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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2018年9月刊行から 編集部

NEW

18/10/15

新たなステージに立つ宇宙開発

 宇宙開発競争がいま、大きな変革期を迎えている。これまでの宇宙開発は国の威信をかけ、政府系宇宙機関と大企業が中心となって進められるものだった。近年、多数の大学やベンチャー企業などが参入し、新たなビジネスの場として注目を集めるようになった。『宇宙はどこまで行けるか/ロケットエンジンの実力と未来』(小泉宏之著、中公新書)では、「はやぶさ」プロジェクトに携わった著者が、宇宙開発の最前線を紹介する。
 いま注目を集めているのは、米国の民間ロケット打ち上げ企業、「スペースX」社である。IT企業の創始者が立ち上げたこの会社が重要視するのは「コスパの高さ」。打ち上げ数を増やし、打ち上げロケット一部の再利用に取り組むなど、これまでの宇宙開発の常識を打ち破り、低コスト化をめざしている。
 著者によれば、新たな技術を開発しながら既存の技術も応用するなどして、「持続性を意識した低コストで高頻度に宇宙へ進出する時代に突入した」という。
 つい先日、「スペースX」社が2023年に予定する世界初の民間人「月旅行者」第1号に、日本の実業家が選ばれたことが発表され、大きな話題を呼んでいる。近未来に実現可能性の高い惑星探索から、SFの世界のような「太陽系外惑星」の話題まで、宇宙開発の可能性を語りつくす。

 大学入試センター試験、いわゆる「センター試験」は2020年1月の実施を最後に廃止される。このあと新たに導入される「大学入学共通テスト」では、試験の内容が大幅に変更されることが決まっている。「国語」と「数学」では従来のマークシート式に加え、記述式の試験が課されることになった。『国語教育の危機/大学入学共通テストと新学習指導要領』(紅野謙介著、ちくま新書)は、既に全国の高校生を対象に試行された「プレテスト」と「新学習指導要領」を詳細に分析し、慌ただしく、強引に進もうとしている改革の問題点を洗い出す。
 大学入試における記述式問題は、公平性の面から「多数の採点者が同じ基準で正確に採点する」ことが求められることは当然だ。しかし、採点の厳密化をめざせばめざすほど、「正確に採点することが可能な問題」作りが必須となる。結果的に高い正答率となり、選抜試験の役割を果たさないと指摘する。膨大な予算を使って、「記述式を導入する」という目的のために行われる、徒労に満ちた社会実験に何十万人の若者をつきあわせるのか、と厳しく批判する。

 2018年、小学校で道徳が正式な教科となった。2019年には中学校でも教科として道徳が教えられることとなる。正式な教科名は、「道徳科」ではなく、「特別の教科 道徳」というものである。『誰が「道徳」を殺すのか/徹底検証「特別の教科 道徳」』(森口 朗著、新潮新書)は、教育評論家である著者が、戦後70年、道徳教育が教科として正式に認められるまでの経緯を解説する。文科省は道徳教育の目標をどのように考えているのか。道徳は何を教え、何を教えないのか。各国は道徳教育をどのように取り扱っているのか。宗教教育と道徳教育はどう違うのか。教育勅語の内容とも比較し、さまざまな課題を明らかにしている。

 2020年からは、小学校で英語が教科として正式に教えられる。『子どもの英語にどう向き合うか』(鳥飼玖美子著、NHK出版新書)は、英語教育の専門家の著者から、子どもたちの保護者に向けて書かれたもの。現在の英語教育は既に親世代の頃と様変わりしており、大人たちが自分が受けた英語教育を思い出して判断すると、子どもを誤った方向に導きかねない、と指摘する。
 現代の英語教育をめぐる状況を解説し、親に求められる役割は何かを伝えている。小学校の教科としての「英語」は、あくまで中学・高校で学ぶための「素地」を養うためにある。実際にできなくても、中学高校へと進み、じっくり学べばよいから焦らず安心して、という。
 これからAIがどんなに進化しても、「思考力」「読解力」「コミュニケーション能力」は、母語で培うことが土台になると繰り返しうったえている。これからの時代、子どもたちに必要な英語力は何か、冷静に考えてみてはどうかと提案している。

「働き方改革」で得をするのは誰か

「働き方改革」の嘘/誰が得をして、誰が苦しむのか』(久原 穏著、集英社新書)の著者は、政府主導で進められている「働き方改革」について詳細に検証する。一見、「長時間労働の是正」や「同一労働同一賃金の導入」など、働く人にとってメリットが多いと思わせるような内容だが、実態は必ずしもそうではない。それらの陰に、「残業代がゼロになる」といわれる高度プロフェッショナル制度、裁量労働制の対象拡大、雇用流動化など、働く人のためとは到底言えないような実態が隠されている。政府がなぜ「働き方改革」を言い出したのか。本来労働問題を扱う厚生労働省ではなく、経営サイドにたつ経産省主導で進められてきたことからも、その狙いは明らかだと指摘する。「働き方改革」という名目で雇用制度を無理矢理につくり変えるのは政府のなすべきことではない、と厳しく批判している。

中高年に効く! メンタル防衛術』(夏目 誠著、文春新書)の著者は、精神科産業医として40年の長きにわたって日本の職場を見てきている。ここ10年ほどのあいだ、日本の会社の職場環境は大きく変わり、職場の空気、人間関係の変化がメンタルヘルスにも大きな影響を与えていると指摘する。日本の職場はかつてと比べて格段に「労働密度」が上がり、人手不足により余裕がない状況にある。業務とは関係のない「雑談」が消え、「雑務」が減ったことで、職場にゆとりが消え、メンタルヘルスから見ても非常に懸念すべき状態にあると指摘する。

50歳からの孤独入門』(齋藤 孝著、朝日新書)は、人生の後半戦、50歳からの日々をよりよく生きるために必要なことについて、著者自身の実感をこめて提言する。「現実と上手に折り合いをつけること」「もう競争には参加しなくてもいいと思うこと」「孤独や退屈に慣れること」などをあげる。
 著者が「あまり軽く考えないほうがいい」とあえて取り上げているのが、中高年の恋愛について。中高年の恋愛、とくに50代を越えた男性は、自分が「モテない」ということを認識し、自分の立場をしっかり見つめ直したほうがいい、と指南する。若い頃は「まあまあモテた」という人ほど、他者からの評価と自己評価とを折り合いをつけることが難しく、勘違いしたり、セクハラやストーカー行為を起こすことにもなりかねない。社会的地位が高く、経済的にも余裕がある男性も、現実世界と折り合いをつけ、「恋愛市場での自分の価値」を冷静に受け容れる必要がある、と指摘する。

2025年 中国の「紅船」襲来?

二〇二五年、日中企業格差/日本は中国の下請けになるか?』(近藤大介著、PHP新書)は、中国問題に詳しいジャーナリストが、アリババ、テンセント、ファーウェイ、DJI、等々、世界市場を席巻しつつある中国IT企業の最先端事情を分析している。本書では、習近平政権が推進しようとしている、「2025年までに中国が世界NO.1の製造強国になる」ことをめざす「中国製造2025」という計画の全貌を解説する。
 この計画がもし実現すれば、中国はアメリカを超える経済強国となるが、そのとき日本はどうなるか。ビジネスの世界で、「考え抜いてから進む」日本に対し、「常に爆走しながら考える」中国式で、IT技術を駆使した製造業やAIをフル活用したサービスは、私たちの想像をはるかに超えるスピードとスケールで進化を遂げている。キャッシュレス化が遅れている日本市場を開拓し、日本企業の買収を本格させようとしている、かつての黒船ならぬ「紅船」の襲来に、日本はどう対処したらよいか、考えさせられる。
 中国政府が、個人がSNS上でやりとりしている文字や写真、映像を検閲していることはよく知られている。国益や国家の安定に基づいたビッグデータの活用を、プライバシー保護よりも優先させる方針にあることは誰の目からも明らかだ。著者は、AI革命と社会主義国家との親和性の高さについても指摘し、中国式の「AI社会主義」が世界を席巻する可能性も考えておく必要があると警告している。

中国経済講義/統計の信頼性から成長のゆくえまで』(梶谷 懐著、中公新書)は、世界第2位のGDPを誇る中国経済の現在と今後の課題を分析する。序章からずばり、「中国の経済統計は信頼できるか」と題し、「中国のGDP統計は擬装されているのではないか」「実際は世界第三位ではないか」という疑問に対し、詳細に解説していく。著者の見解としては、現在の中国の経済統計には、「過大評価」「地方レベルでの統計数字の虚偽報告」などさまざまな点で精度に問題があるのは事実だが、あくまで「誤差の範囲」である、としている。
 日中の経済関係を考える際に、「中国GDP統計はデタラメ」と思い込むのではなく、冷静に議論するための材料として知っておくべきだとしている。その他、中国経済が抱える課題について解説する。「シルクロード経済ベルト」と「21世紀海のシルクロード」をあわせた「一帯一路」構想は、中国および日本を含めた周辺国にとってどのような意味をもつか、ということにもふれる。

日本と世界の1968年

世界史のなかの文化大革命』(馬場公彦著、平凡社新書)は、その発動から50年たった現在も、本国では研究を公開することも、公の場で語ることも禁じられたままにある「文化革命」を振り返る。ただし本書は、文革について、「中国現代史におけるある特殊な10年間の災厄」という従来の受け止め方とは違う視点をもつ。50年前の1968年、世界同時多発的に若者たちの反乱が起こったのはなぜか。文革の発端として、1965年にインドネシアで起きた「9.30クーデター」(1965年10月1日未明)から描くという、これまでにない試み。

 1968年は、激動の年で、世界の若者が旧世代と闘った年だった。その年日本では何が起きていたのかを独自の視点で切り取っているのが『1968年』(中川右介著、朝日新書)。今から50年前に大衆が夢中になった音楽、漫画、映画それぞれの動向に着目している。ザ・タイガースは、若者に絶大な人気を誇りながら「男性にふさわしくない長髪だから」という理由でその年の「紅白歌合戦」に選ばれなかった。『少年マガジン』『少年サンデー』に続き、漫画雑誌が次々創刊され、『あしたのジョー』の連載が始まるなど、たくさんの人気作品が生まれている。斜陽化しつつあった日本映画界では、松竹、東宝、大映、東映、日活の五社それぞれ監督からスタッフ、役者らすべてを専属契約で縛る「五社協定」があったが、石原裕次郎ら大スターたちにより、「五社協定」からの「独立」が始まった。新世代と旧世代の衝突するエネルギーが、大衆娯楽で何を生んだのかを振り返っている。

薬物依存症/シリーズ ケアを考える』(松本俊彦著、ちくま新書)の著者は、薬物依存症治療の専門家。日本では、薬物依存症の人は「意志が弱い」「快楽主義者」「反社会的組織の人」など、さまざまな先入観のもとに報道され、語られてきている。著者は、薬物依存症治療の第一歩は、彼らの孤立を防ぐことだとし、従来のような懲罰的な視点でのみ語られる薬物乱用防止教育の限界についてうったえる。
 薬物依存症というと、薬物に縁がない大多数の人は、覚せい剤や大麻、危険ドラッグなど「違法薬物」を思い浮かべることがほとんどだろう。だが、昨今の日本で覚せい剤に次いで問題となっているのが、うつ病患者などに処方される「睡眠薬、抗不安薬」や「市販の感冒薬や鎮咳薬、鎮痛薬」といった、「違法ではない」薬物の乱用や大量服薬にあるということは、もっと知られるべきだろう。

(編集部 湯原葉子)

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『宇宙はどこまで行けるか/ロケットエンジンの実力と未来』
小泉宏之著
(中公新書)

『国語教育の危機/大学入学共通テストと新学習指導要領』
紅野謙介著
(ちくま新書)

『誰が「道徳」を殺すのか/徹底検証「特別の教科 道徳」』
森口 朗著
(新潮新書)

『子どもの英語にどう向き合うか』
鳥飼玖美子著
(NHK出版新書)

『「働き方改革」の嘘/誰が得をして、誰が苦しむのか』
久原 穏著
(集英社新書)

『中高年に効く! メンタル防衛術』
夏目 誠著
(文春新書)

『50歳からの孤独入門』
齋藤 孝著
(朝日新書)

『二〇二五年、日中企業格差/日本は中国の下請けになるか?』
近藤大介著
(PHP新書)

『中国経済講義/統計の信頼性から成長のゆくえまで』
梶谷 懐著
(中公新書)

『世界史のなかの文化大革命』
馬場公彦著
(平凡社新書)

『1968年』
中川右介著
(朝日新書)

『薬物依存症/シリーズ ケアを考える』
松本俊彦著
(ちくま新書)

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