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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2018年5月刊行から 編集部

NEW

18/06/15

環境保護と世界経済の動き

EVと自動運転/クルマをどう変えるか』(鶴原吉郎著、岩波新書)は、いま「100年に一度」の大きな転換期を迎えつつある、自動車産業の最前線を紹介する。著者は、この大きな変化のキーワードに、「電動化」「自動化」「コネクテッド化」をあげている。「電動化」とは、EV(電気自動車)に代表されるように、これまでのエンジンからバッテリーで動くモーターへと置き換わっていく動き。「自動化」とは、センサーや人工知能を搭載して、人間のドライバーを必要としない自動運転車への進化の動き。さらに、「コネクテッド化」とは、クルマをインターネットに常時接続させることによって、これまでなかったような機能やサービスを利用できるようにする動き、だという。
 ライフスタイルの変化に伴い、クルマを「所有」することへのこだわりや憧れが減り、「シェア」を好む人が増えれば、クルマはモノではなく「サービス」としての商品と考えることもできる、と著者はいう。クルマの技術革新は、安全性能や環境性能の進化をもたらすだけにとどまらず、人々とクルマの関係を変えていくかもしれない。その変化の最先端を見ている世界の巨大企業(自動車メーカーだけにとどまらない)は何を狙っているのか。自動車産業の現在と未来を読み解く。

 ペットボトルや古紙、そして金属類から古着まで、各種リサイクルは、「環境にやさしい」取り組みだとされ、日本では資源品の分別収集が積極的に行われている。国内で回収された資源品のうち、国内で再使用・再生利用されているのはごく一部で、その多くは海外に輸出されている。古紙や廃プラスチック、鉄スクラップなどの再生資源は、いまや輸出の主力品の一つとして考えられているほどだという。『リサイクルと世界経済/貿易と環境保護は両立できるか』(小島道一著、中公新書)は、現状の「リサイクル」は、「環境にやさしい」どころか、輸出先で環境汚染を生むこともあるという現実をつきつけている。海を越えて遠く運ばれている再生資源や中古品(国際リサイクル)の中には、リサイクルの過程で環境汚染を生じさせたり、中古品の品質が悪く廃棄せざるをえない、などの問題が発生しているという。
 こうしたことで、中古品や有害廃棄物の国際移動には、国際的なルールや規範が作られるようになってきた。これまで世界中から廃プラスチックを輸入してきた中国が、2017年に公害対策のため輸入規制にふみきったことの影響も、これから出てくるだろう。本書では、長く「国際リサイクル」研究に携わり、アジアを中心に現地調査も重ねて来た著者が、国際リサイクルの現状と課題について解説する。環境汚染などの問題を起こさずに、国際リサイクルを進め、資源の再生利用を持続させるために必要なことは何か。結局のところ、「リサイクル」という名の下、ごみを「貧しい人々」に押しつけている面もあるのではないか。いろいろと考えさせられる。

 かつて「貿易立国」モデルで成功した日本が、「復活する」ために必要なことは何か。『新貿易立国論』(大泉啓一郎著、文春新書)は、中国やASEAN諸国といった、新興国・途上国に追い上げられている、今の日本の立ち位置を正しく理解するために必要な実情について解説する。21世紀に入り、新興国・途上国の大都市は新たな成長段階に突入している。しかし、成長の牽引役、つまりビジネスの主戦場は「新興国・途上国」そのものではなく、「新興国・途上国」の大都市であることに注意が必要だ、と著者は指摘している。例えば、インドの経済躍進を牽引するほど急成長しているバンガロールという都市が、「インドのシリコンバレー」と呼ばれるようになった戦略とは何か。国別の統計数字だけでは読み切れない、都市や地域ごとの成長戦略を学び、これからの日本がとるべき新しい貿易戦略について考察する。

ヨーロッパで勝つ! ビジネス成功術/日本人の知らない新常識』(塚谷泰生著、ちくま新書)の著者は、商社マンとして長くヨーロッパでの取引に携わったのちに現地で起業している。これまで、日本企業は「日本の製品は良い。良いものは売れるはず」と頭から思い込んできたが、その精神では今後世界市場では勝負できない、と指摘する。いま、ヨーロッパ市場では中国やアジア諸国の台頭が著しい反面、日本の存在感が「本当に薄くなってきている」という危機感が、現地で暮らす人々に共通してあるという。
 これまで著者は、日本企業が「ヨーロッパ諸国は日本と同じ先進国、同じビジネス文化をもつ」という誤解のもと、先方には理解されづらい「日本式のビジネス文化」で商談を進めたり、間違ったアピールポイントを押し進めようとして契約に失敗する場面を多く見聞きしてきたという。今後、ヨーロッパ市場でのビジネスを攻略するためには、日本の常識を押し通し、「日本ブランド」に固執するのではなく、現地のニーズを知り、現地の契約条件に柔軟に合わせることが必要だ、とうったえる。

政府の対策を待っていては間に合わない人口減問題

 最近、コンビニやスーパー、居酒屋などでは、外国人スタッフが増えていると、つくづくと実感している。私たちが一般には目にする機会の少ない、工場、農場、介護施設などでも、外国人労働者の数は近年急増しているという。『コンビニ外国人』(芹澤健介著、新潮新書)では、都会の24時間営業のコンビニを中心に、人口減、高齢化が進み、外国人労働力なしでは成り立たなくなりつつある日本の現状を報告する。本書によれば日本はすでに世界第5位の「外国人労働力の流入国」になっているという。公式にはまだ「移民」が認められていないはずの日本で、なぜそのようなことが可能なのか、「留学生」や「実習生」というシステムのからくりと闇の部分に着目する。最近では、特に急増しているのが、ネパール、ベトナムからの労働者だという。彼の国で「日本語ブーム」が起きている背景や、どんな経緯で日本に来て働くことになったのか、彼らの本音に迫る。

未来の年表2/人口減少日本であなたに起きること』(河合雅司著、講談社現代新書)は、人口減少社会でこれから起きることを年表形式で「具体的に」示し、波紋を呼んだ『未来の年表』の第2弾。少子高齢化が進み、街に高齢者があふれ返る。街で、家庭で、職場で、具体的にどのような問題が起きうるのか。顧客のほとんどが高齢者になると、小売業やサービス業にはどのような発想の転換が求められてくるのか。『未来の年表』第1弾では、さまざまなデータ予測をもとに「2033年には3戸に1戸が空き家に」などの警告が示された。本書では、政府や自治体をあてにするのではなく、個人や企業が自分たちで今からできる、人口減少の影響をできるだけ回避するための対策を提示している。

定年準備/人生後半戦の助走と実践』(楠木 新著、中公新書)は、昨年4月に刊行され大きな反響を呼んだ『定年後/50歳からの生き方、終わり方』に続く「実践編」。人生100年時代ともいわれる今、定年後の充実した生活、「人生後半戦の助走」には45歳くらいから本当にやりたいことを見極め、意識的に準備することが重要だとしている。多くの人は「他人を変えるのは難しいが、自分を変えることはできる」と考えているが、持って生まれた性格や個性もあり、自分を変えることも相当難しいと意識すべき、と著者は指摘している。変えられるのは、自分と他者(家族、友人、同僚、顧客など)との関係性ではないか、としている。シニア社員や、定年退職者への取材を重ね、定年という区切りで、自分をどう取り戻すか、そのための準備をどうすべきかの実例を、できるだけ具体的に紹介していく。

子どもの命を社会がどう守るか

 悲惨な児童虐待死事件が報道されるたびに、世間の批判を集めるのが児童相談所である。『ルポ 児童相談所』(大久保真紀著、朝日新書)では、急増する児童虐待事件に、児童相談所はどう対応しているのか、現場を取材し、スタッフの実情を報告する。虐待を繰り返す親から子どもを守るために、法律で変えられることはないのか、警察や公的機関の「介入」はなぜ困難なのか、構造的な課題に切り込んでいる。しかしそもそも、児童虐待の防止にかける予算が、諸外国に比較して少なすぎるところがこの国の大きな問題である。解決の糸口はまずはそこから、ということが本書を読むとわかる。

なぜ、わが子を棄てるのか/「赤ちゃんポスト」10年の真実』(NHK取材班著、NHK出版新書)は、育てられなくなった子どもを匿名で(罪に問われずに)放棄できる日本で唯一の施設、熊本県の私立病院に設置された「こうのとりのゆりかご」(通称赤ちゃんポスト)について取り上げたNHKの番組を書籍化したもの。本書によればこれまでに預けられたのは130人。賛否両論あるこの施設の開設から10年を迎えたこれまでの軌跡や、預けられた子どもたちのその後についてなどを取材している。
「赤ちゃんポスト」は、子どもを育てられない、と追いつめられた親たちにとって最後のとりでであるが、自分勝手な「安易な利用」と考えられるケースも多々あるという。さまざまな事情で自分の子どもを育てられない親は、子どもの命を守るためにも行政に相談し、しかるべき施設に託すべき、と多くの人が考える。国もそうした立場をとる。しかし「赤ちゃんポスト」に入れるしかない、という人がこれだけいる、そのことも真実だ。

 学業や日常生活を犠牲にして家族の介護を行う若者の負担と孤独をとりあげる『ヤングケアラー/介護を担う子ども・若者の現実』(澁谷智子著、中公新書)。「やりがいのある仕事につくべき」「仕事で自己実現すべき」といういかに多くの人々を過重労働へと駆り立てているかを警告しているのが『自己実現という罠/悪用される「内発的動機づけ」』(榎本博明著、平凡社新書)。
「失われた20年」という時代に重なって生きるアラフォー女性の受難をみるのは『非正規・単身・アラフォー女性/「失われた世代」の絶望と希望』(雨宮処凛著、光文社新書)。以上の3冊のタイトルはいずれも、「個性を大事に」「仕事で輝くべき」「家族のケアは家族がすべき」などと教育されてきた「優しい」世代が、自分を犠牲に生きるしかない現代日本を象徴している。過酷な受験戦争、就活競争を強いられながら、働く、結婚する、子育てをする、という「普通の幸せ」を手にすることが困難な時代に生まれた人々の今後はどうなるのか。そうした世代の「犠牲」を前提に成立している日本のこれからに大きな不安を感じてしまう。


(編集部 湯原葉子)

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『EVと自動運転/クルマをどう変えるか』
鶴原吉郎著
(岩波新書)

『リサイクルと世界経済/貿易と環境保護は両立できるか』
小島道一著
(中公新書)

『新貿易立国論』
大泉啓一郎著
(文春新書)

『ヨーロッパで勝つ! ビジネス成功術/日本人の知らない新常識』
塚谷泰生著
(ちくま新書)

『コンビニ外国人』
芹澤健介著
(新潮新書)

『未来の年表2/人口減少日本であなたに起きること』
河合雅司著
(講談社現代新書)

『定年準備/人生後半戦の助走と実践』
楠木 新著
(中公新書)

『ルポ 児童相談所』
大久保真紀著
(朝日新書)

『なぜ、わが子を棄てるのか/「赤ちゃんポスト」10年の真実』
NHK取材班著
(NHK出版新書)

『ヤングケアラー/介護を担う子ども・若者の現実』
澁谷智子著
(中公新書)

『自己実現という罠/悪用される「内発的動機づけ」』
榎本博明著
(平凡社新書)

『非正規・単身・アラフォー女性/「失われた世代」の絶望と希望』
雨宮処凛著
(光文社新書)

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