風
 
 
 
 
 
 
[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン

新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2017年6月刊行から 編集部

NEW

17/07/15

フェイクニュースとポストトゥルースの時代

 何が事実かわからない、何を信じていいのかわからない。虚偽の情報(フェイク)と事実(ファクト)が混在している環境に投げ出された私たちはどうすればよいのか。『フェイクニュースの見分け方』(烏賀陽弘道著、新潮新書)では、元新聞記者のジャーナリストが実践する、「ファクトチェック」の具体的な方法を紹介する。新聞・雑誌・テレビ・書籍といった「旧型」メディアは衰退しつつあるが、インターネット時代に情報の「発信者」は爆発的に増えている。従来はマスメディア企業が組織として情報の内容をスクリーニングし、発信者の信用性を担保していた。ネットに溢れる「自称」専門家、「自称」当事者、「自称」目撃者からの情報を自分でどうチェックしていくか。発信者の信頼性を確かめるために、どのような点があれば「疑わしい」とするか、つまり情報の「捨て方」について著者の手法を紹介する。著者は発信者の質を評価する際、しかるべき「本」を出しているかどうか、という点を重視しているという。本書が、書籍として刊行されていることにも、その意味で大きな意義があるようだ。

 同じくフェイクニュースについて、フェイクニュースとは何なのか、その種類やどのように拡散していくのかを分析しているのが『信じてはいけない/民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(平 和博著、朝日新書)。著者は新聞記者であり、専門分野はIT関係だという。2016年のアメリカ大統領選の直後、トランプ新大統領誕生を機にアメリカ国内でも、世界的にも「フェイクニュース」という言葉が時代のキーワードになった。情報やメディアそのものの信頼が損なわれるのではないか、という危機感も世界中に広がっている。
 主要メディアや専門のネットメディアが事実関係を確認し、「フェイク(虚偽)」と認定されたものは数多い。そうしてフェイクニュースと認定されてもそれでもなお、そのニュースを信用する人々はいる。今まさに、「世論の形成において、客観的な事実よりも、感情や個人的信条へのアピールが影響力をもつ状況」という、ポストトゥルース(脱真実)時代にあると主張している。

人口減少社会の実態を直視する

 人口減少が進むなか、将来を考えれば最終手段として「移民」という選択肢をとるしかないのでは、と主張しているのが『限界国家/人口減少で日本が迫られる最終選択』(毛受敏浩著、朝日新書)。日本の最大の課題は人口問題であるという社会での共通認識はできている。しかし、「移民」という言葉が出たとたん、「政治家は後ろを向き、メディアは一斉に慎重になる」と指摘する。移民を、単に人口減少を補う単純労働のための労働力としてみるのではなく、日本を新しいステージとして導く存在としてみるべきだと主張する。
 一方、単純労働の担い手とは別に、政府が積極的に日本への定住を促そうとしている、学術、技術、経営などの専門分野で極めて優秀な「高度人材」の獲得競争という問題もある。多言語対応可能な行政サービス、レベルの高い教育環境、受け入れ企業の待遇保証など、グローバルに活躍する人々にとって魅力的ある受け入れ体制をどこまで提供できるか、という課題にもせまる。

マイホーム価値革命/2022年、「不動産」の常識が変わる』(牧野知弘著、NHK出版新書)の著者は、不動産ビジネス全般に詳しく、少子高齢化社会が進むこれから「空き家」が全国に増加する、いわゆる「空き家問題」について著書でたびたび警鐘を鳴らしてきた。「空き家問題」についての反響は著者自身が驚くほど大きなものだったという。本書で指摘する「2022年」とは、これから5年後、都市郊外部における生産緑地(相続税、固定資産税の優遇があった)として登録された広大な土地が、30年の期間満了を迎え、生産緑地が大量に不動産マーケットに登場することが予想される年だという。団塊世代の「持ち家」が「空き家」となり、賃貸物件として大量に供給され、広大な生産緑地が宅地となる時代。日本人が今まで信じてきた不動産に対する価値観は大きく変わっていくべきではないか、としている。戸建て、マンションのいずれにしても、住まいとして家を選ぶ場合には、「値上がりするかもしれない」という甘い期待を抱くべきではない、と助言する。専門家の助言としてはきわめてシンプルだが、それを実践することがいかに難しいか、ということなのだろう。

 日本が少子高齢社会にあるのはすでに常識だが、その実態を「正確に」分かっている日本人はどれだけいるだろうか。国会議員、官僚、地方自治体の首長、経済界の重鎮たちなど、政策決定の大きな影響をもつそうした人々からして、人口減少の実態を正確に分かっていないと指摘しているのが『未来の年表/人口減少日本でこれから起きること』(河合雅司著、講談社現代新書)の著者である。
 例えば「少子高齢化に歯止めをかける」「我が自治体の子どもの数を増やす」などという発言が、現実を見ていない典型例だと指摘する。子育て支援が成果をあげ合計特殊出生率が多少改善したところで、出生数が今後増加することにはならない。今後数年で日本全国すべての自治体で人口が減るときに、一部の自治体で人口が増えた減ったと一喜一憂している場合ではない。今直視すべきなのは、人口の絶対が激減したり、高齢者が激増したりすることによって生じる弊害と、その対応策である、と断言している。
 本書ではタイトル通り、「2020年 女性の2人に1人が50歳以上になる」、「2021年介護離職が大量発生する」、「2022年「ひとり暮らし社会」が本格化する」と始まり、「2065年 外国人が無人の国土を占拠する」に至るまで、データをもとにしたきわめて具体的な懸念事項を、年表形式にして明確にしている。さらにそれに対する処方箋を、「いま取り組むこと」として提案している。

身体のふしぎ

 洋の東西を問わず人間は古くから植物や動物など天然由来の香りを利用してきた。香りは残らないが防臭や防腐など実用的な用途のほか、宗教儀式など精神的な作用を目的として利用されていたことが史料にも残っているという。『「香り」の科学/匂いの正体からその効能まで』(平山令明著、ブルーバックス)では、身近にある「香り」の正体に科学的に迫る。目にはみえない香りを「香料」として形にしてきた技術の変遷をたどる。
 化学の研究において複数の化合物を別々にするという「分離」という技術は、生物科学のもっとも基本的な技術だという。香りの成分を分離するという繊細な技術のプロセスが、実験室を再現するように詳細に説明されていて興味深い。快い香りや匂いも、不快な「臭い」も、私たちの生活の身近に常に存在するが、嗅覚について系統的もしくは科学的に習う機会がほとんどの人にはない、ということを改めて知らされる。視覚や聴覚に比較して、嗅覚に関する研究はまだ手の付けられていない重要な課題がまだまだたくさんあるという。科学的研究が進む余地がおおいにある分野である、ということもいえる。

 不快な汗の匂いを目立たないようにする香料、汗をうまく吸い取るような肌着など、汗にまつわるさまざまな商品が開発されている。一方で、「いい汗をかく」ためにわざわざ体を動かす、という人もいる。いい汗、悪い汗の成分に違いはあるのだろうか。『汗はすごい/体温、ストレス、生体のバランス戦略』(菅屋潤壹著、ちくま新書)では、人体にとって重要な「発汗」という作用の基礎を専門家が詳しく解説する。本書では、最近特に問題となっている熱中症に関して、軽症から重症にわたるまでそのなりたちと汗との関係について述べられている。高齢者と乳幼児が熱中症、しかも重症になるリスクが高いさまざまな要因や、疾病によって特に熱中症のリスクの高いケースがあることなどについて学ぶことができる。。

ブラック企業、ブラック部活の背景にあるもの

「働き方改革」が叫ばれ、健康に働いていくにはどうしたらよいかを真剣に見直そうという機運が来ている。『産業医が見る過労自殺企業の内側』(大室正志著、集英社新書)の著者は約30社で産業医として務め、第三者的な立場から延べ数万人の「企業戦士」たちの「働き方」を観察してきた。メンタル不調はどんなに働く環境を整えても、個人的要素もあり、決して「ゼロ」にはならないと著者はいう。しかし、長時間労働による過労でうつ病や抑うつ状態に陥り、冷静な判断能力をなくしてしまった末の自殺は「防げた自殺」であり、こうした「防げた自殺」をできる限りなくしていく必要があるとうったえる。
 こんな社員、会社は過労自殺を引き起こす、という共通点に着目し、注意すべきポイントを紹介する。うつ病からの復職が可能かどうか、どう判断していくかは、あくまで本人に寄り添う主治医からの視点だけではなく、産業医ならではの視点も重要だということがわかる。

 日本で教育を受けて来た人ならば、「部活」の経験が全くないという人はごく少数派だろう。部活で得た経験(成功体験とは限らなくても)や人間関係が「一生の宝物」と言い切れる人は幸せだ。ブラック企業のようにその存在が「ブラック」に成り得るのではという実態が明らかになり、問題となっている。『部活があぶない』(島沢優子著、講談社現代新書)では、生徒、教師、保護者いずれにとっても「ブラック」な存在となりかねない現在の部活の実態を紹介する。2020年からの大学入試改革では、「人物重視の多方面な評価」として、部活での経験がこれまで以上に大学受験の評価対象になることが予定されている。今後、部活に入らない、という選択肢がとりづらくなってくるからこそ、「ブラック部活」解消は急務である、と著者はうったえる。

 有名人の離婚に関する話題などで最近耳にすることが増えてきたのが、「親権」という言葉である。深刻な児童虐待から子どもを救出しようとする際、虐待している親権者から子を引き離すにあたり、「親権」が子どもを保護する際の「壁」と感じられる場合もある。「親権」をめぐる争い、などと語られるその「親権」とはいったいどのような権利なのか。誰のためのものなのか。『親権と子ども』(榊原富士子; 池田清貴著、岩波新書)では、親権とは誰の誰に対する権利で、誰の誰に対する義務なのか、という基本的なことを、かみくだいて説明する。家制度があった戦前の明治憲法下では「親権」とは事実上「父権」であった。同じ言葉でありながら、子どもを「一人の人格をもつ権利の主体として尊重する」という解釈にたどり着いたのは、日本の歴史の中でも比較的最近のことだという。
 二人の弁護士の共著による本書は、複雑な法律の条文を具体的な例を紹介しながら読み解き、「子どものため」という視点で一貫して語られる。自分の親権を争われている子どもさん自身にも「少し背伸びをして」読んでほしい、と語りかけている。10歳前後になれば、裁判所でも子どもの意見を聴いてもらい尊重される仕組みができている、ということを多くの人がもっと知っておいてほしい、としている。

(編集部 湯原葉子)

BACK NUMBER

『フェイクニュースの見分け方』
烏賀陽弘道著
(新潮新書)

『信じてはいけない/民主主義を壊すフェイクニュースの正体』
平 和博著
(朝日新書)

『限界国家/人口減少で日本が迫られる最終選択』
毛受敏浩著
(朝日新書)

『マイホーム価値革命/2022年、「不動産」の常識が変わる』
牧野知弘著
(NHK出版新書)

『未来の年表/人口減少日本でこれから起きること』
河合雅司著
(講談社現代新書)

『「香り」の科学/匂いの正体からその効能まで』
平山令明著
(ブルーバックス)

『汗はすごい/体温、ストレス、生体のバランス戦略』
菅屋潤壹著
(ちくま新書)

『産業医が見る過労自殺企業の内側』
大室正志著
(集英社新書)

『部活があぶない』
島沢優子著
(講談社現代新書)

『親権と子ども』
榊原富士子; 池田清貴著
(岩波新書)

PAGE TOP
Copyright(C) Association Press. All Rights Reserved.
著作権及びリンクについて