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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2019年4月刊行から 編集部

NEW

19/05/15

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という呪縛

「令和」の時代が幕を開けた。ここ数ヵ月、平成を回顧した新書が続々と刊行され、その動きはしばらく続きそうだが、今月はバブル崩壊後の日本経済について書かれたものに注目する。

平成金融史/バブル崩壊からアベノミクスまで』(西野智彦著、中公新書)は、30年余りに及ぶ平成の金融動乱について、「失敗と実験」の連続だった、と振り返る。バブルに対する認識の遅れ、その遅れが問題の先送りと対策の後追いを招いた。そのころの当局者たちは、後にバブルと呼ばれる株価や地価の急上昇への危機感が薄く、歴史上何度も繰り返されてきた「バブルは必ず大暴落する」という「最悪の事態」をイメージできなかった上、「問題を先送りした」という自覚を驚くほど持っていなかったという。
 では、仮に事態の深刻さを早めに把握できたとしたら、公的資金の投入について国民の支持を得られただろうか?という問題にたどりつく。政府、当時の大蔵省、日銀それぞれが「金融恐慌」が起きた場合の混乱をおそれ、不良債権処理への財政資金投入を躊躇している間に巨額の金融スキャンダルが露呈している。
 その後現代まで長引くデフレにより雇用環境が激変し、格差が広がり、寛容さを失っている社会。著者は、すべての遠因が「バブル」にあるとし、平成の金融政策失敗の検証を続けるために、政治家や金融当局の関係者からの証言や記録を残している。

バブル経済事件の深層』(奥山俊宏; 村山治著、岩波新書)は、バブル崩壊の経緯とその教訓を記録にとどめたい、とする二人の新聞記者による共著。バブル崩壊への対処を誤り、それを長引かせたことが現代日本に深刻な悪影響を与えているとして、バブル崩壊の時代を代表する4つの未曾有の経済事件を再検証する。
 大阪の料亭女将が日本興業銀行などを騙して2500億円もの巨額融資を「騙し取った」とされる事件は、株取引の知識が皆無な素人に対し、莫大な損害しか生まない巨額の土地購入や株取引を勧めていたことで、興銀の責任も追及されている。
 崩壊を始めたバブルに当事者たちはどう向き合っていたか。時と共に記録の廃棄が進み、記憶も薄れ、当然ながら、取材が可能な関係者の多くは鬼籍に入り取材も困難になりつつある。一方で、事件の時効により「いまだから言える」と得られた新証言もあるという。

「日本はもはや先進国とは言えない、衰弱する国である」と警告するのが『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)の著者金子 勝氏。バブルの頂点だった時代「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と褒めそやされ、おごり高ぶっていた日本だが、その後今に至る30年で日本の産業競争力は決定的に落ちてしまった。「失われた30年」の実態とは何か。バブル崩壊後の不良債権処理問題でも、2011年の福島第一原発事故でも、経営者も監督官庁も政治家も責任をとらず、当面もたせればいいというだけの政策をずるずると続けてきた。責任を回避し、未来のリスクから目をそらし、ツケの先送りを続け、当面目先だけもたせればいいという心象を定着させた。
 日本経済が直面する課題から目をそらさず、新しい産業構造への転換と格差の是正を同時に達成しなければならない、と主張し、「ポスト平成時代」を切り拓くための6つの提言をおこなう。

1979年の奇跡:ガンダム、YMO、村上春樹』(南 信長著、文春新書)によれば、ちょうど40年前の1979年は、『機動戦士ガンダム』放映開始、YMO『テクノポリス』リリース、ソニー「ウォークマン」発売、村上春樹デビュー、などすべてこの年に起きた、「日本のポップカルチャーのカンブリア爆発」ともいうべき、画期的な年だったという。
 1969年の安田講堂事件から10年後、昭和が終わる10年前のこの年、社会背景に何があったのか。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(エズラ F.ヴォーゲル著)がベストセラー第7位だったのもこの年である。実はこの本は副題に「アメリカへの教訓」とあるとおり、アメリカ人に向けて書かれたものであり、著者のF.ヴォーゲル氏はその中で、【日本に現在要求されるのは「国際化」という意味をもう一度考え直し、国際的視野をもつ政治家を育てあげることである】とも警告している。
 警告の内容よりも、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」というフレーズだけがその後ずっと一人歩きし、多くの日本人がその言葉に酔いしれ、バブルを引き起こしたのは皮肉というほかない。40年前の警告が現在日本の状況にもそのまま通用することにも驚く。もはや「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とは誰も言ってくれないので、自分たちで「日本スゴイ」と言って、失われた自信の穴埋めをしているのかもしれない、と本書の著者は指摘する。

天皇の「おことば」をどう受け止めたか

「平成の天皇」論』(伊藤智永著、講談社現代新書)では、202年ぶりという、天皇生前退位は、現代日本にとってどういう意味をもつのか、という点に新聞記者の著者が着目する。2016年8月に表明された事実上の退位表明、「象徴としてのお務めについてのおことば」で語られたメッセージとは何か。
「高齢なので疲れたため辞めたい」というのではなく、象徴天皇制を継承していくには、いま自分が次の天皇にバトンタッチする必要があると考えたからではないか、と指摘する。象徴天皇制は、天皇と国民、両者の協力なしにはあり得ない。国民に対して、「天皇制とは何なのか?象徴天皇制を継承していく覚悟はあるのか?」と平成の天皇が問いかけたのが、あの「おことば」なのではないか、としている。おことばの公表後、政界は退位を認めるべきか、法的にどう対処するべきかという議論は続けたが、その問いの本質に正面から向き合うことを避けた、と指摘する。

感情天皇論』(大塚英志著、ちくま新書)では、「平成の天皇」による象徴天皇としてのありかたを「感情労働」のようなもの、と定義した。私たちは、平成の象徴天皇に何を求め、どんな姿を望んできたのだろうか。
 皇太子明仁のご成婚パレードで夫妻に石が投げられたことや、平成に入ったのち、皇后美智子に対してのバッシングが一斉に起き、「失声病」にまでなったことを、忘れている人も多いかもしれない。その後、バッシングの標的が入れ替わったかのように雅子皇太子妃に集中し、「適応障害」となったのは周知の通りである。天皇や皇后その人の「個」は尊重しないまま、高い理想像を要求する人々は象徴天皇制をどう考えているのだろうか。平成に形作られた象徴天皇と、これから模索されていくべき新しい時代の象徴天皇について考察する。

昭和天皇 最後の侍従日記』(小林忍+共同通信取材班著、文春新書)は、昭和49年から15年間にわたり昭和天皇に侍従として仕え、その後香淳皇后に仕えた故・小林忍氏が27年間にわたり手帳に綴ったメモがもとにされている。平成26年、宮内庁による『昭和天皇実録』が完成しているが、この「小林日記」は、その刊行後、遺族により新たに発見されたものであり、貴重な「一次史料」だという。晩年まで戦争責任について苦悩していた昭和天皇のふともらした言葉、昭和天皇の容態が悪化し、いよいよ近づく「昭和の終わり」を小林氏が感じている様子などが記されている。
 昭和から平成への代替わり後や、天皇陛下とその周囲の人々の行動を、皇太后の侍従という、一歩離れた立場で見守り、時に鋭く批判の目を向けているところまでありありと記されている。平成から令和へという代替わりの今読んでみると実に興味深い。

アジア、ヨーロッパ、アメリカの近現代史

 従来の世界史解説では、アジア地域の歴史は東アジア、東南アジア、南アジア、と地域別に語られることが多い。『アジア近現代史/「世界史の誕生」以後の800年』(岩崎育夫著、中公新書)では、アジアの歴史を地域別、国別に語るのではなく、一体のものとしてとらえようという試み。本書ではアジア地域の歴史を約800年前、各地域の土着国家の盛衰とモンゴル帝国誕生のあたりから概観する。
 西洋諸国の進出、日本による占領支配、第二次世界大戦後の独立などを解説する。アジア域内の交流がどう行われてきたのか、西欧を中心とした「外部勢力」の影響がどのように起きていたのかを整理し、現代に至る各国の状況を理解する。

 イギリスのEU離脱など混乱にいたる現在のヨーロッパを読み解くのが『ヨーロッパ現代史』(松尾秀哉著、ちくま新書)。本書では、現在のヨーロッパが抱える問題を理解するためのスタート地点を、第二次世界大戦の反省から「和解」の道を歩むために各国で「完全雇用をめざし、社会保障を発達させた」福祉国家体制が成立したところにおいている。西欧の福祉国家は、社会的弱者への配慮を欠いてはならない、という強い理念と、累進制の高い税制、労使双方の妥協などにより成り立っていた。
 福祉国家からの「救済」からこぼれ落ちた層の不満は、どのような形で噴出したか。石油危機、冷戦の終結、グローバル化による過酷な経済競争を経て、現在のヨーロッパの人々が政治不信に陥った経緯を、各国の政治状況とともに検討していく。人々が「自分が勝つこと」だけに執着し、過酷な経済競争に疲れて他者を配慮する余裕がない現状で、差別を助長するような発言をする政治家が「強い」と求められるようになったのも、理解できないことはない。

 食に関しては後進国のように思われがちなアメリカだが、決してそうではないというのが『食の実験場アメリカ/ファーストフード帝国のゆくえ』(鈴木透著、中公新書)。アメリカの食は、直接のルーツであるイギリスだけではなく、西洋・非西洋の食文化や移民の食文化の伝統を取り入れつつ、想像以上に複雑な変化を遂げて築き上げられたものだ、ということを論じ、食からアメリカ社会の変遷を振り返る。
 効率重視のファーストフードは一方で、肥満など健康面の弊害についてもよく知られるようになってきた。アメリカ経済で大きな力を持つ巨大ファーストフード業界だが、工場で安い労働力を酷使し、格差を拡大させる負の側面も大きい。効率優先の画一的な食生活からの脱却、格差社会からの脱却に、食から農業、そして社会を変えていこうとする動きが見え始めているという。自由な発想で創作される「スシロール」や、穀物、豆や豆腐など植物性タンパク質、野菜・果物を組み合わせて盛り合わせる菜食主義者に人気の「ブッダボウル」など、「ヘルシー、エスニック」というキーワードで人気を集める、アメリカならではの創作料理の魅力も紹介する。

地方分権改革の「光と影」

日本の地方政府/1700自治体の実態と課題』(曽我謙悟著、中公新書)は、私たちの社会や経済にとって大きなウェイトを占め、日常生活にも大きく影響を及ぼす「地方政府」の実態について改めて検討するものである。都道府県が47、市が790、町村が745、合計1700を超える「地方政府」がある。
 日本の都道府県と市町村について、「地方自治体」「地方公共団体」という言葉が用いられているが、著者はタイトルをはじめ本書で一貫してあえて「地方政府」というあまり耳慣れない言葉を使用している。私たちは、地方においては国が策定した政策を実施するのみの存在にあると、無意識のうちに考えているのではないか、と指摘し、改めてその「政治的」役割について考察する。90年代以降続けられてきた地方分権改革により、「地方政府」の権限と中央政府(国)との関係がどう変化したか、改革の負の側面は何だったかを論じている。

宅地崩壊/なぜ都市で土砂災害が起こるのか』(釜井俊孝著、NHK出版新書)の著者は地質学(理学)と地盤工学(工学)の両面から地すべりのメカニズムを研究してきたスペシャリスト。昨今、毎年のように異常な豪雨が日本の各地で発生し、地すべりや土砂崩れによる甚大な被害が繰り返されている。「想定外」の豪雨や地震によるこうした「宅地被害」は自然災害だと思われがちだが、決してそうではない、ということを本書では明らかにしていく。
 高度経済成長期、丘の尾根をブルドーザーで削り、その土砂で谷を埋める、という大規模な宅地造成が行われてきた。こうした盛土による宅地開発で地すべりが発生する危険性は当時も何人もの学者により指摘されていたが、日本列島改造ブームへ続く好景気のなか、そうした声はかき消され、忘れ去られてしまっていた。昭和の遺産ともいえる強引な宅地開発のひずみが、今後も地震や豪雨などをきっかけに、地すべりや土砂災害の甚大な被害を起こす危険性を想定しておくべきだとうったえる。
 これまでの地すべり対策工事は多くの斜面を「鉄とコンクリート」で覆うようなハード対策が中心だった。今後は、災害リスクの高い地域の居住を制限するような法律を全国レベルで作ることが必要となるのではないか、と提案する。

 日本の仏教は「葬式仏教」と揶揄されてきた。しかし、昨今では、葬儀や墓の簡素化が進み、故郷から離れて暮らす檀家が墓の継承をやめる「墓じまい」という動きも顕著になってきている。このままでは「葬式仏教」どころではなく、寺院の消滅、仏教そのものの衰退も避けられない。
ともに生きる仏教/お寺の社会活動最前線』(大谷栄一編集、ちくま新書)は、公共空間の場としての可能性を感じさせる、「仏教の社会活動」をレポートする。いま、「葬式」に頼らず、地域に開かれた活動がさかんな寺が注目を集めている。文化活動、貧困対策、子育て支援、災害被災地の支援など、さまざまなニーズに目を向けた活動を紹介する。お寺、すなわち「宗教(あるいは宗教団体)の社会貢献活動」が必要とされる、現代日本社会の抱える課題についても考えさせられる。

(編集部 湯原葉子)

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『平成金融史/バブル崩壊からアベノミクスまで』
西野智彦著
(中公新書)

『バブル経済事件の深層』
奥山俊宏; 村山治著
(岩波新書)

『平成経済 衰退の本質』
金子 勝著
(岩波新書)

『1979年の奇跡:ガンダム、YMO、村上春樹』
南 信長著
(文春新書)

『「平成の天皇」論』
伊藤智永著
(講談社現代新書)

『感情天皇論』
大塚英志著
(ちくま新書)

『昭和天皇 最後の侍従日記』
小林忍+共同通信取材班著
(文春新書)

『アジア近現代史/「世界史の誕生」以後の800年』
岩崎育夫著
(中公新書)

『ヨーロッパ現代史』
松尾秀哉著
(ちくま新書)

『食の実験場アメリカ/ファーストフード帝国のゆくえ』
鈴木透著
(中公新書)

『日本の地方政府/1700自治体の実態と課題』
曽我謙悟著
(中公新書)

『宅地崩壊/なぜ都市で土砂災害が起こるのか』
釜井俊孝著
(NHK出版新書)

『ともに生きる仏教/お寺の社会活動最前線』
大谷栄一編集
(ちくま新書)

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