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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2018年7月刊行から 編集部

NEW

18/08/15

まだ語られていない悲劇

 神風特攻隊と呼ばれる航空特攻隊の悲劇は、毎年のように映画やテレビドラマ、ドキュメンタリーの題材となり、多数の関連本が生まれている。その一方で、国民にほとんど知られないまま歴史の闇に消されようとしているもう一つの特攻隊、「水上特攻隊」がある。この悲劇を伝えようとするのが『ベニヤ舟の特攻兵/8・6広島、陸軍秘密部隊レ(丸レ)の救援作戦』(豊田正義著、角川新書)である。
 広島で原爆が投下された日、瀬戸内海にある江田島の幸ノ浦基地では、ベニヤ板製の舟で敵に突撃する「水上特攻隊」という日本陸軍の秘密部隊が訓練を行っていた。彼らは原爆投下から30分後に、軍部の命令により真っ先に救援活動を行う。多くの隊員は放射線被曝により自らの身体に発症した「原爆症」と戦い、秘密部隊ゆえ被曝の事実を認定しようとしない国と戦い、そして周囲の露骨な被爆者差別と戦ったあげく、「被曝体験は墓場まで持っていく」と、黙ってこの世を去って行ったという。
 本書は元特攻兵による「オーラル・ヒストリー」という方式をもとにしている。戦争体験者からの談話を直接聞き取って記録できるのは、もう待ったなしの状態だ、と著者は言う。

日本軍ゲリラ 台湾高砂義勇隊/台湾原住民の太平洋戦争』(菊池一隆著、平凡社新書)は、南洋ジャングルで日本軍の一員として戦った台湾原住民(高砂族)から見た太平洋戦争の記録である。日本植民地時代、日本人、台湾人(現在の本省人)から差別され、底辺に追いやられていた高砂族。その主な7種族のうち、本書では中心となったタイヤル族に特に注目する。
 高砂義勇隊は当初非戦闘員・「軍夫」として招集された。その後、陸軍中野学校関係者から秘密戦士としての徹底した訓練を受けるようになる。もともと狩猟民であり、敵を「首狩り」する風習をもつタイヤル族は、ゲリラ戦での戦闘力も、ジャングルで生き抜く力も、日本兵よりはるかに高い能力を示したという。
 著者は台湾へ取材に行き、高砂義勇隊としてニューギニア戦線を戦ったタイヤル族たちからも当時の体験を聞き、これまでに「オーラル・ヒストリー」としてまとめている。戦後長い間、彼らは日本軍での経歴を封印しなければ台湾では生きていけなかった。台湾人元日本兵士の戦死傷補償問題、南洋での戦没者遺骨収集に関する問題など、戦後73年を経ても日本がまだ解決できない重い問題についてもふれている。

「戦争体験」の格差

戦争体験と経営者』(立石泰則著、岩波新書)の著者は企業取材歴40年のノンフィクション作家。著者はこれまで、個性豊かなさまざまなタイプの経営者、成功した経営者に数多く出会い、インタビューを重ねてきた。著者は、彼らの「戦争体験」の有無が、経営者としての経営理念に大きな影響を与えているのではないか、と考えたという。
 戦争体験と一口にいっても、徴兵はされずに、国内で空襲などの戦時経験をした者と、戦地に赴き、死と背中合わせの日々を送った者との違いは大きい。例えば有力政治家を父に持つセゾングループの堤清二氏は徴兵経験がなく、ダイエーを立ち上げた中内功氏は、一兵卒として満洲やフィリピンなどに赴き過酷な戦争体験を持つ。経営者たちの戦争体験は、戦後の彼らの人生、経営理念にどう影響を及ぼしたのか。取材の過程で聞き取ってきた、戦争に対する彼らの肉声を伝えている。

保守と大東亜戦争』(中島岳志著、集英社新書)は、戦中派保守の残した文章、回想録を読み直し、戦中派保守の論理とは何だったのかを読み解く。その上で、保守派=戦争賛美、大東亜戦争肯定論という見方に疑問を呈している、現代の視点では同じように保守論客とされる立場の言論人でも、大東亜戦争開戦を20歳以上で迎えた世代の価値観と、開戦当時10歳前後で軍隊や戦場での体験を持たない世代の価値観は、決定的に異なるのではないか、としている。
 戦中派保守の論客は、軍国主義や超国家主義に強い嫌悪感を示していた。既に鬼籍に入った彼らの言葉こそ、今向き合うべきではないかと著者は強くうったえる。

「右翼」の戦後史』(安田浩一著、講談社現代新書)では、日本の右翼の歴史を紐解き、これまで国家権力は時の右翼とどう折り合いをつけ、その存在を許容してきたのかを振り返る。
 この数年、マイノリティーに対するヘイトスピーチを繰り返し、差別や偏見を煽るネット出自の「極右」、ネット右翼(ネトウヨ)と呼ばれる層が跋扈している。「愛国」という旗を掲げ、排外主義に基づいたデモを繰り返す。ネットに差別的な書き込みをする。差別デモに参加する地方議員や差別発言を繰り返す国会議員も増えている。日本社会の「極右化」が加速しているのではないか。著者はそうした危機感をもとに、戦前・戦後の「右翼」と今の「ネトウヨ」とは何が違うのかを論じている。

中露に挟まれた日本の立場

 『ロシアと中国 反米の戦略』(廣瀬陽子著、ちくま新書)は、米国一極支配に対抗する、という共通目標をもっている中国とロシアという二つの大国の思惑と熾烈な駆け引きについて解説する。
 今リアルタイムで動いているのが、中国の「一帯一路」「新シルクロード構想」、ロシアの「ユーラシア連合構想」であり、中露の思惑が交錯し、著者によれば「微妙に対立しながら協力を続けている」状態だという。両大国に挟まれた日本はどうしていくべきか。中露関係については「蜜月は偽装されたものであり、その賞味期限はいつまでか」ということを常に考える必要がある、と指摘する。

自動運転「戦場」ルポ/ウーバー、グーグル、日本勢─クルマの近未来』(冷泉彰彦著、朝日新書)は2018年現在における、「自動運転車」にまつわるさまざまな現場を、在米ジャーナリストが取材しレポートしている。
 完全な自動運転をめざしバラ色の未来を夢想するシリコンバレー(IT巨大企業)と、クルマ社会の維持を求めるデトロイト(自動車製造業界)の間には今はまだ大きな落差がある。大きな可能性と同時にさまざまな困難を抱えている自動運転の実用化は、どこまで進み、人々はどこまで自動運転を受容できるか。自動運転という文明はどうあるべきか、それをささえるインフラはどうあるべきか。自動車産業で高い競争力をもつ日本こそ、自動運転の未来についてもっと積極的に提言していく必要があるという。

物語 アラビアの歴史/知られざる3000年の興亡』(蔀 勇造著、中公新書)は、アラビアの歴史を通観する、ボリュームのある一冊。約3000年にわたる歴史の中で、イスラームの勃興が世界史の大きな転換期となったことは間違いないが、これまで「それ以前」、すなわち先イスラーム期のアラビア史についての概説は日本にはほとんどなかったという。先イスラーム期(紀元前9世紀前後から西暦7世紀ごろ)、イスラーム期(ムハンマドが布教を開始する西暦7世紀ごろから現代)の二つに分けられる大きな歴史の流れを軸に、石油資源で繁栄する現代につながる諸民族、諸国家の興亡を描く。

グローバルに注目を集めるK-POPの魅力

 
2012年以降、日韓関係の悪化とともに韓流ブームは去った、と思われていた。しかしK-POPは今、日本の若者の間だけではなく、グローバルに発信され人気を集めているという。『K-POP/新感覚のメディア』(金 成玟著、岩波新書)は、世界が注目する一つのジャンルとなったK-POPの誕生から現在まで、韓国社会と音楽産業がどのように変容してきたかを、韓国生まれの著者が論じている。
 著者は、韓国が、国をあげていち早くデジタル音楽市場にあわせて業界を再編してきたこともK-POPの世界発信を後押ししていると指摘する。CDにこだわらず、生産・流通のプロセスをデジタルマーケットを中心に再編し、海外市場をターゲットにした活動を積極的に繰り広げた。iTunes、YouTubeといった「新しいプラットフォーム」を活用し、グローバルに情報を発信しつづけている。K-POPを通じて映し出されるソーシャルメディア時代の音楽空間とは何か、ポップとは何か、世界的に支持され注目を集めるK-POPの「新しさ」とは何なのかを紹介する。

日本百銘菓』(中尾隆之著、NHK出版新書)では、観光や出張の土産、里帰りに欠かせない日本全国の銘菓の数々の中から、自ら食べ歩き取材を重ねてきた著者の独断で「これぞ」と選び抜いた100品を紹介している。
 歴史ある老舗の和菓子や、最近人気の和洋折衷菓子もある。生姜、黒砂糖、柚子、ニッキ、梅、抹茶など、香りの記憶がよみがえる。次々と新商品、期間限定商品が生まれては消えていくお菓子の世界だが、味も包装も「変わらない」「変えない」ことが重要な、銘菓特有の世界は一種独特だ。仙台の「萩の月」、札幌の「白い恋人」など、今では全国で知られる人気菓子がヒットするきっかけが「飛行機の機内食に採用」だったというのが興味深い。

(編集部 湯原葉子)

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『ベニヤ舟の特攻兵/8・6広島、陸軍秘密部隊レ(丸レ)の救援作戦』
豊田正義著
(角川新書)

『日本軍ゲリラ 台湾高砂義勇隊/台湾原住民の太平洋戦争』
菊池一隆著
(平凡社新書)

『戦争体験と経営者』
立石泰則著
(岩波新書)

『保守と大東亜戦争』
中島岳志
(集英社新書)

『「右翼」の戦後史』
安田浩一著
(講談社現代新書)

『ロシアと中国 反米の戦略』
廣瀬陽子著
(ちくま新書)

『自動運転「戦場」ルポ/ウーバー、グーグル、日本勢─クルマの近未来』
冷泉彰彦著
(朝日新書)

『物語 アラビアの歴史/知られざる3000年の興亡』
蔀 勇造著
(中公新書)

『K-POP/新感覚のメディア』
金 成玟著
(岩波新書)

『日本百銘菓』
中尾隆之著
(NHK出版新書)

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