風
 
 
 
 
 
 
[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン

新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2017年8月刊行から 編集部

NEW

17/09/15

開かれた皇居に残る最後の禁忌、「御府」

 かつて皇居内部に設立され、「御府」(ぎょふ)と呼ばれた施設。これまでその存在が隠され、忘れられようとしている皇居内部の「戦死者追悼施設」について、その来歴をまとめているのが、『天皇の戦争宝庫/知られざる皇居の靖国「御府」』(井上 亮著、ちくま新書)である。5つの建物自体は今も存在し、グーグルの衛星画像でも、その姿はきちんと確認することができる。
 日清戦争後に、皇室に献上された戦利品の収蔵庫として設立され、後に戦没した軍人・軍属の遺影や名簿が置かれるようになった。単なる倉庫ではなく、天皇によって戦没者が深く悼まれているという「物語」が国民に伝えられ、「もう一つの靖国」といわれる存在にもなった。近代日本において、戦没者の慰霊、顕彰は重大な国家事業であり、その施設が皇居に存在したことは、慰霊・顕彰が天皇と深く結びついていたということを示している。敗戦を機に制度としては廃止され、軍国主義を象徴する「忌むべき」存在とみなされてしまった御府だが、廃棄されず、今も皇居の片隅に残されている。
 著者は、昭和天皇の遺品や著書の一部、写真など昭和史の貴重な資料が、今もそのまま御府のどこかに残されている可能性があるのではないかとしている。皇居に残され封印された、最後の「禁忌」に迫るルポタージュである。

十五歳の戦争/陸軍幼年学校「最後の生徒」』(西村京太郎著、集英社新書)は、著作が500冊を超える人気ミステリー作家が、初めて語るという自身の戦争体験。「19歳になったら誰もが徴兵される。ならば、それまでに兵士ではなく将校になっていたほうがトクに違いない」と考え、陸軍のエリート将校を養成するための「東京陸軍幼年学校」に入ったという。昭和20年4月から敗戦の8月までの4ヵ月半を、「天皇の軍隊」として過ごした濃密な日々をつづる。戦争末期から突然戦争が終わった時代を、14歳から15歳という「ぎりぎり子供でいられる年齢」で迎えた人ならではの冷徹な目で「日本人はなぜ戦争に負けたのか」を分析し、日本人の戦争観を語る。

山本七平の思想/日本教と天皇制の70年』(東谷 暁著、講談社現代新書)は、1977年に刊行された『空気の研究』など、死後25年を超えて今もなお著作が読まれ続け、その言葉が生き続けている山本七平の人生とその思想をテーマにしている。
「日本人は空気でものごとを決めてしまう」「日本人は水と安全は無料だと思っている」「日本人の宗教は日本教だ」……。こうした山本七平の言葉は今も古びることなく、生き続けている。「日本人とは何者か、日本社会とはいかなるものか」を常に問い続ける人生を送っていた山本七平の生涯。その鋭い言葉を現代の視点で改めて読み直す。
 著者(東谷氏)は、七平が天皇制、昭和天皇について論じていた文章についても改めて丹念に読みこんでいく。昭和天皇の「御希望」や「御内意」が、戦前においてすらも外部に出ることはなかったのと比べ、昨年夏、今上天皇の「ご意向」の発表が、NHKテレビでいちはやく報道されたということの異例さを指摘している。

「ライバルはAI」時代のキャリア戦略

「ゆとり世代」の若者の転職が増えている、そう聞くと多くの「大人」は、「若者はわがままだから長続きしない」「仕事に対して責任感がないからだ」と思いがちだ。『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?/キャリア思考と自己責任の罠』(福島創太著、ちくま新書)は、自身も「若者世代」である1988年生まれの著者が、若者たちが転職するように「煽って」いるのは誰なのか?と若者を中心とした現代のキャリア形成についての問題点を論じている。
 終身雇用や年功序列が当たり前、「転職=ドロップアウト」と考えられていた時代からみれば、今の若者は広い選択肢のなかから「自分らしいキャリア」を選んでいるかのように見える。常に強い意志を持ち努力しながら、「やりたいことを考え」「選んで」いかなければいけない、そしてその結果は個人の「自己責任」とされる。このような時代に生きる若者世代の価値観、キャリア形成について抱える不安やリスクを理解し、どのような支援が必要なのかを考える。そうした視点が社会全体に必要なのではないかとうったえる。

競争社会の歩き方/自分の「強み」を見つけるには 』(大竹文雄著、中公新書)は、日本ではネガティブな意味でとらえられていることが多い「競争社会」という言葉に注目している。「競争」は自分の強みを見つけ、社会を活性化する機会でもある、という観点から、さまざまな競争のメリットとデメリットを、経済学的思考で分析する。
 競争が少ないと、自分の本当の長所を知ることができない。下手に自分探しをするよりは、競争にさらされたほうが、自分の長所を知って創意工夫ができるようになるのでは、と著者は指摘する。AIの発達で今の仕事を失っても、自ら新しい仕事をつくり出すことも可能だ。重要なのは、どんな仕事がより価値が高いかを、人間自身が決めることではないか、としている。

「あなた」という商品を高く売る方法/キャリア戦略をマーケティングから考える』(永井孝尚著、NHK出版新書)では、「AIに仕事を奪われる時代」を目前にし、「競争を避け、(他人がやっていない)自分の好きなことをする」という逆説的ともいえる競争戦略について持論を語る。

移民論争以前にある、外国人労働者をめぐる現実

 2016年、日本の外国人労働者が初めて100万人を超えた。日本の産業は外国人労働者なくしてはもはや成り立たないような状況になっていることは、もう誰の目にも明らかだ。『外国人労働者をどう受け入れるか/「安い労働力」から「戦力」へ』(NHK取材班著、NHK出版新書)は、「外国人労働者100万人時代へ」などのタイトルで放映されたいくつかの番組に関する取材をもとに生まれている。
 日本では、外国からの移民は受け入れないという立場をとるため、労働力として受け入れが可能なのは「留学生」と、期限付きで日本の技術を学ぶためにやってくる「外国人技能実習生」の2つしかない。特に「外国人技能実習生」については、日本人が嫌がる「重労働・低賃金」という単純労働の仕事を押しつけ、さらに賃金も十分に払っていない状況が放置されているとして、悲惨な実態を明らかにする。人口減がより深刻になる中、移民受け入れの議論をしようとせず、必要な労働力を「労働者」として受け入れない、奴隷労働を生むような歪んだシステムをいつまで放置しておくのか、と批判する。

「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(香山リカ著、ちくまプリマー新書)は、いじめや差別、そして昨今深刻な問題となっている、ヘイトスピーチについて真正面から語りかける。いじめや差別をなくすためには、まわりにいてそれを見ている第三者の役割が非常に重要だと主張する。
 いじめや差別の被害にあっている当事者に対して、いじめや差別の被害に立ち向かうのは、それを受けている被害者本人ではなく、まわりにいる大人、友人、あるいはそれを見ている人など、「第三者が基本」だとして、自分の問題だから自分でなんとかすると思う必要はないと何度も繰り返す。
「見なかったこと、気づかなかったこと、なかったこと」では、いじめや差別、ヘイトスピーチはなくならない、と「第三者」である多くの人々に強くうったえかけてくる。

まだ謎の多い魚、マンボウの生態

マンボウのひみつ』(澤井悦郎著、岩波ジュニア新書)の著者は、幼い頃から「マンボウが好き」でマンボウを研究することになった。今でこそ日本の多くの水族館で飼育され、生きて泳ぐ姿を目にする機会が増えているが、マンボウは大型で捕獲も飼育も難しく、2000年代より前にはこうした状態は考えられなかったという。
 水族館での飼育が可能になってもなお、成熟や産卵についてなどの知見がほとんどない、今もまだ謎の多い魚マンボウ。DNA解析や「バイオロギング(生きている個体に記録計や発信器をつけてデータを得る手法)」という最先端の研究で少しずつ明らかになりつつある、マンボウの生態を、わかりやすく紹介する。著者の手によるマンボウのイラストが非常に魅力的だ。

 故郷の生家に残って両親の面倒を見、その最期を看取った弟が、家を出て東京できままに暮らし、葬儀で帰郷した兄姉から遺産相続を要求される……。今でもよくありそうな「骨肉の争い」を事細かに解説したのが『一茶の相続争い/北国街道柏原宿訴訟始末』(高橋 敏著、岩波新書)である。
 俳人・小林一茶(本名弥太郎)は、俳諧師として江戸を拠点に諸国をまわり、36年の間、故郷の北信濃柏原村から離れていたが、父親の遺産をめぐり異母弟を相手に「骨肉の争い」を繰り広げる。いまさら農作業をやる気もない弥太郎はなぜ故郷に執着し、父の遺産をむしり取ろうとしたのか。父親からの一枚の遺書という「契約文書」がものをいう、柏原村の「近代性」に興味をおぼえたという著者は、当時の北信濃の百姓たちの「読み書き算用」レベルの高さにもふれている。
 一茶の死後、故郷にその句碑を建てるために奔走したのは、10年余にわたって遺産をめぐる争いに巻き込まれた弟、弥兵衛その人だったというから、興味深い。

ニッポンの奇祭』(小林紀晴著、講談社現代新書)は、写真家である著者が、出身地である長野県諏訪地方の御柱祭をはじめ、日本各地の祭りを訪れた写真紀行。ここで取り上げられている祭りは、観光イベントとして多くの人を集める祭りとはひと味違うものが多い。学術的な視点ではなく、「いい写真がとれそう」という著者の感性で選ばれたものだというが、本書では写真だけではなく文章でも、祭りの前後、日常と非日常を感じさせている。

(編集部 湯原葉子)

BACK NUMBER

『天皇の戦争宝庫/知られざる皇居の靖国「御府」』
井上 亮著
(ちくま新書)

『十五歳の戦争/陸軍幼年学校「最後の生徒」』
西村京太郎著
(集英社新書)

『山本七平の思想/日本教と天皇制の70年』
東谷 暁著
(講談社現代新書)

『ゆとり世代はなぜ転職をくり返すのか?/キャリア思考と自己責任の罠』
福島創太著
(ちくま新書)

『競争社会の歩き方/自分の「強み」を見つけるには 』
大竹文雄著
(中公新書)

『「あなた」という商品を高く売る方法/キャリア戦略をマーケティングから考える』
永井孝尚著
(NHK出版新書)

『外国人労働者をどう受け入れるか/「安い労働力」から「戦力」へ』
NHK取材班著
(NHK出版新書)

『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』
香山リカ著
(ちくまプリマー新書)

『マンボウのひみつ』
澤井悦郎著
(岩波ジュニア新書)

『一茶の相続争い/北国街道柏原宿訴訟始末』
高橋 敏著
(岩波新書)

『ニッポンの奇祭』
小林紀晴著
(講談社現代新書)

PAGE TOP
Copyright(C) Association Press. All Rights Reserved.
著作権及びリンクについて