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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2018年8月刊行から 編集部

NEW

18/09/15

平成とはどんな時代だったのか

 平成とはどんな時代だったのか。ある年齢以上の人々にとって「平成」は、当時官房長官だった故小渕恵三氏が掲げた「平成」という書の映像から始まっているのではないだろうか。『10代に語る平成史』(後藤謙次著、岩波ジュニア新書)の著者は、元時事通信社の記者で現在は大学で教鞭をとる。昭和が終わり平成が始まったその日、政治部記者だった著者は小渕氏の元号発表にも立ち会っていた。国内外ともさまざまな出来事が続いた激動の30年間を振り返り、この30年に何があったのか、社会はどう変わったかを、新しい時代を支える若い人たちにわかるようにいくつかのテーマに沿って解説している。平成史をまとめた新書はこれから続々と刊行されるだろう。

 天皇陛下は即位後、全都道府県を2巡している。皇太子時代にも1巡しているので、3巡していることになるのだという。もちろん諸外国への訪問も相当多い。『象徴天皇の旅/平成に築かれた国民との絆』(井上 亮著、平凡社新書)の著者は、「これほど国内外を旅してまわった日本人はほかにはまずいないのではないか」としている。
 著者は、日経新聞で長く宮内庁を担当した記者で、天皇、皇后両陛下の国内外の旅に同行した経験をもつ。両陛下の旅を報道する際にはお二人の動向が中心になるが、本書では、全国各地、迎える地域の人々の様子、警備の実情など、周辺の「風景」をも伝えようとしている。皇室報道に携わる者の役割として、天皇・皇后のお人柄が伝わる心温まるエピソードを紹介しつつも、天皇の政治利用が行われていないか、皇室外交が「外交カード」のように使われることがないかをチェックする重要性を著者は強く意識してきた。一方で、筆者より若い世代の記者たちの間には、権力を監視する意識が希薄になりつつあるのではないか、という懸念を表明している。

上皇の日本史』(本郷和人著、中公新書ラクレ)は、200年ぶりの天皇譲位となる生前退位を目前に注目を集める、「上皇」という日本独自の地位について、歴史上どのような例があったのかを歴史研究者が解説している。外国では、退位した王や皇帝に特別な呼称は用いない。「上皇」とはどんな存在だったのか。古代から近代天皇制まで、天皇と政治の関わりの歴史を振り返る。皇室典範をどうするか、皇室の存続はどのようにあるべきかなど、さまざまな問題を深く検討していく上で必要となる基本的なことを解説する。

無実の罪を「自白」する心理メカニズム

 人はなぜ、やってもいない罪を「自白」するのか。なぜ冤罪が生まれるのか。『虚偽自白を読み解く』(浜田寿美男著、岩波新書)の著者は、心理学鑑定の第一人者として、40年にわたり虚偽自白の問題と格闘してきた。「虚偽自白」とは、無実の人が自ら犯人だと「偽り」、やってもいない犯行を「ことば」で語ることである。足利事件、狭山事件、袴田事件などの重要な事件で、第一線で心理学鑑定を行ってきた経験をもとに、虚偽自白が生まれる捜査の過程に生じる、構造的な問題について追究する。
 冤罪がなくならない背景には、「無実の人の虚偽自白」への無理解がある、としている。厳しい取り調べを受け、苦しくなって「虚偽自白」をすることがあるという。本当にやっていないのなら、堂々と無実を主張できるはずではないか。取り調べで拷問等の暴力があった時代ならともかく、そうしたことが禁止されている現代で、無実の人が虚偽の自白をするなどありえない、多くの人の常識ではそう考えられるだろう。本書では、「常識」の向こう側にある落とし穴を解き明かしていく。無実の人が冤罪に巻き込まれていくさまざまな過程は、誰にとっても他人事ではないと考えさせられる。

 2009年、「郵便不正事件」で厚労省局長時代に逮捕された村木厚子氏は「偽の障害者団体の金儲けのために偽の証明書を発行」したという罪に問われた。『日本型組織の病を考える』(村木厚子著、角川新書)では、「やってはいないことをやったと言わないこと、うその自白調書を取られないこと」という、きわめて当たり前に思えることをやり通すことの難しさが、当時の詳細なエピソードとともに語られている。昨今、官僚による公文書の改竄、隠蔽といった、「信じられないような不祥事」が相次いでいる。一旦組織として方針が定まると間違ったと思ってもなかなか止めることができないし、引き返すこともできない。そうした「日本型組織」の限界について、硬直した組織をどう変えていくべきかを語る。

 情報化社会の急速な発展により、知的財産権をめぐる状況は大きく変動している。「知的財産権のことを知らないと、『やけど』をしかねない時代となった。」……こう警鐘を鳴らすのが、『こうして知財は炎上する/ビジネスに役立つ13の基礎知識』(稲穂健市著、NHK出版新書)の著者である。一般的な解説書では、知的財産権について「著作権、商標権、特許権」などと、各権利別に説明されていることが多い。本書では、そうした知的財産権の基本をおさえたうえで、別々に発達してきた複数の知的財産権が互いに絡み合う、複雑な事例を中心に解説している。
 また、法的には問題はなくても「炎上した」事例を紹介し、その背景にもふれる。法的には「セーフ」な事案であっても、もめ事を起こすリスクを考えて必要以上に萎縮したり、スポンサーへの過剰な「忖度」が行われる局面が増えている、と指摘する。一般の人も、感情に流されてヒステリックに騒ぎ立てないよう、「知財リテラシー」を身につけてほしいとアドバイスする。

本当の「働き方改革」に必要な意識改革

「働き方改革」が叫ばれているが、その言葉ばかりが一人歩きしているのではないか、と指摘するのが『メールに使われる上司、エクセルで潰れる部下/利益生むホントの働き方改革』(各務晶久著、朝日新書)。政府が推進する「働き方改革」の具体的な内容としては、長時間労働の防止や賃金引き上げ、労働生産性向上などがあるが、本書では日常業務ですぐに取り組めるような「労働生産性向上」に的を絞っている。
 その具体的な例がいくつか紹介されている。例えば、ある企業では、ソフトウェアと定点カメラを用いて徹底的に業務の分析を行い、管理職、一般社員それぞれにどのような業務・作業に時間をとられているかを検証している。「管理職は部下からの報告メールには原則として返信しない」「社内のeメールには『お疲れさまです』などの挨拶を禁止、用件のみを伝える」というルールを策定し徹底させただけで、大幅に労働時間を削減できたという。社内文書の書式について、フォントの種類、サイズなどをルール化し、「上司の好み」で文書の体裁などの修正を行わせない方針にしたところ、部下の書類作成時間の削減につながっただけでなく、管理職が仕事上の指導に注力できるようになる、という結果にもつながった。
 本書であげられた成功例は、ITシステムによる業務効率化ではなく、一見小さなことも多い。AIなどに頼らずとも、仕事のやり方を抜本的に見直し、意識を変えるだけで生産性を上げる余地がまだまだある、と指摘する。業務改善で得た利益を提案者に還元するなど、コスト改善のインセンティブを高めるさまざまなアイディアを紹介している。

英語教育幻想』(久保田竜子著、ちくま新書)の著者は、米国やカナダの大学で教鞭をとってきた言語教育学者。日本から派遣された英語教員の研修にも携わっている。グローバル化が進み、英語教育の重要性が叫ばれている。日本では30年ほど、大学・学校での英語教育を「強化」しようという動きが続いている。「英語学習はできるだけ早くから始めたほうがよい」「ことばはネイティブ・スピーカーから学ぶのが一番だ」「英語は英語で学んだ方がよい」など、英語教育における一般的な思い込み、つまり「幻想」の数々が、かえって日本の英語をダメにしているのではないか、と検証している。2020年の大学入試改革を前に盛り上がる、官民あげての英語ブームに振り回されないためにも冷静な議論をとうったえる。

まだ解明されていない「土」の謎

土 地球最後のナゾ/100億人を養う土壌を求めて』(藤井一至著、光文社新書)の著者は、「土」の研究者。研究のため、ただひたすら土を掘ると本人は言う。いかにも地味な分野のようだが、極北の永久凍土、砂漠や熱帯雨林の土まで、スコップ片手に文字通り泥にまみれ、世界各地を飛び回る姿は、冒険家のような一面もうかがわせる。
 地球上の土は大きく分類すると12種類しかないという。毎日の食卓を支え、増え続ける世界人口を支えることのできる、「肥沃な土」「いい土」の条件とは何か。農産物の収穫量を上げ、よい土壌が生まれるための条件、土壌改良の技術についてなど、実はまだあまり知られていない「土」の重要さを熱く語る。

 日本列島の地質について、さらにスケールの大きい話題を取り上げているのが『フォッサマグナ/日本列島を分断する巨大地溝の正体』(藤岡換太郎著、ブルーバックス)。「フォッサマグナ」という言葉自体は教科書等で一度は目にした人が多いと思うが、それは一体何なのかはあまり知られていない。実際に目で見たことがある人もそれほど多くはないだろう。
「フォッサマグナ」は、今から140年ほど前、古代ゾウの化石を発見したことで有名になったドイツの地質学者エドムント・ナウマンにより命名された巨大地溝。現在に至っても、その成り立ちは謎に包まれ、どこまでがフォッサマグナなのかについても、まだはっきりとはしていないという。日本列島の成り立ちを考える上で欠かせない、巨大な構造の謎についてチャレンジしはじめている研究者が、世界中で増えているという。

(編集部 湯原葉子)

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『10代に語る平成史』
後藤謙次著
(岩波ジュニア新書)

『象徴天皇の旅/平成に築かれた国民との絆』
井上 亮著
(平凡社新書)

『上皇の日本史』
本郷和人著
(中公新書ラクレ)

『虚偽自白を読み解く』
浜田寿美男著
(岩波新書)

『日本型組織の病を考える』
村木厚子著
(角川新書)

『こうして知財は炎上する/ビジネスに役立つ13の基礎知識』
稲穂健市著
(NHK出版新書)

『メールに使われる上司、エクセルで潰れる部下/利益生むホントの働き方改革』
各務晶久著
(朝日新書)

『英語教育幻想』
久保田竜子著
(ちくま新書)

『土 地球最後のナゾ/100億人を養う土壌を求めて』
藤井一至著
(光文社新書)

『フォッサマグナ/日本列島を分断する巨大地溝の正体』
藤岡換太郎著
(ブルーバックス)

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