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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2019年8月刊行から 編集部

NEW

19/09/15

「アフリカ観」のアップデートを

 史上空前の「人口爆発」が起きているアフリカ。特にサハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)では、多くの国で経済成長が持続し、政情も安定しつつある。もはや「援助される貧しいアフリカ」でも「紛争や感染症で危険な大陸」でもない。しかし、日本人のアフリカ観はその急激な変化に追いついていないため、アフリカへの大企業の進出が諸外国に大きく遅れをとったままだと指摘するのが『アフリカを見る アフリカから見る』(白戸圭一著、ちくま新書)である。1990年代からアフリカの研究に関わってきた著者によれば、アフリカのエリート層からは、「日本企業はリスクを取りたがらず、内向きで、決断が遅い」と見られているという。
 今やアフリカは援助の対象地から、投資の対象地として世界中から注目され、アフリカの人々もそれを自覚している。アフリカとの新しい関係を構築していかなければ、このままでは日本はアフリカの人々から相手にされなくなる。そのときに困るのは日本の側である、と指摘する。

2100年の世界地図 /アフラシアの時代』(峯 陽一著、岩波新書 )は、国連による2100年の人口予測を基に、22世紀に向け世界はどのようになっていくかの予想図を描き出す。アフラシアとは、アフリカとアジアをくくる地理的概念だという。アフリカとアジアは今後100年で急激に人口を増やし、両地域が世界の人口のおよそ4割ずつを占めるようになると予想される。重要なのは、アフリカとアジアで暮らす人々が「圧倒的多数派になる」ということだ。かつての支配者が少数派になり、かつての被支配者が多数派になる。これから22世紀に向かうまでに、地球規模でどのような人口変化が起きるか、日本の立場はどう変化していくのかを予測する。

世界最強組織のつくり方/感染症と闘うグローバルファンドの挑戦』(國井 修著、ちくま新書)の著者は、「HIV・結核・マラリア」の三大感染症と戦うために生まれた国際組織「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称:グローバルファンド)」の戦略局長として活躍する。
 感染症対策という緊急性の高い課題に立ち向かうには、官民両方から莫大な資金を集め、迅速に現場に資金を投入し、効率的・効果的に対策を実施する必要がある。さらに、その実現には知的所有権をめぐって衝突する企業を巻き込む必要もあり、世界保健機関(WHO)といった既存の国際組織や政府間の枠組みで行うことは困難というのが結論だ。そこで2002年にジュネーブに設立されたのが、「世界最強の組織」グローバルファンドだという。地球規模の課題に取り組み、利潤を生まない活動を継続するために最も重要なのは安定した資金調達である。資金調達や投資計画にも必要な、感染症流行の終息は可能か、という未来予測についても述べる。

奴隷船の世界史』(布留川正博著、岩波新書)は、奴隷船を中心に、大西洋貿易をめぐる世界史を振り返る。近代資本主義の発展と切り離すことができない奴隷制と、それを支えていた奴隷貿易をとりあげ、現在にも根強く残る人種差別の問題の根源にふれる。
 近年、奴隷貿易に従事した船舶のデータベースが公開され、約400年間に35000件以上という数字がわかってきたという。「移動する監獄」と呼ばれた、奴隷船の構造図をみると、まるでモノのようにぎっしりと詰め込まれて運ばれ、航海中に死亡した者も多かったことが記されている。奴隷たちは毎日16時間以上は身動きできず板の上に寝かされるが、一日一回は甲板上で音楽に合わせてダンスを踊らされる。商品である奴隷の死亡をできるかぎり少なくするためのさまざまな「工夫」が、怖ろしい。
 著者は、「奴隷制」は決して過去のものにはなっていない、とうったえる。奴隷労働のような状態におかれている人々は世界中に存在し、人身売買、強制労働といった人権侵害が繰り返されている。「現代の奴隷制」をなくすには、問題のある企業に消費者が監視の目を光らせ、奴隷労働や児童労働に反対の声をあげることが重要だ、とうったえる。

日本が狙われているのは「領土」に限らない

 四方を海に囲まれた日本は「海に守られている」と考えられてきた。しかし、「海に守られる日本」から、「日本の海を守る」時代に変わるべき時が来ているのではないか、そう主張するのが『日本の海が盗まれる』(山田吉彦著、文春新書)の著者である。竹島、尖閣諸島、北方領土など領土問題をめぐる海洋安全保障が重要課題となっていることは誰もが承知していることだろう。
 加えて、日本の領海には、海底の天然ガス「メタンハイドレート」や、ハイテク部品の製造に不可欠な希少金属(レアアース)を含む海底鉱山といった海洋資源が手つかずのまま深海に残っている。商業化に向けた開発の是非を検討している間に事業は停滞しているが、日本の海底資源に目を付けた中国の動きに、十分警戒すべきだと指摘する。

売り渡される食の安全』(山田正彦著、角川新書)の著者は民主党政権時代の2010年、農林水産大臣を務めた。世界の農業の流れはこの2、3年で大きく変わり、米国では遺伝子組み換え食品農産物の作付けが減少し、ロシアでも法律で遺伝子組み換えの農産物が輸入も生産も禁止され、中国でも有機農業の成長がめざましい。その世界の流れと逆行するような動きが日本で起きている、と警鐘を鳴らす。
 現在、世界の種子の70%は多国籍アグリ企業によって生産されている。これらの企業は、もとは化学肥料、農薬メーカーであり、種子会社を次々に買収して種子 ー 農薬 ー 化学肥料をセットで販売するという手法で、成長を遂げ多国籍巨大企業に成長してきた。特にモンサント社は除草剤のラウンドアップの耐性を持たせた遺伝子組み換えの大豆・トウモロコシ・綿を開発して、世界の農業を席巻してきたという。
 これらの企業にとって未開拓なのが、日本の米、麦、大豆。これまで「種子法」という法律があったため国産の種子が守られてきたが、2018年4月、種子法(主要農作物種子法)が廃止された。種子法により国の予算で開発、改良を施されてきたが、米・麦・大豆の市場を多国籍企業に開放するために(と著者は考えている)種子法が廃止されれば、風土や気候に合わせて生まれてきた多品種の種子はみるみる淘汰されるようになる。遺伝子組み換え作物も、ゲノム編集作物も、表示の義務付けが廃止された。「海外企業に明け渡された」日本の農業がどうなっていくか、深く懸念される。

 ユネスコ世界遺産は世界的に認知度が高まり、登録物件は既に1000件を超え、まだ増え続けている。世界遺産をめぐる観光は日本人に特に人気が高く、国内で世界遺産登録されると、観光産業を中心に経済効果の大きな期待が寄せられる。だが、世界遺産が大きな曲がり角に来ているのではないか、と指摘するのが『世界遺産/理想と現実のはざまで』(中村俊介著、岩波新書)の著者だ。
 登録地獲得競争に奔走し、各国が露骨に政治的介入を行う。世界遺産になったがために、伝統社会が保ってきた地域のバランスが崩れかえって文化遺産保存の危機を招く本末転倒のケースも出ている。「国際社会が団結して人類の至宝を守り後世に手渡す」という当初の理念を守るためにどうすべきか。文化財保存・保護を重視する日本国内の文化遺産保護制度との矛盾をどう解決すべきか。人類遺産の保護は、一国で完結する時代ではないのではないか。私たちはもう、「世界遺産」ブランドをほしがるのをやめてもいいのではないか、とうったえかける。

時代の変化に対して「無関心」ではいられない

 
人口減少社会に向かっているにも関わらず、全国各地で、超高層のタワーマンションがどの路線、どの駅前にも林立している。『生きのびるマンション〈二つの老い〉をこえて』(山岡淳一郎著、岩波新書)は、住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」を背負っている多くの分譲マンションの行く末について検討している。
 管理組合の活動や維持管理に「無関心」の住民が増え、修繕積立金が不足するため、老朽化の対策が遅れる。住民の高齢化が進むと、一人暮らしの認知症の人への対応も大きな課題となり、管理組合の理事ポストの担い手も不足する。共有部分の環境が荒れ、空き室が増え、マンションは「スラム化」が進んでいく。こうした悪循環を裁ち切り、共同住宅だけではなく、コミュニティとしてのマンションを継続させるには何が必要かを模索する。老朽化した共同住宅を「廃墟」にするか、「楽園」として再生させるか、まずは住民や地域が「無関心」に陥らないことが重要そうだ。

救急車が来なくなる日/ 医療崩壊と再生への道』(笹井恵里子著、NHK出版新書)は、医療分野に詳しいジャーナリストが、超高齢社会日本が直面する医療崩壊目前の現状を報告する。119番をコールして救急車を呼べば日本全国どこでも救急搬送サービスを受けることができる。世界でも例を見ない日本の救急医療だが、救急車を呼んでもなかなか来てもらえない、搬送しても、医師が少なく治療を受けることができない。救命救急センターが高齢者で埋め尽くされているため、若い人の突然の病気に対応できない。そんな状態が、すでに起き始めている地域もあるという。「救命救急」というシステムをどう維持していくか、取材で見えてくる現場の報告から、「国が向き合うべき3つの課題」を提唱する。
 また、救命救急専門医は、さまざまな科を診断する必要があり、24時間体制で当直もある、過酷な仕事である。その反面、専門性を磨いて腕を上げることが他科と比較して難しく、医師として救命救急を選ぶメリットが感じられないという。当人たちの「熱意」に頼ってきたこれまでと違い、待遇を相当改善しない限り、なり手は減るばかりだろう、と指摘する。

幸福な監視国家・中国』(梶谷 懐 , 高口康太著、NHK出版新書)では、現代中国ではAIとビッグデータを活用して、政府・大企業が全人民の個人情報・行動記録を手中に収めている。中国のこうした「監視社会化」に関して、日本を含めたいわゆる西側諸国からの視線は、「自由な活動や言論を脅かすディストピア」「悪しき監視社会の実例」として、「オーウェルが『一九八四年』で描いたようなイメージ」などのネガティブなトーンでとりあげる、ややセンセーショナルな報道が目立つという。著者らは、こうした報道には間違いや読者をミスリードするような内容が多く、実際の中国で起きていることとは違うのではないか?と指摘する。
 本書では、急速に進化し、外からの視点では理解が難しい「社会信用システム」についてていねいに説明している。政府が公的に言及した2003年から段階を追って進めてきたこのシステムを、「金融」「懲戒」「道徳」という大きく3つの役割に注目して解説している。
 統治のためのさまざまなテクノロジーや信用スコアなどのレイティングシステムの浸透で、中国、特に大都市は「お行儀がよくて予測可能な社会」になりつつある。中国において進む「監視社会化」は、「より安全で、便利で、お金が稼げる社会に住みたい」という人々の欲望を実現するために今後起きていく、世界的な動きとして見ていくべきではないか、と指摘する。中国のような「ディストピア化」はわれわれとは別社会、と考えている社会の方が、むしろ危険ではないかと著者はいう。

(編集部 湯原葉子)

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『アフリカを見る アフリカから見る』
白戸圭一著
(ちくま新書)

『2100年の世界地図 /アフラシアの時代』
峯 陽一著
(岩波新書)

『世界最強組織のつくり方/感染症と闘うグローバルファンドの挑戦』
國井 修著
(ちくま新書)

『奴隷船の世界史』
布留川正博著
(岩波新書)

『日本の海が盗まれる』
山田吉彦著
(文春新書)

『売り渡される食の安全』
山田正彦著
(角川新書)

『世界遺産/理想と現実のはざまで』
中村俊介著
(岩波新書)

『生きのびるマンション〈二つの老い〉をこえて』
山岡淳一郎著
(岩波新書)

『救急車が来なくなる日/ 医療崩壊と再生への道』
笹井恵里子著
(NHK出版新書)

『幸福な監視国家・中国』
梶谷 懐; 高口康太著
(NHK出版新書)

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