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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2017年1月刊行から 編集部

NEW

17/02/15

 トランプ後の日米関係と世界

「トランプ後」の世界、とりわけ日米関係の今後について書かれた本が続々と刊行された。トランプ政権始動によりさまざまな影響が出始めつつある今、目を通しておきたい。
 2015年11月14日、大統領選投開票日の1年前から「トランプが本命」と支持する層が多い地区を徹底的に取材した記録が『ルポ トランプ王国/もう一つのアメリカを行く』(金成隆一著、岩波新書)である。ここでいう「トランプ王国」とは、共和党の候補者を一人に絞り込む予備選でトランプが圧倒的に勝利した地域をさす。朝日新聞ニューヨーク支局の記者である著者は、「トランプは選挙戦からいずれ脱落する」という声が大半を占めるニューヨーク、ワシントンなどの大都市では見えてこないトランプ支持者層に会うため、オハイオ州、「ラストベルト(Rust Belt; さび付いた工業地帯)」を中心とする地方の「トランプ王国」を見て回る。不法移民が増え続けることに不満をもち、「壁」の建設を本気で望む「もう一つのアメリカ」からの生の声を拾い上げてきた。決して番狂わせではなかったトランプ大統領誕生の背景を読み解く。

トランプ政権と日本/総力取材!』(NHK取材班著、NHK出版新書)も、NHK取材班がチームで追いかけた「トランプ現象」取材の記録である。ワシントンと東京から追いかけた複数のNHK取材班による、予備選挙から大統領選当選までの軌跡。「政策を知らず、挑発ばかりのトランプはいずれ脱落する」という見通しに固執した多くの専門家、大手マスメディアはなぜ見誤ったのか。トランプ当選の原動力となった「不満のマグマ」とはいったい何だったのかを分析し、トランプ後の日米関係、国際関係の今後を予測する。

対米従属の謎/どうしたら自立できるか』(松竹伸幸著、平凡社新書)では、日米同盟信仰といってもおかしくないほどの対米従属状態に陥っている日米関係がなぜ継続してきたかの「謎」にせまる。
 選挙戦最中のトランプによる「日本の核武装容認発言」は単なる暴言ではなく、自国の世界戦略を疑い始めたアメリカ国民の「本音」に根ざしたものだと著者は指摘している。トランプ政権の出現を、日米両国ともに防衛問題を「本音」で議論し、確立していくきっかけにすべきである、と提言している。

 トランプ大統領の出現は日本にとって「対米自立のチャンスである」としながら、全く別の解決策を論じていくのは、『日米対等/トランプで変わる日本の国防・外交・経済』(藤井厳喜著、祥伝社新書)。対米自立、つまりアメリカと日本が対等になるためには、憲法9条を改正して集団的自衛権をフルに行使できるようにし、アメリカがピンチのときに助けに行けるイギリスやフランスのような「普通の国」になるべきだ、という持論を述べている。

 やはり「対米従属と決別せよ」と、アメリカ依存の安全保障から自立、日本の安全保障を再構築するべき、とするのが『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(田原総一朗著、角川新書)。著者は日本の安全保障が矛盾だらけなのは、政治家や官僚だけでなく、国民の多くが「戦争は嫌だ」「戦争のことなど考えたくもない」と強く思うあまり、戦争が起きる事を前提に安全保障を考えてこなかった結果だとしている。「専守防衛」などといった英語に翻訳できない日本独自の概念からは決別し、日本の安全保障を根本から考え直すべき、と主張する。

 日米関係を語るうえで避けては通れないのが沖縄。『沖縄問題/リアリズムの視点から』(高良倉吉編著、中公新書)の編者の高良氏は琉球史を専門とする学者であり、他4名の執筆者は沖縄県庁の職員として、日々理念と現実のはざまに苦しみながら長年実務に取り組んで来た経験をもつ。これまで保守対革新、という単純化した構図で、ジャーナリスト、学者、文化人、政治活動家らにより語られることがほとんどだった「沖縄問題」。1879年に断行された「琉球処分」(沖縄県設置)以降の歴史的経緯をふまえつつ、経済振興と米軍基地問題という二つの大きな課題を中心に、県政の実務がどうだったのかを具体的に記していく。米軍基地問題は「沖縄問題」ではない。この国の安全保障のあり方を問う「日本問題」として国民全体で論議すべき、としている。

入門 東南アジア近現代史』(岩崎育夫著、講談社現代新書)は、現在11ヵ国ある東南アジア諸国(ASEAN経済共同体)について、「多様性の中の統一(協調)」をキーワードにその理想と現実を解説する。東南アジア諸国は国の大きさ、宗教、自然地理要因も多様であれば、それぞれ民族と言語が違うばかりでなく、各国内部もさまざまな民族と言語をもつ、多様性にとんだ地域である。ヨーロッパに植民地化される前、大小様々な国があった土着国家の姿を出発点として、ヨーロッパの植民地化以降、日本の占領統治時代を経て、民主化から今日に至る各国の現状をみる。

 史上初の社会主義国家樹立の契機となったロシア革命の勃発から100年。『ロシア革命/破局の8か月』(池田嘉郎著、岩波新書)は、ロシア史のなかでの1917年に注目し、二月革命から十月革命までの「破局の8ヵ月」によって失われたもの、新しく生まれたものは何だったのかをさぐる。民衆の価値観と社会上層の価値観とのギャップ、それによる社会秩序の動揺と混乱。当時のロシアだけでなく、現代世界でも至る所で起きていることではある。

 ネットニュースのビジネスモデルとジャーナリズム

ネットメディア覇権戦争/偽ニュースはなぜ生まれたか』(藤代裕之著、光文社新書)は、2016年アメリカ大統領選の際にも問題となった偽(フェイク)ニュースを切り口に、紙の新聞からデジタルへの移行期から現在まで、新聞社やそれを取り巻くネットニュースのビジネスモデルがどう変遷してきたかをたどるメディア史になっている。
 著者は、ネットで偽ニュースが生まれた背景には、ネットニュースのビジネスモデルが大きく関係していると指摘する。当初はメディアから提供を受けてニュースを流通させる役割だけであったヤフー等のプラットフォームが、当初の方針を転換して自らオリジナル記事つくり始めるようになり、メディアとプラットフォームの境界はあいまいになってくる。ネットでのニュースにおけるマスメディアの存在感は低下し、偽ニュースがまぎれ込む「隙」が生まれやすくなった、と指摘する。さらに、スマホでニュースを読んでいると、検索アルゴリズムによりいつの間にか自分にとって興味・関心がある、自分の見たいニュースだけに接触するようになっていることにも無自覚となってしまう場合が多いという。ネット時代のジャーナリズムの役割や、ニュースの接し方の「バランス」など受け手側に必要な意識改革について考えさせられる。

なぜアマゾンは1円で本が売れるのか/ネット時代のメディア戦争』(武田徹著、新潮新書)も、タイトルからは若干わかりづらいが、ネット時代の「コンテンツ」と「メディア・プラットフォーム」の攻防戦の最先端について、取材を交えながら紹介している。スマホの登場でコンテンツは小分けにされ、断片化され、「1円」といった廉価販売の競争にさらされている。新聞・出版・テレビに復活の可能性はあるのか。パナマ文書事件とその報道をヒントに、ネット時代・スマホ化後の新しいジャーナリズムについても考える。

 2011年、福島第一原発の事故当初、マスメディアによる報道は「大本営発表」ではないかと不安を抱き、ソーシャルメディアの情報に頼る人々がいた。STAP細胞論文に関する問題では、マスメディアは理化学研究所という権威を過信し、論文の信憑性の疑わしさに気づくことができなかった。『科学報道の真相/ジャーナリズムとマスメディア共同体』(瀬川至朗著、ちくま新書)は、長年新聞社で科学報道に携わってきた著者が、マスメディアの科学報道が抱える問題を分析する。原発事故報道、STAP細胞事件報道など、科学報道が人々の信頼を失った「失敗」例を振り返り、取材対象からの「独立性」と、複数ルートでのチェックにより可能な「検証の規律」が、科学報道において最も重要な原則であるとしている。

 社会構造の変化にどう対応するか

 多くの人が悩む敬語の使い方について、『新・敬語論/なぜ「乱れる」のか』(井上史雄著、NHK出版新書)は、文化庁やNHKなどの行った敬語の調査データを分析している。敬語は「乱れている」「誤用」とよく言われるが、社会構造や人間関係の変化を反映し、上下関係を表すのではなくお互いを配慮しあう言葉として合理的に変化しているからではないかという視点を具体例をあげて示している。

 2040年代後半、日本の人口は1億人を割るだろうと言われている。1966年、1億人を超えた時に7%弱だった65歳以上の高齢者の比重は、2040年には4割に迫ると予測されている。『シルバー・デモクラシー/戦後世代の覚悟と責任』(寺島実郎著、岩波新書)の著者は、有権者人口の5割を高齢者が占め、「老人の、老人による、老人のための政治」時代の到来を目前にした今、高齢化が後の世代へのコストと重圧にならないように、高齢者が参加し、少しでも貢献するような仕組みを模索する必要がある、とうったえる。同世代である高齢者に向け、戦後世代の覚悟と責任を問う。

超ソロ社会/「独身大国・日本」の衝撃』(荒川和久著、PHP新書)の著者によれば、少子高齢化より深刻、というのが日本のソロ(ひとり)社会。人口減、未婚化、非婚化、離婚率の上昇、配偶者の死別による高齢単身者の増加で、多くの人がソロ(ひとり)で生きる、という選択肢を迫られる時代が来る。若者を中心にSNSなどで使われている「ソロ充」という言葉を、ソロ(ひとり)が充実している、ひとりを楽しむことができるポジティブな言葉として紹介している。自ら「ソロ」と名乗るのは、友だちがいなくて孤独と思われる「ぼっち」や「おひとりさま」と見られたくない、という思いで生まれた言葉でもある。「ひとり」でも孤立するのではなく、職場や家族、恋人に依存せず、能動的に選択と自己決定ができるのが、これから必要な「ソロ」という生き方だとしている。結婚していてもしていなくても、それぞれが「ソロで生きる」力を持ち、「ソロで生きる」選択肢を認めあう、そうした姿勢がこれからの社会に求められてくるのでは、と提言している。

(編集部 湯原葉子)

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『ルポ トランプ王国/もう一つのアメリカを行く』
金成隆一著
(岩波新書)

『トランプ政権と日本/総力取材!』
NHK取材班著
(NHK出版新書) (文春新書)

『対米従属の謎/どうしたら自立できるか』
松竹伸幸著
(平凡社新書)

『日米対等/トランプで変わる日本の国防・外交・経済』
藤井厳喜著
(祥伝社新書)

『トランプ大統領で「戦後」は終わる』
田原総一朗著
(角川新書)

『沖縄問題/リアリズムの視点から』
高良倉吉編著
(中公新書)

『入門 東南アジア近現代史』
岩崎育夫著
(講談社現代新書)

『ロシア革命/破局の8か月』
池田嘉郎著
(岩波新書)

『ネットメディア覇権戦争/偽ニュースはなぜ生まれたか』
藤代裕之著
(光文社新書)

『なぜアマゾンは1円で本が売れるのか/ネット時代のメディア戦争』
武田徹著
(新潮新書)

『科学報道の真相/ジャーナリズムとマスメディア共同体』
瀬川至朗著
(ちくま新書)

『新・敬語論/なぜ「乱れる」のか』
井上史雄著
(NHK出版新書)

『シルバー・デモクラシー/戦後世代の覚悟と責任』
寺島実郎著
(岩波新書)

『超ソロ社会/「独身大国・日本」の衝撃』
荒川和久著
(PHP新書)

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