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第158回 『新型コロナの科学』

「風」編集部

NEW 2021/01/31

新型コロナ 現状とこれから

 COVID-19の感染者数が全世界で1億人を超えた。1年前のちょうど今ごろ、この欄では「ドラッグストア、スーパー、コンビニの店頭からマスクが消えた」という書き出して始まる記事を書いた。
 中国・武漢から広がったパンデミックが、その後1年経過しても、収束しないどころかさらに深刻な状況になっているとは、あの頃はまだ想像もできなかった。グローバルな人の動きはほぼ停止し、あらゆる文化的な活動は制限され、経済的打撃も想定以上になっている。コロナにより仕事を失った人や、感染の危機にさらされながらも社会活動を支えるために働かざるを得ない人がいる。そうした人々と、リモートで快適・安全に仕事ができる人との経済格差も深刻である。
 マスクは増産され、今やいつでもどこでも簡単に手に入るようになった。裏を返せば、マスクが必要な事態が当面続くということでもある。この状況に出口はあるのか。

新型コロナの科学/パンデミック、そして共生の未来へ』(黒木登志夫著、中公新書)では、武漢から世界各地に広がった新型コロナにどう対応してきたか、日本と世界各国を比較してさまざまな観点から検証している。2020年12月に刊行された本書に使用されているのは、主に10月末までのデータである。
 著者は、長年にわたりがんの基礎研究に携わった後、サイエンスライターとして、がんをはじめとする医療・健康に関わる分野を中心に、一般向けの書籍を多数刊行している。研究者としては一線を退いたが、専門的知識だけではなく、より広い視野からこの問題を分析している。

ワクチン・治療薬・検査体制の現状

 現在、新型コロナに「安全で有効」とされるワクチンの接種が世界各国で開始されている。日本でも、厚労省は「全国民分のワクチンの数量の確保をめざす」としているが、優先順位第一位となる「医療従事者等」の接種開始日も具体的には示されていない。
 免疫を獲得していない人も感染が防げるという「集団免疫」の成立には、少なくとも60%の人がワクチン接種などで免疫獲得することが必要だという。妊婦や年少者など、さまざまな理由でワクチン接種が(今のところ)推奨されない人もいる。「わからないから」と過大に心配して、ワクチンを忌避する人が増えると、集団免疫の獲得はさらに遅くなる。未知のワクチンではあるが、世界中の多くの国で接種が進んでいるという事例もある。
 本書では免疫獲得の仕組み、ワクチン開発の仕組みをわかりやすく解説している。副作用や副反応について、過剰に恐れることのないよう、基本に理解しておきたい。
 ワクチンとあわせて期待されるのが、治療薬の開発である。体内に入ったウイルスを標的にする薬剤、治癒した患者の血漿を注射する血症療法、病状が急速に悪化する「サイトカイン・ストーム」に有効な薬剤など、さまざまな候補があるが、実用化までは何段階もの試験が必要で、さらに時間がかかりそうだ。
 新型コロナ感染の検査法についても、改めて解説している。PCR検査、抗原検査、抗体検査、といった言葉自体はよく耳にするようになったが、各検査法の違いについて、理解できているだろうか。それぞれ、何を診断の目的としているか、検体は何か、検査の感度などを比較している。保険外で行う民間の診療所が増えてきているが、それらの検査の質は必ずしも保証されていない、と著者はいう。「公的な検査体制を作らねばならない」ということは、著者に限らず、昨年からずっと言われ続けていることだが、なかなか前進していないのはなぜなのだろうか。

「選択と集中」されなかったものの重要性

 保健所など、公衆衛生に関わる分野は、政府の「選択と集中」政策の中で、選択もされず集中もされず、予算と人員は削減され、縮小の一途をたどっていた。
 著者は長年基礎医学分野に携わり、大学での学長経験もある。医学教育分野、大学問題、科学技術政策についても発言を続けてきたという。その立場から、感染症対策の予算は年々削られ、自治体の衛生研究所や保健所も縮小されてきたことを熟知している。その結果が、現在のこの状況であることを本書では強く批判している。感染症対策の中核を担う国立感染研、地方衛生研、保健所は、「すべて縮小」されてきたことを、数字をあげながら明記している。
 感染症の研究は、抗生物質の登場で多くの感染症が「治る病気」となってからは、依然として重要であるにもかかわらず、医学の分野で優遇されていたとは言いがたい状態だったという。
 さらに、医療は効率化を強制され、空いている病床は廃止された。厚労省は、公立・公的病院を統合し、2020年秋までに病院を減らす政策を準備していたという(さすがに、コロナ禍により厚労省は再編統合の期限延期通知を出している)。その結果が、現在の「医療危機」を加速させたことは間違いない。
「経済は成長するはずだ。無駄なものは切り捨てろ。成長が期待できるものだけを選択し資源を集中しろ。」日本はずっとそうした「成長神話」にとりつかれてきた。しかし、「選択と集中」という戦略では、国民を守れない。その重要なことに、政治家、官僚、そして国民は今度こそ気づいてくれただろうか、と問いかける。
(編集部 湯原葉子)

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