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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2018年6月刊行から 編集部

NEW

18/07/15

「先送り」システムの限界と未来の日本

未来の中国年表/超高齢大国でこれから起こること』(近藤大介著、講談社現代新書)は、2017年にベストセラーとなった『未来の年表』(河合雅司著、講談社現代新書)と同様に、「人口の観点から未来を予測する」という手法で、人口統計データをもとに超高齢化が進む中国社会の今後30年を予測している。日本が直面している高齢化のマイナス面は、推定人口13億9000万人超、日本の約11倍の人口を抱える世界一の人口大国に、日本と同じようなスピードで、日本の約10倍の規模で押しよせている。日本と違うのは、2015年まで続けられていた「一人っ子政策」の影響で、男女比率の歪みが生じていることである。特に働き手を求める農村部では、「一人っ子なら跡取り息子」をという希望が強く、女児が生まれた場合には役所に届けを出さない、「間引く」、業者に売りつける等といったことが横行してきた。本書の「未来年表」では、「2020年には、適齢期の男性が女性よりも3000万人も多くなる」と予測し、どのような社会現象が起きるかを大胆に予想している。

 2036年、日本の限界が訪れる。元経産省キャリア官僚がそう警告しているのが、『逃げられない世代/日本型「先送り」システムの限界』(宇佐美典也著、新潮新書)である。年金、安全保障、財政赤字……。2030年半ば、つまり団塊ジュニア世代が高齢者になる頃には、「問題は分かっているけど対策が講じられない」と先送りにされてきたさまざまな課題が限界を迎え、国際社会の中での日本の影響力も相当低下し、本格的な苦難の時代を迎えると予測している。一方で、これを乗り越えれば徐々に安定していくとも考えているという。タイトルの「逃げられない世代」とは、現在20代から30代(1979年から98年生まれの世代)、団塊ジュニア以降の世代であり、1981年生まれの著者もその世代に含まれているという。これまでなぜ問題が「先送り」にされ続けてきたか、将来の危機にどのように備えていくべきかを論じている。

持続可能な医療とは

 高齢化により、日本の医療費は年々増加しており、その6割から7割は高齢者の医療費となっている。しかし、一部を除きそれを支えているのは現役世代の拠出する税金や保険料によるものである。医療費の増大は現状では将来世代に借金のツケをまわすことになるが、医療産業は今後最大の「成長産業」でもあり、国際競争力や雇用の面でも、医療費の規模を小さくすることが望ましいとは一概にいえない。『持続可能な医療』(広井良典著、ちくま新書)では、これから人口減少、低成長時代に突入するにあたり、医療費の配分(社会全体の中で医療費にどれだけの資源やお金を配分するか、医療費の中でどの分野に資源を配分するか)について、持続可能な医療という観点から検討すべきだと提言する。

金融政策に未来はあるか』(岩村 充著、岩波新書)では、バブル崩壊後、後に「失われた20年」と言われるまでになった長い不況は何だったのか、日本人がなぜ「失われた」時間と感じたのかを分析している。著者は、敗戦後の日本の経済復興を「日本人の努力と資質による」と記憶し、その成功体験を忘れられない人々は、「日銀がもっと上手に金融政策を運営していれば、これほど苦境に陥らなかったはずなのに」と不満に感じていたとしている。「失われた20年」というよりは、「日銀が失わせた20年」という思いが、この言葉の根底にあると指摘している。政府と中央銀行の役割とは何か、金融政策の未来を考える。仮想通貨の登場で予想される、新しい通貨間競争についても詳しく述べている。

 オフィスや商業施設、工事現場など、近ごろは、あらゆる場所で警備員の姿を目にする。『警備ビジネスで読み解く日本』(田中智仁著、光文社新書)は、ここまで身近な存在でありながら、あまり知られていない、警備ビジネスの実態と課題について研究している。いま、警備業界にとって最も大きな課題は、間近に迫って来た2020年のオリンピック・パラリンピックを無事に乗り切ることができるか、だという。大幅な人員増が求められる中、警備・案内ロボットの運用、AIによる防犯システムの運用や、警備体制の把握も進められている。AIやロボットに警備員は取って代わられるのか、実用化にあたって懸念されることなどを論じている。

「死を笑う」のはタブーか

 
先日、落語家の桂歌丸さんが亡くなった。長く司会を務めていた長寿番組の「笑点」では、歌丸さんをお題にした「追悼大喜利」で、笑いとともに故人に別れを告げるという独特の企画を放送した。元気な頃から「死にそう」「骸骨みたい」と不謹慎ネタでわかせてきた歌丸さんを送るにふさわしいものだった。『すごい葬式/笑いで死を乗り越える』(小向敦子著、朝日新書)では、「死と笑い」という、一見タブーな組み合わせだが、社会全体が老齢化し、長いシニア期を迎える人々にとって、「笑う」ことの作用が、死の恐怖や悲しみに有効なのではないかとうったえる。
 高齢社会により「多死社会」を迎えようとしているこれから、葬儀や墓など、死にまつわるさまざまな事象を、これまで通りに行おうとすると、社会もわれわれも、パンクしてしまうのではないか、と指摘する。長寿者こそ、自分の老いやエンディングを笑いに変えるセンスを磨き、死を「笑い」で乗り越える姿を次の世代に見せていくことが求められているのでは、と提言している。

住まいで「老活」』(安楽玲子著、岩波新書)では、人生100年時代、老後の自宅での暮らしを安全で快適にするための、住まいの改善ポイントを紹介している。個人の住まいを改善するための正しい知識があれば、健康寿命を延ばし、「寝たきり」を防ぎ、室内の徘徊など認知症の周辺症状を減らすことも可能であるという。介護の重症化を防ぐことで、「老後破産」の危険も防ぐことができる。著者は、住宅改修アドバイザーとして要介護者の自宅を訪問してきた経験から、当事者、介護者、家族にとっても暮らしやすい住宅改修の基本について紹介している。
 まず誰にでもできることは、不要物を処分し、家の中を片付けて、家庭内での事故を防ぐこと。完全バリアフリー化した住宅ではなく、従来の日本家屋のように、ちょっとした段差などバリアがあるほうが筋力が衰えず良い、という意見もあるようだが、著者は、高齢者が自宅内のちょっとした段差でつまづき骨折することから「寝たきり」になることが多く、その見解には疑問をとなえる。危険な「ちょっとした段差」はなるべく解消し、筋力の維持は別の方法でするべき、とうったえている。

 重い病気になった時、患者の私たちはどうすればよいか。『賢い患者』(山口育子著、岩波新書)の著者は、認定NPO法人「COML(コムル)」の理事長として、患者が主体的に医療に参加するため、患者や家族からの電話相談に応じたり、患者の立場から医学教育に携わる活動を行っている。1990年にCOMLが活動をはじめたころは、「インフォームド・コンセント」の重要性が言われはじめたばかりだった。当時の医療現場の常識では、がんなどの重い病気にかかったら、患者本人に余命はもちろん、病名や病状、治療方針の説明をすることは全く考えられない時代だったという。インターネットも普及しておらず、情報を得るためには専門書にあたるしかない。当時、がんを患っていた著者自身、病気や病状、治療法について調べることが非常に困難な中、自分の命に関わることは自分自身で納得したい、という思いでたどりついたのが発足間もないCOMLだったという。
 それから28年、時代の変化とともに、患者を取り巻く環境は激変している。「インフォームド・コンセント」や「セカンド・オピニオン」が当たり前となった現在、以前とは逆に、さまざまな情報が専門知識のない患者にも与えられ、判断を迫られる場面も多い。医者と患者のコミュニケーションの問題など、新たな課題も多く見受けられるという。患者とその家族からの電話相談、自身や親しい人の闘病経験から見聞きしたさまざまなケースを紹介し、医療者に自分のいのちを「すべてお任せ」するのではなく、主体的に医療に参加する「賢い患者」であることの重要性と難しさについて考えさせられる。

終着駅からはじまる旅

 
自他ともに認める「世界一の温泉大国」である日本。温泉旅行や心身を癒す効能をテーマにした書籍は数多くあふれている。しかし、日本人はいつごろから温泉を利用していたのか、今も残る温泉地はいつから始まったのか、など文献史料にもとづいて温泉の歴史が書かれている本は意外なほど少ない。『温泉の日本史/記紀の古湯、武将の隠し湯、温泉番付』(石川理夫著、中公新書)では、『日本書紀』に登場するほど古くから今も親しまれている道後・有馬・白浜温泉や、「温泉」という言葉が日本で初めて残された『出雲国風土記』『万葉集』にも登場する温泉地などを紹介する。古来から入浴・温泉文化が普及した背景に、日本の気候風土に加え、入浴や温浴を奨励する仏教の普及があったのではと指摘する。現代の観光資源としての温泉の実態と課題についてもふれている。

ニッポン 終着駅の旅』(谷川一巳著、平凡社新書)は、ふつうなら行き止まりの、鉄道終着駅から始まる旅の記録である。終着駅から先には本当に何もなく、その先はどこへも行けず、同じ路線を戻ることになるどん詰まりの駅もあるが、バスやフェリー等を乗り継ぐと、新たな旅が続けられる場所も多いという。不採算路線の廃止で、中間駅だった場所が終着駅になったパターンや、逆に、その先にも線路が建設の予定があり、中間駅になるはずだったのに建設が頓挫していまも終着駅のままとなっている駅もある。全国津々浦々、さまざまな理由で終着駅になった場所を訪れ、地形の複雑な日本ならではの終着駅の旅情を語る。

 旅先で拾ったきれいな石ころを持ち帰り、記念に飾ったり大事にしまっている人がよくいる。拾った本人には特別な石かもしれないが、他人から見ればあくまでそれは「石ころ」でしかないことも多々ある。『素敵な石ころの見つけ方』(渡辺一夫著、中公新書ラクレ)の著者は、釣りで出かけた川原で足元の石ころを拾い上げた時から、その魅力と面白さに夢中になり、「理想の石ころ」を探して全国各地の川原や海岸を旅するようになった。海外旅行でも、地形や地質から、その土地特有の石ころを探しにでかける時間を必ず確保しているという。
 本書は、最近増えている、岩石図鑑のように学術的な内容や、石のビジュアル的な美しさにのみ注目したものではない。足元の石ころを手に取り、眺めて楽しむ、その土地特有の石を探して歩くことの楽しさについて書かれている本だ。岩石図鑑に示される写真は、その特徴を際立たせるために、形を整えているものが使われる。石ころは、自然によって削られ、一つ一つ形が異なり、岩石そのものの特徴は薄れているものが多い。そこが一つとして同じ物はない「石ころ」の魅力でもあるが、拾った石の種類や特徴に興味がわいた人には、その見分け方のコツも示し、学術的な世界への入口にもなっている。「旅に出たならこの石を探せ」という、地域別の石ころ探しのガイドもある。川原や海岸へ、時間を忘れて石ころ拾いに出かけてみたくなる。

(編集部 湯原葉子)

BACK NUMBER

『未来の中国年表/超高齢大国でこれから起こること』
近藤大介著
(講談社現代新書)

『逃げられない世代/日本型「先送り」システムの限界』
宇佐美典也著
(新潮新書)

『持続可能な医療』
広井良典著
(ちくま新書)

『金融政策に未来はあるか』
岩村 充著
(岩波新書)

『警備ビジネスで読み解く日本』
田中智仁著
(光文社新書)

『すごい葬式/笑いで死を乗り越える』
小向敦子著
(朝日新書)

『住まいで「老活」』
安楽玲子著
(岩波新書)

『賢い患者』
山口育子著
(岩波新書)

『温泉の日本史/記紀の古湯、武将の隠し湯、温泉番付』
石川理夫著
(中公新書)

『ニッポン 終着駅の旅』
谷川一巳著
(平凡社新書)

『素敵な石ころの見つけ方』
渡辺一夫著
(中公新書ラクレ)

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