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第151回『2025年のデジタル資本主義』

「風」編集部

NEW 2020/06/30

『2025年のデジタル資本主義/「データの時代」から「プライバシーの時代」へ』
(田中道昭著、NHK出版新書)

あなたは「COCOA」が使えるか

 厚生労働省は6月19日、新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の配信を開始した。

>>新型コロナウイルス接触確認アプリ[PDF]

 このアプリをスマホにインストールすると、“スマートフォンの近接通信機能Bluetooth(ブルートゥース)を利用して、お互いに分からないようプライバシーを確保して、新型コロナウイルス感染症の陽性者と「1メートル以内、15分間以上」接触した可能性があった場合、通知を受けることができます。”とある。つまり、お互いに個人が特定されることなく、陽性者と接触した“可能性”がわかる、という。
「陽性者」は処理番号で管理され、氏名・電話番号・メールアドレスなど、個人を特定される情報は収集されず、GPSなどの位置情報も利用しない。そのため、いつ・どこで・誰と接触したか、ということはわからない。「行政機関や第三者が接触の記録や個人の情報を利用し、収集することはありません」ともある。
 そもそも新型コロナPCR検査で陽性となっても、このアプリに登録するのは、あくまで「利用者の同意が前提であり、任意」であり、義務はない。

 厚労省のwebページによれば、公開から1ヵ月間は試行版となっており、利用状況を参考にしながらデザイン・機能を改善した更新を行う可能性も示している。
 厚労省は、「利用者が増えることで、感染拡大の防止につながることが期待されます」としている。6月28日17時現在、ダウンロード数は合計で約464万件だという。
 スマホのOSは最新バージョンにアップデートしておく必要があり、Bluetoothは「常にオン」にしておく必要がある。スマホを持っていて、このアプリを利用したい、と思っていても、操作に自信がなく、身近に手助けしてくれる人がいないと「登録までちょっとハードルが高い」という人は多いかもしれない。
 厚労省が「LINE」の協力を得て行った「新型コロナウイルス対策のための全国調査」は、未成年者を含めLINEを利用している人に設問が直接届くようになっている。それと比べると、「COCOA」には一般に認知される可能性もまだまだ低い。

ポストコロナ時代における「プライバシー」

「個人情報は特定されません」というが「プライバシーが本当に守られるのか、なんだかちょっと心配」という懸念から、アプリの登録を躊躇している人もいるだろう。
 厚労省のwebページには「接触確認アプリケーションプライバシーポリシー」の詳細が記載されている。ここでは、利用者のどのような情報を収集しているか、収集していないか。利用者のどのような行動を、いつどこに記録しているか、記録していないか。集めた情報をどのように照会できるようになっているか。専門的にならない範囲の内容で公開されている。
 こんにち、どのようなwebサービスやアプリでもこうした「プライバシーポリシー」は公開されているだろうが、いつもこれらの記載を読んで、理解してからインストールしているだろうか? そもそも、デジタル社会においてのプライバシーとは何なのだろうか。
『2025年のデジタル資本主義/「データの時代」から「プライバシーの時代」へ』(田中道昭著、NHK出版新書)を読むと、米国の「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)や中国の「BATH」(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)といった巨大IT企業にとって、私たちが特に重視している氏名・電話番号・生年月日・メールアドレスなどだけが「個人情報」「プライバシー」ではないということを改めて思い知らされる。
 検索履歴、メール、地図アプリの利用履歴、動画の視聴履歴、GPSの行動履歴、SNSでどんな投稿に「いいね!」をつけたか。これらはすべて企業にとっては重要な情報である。事業者、消費者、広告主など複数のユーザーを結びつけるサービスを一つのプラットフォーム上で提供する「デジタル・プラットフォーマー」というのが、現在世界を席捲する「GAFA」や「BATH」のビジネスモデルである。これらの企業が提供する利便性の高いサービスを無料で使用できるかわりに、利用者は、個人データという「見えないコスト」を払わされていると意識しておくべきだという。
「デジタル・プラットフォーマー」へ、情報と富が集中している反動で、欧米を中心にプライバシー重視の機運が高まり、法制度の厳格化が相次いでいる。本書では各企業が具体的にどのような規定を表明しているか、その最前線を明らかにしている。
 実名登録が原則で、精度の高い広告ビジネスを展開しているフェイスブックのデータ漏洩問題は大きな衝撃を呼んだ。「個人情報の利活用はしない」と明言するアップル。「個人を特定できない情報をパートナー(広告主など)と共有する」と明記するグーグル。企業によってその対応には違いがあるが、プライバシー保護のための規制強化の流れは、米国においては不可逆だと指摘する。

データの利用かとプライバシーの重視の「バランス」

 一方で、中国式のデジタル監視社会ともいわれる個人情報の収集(個人の移動履歴や家族関係のデータ)とそれを支える最新テクノロジーが、北京市内で移動する際に求められる「健康証明」アプリの開発に威力を発揮し、新型コロナウイルスの拡大防止に役立ったという例も紹介している。
 データの利用か、プライバシーの重視か。ウイルス拡散防止か、経済活動の維持か。著者は、いずれもそれぞれ二律背反するからこそ、バランスよく推進できるよう、両者の現状を冷静に分析すべきではないかとうったえる。データ経済において「日本は周回遅れ」と明言し、後発者だからこその利益を享受し、将来的に世界をリードできるような戦略を立てるべきではないかという。
 スマホアプリも最初から評判が良いと、かえって変更や改善が難しい。COCOAも試行版の今のうちに、いろいろ改善すべき点が発見され、第二波が来た場合に完成版が普及するようになればいい。まずは認知度・信頼性を上げることが重要だ。

(編集部 湯原葉子)

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