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第134回 『定年準備』

「風」編集部

NEW 19/01/31

「何事にも縛られず自由な生活をしたい」

 1月27日、人気アイドルグループ「嵐」が、「2020年末での活動休止」という方針を公表し、日本中に衝撃が走った。ファンに向けた文書や会見では、「リーダー」である大野智氏が、「何事にも縛られず自由な生活をしたい」「今まで見たことのない景色を見てみたい」と、活動の休止は自分が提案したことだと明かしている。
 私個人は「嵐」ファンではないので特にショックというわけではないが、これだけの国民的グループが「円満」に活動休止するとなるとその準備に2年近くの年月を要するのか、という点に注目した。一度「嵐」をやめて自由になりたい、という大野氏の意思は、メンバーには数年前には伝えられ、話し合いが重ねられていたという。10代からアイドルとして働き続けていた彼が、40歳を迎えたあとの「次のステージ」について考え始めたのはいつ頃だったのだろうか。

40代は「こころの定年」

 もちろん、多くの勤め人にとっても、第二の人生、「定年後」のプランは重要なテーマである。新書でも「定年後」をどう生きるか、というテーマが多数出ている。中でも多く読まれているのが、長く会社勤めをした人がぶつかる定年前後のさまざまな「ギャップ」の実態について、具体的な実例をあげて紹介した『定年後/50歳からの生き方、終わり方』 (2017年、中公新書)である。
 会社人間だった故に、突然手にした自由な時間をもてあましたり、組織という後ろ盾のない人間関係に戸惑ったり、将来設計に不安を抱えたりしている人にむけ、さまざまな提案をしている。著者の楠木新氏は、自身が50歳から60歳まで会社員とフリーランスで書籍を執筆するという「二足のわらじ」で、定年後も自分の仕事と生活を充実させるためのソフトランディングを実現した。
『定年後』では、定年前後の「男性」をターゲットに定めていたが、想定した読者層より若い40代や、女性からの反響も大きかったという。そこで、多くの人が求めているのは、定年への準備期間をどうすればよいか、ということではないかと気づき、『定年準備/人生後半戦の助走と実践』を刊行したという。
 多くの会社員に取材した著者は、「会社で長く働いているのが当たり前になっていて、組織を離れるのが想像できない」という人と、その後の苦悩を多く見てきている。自分自身の「老い」や健康不安に向き合い、環境の変化に対応しながら生活できるように想定できるかどうか。定年後の生活は、定年前の準備にかかっている、というのが著者のメッセージだ。
 60歳まで100%に会社に尽くして、その後は退職金と年金で暮らす、というモデルが描けるのは既に少数派となっている。「人生100年時代の生き方」「高齢化社会における生き方、働き方」といった一般論だけでは乗り切れない。自分はどうしたいか、何ができるのか、そのためには何を準備する必要があるのか、をそれぞれが考えなくてはいけない。本書ではそのヒントを提示している。
 著者は、「誰の役に立っているのかわからない」「成長している実感が得られない」「このまま時間が流れていっていいのだろうか?」など、会社人間の多くの人が揺れ動き始める40歳前後の時期を、「こころの定年」と名づけている。「こころの定年」を乗り越えて安定した「定年後」を迎えるには、収入はもちろん、生きがい、居場所などを会社だけに頼らない、周到な準備が必要だとしている。

トップアイドルにも第二、第三の人生

 売れなくなったら終わり、という先が見えず厳しい世界に若い頃からずっと立ち続けていた嵐の「大野君」は、「こころの定年」を迎えるのも普通の会社人間より早かったのかもしれない。2018年のラストツアーを最後に、惜しまれながら引退した安室奈美恵さんや、先日「無期限」での活動休止を宣言した西野カナさんなど、トップスターも、「第二、第三の人生」を積極的に考えられるようになり、周囲もそれを認めるようになったことは、時代の変化だろう。一度きりの人生、自分が何をしたいか。「嵐のコンサートのない人生なんて想像できない(泣)」などと言わず、彼らの次の舞台での活躍を思い描きながら、5年後の自分、10年後の自分はどうありたいかを考えるきっかけをもらったと思ってほしい。

(編集部 湯原葉子)

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