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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン

新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2017年2月刊行から 編集部

NEW

17/03/15

 自意識・自己愛の肥大化から読み解く若者像

「何かにつけて自己アピールがうざい人」「社会的意識が高い事をアピールする人」「とにかく会話の中でカタカナ語を使いたがる人」……こうした「外から見てちょっと痛々しい」とされる「意識高い系」と揶揄される若者が増えてきたといわれる。『「意識高い系」の研究』(古谷経衡著、文春新書)の著者は、自らを典型的な「意識高い系」であると分析した上で、そうした若者が可視化されるようになった背景にせまる。
 本書では、「意識高い系」と混同されがちな「リア充」(リアル=現実の生活が充実している状態、その人々)の定義を新たにしている。「リア充」は、著者の定義では「親族から受け継いだ土地に土着し、幼少期からの人間関係を築いて来た人たち」のことで、今現在恋人がいるかどうかや、今現在資産があるかどうかは関係がない。都会でも地方でも、親族から受け継いだ「土地」を持っているかどうか、学校時代に人間関係を有利な地位で築くことができたか、そしてその土地に根付くかどうかが鍵だとしている。「意識高い系」を、土地の所有と社会階層が密着に結びつく日本ならではの現象として読み解くというのも、興味深い観点だ。
 プライドとコンプレックスにとらわれた持たざる者が、「泥臭い苦労」や努力なしに、表面だけ「洗練され」「格好の良い」自分を手に入れ、承認欲求を満たそうとする。虚栄心や自意識の塊である「意識高い系」は、「泥臭さ」や「汗臭い努力」を忌避したり、努力する人々を見下す傾向もある、と指摘する。現代若者論として興味深い。
嫉妬と自己愛/「負の感情」を制した者だけが生き残れる』(佐藤 優著、中公新書ラクレ)は、著者が外交官時代に目撃した政治家や官僚たちの嫉妬にまつわるエピソード、作家となってから付き合った編集者たちが見せる強烈な自己愛などをとりあげ、嫉妬や自己愛という「負の感情」をどう制御し、肥大化させないかのコツを指南する。昨今、「自信がないけどバカにされるのは嫌だ」と考え、自己愛を守るため、勝負を避け「初めから土俵に上がらない」人間が、40歳以下の世代に異常に増殖しているのでは、と指摘する。お金や地位に対する嫉妬心が希薄でありながら、自己愛が肥大していて、「自分が特別な人間である」と強く信じ込む人が組織や社会との軋轢を起こしていることもよく見られるという。
 時代の変化により、そういう人間が増えたと、「理解不能」だ、と投げだしたままでは組織はうまくいかないと、「歪んだ自己愛」が描かれた小説等を題材に対処法を提案している。

ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン著、夏目大訳、光文社新書)は、ロンドン在住のコラムニストが、「ネット炎上」で社会的地位や職を失い悲惨な体験をした人々を取材したルポ。ごく普通の市民がちょっとした悪口や冗談をきっかけに徹底的に叩かれ、社会的に抹殺されてしまう事態が、日本に限らず世界中で起きている。時に「正義感」から起こした「情報拡散」という行動が恐ろしい結果を招くという事例もあり、誰にとっても他人事ではないだろう。
 罪を犯せば罰せられるが、現在では罰を与える事はできるのは公権力だけであり、どの程度の罪ならどの程度の罰になるか、厳密に決められている。ツイッター等では、悪事を見かけると軽重を問わず、一斉に徹底的に「犯人」を叩く事が多い。公権力の刑罰と違い、私人による刑罰、つまり「リンチ」のようなものであり、根拠は自分の気分と周囲の空気だけ。たとえ同じ事をしても「刑罰」の重さが変わる事もある。この恣意性、予測不可能性が何より理不尽で恐ろしい、と訳者もあとがきで記している。

楽しく学べる「知財」入門』(稲穂健市著、講談社現代新書)では、ビジネスや一般社会で生き残るためにいまや必要不可欠となってきている「知財」についての基本的な知識をわかりやすく解説する。本書では主に「模倣」というテーマにしぼり、知的財産権に含まれる各権利(著作権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権など)の違いについて解説する。知的財産権についてはそれぞれの権利が別々に紹介され、論じられることが多い(専門が細分化されている)ため、各権利の違いや組み合わせについて一般向けに書かれることはこれまでなかったのではないか、と著者はいう。
 ここ数年ネットを中心に拡大した「パクリ騒動」を機に、「パクリ」と指摘されることを必要以上に怖れる人や会社も増えているという。しかし、「パクリ」を糾弾する社会風潮は醸成されているが、日本人の知的財産権に関する理解が深まっているとは限らない、と指摘する。明らかな著作権侵害コンテンツが氾濫している一方で、モラル的にも問題のない合法的な「模倣」までが葬り去られるような現状に、著者は危惧をおぼえている。

 人口ボーナス期フィリピンの可能性

フィリピン/急成長する若き「大国」』(井出穣治著、中公新書)によると、フィリピンは、人口が1億人を突破し(2015年8月時点)、国民の平均年齢は25歳と、近隣諸国と比べても圧倒的に若く、生産年齢人口(15~64歳の人口)の総人口に占める比率が増える時期、いわゆる「人口ボーナス」期が2050年ごろまで続くと予想されている。少子高齢社会の筆頭を走る日本からみれば恵まれた人口構成だ。この「人口ボーナス」を生かすことができるかどうか。著者の肩書きはIMFのフィリピン担当として勤務したこともある、現役の日銀職員。世界経済の最前線を知る立場から、フィリピンの魅力と課題を語っている。
 ドゥテルテ政権の誕生以降、日本のテレビや新聞では、「犯罪者は必要であれば殺す」、「米国とは決別する」といった大統領の数々の暴言などが注目されているが、著者は「経済政策をみると、フィリピンが克服すべき課題がしっかりと認識されている」と一定の評価をしている。今後日本とフィリピンの関係がどう変化していくか、かつてフィリピンが「アジアの病人」と呼ばれていた頃のままの日本側の認識を早々に改めるべきとしている。

 一方、人口減が続き「地方消滅/自治体消滅」という言葉に人々が不安を煽られている日本社会だが、少子化問題について国が何も対策をうってこなかったというわけではない。『これが答えだ! 少子化問題』(赤川 学著、ちくま新書)では、四半世紀以上にわたり、巨額の税金を投入してきたはずの少子化対策が、ほとんど何も効果を上げていないのはなぜなのかを検証している。
 本書では、「結婚や出産にインセンティヴを与えれば、若い男女は結婚や出産する確率が高まるはず」というこれまでの常識に対し、さまざまなデータと理論で反論。人口減少を「国家存亡の危機」と過度に煽ったり、少子化対策の「最後のチャンス」などと、強迫的な物言いをしていること自体が、多くの若者に不安感を与え、結婚や出産から遠ざけている、という指摘にはシンプルだが説得力がある。

 子育て支援の目的は「出生率の増加」や「経済成長」だけにあるのではない。子育て支援政策の費用対効果について別の観点から論じているのが『子育て支援と経済成長』(柴田 悠著、朝日新書)。子育て支援策を「保育サービス」の拡充だけととらえると、保育サービスを受ける人と必要としていない人(子どもを持たない人など)との間で分断が生じる。子育て支援(主に保育サービス)の副次的な効果は、労働環境の改善、子どもの貧困や自殺の防止、公共事業の拡充など、幅広い層に届くことになる、という点について、データをもとに説得力のある政策を提案するべきとうったえる。

 日本の「奨学金」が社会保障・年金を崩壊させる

 若者の将来に不安をもたらしているのが、「奨学金」利用の急増が引き起こしているさまざまな問題。『奨学金が日本を滅ぼす』(大内裕和著、朝日新書)では、「大学はレジャーランド」と言われた時代の記憶で止まっている多くの大人たちに、「ワーキングプアランド」と化した現在の大学、大学生の過酷な現実を知らしめる。大学新卒時に、「奨学金」という名目の数百万もの借金返済を抱えていたら、結婚や子育てをためらったりあきらめたりする人が増えるのも当然だ。日本の奨学金問題の根本には、学費の高騰、親世代の所得減少、若者の雇用の劣化など、「自己責任論」ではもう解決できない課題があり、これらを放置しておくことはいずれ、年金など社会保障制度の崩壊にもつながると警告する。「生まれながらの格差・差別」をなくすためにも、給付型奨学金の拡充、大学授業料の引き下げの実現を求めている。

貧困と地域/あいりん地区から見る高齢化と孤立死』(白波瀬達也著、中公新書)あいりん地区とは、大阪市西成区の北東部に位置し、「日雇労働者の町」として知られている地域。本書は、この地区がどのような経緯で「誕生」したかという歴史的背景を振り返り、治安、労働、福祉、医療等、貧困を特定地域に囲い込むさまざまな行政の対策とその現状を論じている。
 著者は「格差社会」という言葉が注目され始めた2003年以来、ホームレス問題の調査・研究と、支援事業の両面からこの地域に関わり、貧困の地域集中がもたらした多くの課題とその対策を追ってきたという。劣悪な住環境、社会的孤立と孤立死など、この地域がいま直面している課題を、日本社会のどこでも直面する課題として受け止めてほしいとしている。

セックスと超高齢社会』(坂爪真吾著、NHK出版新書)の著者は、「障害者と性」の問題解決に取り組むなど、これまで「なかったこと」と蓋をされてきたテーマに切り込んできた。本書では、子どもや若者世代の性の問題と比較して「重要度や緊急度が低い」とされ、長寿大国と言われながらもほとんど置き去りにされている高齢者の性に関する問題に正面から向き合い、社会的支援の必要な対象として検討する。介護現場での要介護や認知症の高齢者の性的問題行動、セクハラや性暴力の実態など、厳しい現実にもふれている。

 2011年の東日本大震災から6年。今回、震災や原発事故関連として紹介できる新書は『天災と日本人/地震・洪水・噴火の民俗学』(畑中章宏著、ちくま新書)と『あなたの隣の放射能汚染ゴミ』(まさの あつこ著、集英社新書)とほぼ2点のみである。震災から5年の節目を迎えた後から急激に関連書の刊行が減ったと感じていたが、ここまで激減するとは驚きである。

(編集部 湯原葉子)

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『「意識高い系」の研究』
古谷経衡著
(文春新書)

『嫉妬と自己愛/「負の感情」を制した者だけが生き残れる』
佐藤 優著
(中公新書ラクレ) (文春新書)

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』
ジョン・ロンソン著、夏目大訳
(光文社新書)

『楽しく学べる「知財」入門』
稲穂健市著
(講談社現代新書)

『フィリピン/急成長する若き「大国」』
井出穣治著
(中公新書)

『これが答えだ! 少子化問題』
赤川 学著
(ちくま新書)

『子育て支援と経済成長』
柴田 悠著
(朝日新書)

『奨学金が日本を滅ぼす』
大内裕和著
(朝日新書)

『貧困と地域/あいりん地区から見る高齢化と孤立死』
白波瀬達也著
(中公新書)

『セックスと超高齢社会/「老後の性」と向き合う』
坂爪真吾著
(NHK出版新書)

『天災と日本人/地震・洪水・噴火の民俗学』
畑中章宏著
(ちくま新書)

『あなたの隣の放射能汚染ゴミ』
まさの あつこ著
(集英社新書)

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