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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2018年10月刊行から 編集部

NEW

18/11/15

ヒスパニック系だけではない「不法移民」

 トランプ政権発足以来、不法移民対策や難民規制のための大統領令が次々と発令され、「移民国家アメリカ」が揺らいでいる、と言われる。『移民国家アメリカの歴史』(貴堂嘉之著、岩波新書)では、そもそも「移民国家とは?」という原点に戻り、アメリカの歴史を移民から読み解く。本書で著者は特に「「包括」と「排除」の両方の歴史をもつ」、日系人を含むアジア系移民に着目している。戦後のアジア系移民は、全体としてはそれまでの偏見を克服し、社会的成功を勝ち取った成功者も多い。高収入、高学歴の代表格日系人はその象徴としてとらえられることも多かったが、その模範的存在が、他のマイノリティの過激な要求を退けるために利用された面もあったことを無視してはならない、と指摘する。
 もちろんアジア系アメリカ人のすべてが成功者というのには無理がある。「不法移民」はヒスパニック系だけではなく、その1割ほどはアジア系が占めている事実をまずは確認しておくべきだ、と著者は記している。

 読売新聞ロサンゼルス特派員による『ルポ 不法移民とトランプの闘い/1100万人が潜む見えないアメリカ』(田原徳容著、光文社新書)は、現在のアメリカのルポ。トランプ大統領の就任後、強制送還、入国制限の実施で「不法移民」に対する圧力が強まっている。非人道的であるとして国際的に大きな批判を集めるトランプ大統領の言動だが、「不法滞在外国人」への対応ならば当然なのでは?と思う人も中にはいるのではないだろうか。
 著者は、南のメキシコ国境、北のカナダ国境を取材し、そこに集まる人々の声を聞き取る。日系人強制収容の悲劇の歴史が、75年目の今どう語り継がれているか。著者は毎年行われている強制収容所跡地を「巡礼」する旅にも今年同行し、強制収容を体験した91歳の声も記録している。トランプの大統領令を「75年前の歴史の再来」と警戒し、差別的対応を改めさせようという声の中心に、多くの日系アメリカ人たちがいることを示唆している。

限界の現代史/イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序』(内藤正典著、集英社新書)は、第二次世界大戦後、かろうじて世界を安定させてきたシステムと秩序の「限界」が来ている現状を、歴史と地理の両面から解説していく。EUも国民国家も、国連も、そのシステムが限界を迎え、現実の課題に対応できなくなっている。オランダ、フランス、ドイツ、イギリス、各国のそれぞれの難民・移民政策に関してその欺瞞的な対応を批判している。その上で、日本の難民受け入れは「話にならないほど貧弱」というのが現実だという。難民受け入れどころか、正当な労働者としての移民受け入れも拒んできた日本だが、少子高齢化が止まらないなか、外国人労働力がなければ国が成り立たなくなるという現実も見えてきている。そこで、安倍政権はこれまでの「移民は受け入れない」という方針を切り替え、外国人労働者の導入に関するあらたな方針を発表した。著者はこの政策は大いに問題があると批判する。安倍政権は、有期雇用の外国人労働者は受け入れるが、家族の帯同と定住が前提の「移民」は拒否する、としている。このような日本の政策は、諸外国からみれば基本的人権を認めない身勝手な政策だと受け止められる、と指摘する。これまでにない規模で国境を越えて膨大な数の人が移動しているなか、日本が、「日本経済のことだけを考え、日本は(血統主義だけに固執した)日本人だけの国でいたい」というやり方では国際的に孤立することは避けられない、としている。

外国人が見た日本、日本人の自意識

秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』(J・ウォーリー・ヒギンズ著、光文社新書)は、新書サイズではもったいないほどの、贅沢で濃密な写真集である。著者ウォーリー氏は1927年生まれのアメリカ人で、鉄道写真家として「鉄道ファン」の間では有名人の、いわば“元祖「撮り鉄」”。駐留米軍軍属として来日後は、国鉄の国際部門に所属し、90代の今なお現役でJR東日本の顧問を務めているという。
 ここにまとめられた昭和30年代の382枚の写真は、全国津々浦々で撮影された6000枚以上の写真から選りすぐられたもの。当時としてはたいへんに贅沢品だったため日本ではほとんど使われていなかったカラーフィルムで色鮮やかに残されている。友人の影響で興味をもつようになったという路面電車や、当時まだかろうじて現役だった蒸気機関車に夢中になる、著者自身の影も見え隠れするようだ。建築途中の東京タワー、導入間もないモノレール、試験走行する東海道新幹線といった都会の風景と、荷馬車、馬橇が働き手として活躍する地方の風景との対比も興味深い。

外国人が見た日本/「誤解」と「再発見」の観光150年史』(内田宗治著、中公新書)は、明治から現代まで、外国人観光客が見てきたもの、日本人が見せようとしてきたものの変遷をたどる。
 日本の魅力とは何か、外国人観光客は何を求めて日本にやってくるのか。日本人にとっては「なぜそこが?」と意外に思うほど知られていないような場所にも、外国人に人気のスポットがあることを紹介し、現在の観光の状況やその課題点にもふれていく。外国人旅行者が求めているのは、日本人が考えるような「おもてなし」とは違う点も多いことを再確認することがまず必要だとうったえている。国民性や年齢層により好みやニーズは異なるため、外国人観光客向けのマーケティングは簡単ではないが、マーケティングとPRとの差異を明確にし、的外れなPRにより無駄に終わることがないよう、戦略的な政策が不可欠だとうったえる。
 観光産業が発展する一方で、受け入れるためのキャパシティには限界があり、渋滞の発生やゴミの放置、騒音など地域住民の生活に支障が出る「観光公害」と呼ばれる問題も起きている。災害時の対策、テロや伝染病流行のリスクなど負の面もしっかりと見据えた上で、訪日旅行者が増えている今のうちに、観光公害対策に予算をかけ対策を施すことが急務ではないか、と論じている。日本人側の一方的な思い込みによる「おもてなし」のおしつけでは観光先進国にはなれない、としている。

「武国」日本/自国意識とその罠』(佐伯真一著、平凡社新書)は、自分たちは「サムライの国」である、という自意識について検討している。現代の私たちは、日本人を「平和的で、穏健な、おとなしい国である」と感じている人が多いのではないかという。その一方で、男子サッカーの代表チームを「サムライ・ブルー」と呼ぶように、戦国時代や江戸時代の武士を描く大河ドラマが人気を集めるように、「サムライ」の国という自意識も持っている。平和的で穏健なイメージと、闘う武士のイメージ。自己像はなぜねじれているのだろうか。私たちが「伝統」と思っているものは、古来の伝統なのだろうか。自国意識はどう育てられてきたのか、という変遷をたどっていく。

懸念される健康格差の拡大

 環境により健康寿命が違う、いわゆる健康格差の拡大が明らかになりつつある。その差は、本人の努力だけでなく、社会環境の影響や、子ども時代の貧困も大きな影響を及ぼしていることもある。『長生きできる町』(近藤克則著、角川新書)の著者は医師。予防医学の視点から、健康格差を拡大させないために必要なまちづくり、「暮らしているだけで長生きできるまち」の実現に向け、さまざまな対策を提唱する。本書には、「都道府県別健康で長生きできる(健康寿命)ランキング」や都道府県別の「がん」「心疾患」「脳血管」の死亡率ランキングが掲載され、なかなかショッキングだ。例えば男性の健康寿命1位の山梨県と、最下位の秋田県では2歳も差がついている。認知症リスクについても、住んでいる環境で格差が出ていることが示されている。食生活の改善や手軽な運動を取り組む機会を提供するなど、課題を「見える化」し役立てている取り組みについて、地域ぐるみで行われている実例とその効果を紹介している。

 超高齢社会に向け、健康長寿を延ばすために老若男女誰もが手軽に取り組めるのが「歩く」こと。しかし、足に合わない靴を履いて歩くと、健康寿命を延ばすどころか逆に縮めることにもなりかねない、と警鐘を鳴らすのが『健康長寿は靴で決まる』(かじやますみこ著、文春新書)である。足に合わない靴を長年履いていると、骨格の崩れやひずみが足だけでなく腰や膝、股関節の負担となり、高齢になるにつれ歩行や日常生活にも支障が出てくる。糖尿病を患っている人には、靴擦れをきっかけに足の潰瘍や壊死、下肢切断につながるリスクもある。
 では、自分の足に合う靴をどう選ぶか。著者の足は幅が細く、「幅広靴が足にやさしい」という風潮の日本市場では、ぴったり合う靴を探すのが非常に難しいという。本書で紹介されている体験談からも、日本の現状では、「自分に合ったいい靴」が簡単には手に入らないことがよくわかる。3D計測による足型の計測、在庫をもたないネット販売、特注のソールなどで、個々の足にフィットした靴を、手に届く価格で販売することは不可能ではないはず。大量に製造して安く売る(多くは破棄される)という、これまでの靴業界のビジネスも大きく変えていく時代なのでは、としている。また、サイズもきちんと測らず「ゆったりしてラクな靴」を買ってすます、という消費者の意識も変えていく時代にきているのではとしている。

ビンボーでも楽しい定年後』(森永卓郎著、中公新書ラクレ)の著者は、昨年還暦を迎えた。中・高校の同級生が一斉に定年を迎える年になると、現役時代と比べ所得格差が一気に拡大しているのを実感しているという。こうした定年後格差が今後一層広がると予想されるなか、「年金の範囲内」で生活する術をどう整えていくか。お金がなくても楽しめる生きがいをどう見つけていくか、具体的な提案をしていく。著者が『年収300万円時代を生き抜く経済学』を刊行してベストセラーになったのは2003年。当時、年収300万円が当たり前になる時代が来る、と信じていた人はどれだけいただろうか。あれから15年、著者の予測はあたるどころか、年収300万円もあれば、「ビンボー」とは見なされない時代に既になっているのである。

100万円で家を買い、週3日働く』(三浦展著、光文社新書)は、さらに若い世代の「お金をかけずに豊かで幸せな生活を実践」しようとする人々の事例。著者は2005年に刊行した『下流社会/新たな階層集団の出現』で、「一億層中流社会」はじきに消滅し、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、いずれもが低い「下流」層が日本でも増えていることをさまざまなデータから示して大きな反響を呼んだ。本書では、モノや土地の所有にこだわらず、地位やカネだけに価値を見出すのではない、新しい層の若者たちの価値観や彼らの生活に目を向けている。他者とのつながりを熱心に求めながら、性的な関心が希薄化しているのも、現代の若者の特徴ではないか、と分析する。

「パパ活」とは?

 毎月刊行される新書のタイトルから、耳にしたことがない「新語」や、今流行しつつある新しい社会現象を知ることも多い。最近の例では、『パパ活の社会学/援助交際、愛人契約と何が違う?』(坂爪真吾著、光文社新書)にある、「パパ活」という言葉である。「パパ活」とは、「若い女性が年上の男性とデートをして、その見返りに金銭的な援助を受けること」だという。多くの人は本書のタイトル通り、「昔流行した、愛人バンクや援助交際と何が違うのか?」と疑問に思うのではないだろうか。
 男性のほうが10歳~20歳ほど年上というように、パパ活を成立させている要因は、男女間の経済格差と精神年齢の格差である。不安定な仕事にしか就けない若年女性のセーフティネットになりうるのか。「父なき時代」に、「パパ」という存在を求める男女それぞれの意見を紹介する。気になるのは、若い男性が経済的援助を行ってくれる年上女性を探し求める活動=「ママ活」はないのか?ということ。著者によれば、「ママ活」というものも存在しなくはないが、圧倒的に母集団が少なく、これから注目される機会もまずないだろう、ということだ。男女間のさまざまな格差を考えると当然かもしれない。

 同じ著者による『「身体を売る彼女たち」の事情/自立と依存の性風俗』(坂爪真吾著、ちくま新書)は、性風俗で働く女性たちの抱える課題と悩みを切り口に、現代の若者たちが広く共通して抱えている問題を明らかにしている。著者は、風俗業界で働く女性たちに向けた、無料の生活相談、法律相談事業にも取り組んでいる。さまざまな事情から「昼間の仕事」に就けない、就かない女性たちだが、生活保護などの社会的支援を受けるよりも、搾取されることの多い「身体を売る」働き方のほうを選ぶ、と言うのはなぜなのか。一見不合理な選択に見えても、「プライベートに踏み込まれたくない」といった、彼女たちなりの合理的な選択の結果によって「生活保護を選ばない」ことが多い、と指摘している。福祉的支援よりも、水商売や風俗店のほうが彼女たちにとっての「居場所」を提供することに成功しているという皮肉な現実が見えてくる。

ペットと葬式/日本人の供養心をさぐる』(鵜飼秀徳著、朝日新書)は、葬儀や墓など、従来のしきたりや形式にとらわれず葬祭が簡素化していく風潮の昨今、一方で盛んになって来ているペット向けの葬祭ビジネスと、それらが求められる背景を分析する。従来、「犬猫(畜生)は人間とは別」と一線を引いて来た仏教界だが、時代の求めに伴いペットの供養についても柔軟に対応しようとしている。ペットの供養のみならず、人形やペットロボット、針などの身近な道具まで、生物でも非生物でも、魂が宿るとされてきたあらゆるものを「供養」してきた日本人独特の文化について考えていく。今、供養と呼ばれているもののほとんどは本来の意味の「供養」というよりは、イベントに過ぎないのではないか、という指摘も興味深い。

(編集部 湯原葉子)

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『移民国家アメリカの歴史』
貴堂嘉之著
(岩波新書)

『ルポ 不法移民とトランプの闘い/1100万人が潜む見えないアメリカ』
田原徳容著
(光文社新書)

『限界の現代史/イスラームが破壊する欺瞞の世界秩序』
内藤正典著
(集英社新書)

『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』
J・ウォーリー・ヒギンズ著
(光文社新書)

『外国人が見た日本/「誤解」と「再発見」の観光150年史』
内田宗治著
(中公新書)

『「武国」日本/自国意識とその罠』
佐伯真一著
(平凡社新書)

『長生きできる町』
近藤克則著
(角川新書)

『健康長寿は靴で決まる』
かじやますみこ著
(文春新書)

『ビンボーでも楽しい定年後』
森永卓郎著
(中公新書ラクレ)

『100万円で家を買い、週3日働く』
三浦展著
(光文社新書)

『パパ活の社会学/援助交際、愛人契約と何が違う?』
坂爪真吾著
(光文社新書)

『「身体を売る彼女たち」の事情/自立と依存の性風俗』
坂爪真吾著
(ちくま新書)

『ペットと葬式/日本人の供養心をさぐる』
鵜飼秀徳著
(朝日新書)

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