風
 
 
 
 
 
 
[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン

新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2019年6月刊行から 編集部

NEW

19/07/15

生物が教える地球環境の変化

 絶滅が危惧される野生動物が増えているが、動物園の人気者、ゾウもその例外ではない。野生のゾウは生息地の自然破壊や象牙目的の密猟など、人間の影響により激減している。また、穏やかなイメージでその危険性が忘れられがちだが、巨体のゾウと接触する動物園のゾウ係は、死につながることもある危険な仕事である。
 動物園での繁殖成功をめざし、飼育員の安全が100パーセント確保され、ゾウも快適という、新しい飼育手法について語るのが『動物園は進化する/ゾウの飼育係が考えたこと』(川口幸男・アラン・ルークロフト共著、ちくまプリマー新書)である。
 著者の二人は、数十年にわたり動物園でゾウの飼育係を務めてきた。川口氏は、40年前、上野動物園ゾウ舍での接触事故により同僚のゾウ係を失うというつらい経験を持つ。ルークロフト氏は、保護柵など飼育員の安全を確保したうえで、ゾウ本来の生態を考慮した適切なケアができる「準間接飼育法」という方法を提唱し、世界中の動物園で指導してきている。
 近年上野動物園でも取り入れている「人にもゾウにもやさしい」その飼育法では、繁殖を前提に何頭かの群れで自然に近いゾウの本来のありかたに近づけることを理想としている。
 絶滅に瀕する野生動物を保護し観察するだけにとどまらず、適切な方法で繁殖を可能にすること、動物たちの福祉について考えるきっかけを与えるなど、未来の動物園が果たすべき重要な課題について語る。

クマムシ調査隊、南極を行く!』(鈴木 忠著、岩波ジュニア新書)は、第五十六次南極観測隊(2014~16年)の夏隊員として参加した生物学者による記録。南極の生物というと、ペンギンやアザラシなどが思い浮かぶが、南極大陸に棲息する生物は、顕微鏡でしか見ることができない微少な生物「クマムシ」やコケの仲間がメインだという。第一次南極観測隊(1956~58年)が採集して持ち帰ったコケの中からクマムシは発見されている。南極のクマムシの研究は古い歴史をもち、重要な分野だということがわかる。
 南極大陸に到達するまでの砕氷艦「しらせ」での長い船旅、厳しい自然に左右されるスケジュール、限られた施設や物資を工夫して使う日常生活などが綴られている。不自由、といっても「しらせ」や昭和基地からは家族とメールやりとりもできる。野外活動用にヘリも使う。隊員には女性もいるのが当たり前になってきた。
 日本人として最初の越冬事業をなしとげた第一次南極観測隊の隊長西堀栄三郎氏による『南極越冬記』(岩波新書、1958)と読み比べてみると、日本の南極研究60年間の進歩と時代の変化を実感でき、興味深い。

コケはなぜに美しい』(大石善隆著、NHK出版新書)はオールカラーでコケの魅力と神秘を存分に紹介する。著者はコケの生態が専門の生物学者である。足元に広がるコケの世界に関心をもてば、今までとは全く異なる目線で世界が見えてくるという。
 コケという地味なテーマで1冊の新書が出るというほど、数年前から「コケブーム」が来ているのだという。デジカメやSNSの普及によってコケの美しい写真を発信したり目にしたりする機会も増えていることも理由の一つだろう。
 著者は、このコケブームについても専門家の立場から警鐘を鳴らす。コケや自然に対する正しい理解がないままブームが続き、希少なコケの乱獲や、ヒトの足の踏みつけでコケが消える地域が増えているという。採取が禁止されている地域のコケの売買なども公然と行われ、既に野山のコケに大きなダメージを与えている。美しく見えるコケの生育には数十年単位の時間がかかる。コケはほんの少し採取されたことでも、乾燥によりコケ地が大きく衰退してしまうので、その被害は「少し摘み取っただけ」の分ではすまないのだという。
 地球規模の気候変動も、コケの生育に深刻な影響を与え始めていることを著者は指摘している。環境の変化を受けやすい繊細なコケは、環境の変化を我々にいち早く伝えてくれるという。小さなコケの声に耳を傾けるかどうか、我々は問われているのではないか、と著者は警告する。

 米国のゴア元副大統領が環境問題を世界にうったえるドキュメンタリー映画『不都合な真実』が話題になったのが約10年前のこと。地球規模の気候変動が引き起こされる現実に警鐘を鳴らして話題となった。『地球をめぐる不都合な物質/拡散する化学物質がもたらすもの』(日本環境化学会編著、ブルーバックス)では、環境化学という分野の専門家が、地球に拡散する「不都合な物質」の正体とその影響について、今わかっていることを解説している。
 本書で取り上げられるのは、最近特に話題となっているマイクロプラスチック、PM2.5、ダイオキシン、水銀など多岐にわたる。「環境残留性」「生物濃縮性」「毒性」が高く危険な物質が、どのような経路をたどり、ヒトや野生生物の体内に蓄積されていくか、まだわからないことも多いという。排出規制が厳しくなり、環境に関わるさまざまな技術が進んでも、依然解決が難しい現状を報告する。
 マイクロプラスチックなど、目に見えない化学物質が海洋中に広く薄く拡がっている汚染の影響についてはまだ完全には解明されていないため、規制や管理が困難だ。化学物質なしには維持できない社会に暮らす我々は、化学物質のもつリスクとベネフィットをどう評価していくべきか、考える必要がある。

太陽は地球と人類にどう影響を与えているか』(花岡庸一郎著、光文社新書)は、天文学の一分野である「太陽物理学」の専門家が、太陽研究の最先端を紹介する。これまで太陽はあまり変化しない存在だとされてきたが、その、磁気活動の増減が地球の気候変動要因の一つにあげられてきている。著者は、主に磁場を柱とした太陽観測を続け、表面で起きる大爆発「フレア」を見過ごさないように注視しているという。黒点の増減など太陽活動と、地球の気候変動にはどれだけ関係があるのか。まだ分からないことも多い、しかし着実に進歩している太陽観測・研究の現状を解説している。

60年後の「日本人妻」とその子どもたち

 今から60年前の1959年に始まり、1984年までの四半世紀にわたり「在日朝鮮人とその妻や子ども」を朝鮮半島に集団で送り出す「帰国事業」が、日朝の赤十字を主体に行われていた。『フォト・ドキュメンタリー 朝鮮に渡った「日本人妻」/60年の記憶』(林 典子著、岩波新書)は、帰国事業で今も北朝鮮に暮らす「日本人妻」たちへのインタビューを記録したもの。日本を離れた時の家族への思い、これまでの暮らし、今、故郷をどう思っているのかなどを丹念に聞き取っている。
 北朝鮮での取材というと、「行動範囲は限定され、コントロールされている」と言われるが、2013年以来11回にわたり訪朝し、取材を重ねてきた著者の眼には、少しずつ取材の幅が広がり、日本語ができる女性と著者の二人だけにしてもらえる時間も増え、さりげない会話も可能となっていたという。朝鮮半島に渡った当時の写真と、その後北朝鮮での生活が垣間見られる、取材時に撮られた写真の数々との対比が印象的である。

未来の地図帳/人口減少日本で各地に起きること』(河合雅司著、講談社現代新書)は、『未来の年表/人口減少日本でこれから起きること』(2017年)、『未来の年表 人口減少日本であなたに起きること』(2018年)という2作の「年表」シリーズに続く。前2作では、年表形式にまとめたさまざまな数値で、確実に進む人口減少に対する危機感を高め、社会を「戦略的に縮小」させていくことが必要だとうったえている。本書では、人口減少も少子高齢化も、全国一律に進むわけではなく、地域差が拡大していくことについて、「地図帳」という形で示していく。日本が少子高齢化社会にある、と頭では理解していても、自分の住む地域がどのように変貌していくか、自分のこととして把握できている日本人は少ないのではないか。人口減少により、今の47都道府県を維持することは困難だということもわかっている。四半世紀後、人口分布が激変し、いまの常識にある日本地図は、全く変わっていることを予測した上で、対策を講じるべきだとうったえる。

 2019年4月から施行され始めた「働き方改革関連法」は、日本人の働き方や働く人の意識そのものを変えようとする戦後の労働三法制定以来の大改革とされている。『労働法入門 新版』(水町勇一郎著、岩波新書)は、初版(2011年)から8年の間に変化した労働法関連の改正内容を盛り込みながら、日本の労働法の基盤とその役割を解説している。
 労働法は、労働に対する考え方や、その背景にある宗教観、社会観などと密接に関わりあいながら、その国の経済や社会のありかたに大きな影響を及ぼしていく。労働法の歴史を振り返り、ヨーロッパやアメリカにはみられない独特の内容をもつようになってきた背景を解説している。
 これからの労働法は、基本的な権利が侵害されないよう「国家」が規制・管理すべき側面と、「個人」の自由な選択・決定を尊重する側面があり、その中間にある「集団」的な組織やネットワークによって労働にまつわる問題の解決、予防を担っていくことが必要だ、と指摘している。これまで労働組合が主に担っていた「集団」の役割は、正社員を中心とした内向きの性格をもつため、現在の社会状況にはそぐわない面も出てきている。「国家」と「個人」の間に立ち、両者の能力を補う「集団」的な基盤を、どう作り上げていくかが、今後の労働法の重要な課題ではないかと著者は指摘する。

「儲かれば何でもあり」の時代か

暴走するネット広告/1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK取材班著、NHK出版新書)は、急速に広がるネット広告を支えている技術「アドテクノロジー」との進化の裏に広がる「闇」を、NHKの3つの番組が取材した記録である。
 制御不能なほど複雑になっているネット広告の流通システムを逆手にとって、不正に利益を得ている者がいる。
 全く嘘の体験談で商品を宣伝するフェイク広告がSNSに配信され、信じてしまう。
「ロボットによる自動化プログラム(bot)を利用して不正にアクセス数を増やす」などの手法で、「見られていない広告が見たことに」偽装され、広告費が水増しされる「アドフラウド」による被害がある。
 広告主が知らないうちに、アダルトサイトや違法サイトなど問題のあるサイトに転載され、ブランドイメージが傷つけられるという被害もある。
「ネット広告の世界は、バン(禁止)されるまではブラックではない。ダメになったらまた別の方法を試せばいい」という関係者の証言がこの業界の闇を象徴している。

 2020年の東京五輪に続く大きなイベントとして、2025年大阪万博開催が決定した。万博会場となる大阪湾の人工島・夢洲(ゆめしま)開発に伴い、跡地利用の「IR誘致」という壮大な計画が早くも持ち上がっている。『IR〈統合型リゾート〉で日本が変わる/カジノと観光都市の未来』(ジェイソン・ハイランド著、角川新書)では、「IR=カジノ(ギャンブル)」というイメージが先行しているが、これからのIRはカジノだけではない、とIR運営会社の社長が力説する。
 著者のハイランド氏は、統合型リゾート運営企業の社長を務めるが、元は外交官であり、キャロライン・ケネディ駐日アメリカ大使の後継に臨時代理大使を務めたこともあるほどの人物である。
「人と金が集まるところに最新のテクノロジーが生まれる」「ラスベガスともマカオやシンガポールとも違う、日本独自のIRを創造すれば、日本の観光産業はさらに勃興するはず」と、バラ色のプランを語る外資系企業のトップ。マネーロンダリングの懸念、ギャンブル依存症の問題など、負の側面に関しても一応はふれているが、それほど簡単に解決する課題とは、私には思えない。IR誘致は大阪のみならず日本経済にメリットがあるとする主張だが、今のうちに冷静に分析しておきたい。

 2018年7月、オウム真理教事件で死刑が確定していた13人すべての死刑執行が行われた。『「カルト」はすぐ隣に/オウムに引き寄せられた若者たち』(江川紹子著、岩波ジュニア新書)は、長年事件の取材を続けてきた著者によるもの。死刑執行により、事件が忘れられ、事件の教訓も忘れられていくことを危惧している。
 若者なら悩んだり迷ったりするのは当たり前。しかし、たまたま悩んだり迷ったりしているときに「出会った」のがオウムだったという不運があったのだと指摘する。本書で紹介されているカルト問題に詳しい弁護士は「自分は大丈夫、と思っていると、それが一番危ない」と警告する。「カルト性の高い集団」は、宗教には限らない、ということも再三警告している。カルトを見分け、カルトから身を守る方法や、友だちがカルトらしき団体に取り込まれてしまった場合の方法についてもアドバイスする。外からの情報を遮断しようとし、「親や大人に言ってはいけない」と口止めするような団体には近づいてはいけない、というのが特に重要だろう。


(編集部 湯原葉子)

BACK NUMBER

『動物園は進化する/ゾウの飼育係が考えたこと』
川口幸男; アラン・ルークロフト著
(ちくまプリマー新書)

『クマムシ調査隊、南極を行く!』
鈴木 忠著
(岩波ジュニア新書)

『コケはなぜに美しい』
大石善隆著
(NHK出版新書)

『地球をめぐる不都合な物質/拡散する化学物質がもたらすもの』
日本環境化学会編著
(ブルーバックス)

『太陽は地球と人類にどう影響を与えているか』
花岡庸一郎著
(光文社新書)

『フォト・ドキュメンタリー 朝鮮に渡った「日本人妻」/60年の記憶』
林 典子著
(岩波新書)

『未来の地図帳/人口減少日本で各地に起きること』
河合雅司著
(講談社現代新書)

『労働法入門 新版』
水町勇一郎著
(岩波新書)

『暴走するネット広告/1兆8000億円市場の落とし穴』
NHK取材班著
(NHK出版新書)

『IR〈統合型リゾート〉で日本が変わる/カジノと観光都市の未来』
ジェイソン・ハイランド著
(角川新書)

『「カルト」はすぐ隣に/オウムに引き寄せられた若者たち』
江川紹子著
(岩波ジュニア新書)

PAGE TOP
Copyright(C) Association Press. All Rights Reserved.
著作権及びリンクについて