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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2017年4月刊行から 編集部

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17/05/15

「立憲主義」という安全装置が壊れたきっかけ

「天皇機関説」事件』(山崎雅弘著、集英社新書)は、1935年、「天皇機関説」という憲法解釈を提唱した憲法学者の美濃部達吉が、天皇を崇拝する退役軍人や右派政治家らにより激しい批判を受けた「「天皇機関説」事件」と呼ばれる政治的弾圧事件をとりあげる。この事件以降、天皇の名を借りた「軍部による権力の暴走」を止めることができる者は誰もいなくなった。著者は、「立憲主義」という安全装置が壊れ、「昭和史の重要な分岐点」ともいえる当時の状況に、現在の政治・社会状況との類似点を見出している。

天皇125代と日本の歴史』(山本博文著、光文社新書)は、「神話の世界の天皇」を含む、全125代、北朝5代の全130代に及ぶ天皇の事蹟をたどり、国家の統治権や政治的な権威の変遷から日本の歴史を概観していく。著者は、まず神武天皇について、「実在した人物だと思っている人がいるようだが、『日本書紀』でさえ実在したとは信じていない伝説上の人物である」と記し、そうした伝説上の人物を含め、それぞれの天皇が「どんな人物とされ、伝えられてきたか」を知っておくことに意義があるのでは、としている。

肖像で見る歴代天皇125代』(小田部雄次著、角川新書)も同様に、神武天皇から今上天皇までの全125代、北朝5代の天皇について肖像画、写真などとともに、生没年や在位期間、前天皇との関係などデータを簡潔に整理してありわかりやすい。

 幼稚園や保育園でも「君が代」を歌わせるべきだ、「教育勅語」は現在にも通じる普遍的な部分があるから再評価すべきという声が一部であがっている。『文部省の研究/「理想の日本人像」を求めた百五十年』(辻田真佐憲著、文春新書)の著者は、一見戦前回帰的と思われがちなこうした動きについて、保守派が「君が代」「教育勅語」など肯定しやすい「記号」に反応しているだけの、きわめて戦後的な光景だと指摘する。本書では、「君が代」や「軍歌」の歴史を研究してきた著者が、明治維新以降の約150年間、「理想の日本人像」を追い求めてきた文部省(2001年以降は文部科学省)の歴史をたどる。

自民党/「一強」の実像』(中北浩爾著、中公新書)は、2012年に政権に復帰して以来「一強」状態にある自民党が、それまでとどう姿を変えてきたかを分析している。著者は、結党以来、時代と共に自らの組織と理念を柔軟に変えてきたことが、自民党が長きにわたって存続できた一因だ、としている。かつて自民党の代名詞だった「派閥」は衰退し、個人後援会や支持基盤も弱体化しているなか、「一強」状態にある背景は何か、公明党との関係もふまえて考察する。

散歩、まち歩きブームを支える地図の魅力

カラー版 東京いい道、しぶい道』(泉 麻人著、中公新書ラクレ)は、コラムニストの著者ならではの視点からみた「歩きがいのある道」を紹介する。旧道や路地に着目する「まち歩き」は、「なんとなくバブル期以降にじわじわと人気がでたような印象がある」と筆者は記している。地図を手にした「散歩・まち歩き」ブームの先駆者ともいえる著者が、時代の変化を敏感にとらえつつ、風情ある道を気まぐれに歩いていく。

カラー版 東京凸凹地形散歩』(今尾恵介著、平凡社新書)は、同じく東京散策のためのガイド本。谷、崖、坂道など地形の起伏(凸凹)、地質に注目しながら歩いてたどる楽しみを持つ人が増えているという。地形に注目する人が最近急速に増えているのは、テレビ番組で取り上げられるようになったことに加え、国土地理院の5メートルメッシュの標高データが誰でも利用・加工できるようになったことが背景にあるのではないか、と指摘する。これまでプロしか手をだせなかった分野に、さまざまな興味・関心から参加し、独自の視点から地図を作成し、活用できる時代が来ているようだ。

列島縦断/「幻の名城」を訪ねて』(山名美和子著、集英社新書)は、ひと味変わった「城めぐり」の本。天守閣がそびえ観光客を集める国宝級の名城ではなく、石垣や土塁、堀、建物跡など遺構が残るばかりの城を中心に、地図を片手に歴史の跡をめぐる。

身近な自然の観察図鑑』(盛口 満著、ちくま新書)は、一見自然環境とはほど遠い都市環境でも、自然観察の入り口は見つけられる、という新しい視点の観察図鑑。家の中で見かけるアリと外にいるアリの違い、スーパーで見かける野菜や果物、カラスやネズミなどの生き物……。著者自身による精密なスケッチが、目のつけどころと楽しさをより魅力的にしている。

ストレス社会と向き合うための備え

震災が起きた後で死なないために/「避難所にテント村」という選択肢』(野口健著、PHP新書)は、登山家として苛酷な環境を知る著者ならではの、災害支援についての提案。著者は2016年熊本地震の際に、さまざまな理由から避難所ではなく車中泊を余儀なくされた被災者約600人に向け、より快適な「テント泊」を提案した。自治体と調整を重ね、「テント村」開設にこぎつけた経験から、「テント村」のもつ可能性と課題を語る。災害時という極限の状態でこそ、我慢することを美徳としてはいけないと、日本人全体の意識改革をうったえる。

 現代社会において、さまざまなストレスをすべて避けて生きていくことは不可能だ。『ストレスのはなし/メカニズムと対処法』(福間詳著、中公新書)の著者は、精神科医。25年間にわたり自衛隊精神科医官を務め、2003年からのイラク復興支援では現地に赴き自衛官のメンタル面のサポートを担当した経験をもつ。戦闘地域で目にした自衛官のストレスは「現代社会におけるストレスの濃縮」ともいえるものだったという。著者は、ストレスという「敵」に打ち勝つために日ごろから備えておくべきことと、いざストレスに直面した時の対処法を、多くの診療経験にもとづいて具体的に助言している。著者は、ストレス対策という面からも生活のなかに「遊び」という余白をもつことがいかに重要か、再三強調している。

(編集部 湯原葉子)

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『「天皇機関説」事件』
山崎雅弘著
(集英社新書)

『天皇125代と日本の歴史』
山本博文著
(光文社新書)

『肖像で見る歴代天皇125代』
小田部雄次著
(角川新書)

『文部省の研究/「理想の日本人像」を求めた百五十年』
辻田真佐憲著
(文春新書)

『自民党/「一強」の実像』
中北浩爾著
(中公新書)

『カラー版 東京いい道、しぶい道』
泉 麻人著
(中公新書ラクレ)

『カラー版 東京凸凹地形散歩』
今尾恵介著
(平凡社新書)

『列島縦断/「幻の名城」を訪ねて』
山名美和子著
(集英社新書)

『身近な自然の観察図鑑』
盛口 満著
(ちくま新書)

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