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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2021年10月刊行から 編集部

NEW

2021/11/15

「道徳的に正しい」ドイツへの警戒感

ドイツ・ナショナリズム/「普遍」対「固有」の二千年史』(今野 元著、中公新書)は、ドイツの歴史をたどり、ドイツの今、そしてメルケル首相退任後のドイツと欧州について考察する。政治も経済も文化も安定したドイツが、欧州で主導権を握り、世界でも存在感を強めている。
 その一方で、難民引き受けや環境保護といった、西欧で「普遍」的とされる価値観に照らした「正しさ」を他国にも求めるドイツの姿勢には、英仏をはじめとする周辺国からの反発も強まっている。
 再統一ドイツが実現した後、西側の人間は「遅れた」東側の人間を見下し、冷笑するようになった。急進ナショナリズム政党は、「西側から軽蔑され、二級市民扱いされた」と感じる東独人の間で、より多くの支持を得ているということが、再統一から30年経った今も起きているという。国内、欧州、そして世界で、「正しい価値観」を他者に求める「ドイツ」への警戒感が高まっていることを、注視しておきたい。

 鉄道の歴史は、その国や社会の顔をよく映している。『ナチスと鉄道/共和国の崩壊から独ソ戦、敗亡まで』(鴋澤 歩著、NHK出版新書)は、「鉄道」(国営鉄道ドイツ・ライヒスバーン)の歴史を振り返り、ナチス・ドイツ、ヒトラーとドイツ国鉄の12年間の関わりを明らかにしている。東方の強制収容所・絶滅収容所へのユダヤ人の大量移送は、ライヒスバーンの「特別列車」によって行われたが、これは極秘の一大事業でもなく、通常業務の一つに過ぎなかったという。
 独ソ戦以降、労働力不足に直面したドイツでは、東方(ウクライナやベラルーシ)から連行した外国人労働者の移送にも鉄道が利用された。ヒトラーは、鉄道網の整備に加え、道路網の整備も行った。自動車専用道路(アウトバーン)の建設にも、ドイツ国鉄とその職員が大きく関わっていたという。

 歴史的事実の全面的な否定を試みたり、意図的に矮小化したり、一側面のみを誇張したり、何らかの意図で歴史を書き換えようとすることを「歴史修正主義」(revisionism)と呼ぶ。『歴史修正主義 /ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』(武井彩佳著、中公新書)は、100年以上に及ぶ欧米の歴史修正主義の実態を追い、歴史とは何かを問う。本書では、主に第二次世界大戦以降の欧米社会の歴史修正主義について取り上げており、日本の歴史修正主義は著者の専門分野からいっても、「本書では扱わない」としている。
 歴史修正主義は、表面的には歴史の問題を扱っていても、本質的には政治的・社会的な現象である。人々が引き寄せられる動機やきっかけもさまざまだが、「メディアの責任も大きい」と指摘する。トランプ大統領の時代、「私にとってはこれが真実である、なぜならこれは私の信じたいことであるからだ。証明できなくてもよい」と一国の大統領が臆面もなく言った。そして皆が「私にとっての真実」を語り始めた、と著者は言う。
 歴史の政治利用の何がいけないのか。本書を通じて、この問いへの答えを模索する。

台湾有事は抑止できるか

 2020年以降、国際世界の注目は新型コロナ関連に集中している。一方で、台湾、そして日本を取り巻く情勢はかつてないほど緊迫化しつつある。『台湾有事 /米中衝突というリスク』(清水克彦著、平凡社新書)の著者は、中国とアメリカが軍事衝突する「台湾有事」が起きれば、アメリカと同盟関係にあり、台湾を「友人」とみなす日本も必ず巻き込まれることになる、と警告する。
 中国はあらゆる手段を駆使して台湾を統一しようとしている。台湾周辺での軍事的圧力、パイナップル禁輸に代表される経済的圧力、ワクチン輸入妨害などの国際的圧力。そして次の手段は武力行使となる。「かつてロシアがあっという間にクリミアを手に入れたように」中国による台湾占領は(起きるとすれば)数日間から数週間の勝負になる可能性が高い」としている。有事となれば、日本はアメリカと中国とのはざまでどう動くか、即座に選択を迫られる。尖閣問題を含め、台湾の問題は、日本にとて「対岸の火事ではない」と、繰り返しうったえる。

米中戦争/「台湾危機」驚愕のシナリオ』(宮家邦彦著、朝日新書)の著者も、「台湾危機」を切羽詰まったものと考えている。「戦争」の定義は大きく変わりつつある。米中間で、「グレーゾーン事態」「ハイブリッド戦争」が始まっている。本格的な米中戦争が始まる理由を予測し、起こりうる軍事衝突のパターンをさまざまな観点から分析する。その上で、「『抑止』方法を議論しない限り、米国、日本、台湾などが何をすべきかを論じても、あまり政策的意味はない」と主張する。
 中国の台湾に対する「脅威」が顕在化する前に、日本はそれを「抑止」する準備を始めなければならない。これは21世紀後半の日本の国際的地位を決定づける極めて重要な課題である、と指摘する。本書でも、「ロシアによるクリミア占領」を、台湾有事を予測するための事例として重要視している。

 新型コロナ感染症パンデミックにおいて、ワクチン接種、発熱外来などでの感染者の早期発見、在宅療養患者の病状管理、オンライン診療など、地域医療を担う「かかりつけ医」の役割が大きく注目を集めた。
新型コロナと向き合う/「かかりつけ医」からの提言』(横倉義武著、岩波新書)の著者は医師であり、2020年6月までの8年間、日本医師会会長を務めた人物である。新型コロナウイルス感染症が拡大した「第一波の半年間」という、最も緊迫した状況での対応を振り返り、現在も続く医療提供体制の課題について論じている。かかりつけ医が必要としたときに検査ができる体制をつくらなかったことが第一波の課題だった、という。
 コロナ重症患者を受け入れていない医療機関は「コロナ対応に非協力的」と非難される風潮がある。重症者に対して高度医療を提供することだけが「コロナ対応」ではない。発熱外来での感染者の早期発見、ワクチン接種への協力、院内感染の対策、など、さまざまな形で「コロナ対応」に携わっているのだ、と主張している。
 コロナ禍の収束はまだ見えてこないが、病気はコロナだけではない。コロナ医療と通常医療の両立を目指し、それぞれの地域における役割を果たすために地域医療に根付いた医療提供体制づくりが大切だ、と主張する。

「きっちりわからなくなれる」ことの難しさ

 わからないことをわかるようにするのが研究や学習の目的、と多くの人は考えるだろう。『知ってるつもり/「問題発見力」を高める「知識システム」の作り方』(西林克彦著、光文社新書)では、研究や学習を進めるためには「きっちりわからなくなれる」ことが大事だ、と主張する。自分がわかっていないことをピンポイントに確定するのは実は難しい。ピンポイントに問題点が指摘できるようになるためには、ぼんやりとすべてが「わからない」状態を整理し、その手前まではわかっていなければならない。当たり前だと思って、疑問を持たず、「知っているつもり」になってしまっている場合も、わかっていない点をピンポイントに確定することはできない。
 本書では、「知ってるつもり」を足がかりにし、そこから知識をシステマティックに整備し、ピンポイントの疑問、つまり「問題発見力」を持てるような方法を、様々な実例をとりあげながら紹介する。

AIの時代を生きる/未来をデザインする創造力と共感力』(美馬のゆり著、岩波ジュニア新書)では、AIの技術的な説明とともに、未来の社会にどんな影響が出てくるかを検討する。新しい技術の導入が、社会に大きな影響を与えていくときには、その技術について知っておくことは必要不可欠である。AIを使いこなして生きていかなければならないこれからの時代に向け、技術を理解する上で重要なAIのメカニズムや考え方を易しく解説している。
「AIの時代」は既に始まっている。AIやロボットが社会に浸透し、共存していかなければいけない社会はすぐそこまで来ている。そのような時代に重要になるのは、他者の思いや意図を理解し、課題を共有する「共感力」ではないかと著者はいう。それが人間にしかできないことなのか、AIで実現、または補うことが可能になるのか、興味深い。「22世紀まで生きる可能性がある」若い世代にぜひ考えてほしいと、さまざまな「質問」を投げかけている。

 いま、子供から大人まで人気のアニメ『鬼滅の刃』の第二期が2021年末に放映開始予定となっている。新しいシーズンの舞台が『遊郭』ということで、子供に「遊郭」をどう説明すればよいのか、今から悩む保護者も多いという。『遊廓と日本人』(田中優子著、講談社現代新書)は、江戸学の第一人者である著者による、「遊郭」の入門書。本書では、「幕府公認」であった吉原遊郭を中心に、遊郭の繁栄と衰退の歴史をひもとき、遊女とはどんな存在だったのかを語る。遊女を「前借金」で拘束し、遊郭の外に出さないやり方は、今日の観点から見れば明らかに人権侵害にあたる。一方で、書、和歌、着物、香、生け花、三味線や唄、年中行事の実施など、もてなしの心や、日本文化を守り継承してきたことも忘れられてはいけない、という。
 著者は、「遊廓は二度とこの世に出現すべきではなく、造ることができない場所であり制度である」としているが、「だからといって遊郭の歴史と記憶を封印すべきではない」と強くうったえる。権力とお金の力で男性が女性を言うとおりにさせる「遊郭」の構造は、今日におけるジェンダーの問題を考える上でもひと続きの問題だと著者は考えている。

(編集部 湯原葉子)

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『ドイツ・ナショナリズム/「普遍」対「固有」の二千年史』
今野 元著
(中公新書)

『ナチスと鉄道/共和国の崩壊から独ソ戦、敗亡まで』
鴋澤 歩
(NHK出版新書)

『歴史修正主義 /ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで』
武井彩佳著
(中公新書)

『台湾有事 /米中衝突というリスク』
清水克彦著
(平凡社新書)

『米中戦争/「台湾危機」驚愕のシナリオ』
宮家邦彦著
(朝日新書)

『新型コロナと向き合う/「かかりつけ医」からの提言』
横倉義武著
(岩波新書)

『知ってるつもり/「問題発見力」を高める「知識システム」の作り方』
西林克彦著
(光文社新書)

『AIの時代を生きる/未来をデザインする創造力と共感力』
美馬のゆり著
(岩波ジュニア新書)

『遊廓と日本人』
田中優子著
(講談社現代新書)

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