合う/精神科医からのアドバイス』(藤本 修著、平凡社新書)の著者は、この窮地に、どう対処していけばよいか、精神科医としての豊富な臨床経験を元に助言を寄せている。あと何年続くかわからないが、ウイルスと共に「こころ折れずに生活する」にはどうすればよいか。未曾有の状態のなか、自粛期間中も診察室を開き、患者の声を受け止めてきたベテランの精神科医ならではの意見を聞いておきたい。
 コロナ禍のような大きな環境変化が起きると、こころの動揺から、うつ病、不安障害、パニック障害などの精神疾患の罹患者が増えることは予想できる。しかし、ウイルスそのものに対する「緊張」が続き、医療機関を避ける状況にあっては、他の科と同様、精神科の患者数は例年より極端に減っているという。著者は、コロナストレスが一段落したとき、うつ病などの精神疾患が多発する可能性があるのでは、と懸念している。
 ストレスの多い状況が長期的に継続し、終わりが見えないなか、こころの変化や体調の変化は誰にでもあることだ。それが精神疾患として治療を要するものかどうかの境界線は明確にあるわけではない。著者は、たとえば、「他の病気と比べて精神科受診のめやすを自分で決めるのは難しいが、寝付けない、一度寝ても何度も起きてしまう、など不眠が気になる状況が続くようならば心療科の受診を検討してほしい」としている。
 本書では「こころの健康」を保つための具体的な方法をいくつか提案している。不安や恐怖をおぼえ、悲しくなるような報道や情報から、「一旦離れてみる」のもその一つだ。そして、「自分の不安を人と分かち合うこと」の大切さを説いている。「他者に話し、頼ることも必要」という。多くの人と接する機会そのものが失われている今、難しいことかもしれないが、頭の片隅にいつも入れておきたい。

『苦しい時は電話して』
(坂口恭平著、講談社現代新書)

 「誰にでも起こりうること」

 感染のピークが一旦落ち着いた夏ごろから著名人の「自死」についての報道が急増しているようだ。統計的に増えているかどうかはわからないが、人気俳優の突然の自死報道では、自死に関する「報道」やそれに対する世間の「追悼」反応がSNSで飛び交い、亡くなった人の環境や心情など、憶測でしかない「情報」も氾濫しているように感じる。
『苦しい時は電話して』(坂口恭平著、講談社現代新書)の著者坂口氏は、自身の携帯電話番号を「いのっちの電話」と名づけて公表している。死にたくなった人がかけるための「いのちの電話」がさまざまな理由でつながりにくいことを知り、「自殺者をゼロにしたい」という思いから、個人で、無償での電話サービスを2012年から始めたという。
 坂口氏は、「建築家・作家・絵描き・歌い手」という肩書きで、個性的な活動を続けてきたが、医療の専門家でも、カウンセラーの資格を持っているわけでもない。しかし、実際にこれまで、1日に7人ほど「死にたい」と思っている人が、この番号に電話をかけてきている。もちろん24時間電話をとれるわけではないし、一人で話せるのは「1日に10人が限界」。でも、いつも電話で話していることを、本に書くことで、電話だけでは対応できない人々にも「死ななくてもいいんだ」と感じてもらえるのではないか、と本書を出したという。
 死にたくなるのは誰にでも起こりうることだ、と繰り返し強調する。自身も「躁鬱病(双極性障害II型)」と診断され、ひどい鬱状態の時には「周期的に」死にたくなっているという。(著者はそれを「脳の誤作動」と表現している。)
 自身の経験から、また、電話をかけてくる人の話を聞いていると、死にたい理由はそれぞれであっても、死にたいと思っている時の人の思考回路は非常に似ている、ということがわかったという。死にたいと言っている人の話を電話で聞いてあげること。電話をかけてきている今のあなたのように、「死ぬしかない」と思うような状態になってしまうことは、「よくある」ことだと知らせてあげること。そして必ずまたその状態を抜け出して健やかに過ごすことができる。(それは坂口氏自身が証明している)そのことを伝えてあげるだけで、「生きてもいい」と思えるようになるのではないか、と坂口氏は「いのっちの電話」を続けている。

「人は他人に自分が死にたいと思っていることをなかなか話せません。恥ずかしいし、人に重荷を与えているような気持ちになるし、話せばみじめになるかも知れないとも思います。」

「死にたいと思っていることを口に出すことができて、他人にそれを聞いてもらえたら、誰も自殺することはないはずだ」
 とも書いている。

 自ら命を絶ってしまった人のことで、後から憶測で「原因」をつきとめようとしたり、あるいは、「悩んでいるようには見えなかったのに」「あんなに幸せそうで素敵な人がなぜ」という声ばかりが大きくなっていく。そうではなくて、「死にたい」と思っている小さな声(それは、「生きたい」という思いでもあったはず)を聞いてあげる人が一人でもいれば違ったのかもしれないのに、と思う。「自殺」という結果はセンセーショナルに報じられる。それなのに、「生きるのが苦しい、死にたい」という声には「そんなことを言ってはだめ」とフタをしてしまっているのではないか?それではいつまでたっても「自殺者ゼロ」にはほど遠いのではないだろうか、と考えさせられる。

(編集部 湯原葉子)

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