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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン

新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2017年5月刊行から 編集部

NEW

17/06/15

日本の電機産業はなぜ負けたのか

 巨額の粉飾決算が内部告発により露見し、成長事業の売却を余儀なくされ「解体」に向かう東芝の実態は、国内に残された原発の後始末をする「廃炉会社」である……。『東芝解体/電機メーカーが消える日』(大西康之著、講談社現代新書)の著者はそう指摘する。本書では、東芝のほか、NEC、シャープ、ソニー、パナソニック、日立製作所、三菱電機、富士通という、戦後日本の経済成長を支えてきた電機メーカーが、「歴史的大敗」を喫した「失敗の本質」を一社ごとに分析し、それぞれの生き残りの道(があるとすれば……)について考察している。
 上記の電機会社8社は、電力会社を頂点として電力インフラを支えて来たグループ、NTTを頂点として通信インフラを支えて来たグループ、それ以外のグループなどから成り立っていた。長年電機産業を支えて来たこのシステムを理解すれば、電力の自由化、通信の自由化とともに電機産業が崩壊したことは一目瞭然である。

 高機能すぎる、日本でしか使えない「ガラパゴス」技術の象徴、と思われていたSuica。『Suicaが世界を制覇する/アップルが日本の技術を選んだ理由』(岩田昭男著、朝日新書)では、アップルが2016年にiPhoneに搭載したことで事実上グローバルスタンダードに躍り出たSuicaと、そのもとになっている技術(ソニーが開発した非接触IC規格のFeliCa;フェリカ)について解説する。電子決済、つまり金融業界をもコントロールしようと動き出したアップルに対し、グーグルやVISA、銀行業界はどう反撃してくるのか。決済分野での覇権争いの最先端を紹介する。
 うつ病と診断され、会社を休職する人が急増し、深刻な社会問題となっている。『うつ病休職』(中嶋 聡著、新潮新書)の著者は精神科医であり、うつ病をはじめとする精神疾患に関する著書が多数ある。著者自身のクリニックでの診療経験では、うつ病とは言えない「抑うつ状態」、または全く病気ではない人が、「会社を休みたい」と、「うつ病の診断書」を求めてクリニックに駆け込むケースが増加している。特に、会社や上司に「受診して診断書をもらってくるように」と言われてくるケースが激増しているという。
 著者は、この「診断書」というものに疑問を投げかける。うつ病という診断書をもらって休職することで、社員は「とりあえず」休むことができる。会社や上司は、本人のためというよりは「訴えられたとき負けないよう」、「うつ病という診断書のもと休職させた」、というマニュアル的な対応で安全管理上の自己防衛をしている。
 著者は、昨今、うつ病の早期発見・治療についての理解が社会で認識されるようになった点は評価できるが、違法な長時間労働など労務上の問題や、理不尽な職場いじめ・パワハラといった職場環境の問題が、医療問題にすり替えられているのではないか、と指摘する。病気ではない人に病名をつけて、その診断名に基づいて対処してしまうことは、根本的な解決にはならない。本当に治療を必要とする、真のうつ病の人々への医療リソースが不足する問題も生じてくるだろう。重大な課題を覆い隠してしまう危険性からも、精神科医はうつ病という診断の「ストライクゾーン」を広げるべきではない、と強くうったえかける。

通勤電車のはなし/東京・大阪、快適通勤のために』佐藤信之著、中公新書)では、東京圏/大阪圏の通勤電車のネットワークの成り立ちと現状を解説し、主要路線のさまざまな課題と対策や、計画されている新規路線について述べる。
 鉄道会社は混雑緩和のために、新線の建設、ダイヤの工夫、新型車両の導入、駅の改良等さまざまな努力を続けてきている。鉄道会社にとっては、混雑緩和のために設備投資をしても旅客が増えるわけでもなく、採算性が悪化するだけである。鉄道が便利になり沿線の資産価値が上がっても、その利益は鉄道会社の収入にはならない。鉄道の整備はどこまで必要か、その建設費はだれがどのように負担すればいいか。著者は、小池都知事が以前うったえたような「満員電車ゼロ」といった現実離れした目標ではなく、快適に通勤できる、現実的で穏当な目標を設定すべきではないかと提案する。

「○○は危険」という単純な思い込みこそが危険

「ネットのせいで陰湿なネットいじめが起きる」「ネットの情報は嘘ばかり」「SNSは危ないから使っちゃダメ」……。『大人を黙らせるインターネットの歩き方』(小木曽 健著、ちくまプリマー新書)は、「ネットもスマホもよくわかっていない」くせにネットやスマホをむやみに怖がり、子どもたちのネットやスマホの使い方に文句ばかり言う大人に対し、若者が理論武装して反論するために必要な知識を提供している。
 著者はIT企業の社員として、全国の学校、企業、官公庁などを対象にネットの安全利用についての講演を年間300回以上行っているという。「真実を見極めるなんて面倒」「真実だけチョーダイ」などと言う人は、「現実社会でもネットでも騙される可能性大」という鋭い指摘もある。「ネット・SNSは何だか怖いから子どもからは遠ざけておきたい」と思う人も、一度読んでみてはどうだろうか。

効かない健康食品 危ない自然・天然』(松永和紀著、光文社新書)の著者は、新聞記者出身の科学ジャーナリスト。次々と流行を生む「健康によい」とされる食品の真偽、食のリスクについての考え方などを最新の科学に基づき解説する。
 食の科学はものすごいスピードで研究が進み、複雑で難しい。
さまざまな情報の真偽を自分で検討するのは難しいが、「これを食べるといい」「これを食べたら危険」といった単純な論法には常に警戒したほうがよい、と助言する。著者は、「自然・天然の食品は安全でよい/人工合成は悪い」という思い込みが根強いことに、食の情報の伝達の難しさを感じているという。
 膨大なネット上の情報を収集してまとめるキュレーションサイト(アプリ)が、素人同然のライターを使って医療や健康に関する記事を量産し、誤った情報を発信していたことが発覚して問題になった。若い世代の間では新聞、テレビなど従来からあるメディアからの影響を受けることが非常に小さくなっており、ネットにあふれる食の「フェイクニュース」が、そうした層に広がりやすくなっているという。科学的根拠のない、危うい食や健康情報の発信に対して、国やメディアによるチェック機能が必要ではないかと著者は主張している。

 インターネットが身近な存在になって20年、スマホを通じて多くの情報がいつでもどこでも手に入り、個人でも情報が発信できるようになった今、「ネットメディアの進化は(一旦)終わった」とするのが、『ネコがメディアを支配する/ネットニュースに未来はあるのか』(奥村倫弘著、中公新書ラクレ)。
 新聞社や通信社発の「ニュース記事」は、取材や発信にコストをかけ「社会に伝える意義がある」とされてきた。それが今や、身近にネコがいれば誰でも発信できる「ネコ動画」のようなものにコンテンツとして負けている。そうしたネット社会の現状をタイトルは示している。
 自分の都合のよい情報だけを取捨選択し、自分の解釈とは違う意見を「フェイクニュース」「ポスト・トゥルース」「オルタナティブ・ファクト」などと退けるような風潮が進んでいる。
 さらに、自分と似た意見だけを受け入れさらにそれを強化する「エコーチェンバー(共鳴室)化現象」、自分にフィットする都合の良い情報の「泡(バブル)」に包まれるような状況を示す「フィルターバブル」現象というような、新しい言葉も続々と生まれている。過去20年にわたるネットメディアの成功と失敗を振り返り、これからのネットメディアについて考えてみるべきではないかとしている。

ドキュメント 日本会議』(藤生 明著、ちくま新書)は、2017年5月末に結成20年を迎えた「日本会議」という組織の真実に、朝日新聞社のジャーナリストが迫る。会員は約4万人、全都道府県に地方本部があるこの団体について、カネの動きなど団体として謎の多い部分を、関係者への取材や機関誌や論文といった資料から詳細に分析している。「安倍政権の黒幕」「日本を裏支配するシンジケート」とも評されるような、昨今の陰謀論めいた見方では把握できない、組織の姿に迫ろうと試みる。

ファーブルのような昆虫学者をめざして

 ファーブルに魅せられた若者が単身、砂漠の国に乗り込み、昆虫学者として生き残りをかける。『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎著、光文社新書)の著者は、主にアフリカで大発生して農作物に大きな被害を与えるバッタの大群を研究、防御技術開発に携わっている。
 バッタの大発生研究のために渡ったモーリタニアでは、建国以来最悪の干ばつに見舞われ、著者は研究対象であるバッタが忽然と消えてしまうという“不運”に見舞われる。
 砂漠での過酷な生活は、研究をしばしば妨げ、また、現地の人間や研究所とは、研究以前にさまざまな交渉をしなければならない。資金が足りなくなれば研究が滞り、その結果研究成果が出せなければ収入も絶えるというプレッシャーに追われる毎日。こうした困難と「夢をもつことの大切さ」とのせめぎあいを赤裸々に書き記している。

 石ころ、と呼ばれるくらい身の回りにあふれている「石」だが、これほど身近にありながら、私たちはその本質をほとんど知らない。『三つの石で地球がわかる/岩石がひもとくこの星のなりたち』(藤岡換太郎著、ブルーバックス)は、地球上にあるさまざまな石(岩石)のうち、地球上に最もたくさんある、かんらん岩(橄欖岩)、玄武岩、花崗岩という三つの石だけに絞り、その特徴を詳しく紹介している。
 まずはこの三つの石の名前を覚え、その石が地球のどのあたりに分布するかといった基本的なプロフィールを知ることで、たくさんある他の石のことも頭に入るということだ。学校の教科書に登場する石の名前は多すぎて名前も複雑で嫌気がさしてしまう。中学時代に読みたかった一冊である。

(編集部 湯原葉子)

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『東芝解体/電機メーカーが消える日』
大西康之著
(講談社現代新書)

『Suicaが世界を制覇する/アップルが日本の技術を選んだ理由』
岩田昭男著
(朝日新書)

『うつ病休職』
中嶋 聡著
(新潮新書)

『通勤電車のはなし/東京・大阪、快適通勤のために』
佐藤信之著
(中公新書)

『大人を黙らせるインターネットの歩き方』
小木曽 健著
(ちくまプリマー新書)

『効かない健康食品 危ない自然・天然』
松永和紀著
(光文社新書)

『ネコがメディアを支配する/ネットニュースに未来はあるのか』
奥村倫弘著
(中公新書ラクレ)

『ドキュメント 日本会議』
藤生 明著
(ちくま新書)

『バッタを倒しにアフリカへ』
前野ウルド浩太郎著
(光文社新書)

『三つの石で地球がわかる/岩石がひもとくこの星のなりたち』
藤岡換太郎著
(ブルーバックス)

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