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第179回 『韓国 超ネット社会の闇』

「風」編集部

NEW 2022/10/31

逃げ場のない群衆雪崩の恐怖

 10月29日夜、ソウル繁華街の雑踏でハロウィーンに盛り上がる若者が巻き込まれた群衆雪崩は、154人の命を奪う最悪の事態となった。

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ソウル雑踏事故154人死亡、日本人2人 坂道で五、六重に折り重なる

 韓国の首都ソウルの繁華街・梨泰院(イテウォン)の路地で、29日午後10時15分ごろ(日本時間同)、多くの人々が折り重なるように転倒する事故が起きた。消防当局は30日、154人が死亡して、132人が負傷したと発表した。死者の多くは圧死だったとみられる。梨泰院は当時、ハロウィーンを前に若者らでごった返しており、死傷者の多くは20~30代だった。

毎日新聞 デジタル版 2022/10/30 20:14(最終更新 10/31 00:18) より
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 当時、ハロウィーンで盛り上がる様子を自撮りで「中継」する人が多くいた。群衆が駅に向かう幅4メートルという狭い坂道の路地に集まり、みるみるうちに身動きが取れず、悲惨な状況となっていく。リアルタイムでこの地獄絵図を記録した動画が、幸運にも無事に現場を抜け出せた人たちを通じて多数拡散されている。この事故は防げなかったのだろうか。

若者はなぜ集まったのか

 ここ数年コロナ禍で開催できなかったハロウィーンが3年ぶりに規制なしで行われ、ビザなし渡航が再開された日本人をはじめ海外からの観光客もソウルの繁華街に戻り始めた。現場となった「梨泰院」は、海外でも大人気のドラマシリーズのタイトルになっている地区で、ドラマにはハロウィーンを描いたシーンもあると聞く。
 ドラマの舞台になった場所を訪れ、登場人物の気分を味わう「聖地巡礼」に来た若者が、街が最も賑わうハロウィーンの週末に集中した。いくつもの偶然が重なり、想像を絶する悲劇となってしまったのだろうか。人混みにわざわざ出かけて事故に巻き込まれるなど愚かなこと、と後から批判するのはたやすい。何年も続くコロナ禍でイベントの中止が相次ぎ、友達と集まることも、飲んで騒ぐことも禁じられ、我慢を強いられてきた若者たちだけを責められるだろうか。

 映画『パラサイト 半地下の家族』や、世界的にヒットした『イカゲーム』、日本での第4次韓流ブームを巻き起こした『愛の不時着』、『梨泰院クラス』といった配信ドラマ、BTSを筆頭に世界を席巻するK-POPスター。韓国の文化コンテンツの力は、今や「Kカルチャー」と呼ばれるほどになった。
韓国 超ネット社会の闇』(金敬哲著、新潮新書、2022年7月刊)では、Kカルチャー躍進の背景となり、コロナ禍の韓国経済を支えることにもなった韓国のITインフラの「光と影」に着目する。
 本書で記載された2022年4月の時点では、大人気ドラマ『梨泰院クラス』の舞台となった地区も、「コロナ禍で苦境に立たされている」と指摘している。ドラマでは「権利金(のれん代)2億ウォンの最高人気商圏」というセリフもあるほどだが、「内需の低迷と高いテナント料のため19年から空室率が急増している」のが現実だという。ようやく戻り始めた観光客を逃してはならない、と規制を厳しくできなかった、という側面はないと言えるだろうか。
 一晩にして死傷者数220人超の被害というのは、韓国では2014年に高校生を含む死者・行方不明者304人となったセウォル号沈没事故に匹敵するほどの大惨事である。韓国の尹錫悦大統領は国として哀悼期間を定め、負傷者への対応や事故原因の究明、再発防止を指示している。
 幼い頃からデジタル環境に囲まれるのが当たり前という「デジタルネイティブ」と呼ばれる若者たちは、テレビよりパソコン、本や新聞よりネットを好み、SNSを通じて世の中と繋がっている。SNSで広まった情報により、大人が知らない間に、思わぬ場所が急に人気を集めたり、有名人が来ている、といった真偽不明の「情報」で人が急に集まってきてしまうこともある。
 コロナ禍でリアル社会での経験が不足していることもあり、同様の事態が日本で起きることも十分考えられる。もう過ぎてしまうハロウィーンはともかく、例えば各地で予定される年越し/年明けイベントについて、今年はコロナ以前の基準よりもさらに万全な警備対策が必要となるのではないか。

(編集部 湯原葉子)

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