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本を読むと「時代」をより深く知ることができる。執筆依頼を受けてから、かなりのボリュームの原稿を書き、ゲラを何度か出した上での出版である。当然、タイムリー性という点では弱い。しかし出来上がったものの「質」がよければ、タイムラグを読者は甘受できる。
新書でやっと読める「サブプライム」問題
4月刊行新書で目に付いたのは、ようやく「サブプライム」問題を取り上げた本が揃ったこと。これを機に「新書マップ」でも、「サブプライム」というテーマを作る必要が生じたようだ。
『サブプライム問題の正しい考え方』(倉橋透、小林正広著、中公新書)は、問題となった「住宅ローンの証券化」について大きく紙幅を割いて検討。そのうえで、日本の住宅金融システムへの波及と我が国がしておくべきことに触れる。
『サブプライム後に何が起きているのか』(春山昇華著、宝島新書)は、サブプライム問題が金融危機に発展した原因を証券化商品バブルの崩壊であると解説したうえで、中東の国富ファンドなど新たな動きに言及する。
さらに、『金融権力/グローバル経済とリスク・ビジネス』(本山美彦著、岩波新書)も、金融機関が本業をないがしろにしてリスク転売ビジネスを重視する過程を描いたうえで、金融秩序回復に必要な行動を提言する。
他に目に付くのは、低迷を続ける日本経済への提言のひとつとして「企業組織」に言及した本。こちらも3冊出ている。
和歌山大学経済学部教授が著したのが、『部長の経営学』(吉村典久著、ちくま新書)。企業が長期的に成長する鍵を握るのは、部長・課長というミドル層だとして、ミドル層の声が生かされる経営を勧める。『御社のトップがダメな理由』(藤本篤志著、新潮新書)は、成果主義、360度評価、フラット型組織、ボトムアップ主義が、諸悪の根源だと断言。こうしたシステムを都合が良いと導入した会社トップを断罪する。
昨今頻発する企業不祥事について著したのが、『法律より怖い「会社の掟」』(稲垣重雄著、講談社現代新書)。良識ある人間の集合体であるはずの優良会社が、不祥事を起こす理由は何か?朝日新聞文化財団が主催した「企業の社会貢献度調査」(もともとは朝日ジャーナルが開始)で調査実務等を担当した著者は、会社員の行動様式にそれぞれの会社の明文化されていない社内ルールの存在を嗅ぎ取った。その「会社の掟」こそが、企業不祥事発生に大きく関わっていると考える。
「バカ親」は「まともな親」を駆逐する!?
前の月にも紹介した「バカ親」を取り上げた本は、4月にも2冊刊行されている。両書とも、親のバカぶりをことさらに強調するわけではない。バカ親問題について冷静な見方をしているので、好感が持てる。
『凶暴両親』(成松哲著、ソフトバンク新書)は、「日経新聞」「SPA!」などで執筆を続けるジャーナリストが、その取材の成果を記す。バカ親が増えていることは事実だが、その存在について騒ぎ立てたり不必要に怯えたりすることは、子供の成長になんらメリットがないという著者の主張はうなずける。
『バカ親って言うな!/モンスターペアレントの謎』(尾木直樹著、角川oneテーマ21)の著者は、『教師格差――ダメ教師はなぜ増えるのか』(角川oneテーマ21)というバカ教師本も著している教育問題のプロ。同書によると、最近、あまりにもバカ親問題が取り上げられるために、子供のために教師にまっとうな相談をすることを躊躇する親が出てきているという。自分もまた、「モンスターペアレント」扱いをされてしまうのではないかという怖れゆえだ。バカ親が存在することで損をしているのはまともな親とまともな教師であり、そしてなにより子供達なのだ。「バカ親」の存在は、非常に大きな社会問題でもある。にもかかわらず、テレビでおバカタレントが重宝されるのと同じレベルでバカ親を笑っていいわけがない。
さて、「テレビ」に関する新書も2冊出た。
『テレビ救急箱』(小田嶋隆著、中公新書ラクレ)は、テレビに愛情と憎しみを抱くコラムニストの連載をまとめただけのもの。それぞれのコラムは面白いのだが……。週刊誌の連載として毎週読む分には、充分に楽しめるコラム群だ。だが、単にそれをまとめて新書にするというお手軽さを許すようでは、出版界はテレビを嘲えない。
かつて経済産業省でコンテンツ産業政策を担当し、常に「放送と通信の融合」に携わってきた著者による『テレビ進化論/映像ビジネス覇権のゆくえ』(境真良著、講談社現代新書)。「放送と通信の融合」により、テレビはどう変わるか。あるいはテレビに変わるなにものかがもたらされるのだろうか。この疑問に対する答えは、しかし読んでもよく分からないままだが。
ユダヤ人がドイツを“支配”していた時代があった!!
他に、4月には普段はあまり出版されないようなテーマを扱った書が多かったので、駆け足で見ていきたい。
「ユダヤ人」を取り上げた本が2冊。
『ユダヤ人 最後の楽園/ワイマール共和国の光と影』(大澤武男著、講談社現代新書)は、ドイツ・ワイマール共和国でのユダヤ人の様子を記した。この時代は、「ユダヤ人天国」「ユダヤ人に牛耳られているワイマール体制」とさえ言われたように、ユダヤ人にとってはドイツ史上最も過ごしやすかった。しかし第一次世界大戦で敗れ、過酷なベルサイユ条約を呑んだドイツ国民には、やがて排外的・国粋的な傾向を示し出して……。
『ホロコースト/ナチスによるユダヤ人大量虐殺の全貌』(芝健介著、中公新書)によると、当初はヒトラーもナチ幹部も大量殺人を考えてはいなかったという。同書はナチ体制という加害者側からの視点で、戦争の発展に伴って「追放」から「虐殺」へと行き着く過程、ならびにその惨劇の様子を詳述する。
「理系」の人々と、「理系」を目指す(子供に目指させる)人への提言書も2冊。
『理系のための人生設計ガイド/経済的自立から教授選、会社設計まで』(坪田一男著、ブルーバックス)の著者は、慶應大学医学部教授。理系の研究者だからといってただ研究成果をあげさえすれば良いというわけではないし、注意してさえいれば避けられるはずの問題で研究を断念せざるをえないこともある。「理系にも人生設計が必要だ」という信念のもとに、若い研究者に可能性を拓くためのアドバイスを送る。
『子供は理系にせよ!』(大槻義彦著、生活人新書)は、これからは文系よりも理系が有利と説く“火の玉教授”(子供も孫も理系に進んだ)が、我が子を理系に進ませる方法を伝授する。
最後に、「中東」を取り上げた本を紹介する。
『イランの核問題』(テレーズ・デルペシュ著、早良哲夫訳、集英社新書)の著者は、フランスで最も権威のある文学賞・フェミナ賞(エッセー部門)を受賞した核問題の専門家。核の軍事利用に野心を抱くイランと、それを牽制する各国の動きを分析。これからどのような行動をすべきかを示しながら、核をめぐる地政学を記す。
もう1冊、なかなか面白い視点でイラクを紹介するのが、『イラクは食べる/革命と日常の風景』(酒井啓子著、岩波新書)。中東の専門家が、フセイン後に宗教対立、民族対立が激しくなったイラクという国を、食べ物という視点から解き明かしていく。イラクの代表的料理のレシピまで付いているのが新しい。このように切り口を少々変えることで私達の知識欲を刺激する本こそ、新書に相応しいと思う。
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