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  第146回 『「感染症パニック」を防げ!』

「風」編集部

NEW 2020/01/31

店頭からマスクが消えた

 ドラッグストア、スーパー、コンビニの店頭からマスクが消えた。昨年末、中国湖北省武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎への感染に対する危機感が、国内でも高まっているからだろう。1月28日に日本人初の感染が確認され、その後政府が武漢からの帰国を希望する日本人向けのチャーター機派遣を決めたあたりから、報道も過熱している印象がある。
 国内で普通に生活する分には、マスクを焦って買い求める必要はない。そう理解はできるものの、ただでさえインフルエンザの流行が気になるこの時期、いつでも気軽に手に入っていたマスクが店頭から一気に消えると、若干不安ではある。

 厚生労働省のサイトでは、患者数など現状わかっていることと、国民の皆様へ、としてメッセージを掲載している。現時点では、国内での「人から人への感染」例は認められていないこと、マスクだけでは感染が防げないことがわかっている。インフルエンザ対策と同様、手洗いなど通常の感染症対策などを奨励している。
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【国民の皆様へのメッセージ:
新型コロナウイルス感染症の現状からは、中国国内では人から人への感染は認められるものの、我が国では人から人への持続的感染は認められていません。国民の皆様におかれては、過剰に心配することなく、季節性インフルエンザと同様に咳エチケットや手洗いなどの感染症対策に努めていただくようお願いいたします。】
厚生労働省ホームページより 一部抜粋 2020.1.30
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 もちろん、「現時点では」である。新型コロナウイルス感染の拡大を受けて、WHOも、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」となるかどうか、改めて緊急の会議を開くという。刻々と変化する感染症へ、私たちはどのように対応していけばよいのだろうか。

 いま読んでおきたいのが『「感染症パニック」を防げ!/リスク・コミュニケーション入門』(岩田健太郎著、光文社新書、2014年)である。
 著者は感染症の専門医。医師としての本業の他、新書など一般向けの本を多く執筆し、感染症や予防接種とそれぞれのリスクについてどう考えたらよいか、錯綜する情報をどう取捨選択していけばよいかなど、現在はSNSでも積極的に情報発信している。
 本書が2014年11月に刊行されたきっかけは、その年に西アフリカ各地で流行した「エボラ出血熱」だったという。半数以上の患者が死亡するといわれる死亡率の高いエボラ・ウイルスの大流行は世界中を震撼させた。
 著者は、2001年アメリカでの「炭疽菌によるバイオテロ」対策、2003年の「SARS対策」、2009年神戸で見つかった「新型インフルエンザ」症例の対策など、感染症流行の対策最前線を経験している。どのケースにも共通していたのが「パニック」だという。

パニックを防ぐ、「リスク・コミュニケーション」

 感染症という「目に見えない敵」と対峙する時には、患者を診断し、病原体を見つけ、それを殺して治療する、ということ以上に重要なことがある。それは「パニック」と対峙し、パニックによる被害拡大を防ぐこと。本書では、リスクに附随するパニックを回避する効果的なコミュニケーション、すなわち「リスク・コミュニケーション」について詳しく解説していく。
 リスク・コミュニケーションにおいて、主に情報発信を行う側(医療機関や担当機関など)に向けては、「だれに対する情報発信なのかを常に考えること」と、「信頼を失わないこと」などの重要性をうったえる。加えて、日頃から情報伝達の技術に関心をもち、訓練することの重要性にもふれている。また、情報を受けとる側(一般の人)に対しては、与えられた情報からリスクを見積もる(アセスメントする)重要性についても説く。「リスクが起きる可能性」と「起きた時の影響の大きさ(死亡率など)」をごっちゃに考えてはいけない、など、パニックを起こさないための基礎的なことを解説する。
 著者は経験上、本来の感染症対策とは別に、「メディア対応」に忙殺されるのも、現場にとって最もつらいことだと語る。感染症の流行が起きた時に、「夜中に対策チームのメンバー"全員"を招集し"緊急"記者会見を行う(行わせる)」ようなことは絶対に行ってはいけない、と指摘する。それはまるで「幼稚園児がサッカーをやるようなもの」。メンバー全員がボールに向かって全力疾走してしまうようなやり方では、睡眠不足、疲労、ストレスで、いつまで続くかわからない感染対策に対応することは不可能だ。余力を残し、最小限のメンバーで最大限の効果が出るような対応を戦略的にしなければならない。
 国内の状況がこの程度で収束するか、これから真の流行期が来るのかはまだ全くわからない。感染症流行初期には、状況を正確に把握するのはとても難しい。対応を「間違えたこと」よりも「間違えて、それをすぐに認めないこと」のほうが後のダメージが大きい、と岩田氏は指摘する。感染症流行の拡大に備え、冷静に、かつ適切な対応ができるかどうか、これまでたびたび繰り返された事例から学んでおくことは非常に多い。

(編集部 湯原葉子)

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