風
 
 
 
 
 
 
[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン

新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2019年3月刊行から 編集部

NEW

19/04/15

平成とはどんな時代だったのか

 新元号「令和」が公表され、次の時代の幕開けまでカウントダウンが始まった。平成という時代を振り返るとともに、天皇その人について語る新書も刊行されている。
平成の終焉/退位と天皇・皇后』(原 武史著、岩波新書)の著者は、平成とは、「天皇制の新たなスタイルが確立された時代である」と評している。これまで、昭和天皇や大正天皇に関する著作の他、皇后の影響力に着目するなど独自の視点による天皇観の著書を出している。著者は、平成最大の特徴として、天皇と皇后が常に行動を共にしてきたことをあげ、天皇の傍らに寄り添う皇后の存在感にもふれている。皇太子妃時代から、夫を支え、3人の子どもを育て上げた核家族時代の「良妻賢母」、理想の女性として一定の役割を果たしていたことを評価しつつ、新時代になっても、現在の皇后のような「夫の一歩後ろを歩き、影ながら支える女性」が崇敬されることは負の側面もある、という指摘はなかなか他ではみられない。新皇后には、キャリアウーマン出身の雅子妃にしかできない、新しい時代を担う女性としての積極的な発言を、と期待を寄せる。

天皇の憂鬱』(奥野修司著、新潮新書)は、平成時代の皇室は、それまでとは何が違ったのか、日本人にとって象徴天皇とは何かを考えさせられる一冊。ノンフィクション作家の視点から、天皇陛下その人の「心模様」に迫り、語られることはない「葛藤」を読み解こうとしている。天災が起きるたびに被災地へ赴き、跪いて被災者に語りかける姿。高齢になってもなお、戦争の犠牲者を悼み遺族をいたわり、国内外へ「慰霊の旅」をつづけ祈る姿。「生前退位」という「終活」に向き合う姿。平成の象徴天皇とは、それまでと違って「国民に敬愛される永遠のスターでなければならない存在になった」と著者は分析する。皇后とともに地道に積み上げてきた「象徴天皇としての活動」を振り返り、個としての天皇ご自身の孤独を感じとる。

天皇の装束/即位式、日常生活、退位後』(近藤好和著、中公新書)は、誕生から崩御まで、節目ごとに定められた「天皇の装い」について専門家が解説する。明治以降、天皇の服装は「洋装を旨とする」とされたが、即位式など節目の儀式では、江戸時代までの天皇や周囲の人々と同様、奈良・平安時代以来の厳格な規定に従った「歴史的着衣」である「装束」を着ることになっている。身分や職掌などが「ひと目でわかる」ようになっている装束だが、天皇の装束と上皇の装束の違いなど、専門家の解説がないとその意味するところは一般にはわからない。
 現代まで皇室に引き継がれた装束の歴史を本書で予習して、歴史の節目となるビッグイベント、即位式での天皇(現在の皇太子)、上皇それぞれの装束にも注目してみたい。

平成史』(保阪正康著、平凡社新書)の著者は、ノンフィクション作家。昭和史研究について多数の著作があり、その評価も高い。平成史を振り返る出発点として、2016年8月に「ビデオメッセージ」で生前退位の希望を国民に向け発信したことは、革命的な出来事であった、と指摘する。このビデオメッセージは、「8月15日の玉音放送」にも匹敵する、天皇の「血の叫び」のような、共通点があるといしている。時代が変化するなかで、昭和の戦争がいかに語られてきたのか、昭和史との連続をふまえて平成を振り返る。
 世界史の中での「平成元年(1989年)」は偶然にも東西冷戦終結の時期と重なる。平成の天皇は、昭和天皇の「遺志」を継ぎながら、戦後の清算(追悼と慰霊)のための旅を国内外で続けて来た。その象徴天皇としての道筋は、次の天皇にどう受け継がれていくだろうか。新しい天皇は、好むと好まざるとを問わず、国際社会に身を置くことになるだろう、と予想しているという。

日本経済は「停滞」だけの30年だったのか

平成の通信簿/106のデータでみる30年』(吉野太喜著、文春新書)は、この30年間に何が起きていたのか、さまざまな角度からの「データ」で時代の変化を浮き彫りにしようという試み。1989年の株式時価総額ランキングは1位(NTT)から5位まで日本企業が占めていたが、2018年の同ランキングは1位(アップル)から5位まで米国IT企業が占め、30位以内に日本企業は登場しない(最上位のトヨタ自動車で32位)。また、一人あたりGDPは2000年に世界第2位となったが最新データでは25位まで下落している。いかにも日本が「没落」したという印象だが、データをよく見ると、時価総額の数字そのものが30年前と今では大きく増え、日本企業だけではなく、30年前のランキングに登場した企業はすべて姿を消している。世界経済の主流となる業種が大きく入れ替わったからだ。
 賃金や所得の変化など本書ではさまざまなランキングが紹介されているが、その背景に何があるのか、世界的な傾向か日本独自の傾向なのか、データを見比べながら参照していくと新たな発見がありそうだ。各分野、多岐にわたる指標はそれぞれ興味深いが、今後の日本社会にとって、世界水準に比して日本の「低迷」が特に深刻なのは、「18歳人口の減少」と、「教育費の公費負担額のGDP費比が少ない」ことではないだろうか。

 バブルの崩壊から「失われた30年」とも言われた日本経済。『日本が外資に喰われる』(中尾茂夫著、ちくま新書)は、不良債権処理ビジネスに詳しい著者が、ジャパンマネーはなぜここまで暴落したのか、当時の不良債権処理は適切だったのかを振り返る。世界経済の潮流が変化しても、いまだに日本人を呪縛するのが、戦前から続く「土地本位制」とも呼ぶべき土地担保信仰だと著者は指摘する。
「失われた○年」時代に唯一絶好調だった海外投資家たち。現在も、先物株式売買の中心地、大阪取引所で海外投資家が圧倒的比率を占めている点を著者は注視している。現在ブームとなっている観光立国化も、その内実をみてみると東京や大阪でインバウンド効果の恩恵を受けるのは、大手多国籍資本をバックにもつ外資系ホテルだという。

 昨今世界で急速に拡大しているシェアリングエコノミーに民泊のAirbnbやライドシェアのUberなどのビジネスがある。しかし、日本では、各業界の既得権との調整やすみ分けの問題から、規制が強化されている。現状では、ライドシェアは違法な白タク扱い、民泊は「ホテル・旅館並みの営業は許さない」という方向だ。
岩盤規制/誰が成長を阻むのか』(原 英史著、新潮新書)の著者は、「日本経済を低迷させてきた最大の要因は、政府がビジネスを妨げてきたことにある」と指摘する。官僚機構が強い権力を持ち、役所に色々とお伺いを立てなければ何もできない、「事前規制型」と呼ばれる行政体系から、「事後チェック型」への転換が提唱されながらなかなか進まない。めまぐるしいスピードで変化を続ける時代に、「岩盤規制」改革をどのように進めていくか、政府のあり方をどう変えていくか。既存の規制体制では適合できない問題が続出している今、柔軟性とスピードが要求されるビジネスに対応できる経済特区など「規制の実験場」のような取り組みを世界に先駆けて進めることが、「第四次産業改革」へ対応するためにも急ぐべきだと主張している。

「移民」国家をどのように設計するか

 日本で暮らし働く外国人が増えている。2018年に新たな在留資格「特定技能」の創設も決まり、今後さらに増えていくことは間違いない。平成元年から平成30年の6月時点までで、在留外国人は約2.7倍になり、約246万人となっている。『ふたつの日本/「移民国家」の建前と現実』(望月優大著、講談社現代新書)の著者は、国のかたちが大きく変わろうとしている今、直視すべき現実をつきつけている。日本政府は長らく「移民」という言葉自体をタブー視し、意識的に避けてきている。街に暮らす外国人が増えてきているのを実感しながらも、短期労働のいわゆる「出稼ぎ」がほとんどなのでは、と思う人もいるかもしれない。しかし、「永住権」を持つ外国人に限ってみても既に100万人を超えているという。
 在留外国人が増加する一方で、日本人は人口減少が止まらない。国内における「外国人」の比重は、今後増えていくのは間違いない。さまざまな事情で公的教育を受けられずにいる外国籍の子どもたちや、外国にルーツをもつ「日本人」の子どもたちの問題など、現時点で完全には可視化されていない深刻な課題もある。日本には「移民」はいない、という建前は今後通用しない。移民の存在やその処遇をどうしていくべきか、国家として具体的に向き合うべき時期に来ている、としている。

 大学など留学生を迎える立場にある人や、従業員として外国人を雇用する立場にある人はもちろん、日常生活でのさまざまな機会を通じて外国人に接する場合に知っておくべき重要な基礎知識を解説しているのが、『知っておきたい入管法/増える外国人と共生できるか』(浅川晃広著、平凡社新書)である。
 大学教員の著者は大学でさまざまな国籍の留学生と接し、教育・研究業務のみならず、留学生関連業務も担当している。法務省の難民審査参与員として、難民申請してきた外国人とじかに接してきた経験ももつ。本書の内容は、外国人労働者の受け入れ拡大のために、2018年秋に改正された「入管法」に基づいている。
 国籍とは何か、「外国人」の定義、在留と帰化の違いなど、移民政策や外国人労働者問題を考える際に必要となる、法的な基礎知識についてわかりやすく解説する。外国人労働者は年々存在感を増し、人口減少・労働人口減少が深刻な日本社会にとって、既に欠くことのできない存在となっていることは、さまざまな分野で実感されているだろう。外国人に関する制度設計のありかたは、「国づくり」に直結する、と著者は指摘する。

 観光立国をめざす日本。しかし、紅葉シーズンの京都などを筆頭に、日本の至る所でキャパシティをはるかに超えた観光客が殺到し、「観光公害」ともいうべき状態が起きている。有名な観光スポットはもちろん、これまで穴場とされていたスポットにもSNSの影響で多くの人が押し寄せるようになった。交通、景観、住環境などさまざまなトラブルが続出して、地域住民の日常生活がおびやかされるようになる。
観光亡国論』(アレックス・カー; 清野由美著、中公新書ラクレ)では、いま世界の観光地でも深刻な問題となっている「オーバーツーリズム(観光過剰)」についてとりあげる。著者のひとりアレックス・カー氏は、長年日本に在住する東洋文化研究家。世界の「オーバーツーリズム」対策の事例を紹介し、「観光公害」をポジティブに解決するための提案をする。

(編集部 湯原葉子)

BACK NUMBER

『平成の終焉/退位と天皇・皇后』
原 武史著
(岩波新書)

『天皇の憂鬱』
奥野修司著
(新潮新書)

『天皇の装束/即位式、日常生活、退位後』
近藤好和著
(中公新書)

『平成史』
保阪正康著
(平凡社新書)

『平成の通信簿/106のデータでみる30年』
吉野太喜著
(文春新書)

『日本が外資に喰われる』
中尾茂夫著
(ちくま新書)

『岩盤規制/誰が成長を阻むのか』
原 英史著
(新潮新書)

『ふたつの日本/「移民国家」の建前と現実』
望月優大著
(講談社現代新書)

『知っておきたい入管法/増える外国人と共生できるか』
浅川晃広著
(平凡社新書)

『観光亡国論』
アレックス・カー; 清野由美著
(中公新書ラクレ)

PAGE TOP
Copyright(C) Association Press. All Rights Reserved.
著作権及びリンクについて