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第131回 『ペットと葬式』

「風」編集部

NEW 18/10/31

『ペットと葬式/日本人の供養心をさぐる』
(鵜飼秀徳著、朝日新書)

ペットの死を弔いたい日本人

 昨今、葬式や墓は簡素にしたい、という人が増えてきている。その一方で、家族同然に暮らしてきたペットが死ぬと、きちんと弔ってあげたい、仏壇やお墓も人間同様につくってあげたい、そんな人も増えている。
『ペットと葬式/日本人の供養心をさぐる』(鵜飼秀徳著、朝日新書)の著者はフリージャーナリストとして活動するとともに、実家の浄土宗正覚寺で副住職を務める、葬送に関わるいわば「本職」でもある。今、これまで扱ってこなかった「ペットの死後」をめぐって、日本の宗教界ではさまざまな議論が起きつつあるという。本書は、ペットを取り巻く環境の変化とともに浮き彫りにされる、日本人の「供養」というこころに着目した、きわめて今日的なテーマを扱っている。

「犬畜生」か「ペット(うちの子)」か

 霊園のパンフレットに、「ペット可」あるいは、「ペット専門霊園」と記されているのを見たことがある。ペットの葬式を行います、というチラシも目にしたこともあり、犬、猫嫌いの人のために、「ペット専用」とうたう必要があるのだろう、「ペットブームに目をつけた、新ビジネスだな」と私は思っていた。しかし、それだけではないということがわかった。「ペット可」となっている霊園以外では基本的にペットは埋葬できない背景に、宗教的理由もあるということを、本書を読むまではよく理解していなかったのだ。
 仏教の教えでは「六道輪廻」という考え方があり、ペットは畜生界に生きているので、その上のステージにいる人間界とは一線を画す存在という考えである。「仏教の原則論では往生できない」という考えの宗派も多い。
 そうした考えのもとでは、たとえ家族同様かわいがってきたペットとはいえ、犬猫という「畜生」の骨を、人間と同じ墓地にいれるのはもちろん、同じ場所で火葬したり、同じ寺で葬式をしたり、というのは、僧侶だけではなく檀家の人々にとっても受け入れられないことだったという。
 実家が寺で、父親が僧侶だった著者の家でも、30年くらい前に飼っていた犬が死んだ時には、その遺体は寺の敷地の片隅に埋めたのではないかと思うが(子どもだった著者には詳細はわからない)、墓石や標もなく、年忌法要などはしていないという。どこか分からないように埋めたのが、あるいは周囲への配慮だったのかもしれない。かわいがっていたとはいえ、当時の日本人の間では、ペットの死に対してはそういう扱いだったのだと記憶しているという。

ペットの社会的地位が大きく変わった

 しかし、時代は変わった。犬も猫も、家族同様に室内で飼うことが一般的になった。自分の子どものように服を着せたり、美容院で手入れをしたり、旅行に連れて行ったりする。難しい病気になったら、高い治療費や薬代をかけ、できるだけのことをしてやる、ということも増えている。飼い犬や飼い猫などペットは、ここ20~30年の間でそうした「社会的地位」を得ているのだ。少子化、核家族化の今、家族同然、あるいはそれ以上の重要な存在になっていることも少なくない。
 そうした背景を無視して、住職が仏教の教えに忠実に「犬や猫の供養は必要ありません。何事にも執着しないのが仏教です。庭の隅に穴を掘って埋めておけばよい」などと言おうものなら、気を悪くした檀家は寺を離れてしまうだろう、と著者は言う。
 一方で、「人間と畜生は別」という仏教の教えを大事にする立場と、家族同然のペットを人間と同じように弔いたい気持ちを尊重する立場をどう折り合いをつけていくか。そうした答えの一つが、最近注目を集める「ペット供養」をメインにうたう寺や、ペット専門霊園の存在かもしれない。

ペット葬祭に関する法は未整備

 犬や猫の死骸は、法律上は「一般廃棄物」であり、自治体に依頼すると手数料無料~数千円程度で回収して処分してもらうことができる。最終的には、一般のゴミと一緒に焼却処分となる。昔のように、庭の片隅に埋めるということも、住宅事情から難しくなってきた。可愛い「うちの子」がゴミと一緒に焼かれるのは耐えられない、という心情が、ペット専門の火葬場を生んだのだろう。そして、最近問題になっているのが、「移動火葬車」だという。電話で死体を引き取り、トラックに積んだ炉で焼却するが、自宅前で簡素な炉で火葬するので、悪臭や煙への苦情が来る。苦情を避けるために、走行させながら火葬する手法さえあるというが、これは万が一事故が起きた際には、非常に危険であることはいうまでもない。
 しかし、こうした問題が多い「移動火葬車」も、「ペットを弔いたいが菩提寺では断られるし、遠くのペット専門火葬場まで行く手段がない」といったニーズをとらえた新しいビジネスともいえる。
 ペット葬祭に関する法整備は、ほとんどない状態であるという。ペット葬祭業界の自由競争と、悪徳業者の排除とのバランスを考慮しながら法整備を進めるのはなかなか時間がかかりそうだ。
 日本では、動物園や水族館で飼育していた生き物、大学病院での実験動物、畜産関係、魚市場など、生き物を扱う場所の敷地のどこかには必ず供養の碑など慰霊の場がもうけられている。人形や使い終えた道具など、生き物以外を「供養」する風習も残っている。アメリカやヨーロッパにはこうした風習は見られないという。現代日本人の心に根強く残る「供養心」についても、改めて考えさせられる、興味深い一冊だった。

(編集部 湯原葉子)

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