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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2018年4月刊行から 編集部

NEW

18/05/15

声の魅力

「声」とは何か、魅力的な「声」とは何か。言葉や話す内容ではなく、実は「声」そのものによって、私たちの行動は大きく支配されている、というのが『声のサイエンス/あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(山崎広子著、NHK出版新書)。自分の声、特に録音した自分の声が「嫌い」だと言う人は多いがそれはなぜなのか。声という音が心身に与える影響について調査研究を続けてきた視点から、自分の声の、他者および自分自身への影響力について考えていく。
 人々は周囲の環境に「無意識に」自分の声を適合させているという。著者はさまざまな人の声を分析しているが、最近、若い女性の話し声が異常に高くなってきているのが気になっているという。諸外国に比べて異常なほど高い作り声で話す日本女性が多いのは、今の日本が女性が「素の自分」でいられない社会だということを示しているのではないか、としている。

日本人のための声がよくなる「舌力」のつくり方/声のプロが教える正しい「舌の強化法」』(篠原さなえ著、ブルーバックス)の著者は、アナウンサー、声優、ナレーター等の「声のプロ」やその卵たちへの指導を手がけてきたという。自分の声や話し方に対してコンプレックスがある人への指導を通して見えてきたのは、滑舌に必要なのは「舌の力」=舌の筋力だという。日本語を発音するために必要な、舌に関する知識と努力(トレーニング)によって喋る声を変え、自信を取り戻すことができる、としている。
 一方、滑舌や発音の問題に関わる鼻、歯並び、舌の機構にはトレーニングでは解決できないものもある。従来「鼻づまり」や「舌足らず」など、「生まれつき」のものとして見過ごされて(あきらめられて)きたことが、今日では医学的に解決可能な方法もあるということも紹介している。発声・滑舌など自分の声に悩みを抱えている人だけでなく、子どもを持つ親、子どもたちを指導する立場にある多くの人に向けて書いている。

 今、若者が憧れる人気職業の一つといわれるのが声優。『声優/声の職人』(森川智之著、岩波新書)では、人気・実力ともトップクラス、30年以上第一線で活躍を続ける著者が、身近なようで実はあまり知られていない「声優」の仕事の舞台裏を明かす。著者は、海外映画の吹き替え、アニメ声優、ナレーション、ゲーム、スマホアプリ、CMなど、さまざまなジャンルで活躍するかたわら、声優事務所の社長や、声優養成所の講師として育成の仕事も行っている。人気声優がアイドル並みに「表舞台」で活躍する昨今の風潮も否定はしないものの、声優はあくまで声だけで勝負する職人的な仕事であることを強調している。その技術を磨くために最も重要なのは、台本を読み解く「読解力」つまり「日本語力」だという。非常に説得力がある。

歴史の視点を変えてみる

戦国日本と大航海時代/秀吉・家康・政宗の外交戦略』(平川 新著、中公新書)では、戦国時代の日本史と世界史の接点に着目している。史料をもとに、「豊臣秀吉はなぜ朝鮮に出兵したのか」「徳川家康はなぜ鎖国をしたのか」「日本はなぜスペインやポルトガルの植民地にならなかったのか」などの謎をときあかす。不毛な争いを繰り返していたかにみえる戦国時代だが、ヨーロッパ人による植民地支配に対抗できる軍事力を備えることができた時代、と見ることもできる。朝鮮出兵は日本にとって侵略という負の遺産でもあるが、そこで発揮された国力によって、日本の植民地化を防ぐことにつながったのではないか、という分析も可能だという。視点を変えることで可能になる、歴史の新たな見方を示している。

 一昔前まで、江戸時代の日本の科学については、鎖国のため長期にわたり停滞していたとしてあまり評価されていなかった。『江戸の科学者/西洋に挑んだ異才列伝』(新戸雅章著、平凡社新書)の著者は、洋楽史や科学史研究から、江戸時代の科学事情を検討し、西洋に遅れてはいたものの、すでに相当の水準にあったことを明らかにする。平賀源内、関孝和、緒方洪庵ら11人の江戸時代の科学者の生涯を紹介し、明治維新後に近代科学が花開く礎となった天才たちの魅力に迫る。

明治の技術官僚/近代日本をつくった長州五傑』(柏原宏紀著、中公新書)は、幕末にイギリスへ密航し、帰国後は日本の近代化に大きな役割を果たした長州藩出身の5人(井上馨、伊藤博文、井上勝、遠藤謹助、山尾庸三)に着目する。先に帰国することとなった井上馨、伊藤博文の二人は後に有力な政治家として歴史に名を残した。残る3人は比較すると知名度が低いが、海外で得た理系知識や技術の専門性を生かし、新政府において官僚となって活躍した。彼らの負の側面にも目を向けつつ、近代国家形成において長州五傑が果たした役割を改めて評価している。

日本統治下の朝鮮/統計と実証研究は何を語るか』(木村光彦著、中公新書)は、1910年から1945年まで日本が朝鮮半島で行ったことは「収奪」だけだったのか、と改めて問う。
 日本統治と、今日にいたる韓国の発展、北朝鮮の国家建設との繋がりはどうなのか。また、朝鮮統治は日本にとって経済的にどのような利益・不利益があったのか、経済学の視点からその実態を検証していく。帝国日本が残した産業遺産をみると、電力・鉄道・港湾などのインフラ、鉱物資源、工業設備の多くは、北朝鮮に存在し、それが今日の核開発の礎ともなっているのではないか、と著者は指摘する。最新の経済統計データを基に、日本の遺産が韓国・北朝鮮両国に与えた影響を検討する。

 AIやブロックチェーンの台頭で、アメリカや中国を中心に、ビジネスモデルの大転換が起きている。『「産業革命以前」の未来へ/ビジネスモデルの大転換が始まる』(野口悠紀雄著、NHK出版新書)では、世界経済の現状と未来を理解するためには産業革命「以前」の大航海時代のヨーロッパに立ち返ることが必要だ、としている。新しい技術を活用して新たな産業革命が起きようとしている今、大きく立ち後れている日本が、この現状を脱するためにはどうしたらよいか。国、企業、個人それぞれが、考え方、行動を変化させていくべきだと主張している。

国民投票法の致命的な欠陥

憲法改正をめぐる国民投票は「圧倒的なカネと広告に支配されることになる」と警告するのが『広告が憲法を殺す日/国民投票とプロパガンダCM』(本間 龍; 南部義典著、集英社新書)。著者の一人である本間氏は、大手広告代理店の博報堂出身で広告代理店を通じたカネの動きを知りつくしている。海外の多くの国では国民投票に対しての広告が原則禁止となっているが、日本では広告規制が現状ではほとんどなく、有償CMが流し放題になっていると指摘する。「このまま国民投票が行われたらどうなるか」ということを、国民投票の諸制度について詳しい南部義典氏とともにシミュレーションし、より公平な形をつくるルールはどうあるべきかなど、具体的に提案をしていく。

 近年、LGBTという言葉が知られるようになり、性的マイノリティに関わる話題を耳にする機会が増えてきた。日本でもようやく、同性カップルのパートナーシップを認める法的制度などが動き始めつつある。それでも、性的マイノリティの当事者たちは、「本当の自分を知ってほしい」という気持ちと、「知られたら拒絶されるのでは」という気持ちのなかで葛藤し続けているのは昔も今も変わらないようだ。『カミングアウト』(砂川秀樹著、朝日新書)では、カミングアウトをめぐり、当事者と当事者の家族たちの心の葛藤を、性的マイノリティである自らの経験もふまえて、いくつかのストーリーとして紹介する。
 カミングアウトとは、「自分が性的マイノリティであることを誰かに話す」ということ。カミングアウトされたことを本人の同意なく誰かに伝えてしまう「アウティング」は、時に自殺等を引き起こすほど深刻な問題だということを知っておきたい。
 これからの時代、教育現場で性的マイノリティについてどう扱っていけばよいか、子どもから、あるいは生徒からカミングアウトを受けた場合の対応をどうするかなど、社会全体で配慮すべき課題も紹介されている。

 人はなぜサイコパスになるのか。サイコパスは治るのか。最近では「サイコパス」を扱った本が多く出され、ちょっとしたブームにもなっているという。
サイコパスの真実』(原田隆之著、ちくま新書)は、犯罪心理学の専門家が、最先端の知見に基づき、サイコパスの正体に科学的に迫ろうとした一冊。サイコパスとは、一言でいうと「良心を欠いて生まれた人々」である、と著者はいう。映画や小説などで扱われることも多く、冷徹な知能犯、連続殺人事件の犯人のような特殊な例を想像することが多い。しかし、圧倒的大多数のサイコパスは、犯罪者ではないことがほとんどで、企業の経営者、政治家、アーティスト、科学者など成功者にも多いタイプともいえる。一見魅力的であるが他者に対しては傲慢、「マイルド・サイコパス」について特に詳しく紹介している。
 今のところ、サイコパスの治療法や予防法は見つかっていない。表面的にカリスマ的魅力があり、響きの良い、強い言葉を操るようなサイコパス。彼らを政治的指導者として選ばないようにすること。周囲ができることはそれぐらいかもしれないとしている。


(編集部 湯原葉子)

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『声のサイエンス/あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』
山崎広子著
(NHK出版新書)

『日本人のための声がよくなる「舌力」のつくり方/声のプロが教える正しい「舌の強化法」』
篠原さなえ著
(ブルーバックス)

『声優/声の職人』
森川智之著
(岩波新書)

『戦国日本と大航海時代/秀吉・家康・政宗の外交戦略』
平川 新著
(中公新書)

『江戸の科学者/西洋に挑んだ異才列伝』
新戸雅章著
(平凡社新書)

『明治の技術官僚/近代日本をつくった長州五傑』
柏原宏紀著
(中公新書)

『日本統治下の朝鮮/統計と実証研究は何を語るか』
木村光彦著
(中公新書)

『「産業革命以前」の未来へ/ビジネスモデルの大転換が始まる』
野口悠紀雄著
(NHK出版新書)

『広告が憲法を殺す日/国民投票とプロパガンダCM』
本間 龍; 南部義典著
(集英社新書)

『カミングアウト』
砂川秀樹著
(朝日新書)

『サイコパスの真実』
原田隆之著
(ちくま新書)

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