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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン

新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2012年4月刊行から 編集部

NEW

12/05/15

 毎年5月の第2日曜日は「母の日」。子どもたちが描く「やさしいおかあさん」の似顔絵と、カーネーションの花が街にあふれている。日本の花屋さんはこの日が一年で一番忙しいに違いない。
報道の脳死』(烏賀陽弘道著、新潮新書)によると、東日本大震災の直後、2011年5月8日の「被災地の母の日」を伝える翌日9日付の新聞の一面には、朝日、毎日、読売の全国紙3紙が、同じ「テントで営業を再開した被災地の生花店」で撮影した写真を掲載している。朝日、毎日の両紙はそこに写る「亡き母のために白いカーネーションを買う女性」も全く同じだった。
 元朝日新聞記者であり、フリージャーナリストの著者によれば、このような「横並び」記事の掲載は、以前からどこの新聞社も悪気なくやってきたことだという。しかし、3.11以降も相変わらず、そうした独自の視点がない記事を無自覚に載せているようでは報道人として致命的だ、と批判している。大震災という、戦争に匹敵するほどの危機的な状況で、市民に必要な情報を提供できなかった日本の報道は「既に死んでいる、存在価値はない」と、「報道の脳死宣言」をする。「母の日」だけでなく、大新聞やテレビが陥っている危機を象徴するような、問題意識ゼロの記事実例をあげている。
 存在の意義さえ疑われている既存のマスメディアとは反対に、人々を動かす力を持つようになってきたソーシャルメディア。『動員の革命/ソーシャルメディアは何を変えたのか』(津田大介著、中公新書ラクレ)では、震災を機に浮かびあがってきたソーシャルメディアのプラスとマイナスをとりあげる。マスメディアがカバーしない、被害が中程度の被災地情報を伝えるのにも、ソーシャルメディアが大きな役割を果たした、と指摘している。

生き物から学ぶことはたくさん

 身近な生き物を入り口に、さまざまな分野を学ぶことができる新書がいくつか出ている。
巨大津波は生態系をどう変えたか/生きものたちの東日本大震災』(永幡嘉之著、ブルーバックス)は主に津波による生態系への影響の記録。津波の被災地に足を運び、海水をかぶった場所で見られる生態系の変化を報告している。急速に進められる復旧作業で津波の痕跡が消えないうちにと、塩分濃度を計測し、昆虫と植物を中心に生き物の動向を調べて記録していくという果てしない作業を繰り返した。一見、生き物が戻ってきているように思えるところでも、外来種が跋扈しているのが著者は非常に気がかりだという。
キノコの教え』(小川眞著、岩波新書)を読むと、放射性物質を吸収・濃縮しやすいというキノコの放射線量調査の重要さがよくわかる。食品として適するかという検査だけではなく、データとしてさまざまなことを教えてくれるキノコを国がきちんと収集・調査しているかどうかが気になる。
ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか/工学に立ちはだかる「究極の力学構造」』(鈴森康一著、ブルーバックス)では、ヒトや生き物を模倣して作られたロボットではなく、生き物をまねる必要のないロボットや、生き物を意識せずに設計したロボットまでが生き物に「似てしまう」という興味深い例を紹介している。
なぜ男は女より多く産まれるのか/絶滅回避の進化論』(吉村仁著、ちくまプリマー新書)は17年または13年という周期で大発生するという「素数ゼミ」など、環境変動に対応することで絶滅を避ける生き残りのための進化の例を学ぶ。

日本企業も生き残りをかけた戦略を!

勝つための経営/グローバル時代の日本企業生き残り戦略』(畑村洋太郎, 吉川良三著、講談社現代新書)でも、日本の製造業をとりまく現実から、自らの敗因を正しく認識することが必要、と指摘する。
 日本企業がブランド戦略で失敗している象徴的な例として、空港に設置された大型テレビを取り上げる。韓国の金浦空港に置かれたテレビには大きく「SAMSUNG」と、国を代表するメーカー名が入っているが、著者がたまたま利用した羽田空港や徳島空港に設置されたテレビには、どこの国の、何という会社の製品か一見して分かる表示がなかった。
 今まさに急成長をとげている新興国の市場で日本企業が実績をあげるためには、「既に先進国で認められた日本のブランド力は、世界のどこでも通用する」というような傲慢な態度は全く通用しない。企業の意識改革と、国をあげてのブランド戦略の見直しを迫る。
超「集客力」革命/人気美術館が知っているお客の呼び方』(蓑豊著、角川oneテーマ21)の著者は、地方の美術館としては異例という人気の金沢21世紀美術館の初代館長。街に美術館を定着させるために、多くの子どもたちに美術館にきてもらいたいと考え、「市内の小中学生全員を招待する」というアイディアを出し、周囲を説得して実現にこぎつけた。2010年から館長として就任した兵庫県立美術館でも、子どもが美術館にくるようなさまざまなしかけを、街ぐるみで施している。
鉄道と国家/「我田引鉄」の近現代史』(小牟田哲彦著、講談社現代新書)では、鉄道はすべて政治的につくられる、という見方から、常に大物政治家たちが介入してきた日本の鉄道政策の歴史をひもとく。現在、新幹線輸出で再接近した政治と鉄道。単に新幹線の車両を売るのではなく、「新幹線システムという総合プロジェクト」を売るという認識をもち、戦略的に交渉することが重要だとしている。
『日本はなぜ世界で認められないのか/「国際感覚」のズレを読み解く』(柴山哲也著、平凡社新書)では、日本人の感覚がいかに国際感覚と「ズレて」いるかの例として、過激さが増す国際的な反捕鯨運動についての背景を読み解いている。見かけ上は、環境保護運動とされている反捕鯨の動きだが、その裏には第二次世界大戦までさかのぼる、国際的に根強く残る反日感情が潜んでいる、と指摘する。そうした本意を見誤っている限り、日本は捕鯨を認めさせるような有効な反論はできないと著者は見ている。

老後の不安から目をそらさずに

 超高齢化社会の今、100歳に届いてはじめて「長生き」とみなされる時代なのだろうか。白澤卓二氏による、『100歳までボケない101の方法 実践編/長寿者9人のアンチエイジング』(文春新書)、『40代から始める100歳までボケない習慣』(朝日新書)の2冊が同時に刊行されている。人生100年の時代、ボケずに長生きできても、退屈でイライラ続きの毎日ではもったいない。『老後のイライラを捨てる技術』(保坂隆著、PHP新書)では、病気、お金、生きがい、など、老後にだれもが直面するストレスや不安とうまくつきあっていく方法を指南している。
大往生したいなら老人ホーム選びは他人にまかせるな!』(本岡類著、光文社新書)は、介護職員として勤務した体験も持つ作家が、老人ホーム選びのポイントを紹介する。長ければ20年以上も生活するかもしれない施設を選ぶには、よいことばかり謳われている豪華パンフレットや、施設が用意する見学コースなど「タテマエ」の姿とは違う、「ホンネ」の姿を見抜く必要がある。多くの人の目が入れば、介護の世界も今よりずっと健全な形にかわっていくのではないか、と入所の予定がなくても老人ホームを訪ねてみることをすすめている。

「昆虫料理」という未知の領域

昆虫食入門』(内山昭一著、平凡社新書)の著者は「昆虫料理研究家」という肩書きで、出身は「昆虫食王国」の長野県。インパクトのある(虫嫌いにとっては背筋も凍る)「昆虫料理」の写真が数多く掲載されている。長年伝えられてきた昆虫食文化を継承するためだけではなく、「食料危機の救世主として」「食育の教材として」、昆虫食を見直し、多くの人に経験してほしいと考えている。どうすればよりおいしく食べられるのか、味や食感、栄養をはじめ、あらゆる角度から食材としての可能性を研究するためにも、ほぼ毎日虫を食べているそうだ。昆虫料理の写真を見ると、小魚の佃煮や川エビの唐揚げなど、よく食べているものに似ているものもあった。魚やエビがよくてなぜ虫はダメなのだろうか。考えると不思議だ。
 肉や魚を生で食べるかどうか、というのも食文化によって大きな差が出てくる。日本人にとってはおいしい刺身も、生魚を食べる習慣のない国の人からみれば「生の魚はちょっと……」となる。『毒になる生食、薬になる生食』(藤田紘一郎著、講談社+α新書)の著者は感染症や寄生虫の専門家。どの肉や魚にどんな危険があるか、つまりどの寄生虫がいるか、と写真つきで紹介してある。それでも生食を楽しみたい人は、野菜や果物を食べて腸内細菌を増やして免疫力を高めることが重要だということだ。
 豚肉は一切口にしないなど、宗教上のタブーがいくつもあるイスラムの人々。在日イスラムの人々は、宗教上の制約と、それらにほとんど配慮がない日本の社会とどう折り合いをつけているのだろうか。
イラン人は面白すぎる!』(エマミ・シュン・サラミ著、光文社新書)の著者は、在日イラン人のお笑い芸人。「単に親がイスラムだから、国全体の雰囲気がそうだから、という理由で「なんとなくイスラム教徒」をやっているだけ」という、ごくふつうのイラン人の日常を紹介している。語り口は軽いが、本書の執筆動機は「イスラムに対する日本の過剰な拒絶反応をなくしたい」と、いたって真面目なものだ。

波紋が広がる大阪発「君が代」問題

 日の丸、君が代を国旗、国歌とする国旗・国歌法の制定から13年がたち、『ルポ良心と義務/「日の丸・君が代」に抗う人びと』(田中伸尚著、岩波新書)では、この間に各地の教育現場で起きていたことを報告している。教職員に対して学校行事の国歌斉唱の際に、起立・斉唱を義務づけるという条例が昨年成立した大阪府では、人々の差異を認めて許容する寛容さが年々失われていく事態に「教師の次の標的は子どもたち」と、不安を抱く保護者たちも多いという。一連の問題は「日の丸・君が代」の是非ではなく「強制」にあることを忘れないでほしい、と著者は強調している。
ルポ賃金差別』(竹信三恵子著、ちくま新書)は、非正規雇用という現代日本の「身分制」を真正面から取り上げる。賃金格差是正の動きは、震災以降、「仕事もないのに賃金格差どころではない」という声にかき消されているという。低賃金の仕事にしか就けないのは、本人のやる気や能力のせい、として世間が放っておき、低賃金の働き手が増え続ければ、税収も増えない。やがてこのツケは国民全体に及ぶことになる、と警鐘を鳴らしている。
北朝鮮現代史』(和田春樹著、岩波新書)は、金日成の満州抗日武装戦争から、金日成死去までの通史。著者が本書を書き上げる直前の2011年12月17日、金正日総書記が急死した。「期待と不安の入り交じった複雑な思いで、この国の歴史の新しいページを見守っている」と、まとめている。

次に「来た」災害は竜巻だった

 ゴールデンウィーク最終日の5月6日、関東北部を竜巻が直撃し、死傷者多数、建物にも甚大な被害が出た。
次に来る自然災害/地震・噴火・異常気象』(鎌田浩毅著、PHP新書)では、さまざまな形で出現している「異常気象」の例として、「近年日本でも被害が報道されている」という、竜巻発生のメカニズムにもふれている。
 自分の身を自分で守るためにも、国家の危機管理上からみても、自然災害について正しい知識を得ることは重要な課題だという。しかし、地震や火山噴火のメカニズムは、高校理科「地学」で習う項目だが、その履修率は7パーセントを下回っている。本書にまとめられた「これだけは知らないと危ない」という、最低限の知識はしっかりと頭にいれておきたい。
 台風、大雨、竜巻などが起こると世間は「異常気象」と騒ぐが、著者は、こうした現象は地球科学的にみればごくありふれた地球特有の「揺らぎ」のようなもので、人間の小さなスケールから見て誇大に解釈するべきではない、としている。災害への漠然とした不安で神経をすり減らしながら暮らしている人に、まず読んでほしい一冊だ。
(編集部)

BACK NUMBER

『報道の脳死』
烏賀陽弘道著
(新潮新書)

『巨大津波は生態系をどう変えたか/生きものたちの東日本大震災』
永幡嘉之著
(ブルーバックス)

『キノコの教え』
小川眞著
(岩波新書)

『ロボットはなぜ生き物に似てしまうのか/工学に立ちはだかる「究極の力学構造」』
鈴森康一著
(ブルーバックス)

『なぜ男は女より多く産まれるのか/絶滅回避の進化論』
吉村仁著
(ちくまプリマー新書)

『勝つための経営/グローバル時代の日本企業生き残り戦略』
畑村洋太郎, 吉川良三著
(講談社現代新書)

『超「集客力」革命/人気美術館が知っているお客の呼び方』
蓑豊著
(角川oneテーマ21)

『鉄道と国家/「我田引鉄」の近現代史』
小牟田哲彦著
(講談社現代新書)

『40代から始める100歳までボケない習慣』
白澤卓二著
(朝日新書)

『大往生したいなら老人ホーム選びは他人にまかせるな!』
本岡類著
(光文社新書)

『昆虫食入門』
内山昭一著
(平凡社新書)

『毒になる生食、薬になる生食』
藤田紘一郎著
(講談社+α新書)

『イラン人は面白すぎる!』
エマミ・シュン・サラミ著
(光文社新書)

『ルポ良心と義務/「日の丸・君が代」に抗う人びと』
田中伸尚著
(岩波新書)

『ルポ賃金差別』
竹信三恵子著
(ちくま新書)

『北朝鮮現代史』
和田春樹著
(岩波新書)

『次に来る自然災害/地震・噴火・異常気象』
鎌田浩毅著
(PHP新書)

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