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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2024年4月刊行から 編集部

NEW

2024/05/15

世界が注視する台湾のデモクラシー

台湾のデモクラシー/メディア、選挙、アメリカ』(渡辺将人著、中公新書)では、総統選挙を中心に、「民主主義指数」でアジア首位になった現代台湾のデモクラシーの強さと弱点を分析する。4年に一度行われる台湾の総統選挙は、世界中のメディアがつめかけ、国際的なイベントともいえるほど白熱する。著者は、台湾の総統選挙について、集会の演出などメディア戦略にアメリカ風を取り入れ、地元運営など一部日本風を取り入れながら、総合的には台湾らしい進化をとげている、と分析する。
 2024年1月に行われた台湾総統選挙では、蔡英文政権で副総統だった民進党の頼清徳氏が勝利した。頼清徳氏は、カリスマ的な人気があった蔡英文とは全くタイプが異なるという。
 台湾で大統領にあたる総統を直接選挙で選ぶようになったのは1996年、一党独裁だった中国国民党から民進党への政権交代が実現したのは4年後の2000年と、台湾のデモクラシーはまだ極めて「若い」といえる。中国からの圧力を受ける台湾は、第二の香港にならずにデモクラシーを守れるか、世界がその動向を注視している。

 2022年7月の安倍元首相銃撃事件を機に、旧統一教会と政界の癒着については一時多くの報道が続いた。しかし事件からほどなく2年となり、問題は残されたままうやむやにされようとしている。
誰も書かなかった統一教会』(有田芳生著、集英社新書)の著者は、オウム真理教事件報道にも深く関わってきたジャーナリストである。メディアが一部しか報じていない、旧統一教会による政界浸食の実態を徹底的に暴くため本書を刊行したという。
 統一教会問題が大きな話題となったのは1992年の国際合同結婚式であり、その後1993年をピークに報道は激減した。代わりに、麻原彰晃とオウム真理教の話題が注目を集めるようになった。オウム真理教が1994年に松本サリン事件と、1995年に地下鉄サリン事件を起こしてからは、テレビは朝から晩までオウム真理教一色となり、その陰に隠れて統一教会の報道はほぼされなくなっている。2022年に起きた事件で再び注目されるまで活動は継続していたが、世間の無関心=「空白の30年」を許したメディアの罪は重い、と断じている。
「勝共=反共」という共通の目的で日本の自民党と統一教会は利害が一致し、国会議員の私設秘書に信者を送り込み、政界への侵食を進めていった。安倍襲撃事件以降、自民党所属議員379人に統一教会との関係を調査する「点検」が行われたが、実際は自己申告によるアンケート調査にすぎない。
 また、共産主義反対を旗印にしながら、統一教会が北朝鮮と接近していた事実なども明らかにしている。「空白の30年」に何が起きていたのか、このまま新たな報道の「空白」期間にならないよう、教団への監視を怠ってはならない、と著者は強くうったえる。

新東京アウトサイダーズ』(ロバート・ホワイティング著 ; 松井みどり訳、角川新書)は、2002年に日本でのみ出版された『東京アウトサイダーズ』の内容を加筆修正のうえ、このたび日米両国で同時出版されることになったもの。日本人は常に、外国人に猜疑心を抱いている、と記している。日本の政界・ビジネス界・スポーツ界で、差別と不正に巻き込まれながら暗躍した移住者や外国人(アウトサイダー)たちの戦後史を描く。
 本書の最終章として、「統一教会と安倍晋三背後の暗黒政治」と題した章が加えられている。安倍氏の死後、自民党と統一教会の関連、アメリカCIA・韓国のKCIAと統一教会の関係も明るみになりつつある。いずれも「反共産主義」という共通の信条を掲げている。日本社会が統一教会に改めて注目したのを機に、CIA・KCIAが日本に及ぼした影響についても、再度注目されるべき、としている。

「見せる埋葬」の比較考古学

王墓の謎』(河野一隆著、講談社現代新書)は巨大な王墓は「なぜ」造られたのか、という謎に迫り、定説となっている「王墓=権力の象徴」説に真っ向から挑む。
 古墳やピラミッド、中国の山陵など、巨大な墳墓は、「王が自らの権力を誇示するために築造した」と理解され、歴史の教科書にもそう書かれてきた。
 本来埋葬とは人目から隠されるものだが、あえて見せつけるような、人類史上で見ても特異な社会が、自然環境や歴史・文化の異なる地域に成立した理由は、「王が自らの権力を誇示するため」だけではないのではと、「見せる」埋葬についての比較考古学を着想したという。
 著者が、小学校の修学旅行で巨大な古墳を実際に目にして以来抱き続けた、「人々はなぜ反乱もせず巨大な王墓築造を黙々と続けたのだろうか」という素朴な謎への40年がかりの回答となっている。

 ニガウリやマンゴーなど、亜熱帯の南西諸島産の野菜や果物は、今では本州のスーパーでも手軽に手に入るが、30年ほど前は九州以北では食べることができなかった。外国から侵入して南西諸島に定着し、作物を食い荒らし甚大な被害をもたらす虫、「特殊害虫」の被害が甚大で、南西諸島からウリ類や熱帯果樹の実を移動することが禁止されていたからである。
特殊害虫から日本を救え』(宮竹貴久著、集英社新書)は、世界で初めて大規模エリアでの害虫駆逐に成功した「根絶作戦」の記録である。その手法は農薬等で被害を抑止する等のものとは全く異なる。
 特殊害虫を「根絶」させた方法はこれまで、オスだけを強力に誘引する物質を利用して駆除する「オス除去法」、蛹に放射線を浴びせて不妊にした成虫をヘリコプターで大量にばら撒く「不妊化法(不妊虫放飼法)」などの手法がある。害虫を「根絶」させるために大量に幼虫を飼育する、という想像を絶する地道な努力の繰り返しがあった。本書では、根絶事業の成功例だけではなく、失敗例も示されている。
 著者が懸念しているのは、すでに駆逐したはずの地域に、2015年以降、特殊害虫の再上陸が見られ始めていることだという。これには、気候変動、グローバル化、ネット社会による物流の増大など、さまざまな問題が関わっている。一旦根絶されたという理由で予算が削減されているが、特殊害虫の持続的な駆逐には、防除体制の維持が不可欠である。数十年もの間の地道な努力を無にしてはならない。

 日本語には漢字、ひらがな、カタカナの三種類の文字がある。日本語話者にとっては当たり前だが、日本にきた外国人の多くが、ひらがなとカタカナの併用に驚き、どちらかひとつで事足りるのでは、と考える人も多いという。
ひらがなの世界/文字が生む美意識』(石川九楊著、岩波新書)は、書家の著者ならではの視点で、「寸松庵色紙」などの色紙に残された、「女手」とよばれたひらがなの表現を、文字と文字のつながりや、分かち書き、筆の運びを再現するように解説する。ひらがなでしか表現できない世界がそこに広がっている。
『枕草子』の「春はあけぼの」で始まる有名な段でも、その表記が写本により多様で、解釈によりつなげかた、切れ目もさまざまである。
 著者は、
「はるはあけほのやうやうしろくなりゆくやまきはすこしあかりてむらさきたちたるくものほそくたなひきたる」
 とひとつながりに句点も読点もなく連ねて書かれることでしか表現できないものがあるのでは、と言う。(肉筆で、縦書きに書かれたものでないとその美しさは伝わらないだろうが。)

歩くことは身体にどのような影響があるか

百歳まで歩ける人の習慣/脚力と血管力を強くする』(伊賀瀬道也著、PHP新書)では、「人生100年時代」といわれるようになった今、重要なのは介護が不要な状態、「健康寿命」を延ばすことである。歩くのが体にいい、とはわかっているが、歩くことで身体にどんな効果があるか、さまざまな研究成果が紹介されている。
 著者が愛媛大学医学部で携わるアンチエイジング(抗年齢)研究の検査項目のデータから、脚力の低下(歩行速度の低下)と血管力の低下(動脈硬化の進展)に関連があることがわかったという。
 一生歩けるための脚力と、動脈硬化などを防ぐ血管力は、ともに重要であり、健康寿命を延ばすためには、同時に鍛えることが重要、という。本書では、脚力を鍛える、血管を若返らせるためのエクササイズや楽しく続けられるウォーキング事例などを紹介する。一つひとつは体力がないシニアでも無理なくできそうなものばかりだが、毎日続けるのはなかなか難しい。「いつまでも歩ける」体を維持するために習慣づけたい。

 登山を趣味にする日本人は多いが、登山者の多さに比例して、事故も多いのが現状である。事故を防ぐには、登山がどんな特徴を持つ運動か、自分の身体がどんな仕組みで動くのかを知ることが重要である。上り坂で速く歩くとなぜ苦しくなるのか、当たり前すぎて考えたことがない、という人が多いだろう。
登山と身体の科学/運動生理学から見た合理的な登山術』(山本正嘉著、ブルーバックス)では、山を快適かつ安全に歩くために理解すべきことを、疲労の仕組みや身体の仕組みを関連づけて解説する。特に、山では命に関わる、低体温症、熱中症、低酸素は、予防法と、事故を未然に防ぐ適切な対処法をしっかりと理解しておく必要がある。
 山に行かなくても、普段の生活でも可能な適切なトレーニングを地道に重ねることで、事故を防ぎ、生涯スポーツとして楽しむことができる、とすすめている。安全な登山には欠かせない、登山計画の立案と身体面の準備の方法を具体的に指南している。

(編集部 湯原葉子)

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『台湾のデモクラシー/メディア、選挙、アメリカ』
渡辺将人著
(中公新書)

『誰も書かなかった統一教会』
有田芳生著
(集英社新書)

『新東京アウトサイダーズ』
ロバート・ホワイティング著 ; 松井みどり訳
(角川新書)

『王墓の謎』
河野一隆著
(講談社現代新書)

『特殊害虫から日本を救え』
宮竹貴久著
(集英社新書)

『ひらがなの世界/文字が生む美意識』
石川九楊著
(岩波新書)

『百歳まで歩ける人の習慣/脚力と血管力を強くする』
伊賀瀬道也著
(PHP新書)

『登山と身体の科学/運動生理学から見た合理的な登山術』
山本正嘉著
(ブルーバックス)

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