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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2017年10月刊行から 編集部

NEW

17/11/15

「宗教」とは何かという「古くて新しい問い」

聖書、コーラン、仏典/原典から宗教の本質をさぐる』(中村圭志著、中公新書)は、タイトル通り、それぞれの宗教の教えの原点である「教典」がどのように生まれ、受け継がれてきたかをテーマにしている。キリスト教、イスラム教、仏教、神道など「教典」の共通点と差異について解説していく。
 宗教学者である著者は、教典のダイジェスト版ともいうべき祈りや念仏、題目について、何が書かれているかをざっとでも知ることは、各宗教の教えの要点や特徴を知るうえでも便利なやり方ではないか、としている。現代世界の宗教文化について、基礎的な理解をするうえでも重要な視点となっている。

イスラーム思想を読みとく』(松山洋平著、ちくま新書)は、日本人の多くが「理解が難しい」と感じているイスラームについて、本質的な理解に近づくための一冊。
 例えば、イスラームの「穏健派」と「過激派」と呼ばれる人たちの宗教的対立について、私たちはどう理解したらよいか。「暴力を否定し、平和を愛する多数派のムスリム=イスラーム穏健派」「クルアーンの教えを誤って解釈した、少数派のテロリスト=イスラーム過激派」のように言葉のイメージだけで漠然と考えていては理解できない、両派の宗教的争点について解説していく。

 世界中が「宗教とは何か」という古くて新しい問題を突きつけられるようになりつつある今、「キリスト教」と呼ばれているものの原点を振り返る試みが『キリスト教は「宗教」ではない/自由・平等・博愛の起源と普遍化への系譜』(竹下節子著、中公新書ラクレ)である。
 著者の住むフランスでは、仏教について「宗教ではなく哲学であり、イズム(生き方マニュアル)だ」ととらえている人が多いという。政教分離が徹底しているフランスだが、共和国主義の根幹に「自由・博愛・平等」というキリスト教ルーツのエッセンスを捨てずにいる。さまざまな闘争と過ちを繰り返すことになった「宗教」としてのキリスト教から、普遍性をもつ「イズム」としてのキリスト教本来の教えに戻る動きを、世界史を振り返りながら検討している。

世界のタブー』(阿門 禮著、集英社新書)では、国際化が進む今こそ、挨拶や日常生活、しぐさ、食事などにおける世界各地のさまざまなタブーを「教養」として学んでおくことが必要だとうったえる。
 特に、現代ヨーロッパ最大のタブーとして知られる「ナチス」については、「知らなかった」ではすまされないこともある。ドイツ、オーストリアなどの国では、「ナチス時代の旗、マーク、制服、敬礼姿勢、歌、挨拶、言い回し」などを公の場で持ち出すことを法律で禁止している。日本のアイドルグループが着ていた衣装が、「ナチス・ドイツの制服に酷似している」として海外で批判の声が集まったことも記憶に新しい。
 ナチス・ドイツについてここまで厳しい目が向けられている一方で、ナチスの思想に傾倒する人々が増えていることにもふれている。近年、移民の流入に反発する極右の政治家らによって、これまで長い間暗黙のうちにタブーとされてきたナチス時代の単語や言い回しが使用されるようになってきている、という懸念の声も紹介している。

女性権力者と「祈り」

 平成28年8月、天皇はビデオメッセージの形で「生前退位」を望む「おことば」を述べた。「おことば」の中で、またそれ以前から、自身の葬儀や埋葬に関して「御陵は簡素にし、火葬を望む」という希望を表明されていた。天皇の葬儀と埋葬の詳細について、生前に語られることはこれまでにないことだという。
天皇家のお葬式』(大角 修著、講談社現代新書)では、明治・大正・昭和の三代に重点をおきながら、古代から現代に至る天皇の葬儀の変遷をたどる。特に、戦後憲法との整合性から、国家行事と宗教的儀式をどう切り離すか、苦肉の策によりさまざまな工夫が行われた昭和天皇の大喪を振り返っておくことは重要だろう。著者は「天皇の葬儀の形が変化するときは、時代そのものが大きく変化している」という。

〈女帝〉の日本史』(原武史著、NHK出版新書)では、著者は、女性天皇や皇后、皇太后、将軍の正室や母など、古代から近代までの「女性権力者=〈女帝〉」を通してみた日本史について、中国や朝鮮の例と比較しながら論じている。
 著者は、東アジアの中で比較しても日本で女性の政治参加が進まない現状についてもふれている。近代以降には、女性の権力を「母性」や「祈り」に矮小化してしまう傾向があるという。その結果、女性を権力から遠ざけるという影響を及ぼしているのではないか。著者はそう危惧している。
 その最も象徴的な存在として皇后美智子が示すような「良妻賢母的で国民に温かい慈愛を注ぐ母としての女性像」が今も広く称賛され続けるということは、国民は皇后や女性権力者に「母」を求めているのではないかと指摘している。

光明皇后/平城京にかけた夢と祈り』(瀧浪貞子著、中公新書)は、「慈悲深い信仰心の篤い女性」というイメージと、悪評高い「稀代の女傑」という真逆のイメージでとらえられている光明皇后(光明子)に光をあてている。光明子は病人に薬を与える施薬院や貧しい人々を救う悲田院を建てるなどの慈善活動をしたことでもよく知られている。度重なる肉親の死がどのような影響を与えたのかということに着目し、その実像に迫ろうとする。

出羽三山/山岳信仰の歴史を歩く』(岩鼻通明著、岩波新書)は、信仰の山として名高い出羽三山(羽黒山・月山・湯殿山)の長い歴史と伝統文化を紹介している。明治維新の際の神仏分離以降、同じ山で仏教、神道に分かれて儀礼や行事が行われる所も多い。信仰の山として広く支えられて来た山は、外国人観光客をはじめとする新たな来訪者の掘り起こしをはかるために変化しつつあるが、女人禁制の場所も一部残っている。大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』にも、そのストーリーに山岳信仰が大きく関わっているという著者の指摘は興味深い。

変わる家族像と戸籍制度の限界

 何らかの事情で出生届が出されないままとなっている「無戸籍児・者」が司法統計から推計して少なくとも1万人はいると言われ、新聞報道などでも話題になった。女性の再婚禁止期間や、貧困などで出生届が出されないことなどが原因にあるという。国は多くの無戸籍者の存在を確認していながら、十分な対策をとっていない。
 2016年から2017年にかけ、蓮舫議員の「国籍開示」問題でも「戸籍」がこれまでにないほどクローズアップされることになった。住民票、マイナンバー制度との整合性から、その制度疲労が明らかになりつつあるにも関わらず、戸籍を廃止できないのはなぜなのか。『日本の無戸籍者』(井戸まさえ著、岩波新書)では、天皇制も含め、戸籍制度が現在まで抱える問題やその矛盾点について、明治憲法から新憲法になり、戸籍制度の何が変わって何が変わらなかったかについて解説している。戸籍の変遷を語る際に避けては通れない差別の問題についてもふれている。
 著者自身、離婚後300日以内に前夫を父親としない子供を授かったことで、我が子を(一時的とはいえ)無戸籍児とせざるを得ない状況になったという。新憲法のもと、民法が改正されて70年経つ今も、戸籍制度に残るほころびを明らかにしていく。さまざまな理由で制度からはじかれる「無戸籍者」を生むような戸籍制度のほころび、「バグ」は、日本社会に根強く残る「身内意識」を維持し、見せしめ的な役割を果たすために、あえて放置しているのではないか。著者はそう見ている。

料理は女の義務ですか』(阿古真理著、新潮新書)では、社会に進出する機会が増え多忙になった現代の日本女性が、家事を負担に感じながらも「家族のため」に料理をやめないのはなぜか、という問いに始まる。著者は家庭料理や暮らし、女性の生き方をテーマに執筆活動を続けている。
 年々クオリティがあがる外食・中食(総菜や持ち帰り弁当など)産業、進化を続ける加工食品、食材と調味料、レシピがセットで宅配されるミールキットの開発などにより、家庭料理の負担は減ると思われたが、実際はそうではないことも多い。料理研究家が提案するレシピの数々、SNSに投稿される自慢の料理など、日々の食事の選択肢や食に関する情報は増えていく一方だが、毎日続く料理に疲れや負担、理想の料理と現実とのギャップを感じる人は多い。味、栄養バランス、経済効率、そして家族への「愛情」。日々の「家庭料理」に求めすぎてきたものを、そろそろリセットすべき時ではないか、としている。

底辺への競争/格差放置社会ニッポンの末路』(山田昌弘著、朝日新書)の著者は、20年ほど前の「パラサイト・シングル」という流行語の名付け親。親世代と同じような中流生活を維持できるかどうか。いま、「下流」に転落しないための過酷な競争がどの世代にも起きていると感じているという。
 あえて結婚を先延ばしにして親と同居(パラサイト)したままでいることで「リッチな独身生活」を謳歌していた20年前の若者「パラサイト・シングル」たち。アラフォー世代となった彼らはいまどうなっているか。著者の予想をはるかに上回るほど非正規雇用の割合が増え、結婚できない、親から自立できないどころか親の年金を頼りに暮らしている「中年パラサイト・シングル」が増え、その状況はますます深刻になってきている。
 多くの人々が中流から転落するのでは、という不安を抱えたまま一生を送る社会ではなく、社会保障への「負担増」を将来の「安心が増える」ためのものとして、国民に納得してもらい、そのための新しい方策をとるべきではないかとうったえる。

(編集部 湯原葉子)

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『聖書、コーラン、仏典/原典から宗教の本質をさぐる』
中村圭志著
(中公新書)

『イスラーム思想を読みとく』
松山洋平著
(ちくま新書)

『キリスト教は「宗教」ではない/自由・平等・博愛の起源と普遍化への系譜』
竹下節子著
(中公新書ラクレ)

『世界のタブー』
阿門 禮著
(集英社新書)

『天皇家のお葬式』
大角 修著
(講談社現代新書)

『〈女帝〉の日本史』
原武史著
(NHK出版新書)

『光明皇后/平城京にかけた夢と祈り』
瀧浪貞子著
(中公新書)

『出羽三山/山岳信仰の歴史を歩く』
岩鼻通明著
(岩波新書)

『日本の無戸籍者』
井戸まさえ著
(岩波新書)

『料理は女の義務ですか』
阿古真理著
(新潮新書)

『底辺への競争/格差放置社会ニッポンの末路』
山田昌弘著
(朝日新書)

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