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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2022年12月刊行から 編集部

NEW

2023/01/15

戦争は歴史の教科書の中だけではない

 2022年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵略は、「短期決戦」になる、というロシア側の当初の目論見や世界各国の予想が外れ、未だ終わりが見えてこない。『ウクライナ戦争』(小泉 悠著、ちくま新書)は、開戦直後からメディアに多数出演している軍事研究者が、この「戦争」はなぜ始まり、戦場で今何が起きているのか、核兵器使用の可能性はあるのか、という分析を書き下ろしたもの。
 著者は、この戦争が始まる以前から、研究者としてロシアの軍事的な動向を調査、追跡し、メディアからもコメントを求められる立場にあった。本書では、今回の戦争に先立つ1年間を特に「開戦前夜」と位置づけ、バイデン政権成立後に急速に変化した米露関係、プーチン大統領が露骨に示してきたウクライナへの強硬な姿勢など、戦争準備が加速していく様子を振り返る。
 巨大な戦争は歴史の教科書の中だけの存在ではない、ということが今回明らかになった。我が国がそのような事態に巻き込まれたらどうするか、そうならないために何をしておくべきか、議論すべきである、としている。日本では、国民的な議論自体が行われていないことに強い危惧を示している。

 まもなく80年になろうとしている日本の「長い戦後」が終わらないのはなぜか。『日本の歴史問題/「帝国」の清算から靖国、慰安婦問題まで』(波多野澄雄著、中公新書)は、2011年に著者が同じ中公新書から刊行した『国家と歴史/戦後日本の歴史問題』を改題、2010年代以降の話題を加えて大幅に改稿したものである。歴史認識とは、史実そのものではなく、現在の「われわれ」がどのように解釈するのか、という問題である。「われわれ」の代表者である政府や指導者が、噴出する歴史問題にどう対応してきたか、その経緯を振り返る。
 2010年代に入り、この問題について周辺諸国との「軋轢」が増した背景にもふれている。靖国神社、慰安婦問題、領土問題など、本書が取り上げた「問題」について、解決に至る出口を見つけることは容易ではないが、当面の課題は、歴史問題を対外紛争の争点とさせないことだ、としている。解決のための条件や論点をまとめている。

 国連をはじめ、国際的な条約、宣言、決議などによって示された人権の規範と制度を総称して「国際人権」と総称する。現代社会の発展に伴い常にアップデートされる国際的な人権基準と照らし合わせると、深刻化する貧困問題、入管での収容者への非人道的な扱い、女性差別の問題など、日本で起きているこれらはすべて人権侵害である。『武器としての国際人権/日本の貧困・報道・差別』(藤田早苗著、集英社新書)は、英国在住の著者が、内側からでは気づきにくい日本の人権問題を取り上げる。もちろん、多くの国々にも解決すべき人権問題はある。しかし、日本の人権問題は、日本国内でも、また国際社会でも十分に知られていない。人権問題への取り組みに関しても、世界のトレンドが知られていない、情報鎖国ともいえる状況だ、と指摘する。
 人間らしく生きるために不可欠な「人権」が、日本の学校では、「個人の優しさや思いやりによって実現するもの」かのように、道徳教育と混同されているきらいがあり、精神的な側面だけが強調されて教えられがちなことに著者は懸念を示している。人権教育は、自らの権利を知り、自分たちが権利の主体として、人権の実現のために行動できるようにするものである。「個人の優しさや思いやり」も必要ではあるが、その点が強調されると、政府が人権を保障する義務を守っていない、ということから注意が逸されてしまう危険性があるという。

虐待したことを否定する親たち/孤立する親と子を再び』(宮口智恵著、PHP新書)の著者は、児童相談所の児童福祉士として働き、虐待され危険な状況にある子どもを親から分離して「一時保護」する役割を担っていた。その後、「家庭再統合支援」のためのNPO法人を始めて、今度は親子が「やり直す」ための支援をしているという。「虐待した親」の支援をする中でわかってきたのは、一人で子どもを育てている親たちの過酷な状況であり、子どもを育てるのは一人では無理、ということである。
 虐待による子どもの死亡事件などが起こると、マスメディアに大きく取り上げられ、「ひどい親、機能していない児相や行政」という構図が描かれることになりがちだという。虐待による深刻な事件を未然に防ぐため、「虐待の疑いがある」場合を見聞きした場合、児相などに通報することが推奨されているが、「虐待疑い」を通報された親は、「しつけである」「虐待なんかしていない」と主張し、虐待があったとしても、かえって支援を遠ざける結果となりやすい。
 こうした支援を必要としている親に対して、「(一人で子育て頑張っているね、など)褒める」、「こうしたら良いのでは」と具体的なアドバイスをする、など支援側でよく使われるスキルがあるという。しかし、これらのスキルは、タイミングやシチュエーションを見極めて使わないと、かえって親が支援者から離れていき、必要な対話ができなくなる危険があると指摘する。子どもを守るには、親が子どもを安心して育てられるように、社会全体で「親への支援」が必要だとうったえる。

ゆるい職場環境で若者が早期離職する謎

 2010年代後半から現在に至るまで、職場に関する法令の多くが改正されている。2015年には若者雇用促進法が施行され、採用活動の際には自社の残業時間平均や有給休暇取得率、早期離職率などの公表が義務付けられた。2019年には働き方改革関連法により労働時間の上限規制が大企業を対象に施行された。このように、多くの企業では、職場環境が急速に改善しているが、昨今の新入社員は、「働き方改革」以前と比較して「離職率が上昇している」という。これまで若者の早期離職の主な理由は「仕事がきつい」から、と理解されていたが、これはどういうことだろう。
ゆるい職場/若者の不安の知られざる理由』(古屋星斗著、中公新書ラクレ)では、離職率が上昇する理由が「若者たち」だけにあるのではなく、法改正の結果起きた、職場側の変化にあるのではないかという点を指摘している。労働時間の短縮など、新入社員を取り巻く職場環境が良くなること自体は歓迎すべきことだろう。一方で、業務の負荷を軽減したことで経験が不足し、部下の失敗を「叱責」することも控えられるようになってきたことなどから、入社した若手をゼロから育成する力を職場が失ってしまっている面がある。自分らしく「ありのままでいたい」、それでいて「なにものかになりたい」。そんな希望を持つ今どきの若者たちの背中を、職場や世間の大人たちはどう押してあげればよいのかを考察する。

総合商社とはなにか/最強のビジネス創造企業』(猿島弘士著、平凡社新書)は、「総合商社」という日本特有の業態に着目した、これまでにない一冊。「総合商社」は日本経済を支えてきた大きな存在でありながら、十分に理解されているとは言えない。本書では、明治から太平洋戦争終結期、戦後復興から高度経済成長期、バブル崩壊から現代に至る総合商社の歴史を、現在の総合商社7社の概要とあわせて知ることができる。国内市場が縮小していくこれからの時代は、従来よりさらに積極的に、グローバル市場へ出ていって戦うことが求められている。「組織としてビジネスの創造を支える」総合商社の役割が重要になる、と著者は主張している。

 都市部を中心に中学受験が苛烈化する中で、厳しい中学受験を回避するために、小学校の段階で学校を受験するなど、学校を「選ぶ」という意識を持つ家庭も、首都圏や関西圏などの大都市圏を中心に富裕層ではない家庭にも増えてきている。『小学校受験/現代日本の「教育する家族」』(望月由起著、光文社新書)では、通学する小学校を「選択する」、つまり我が子の教育を「選ぶ」家庭は、そうではない家庭と、教育観・社会観がどう違うのか、求める教育環境はどのようなものなのかについて、各種調査や小学受験経験者たちの声、統計資料等をもとに考察する。小学校受験には、受験戦争の低年齢化や、格差の拡大や階層の固定化を促進する、という懸念や批判的な意見もあるが、現実に、どんな教育が求められているか、という観点が興味深い。

日本はメタバースに賭けるべきか

 AIやロボットと分野ではアメリカや中国が優位に立っている。負け続けている日本経済逆転のラストチャンスの鍵を握るのが、「メタバース」であり、日本はそこに賭けるべきである。そう主張しているのが『メタバースと経済の未来』(井上智洋著、文春新書)である。著者の井上氏は「メタバースとは、要するに、コミュニケーションできる仮想空間である」と簡潔に定義している。経済学者の視点から、メタバース、そして仮想通貨などお金の未来を語る。
 メタバースの未来に可能性を感じている著者だが、現状では、「マスメディアが話題として取り上げたり、一部の企業が焦って参入しようとしている一方、消費者はこのブームに対して冷笑的であるか無関心であるかのいずれかである」と冷静に分析している。今のメタバースブームは沈静化するが、その後着実な普及が待っているはず、と予測する。

Web3とは何か/NFT、ブロックチェーン、メタバース』(岡嶋裕史著、光文社新書)は、情報技術に関する書籍を多数刊行している著者が、『メタバースとは何か/ネット上の「もう一つの世界」』(2022年1月刊行)に引き続き刊行したもの。Web3と呼ばれるICTの新しい潮流の全体像を、仮想通貨の中心となる技術であるブロックチェーン、デジタルで価値を保証するNFTの仕組み、メタバースといったキーワードを軸にWeb3の技術的な面を中心に解説する。現在ブームとなっているWeb3の「怪しさ」についても語る。

 気候変動が深刻化する中、世界各地の森林でも温暖化の影響による危機的状況が観測されている。森林が減り続けているというが、実際何が起きているのか。『森林に何が起きているのか/気候変動が招く崩壊の連鎖』(吉川 賢著、中公新書)では、30年以上、世界各地の森林を訪ね歩き研究を続けてきた著者が、最新の「森林科学」の知見からみた気候変動対策を論じていく。大規模な森林火災で、森林が失われるとその経済的影響も大きい。森林火災の原因一つをとっても、乾燥するオーストラリア大陸、木材の伐採が進むアマゾン、乾燥し気温が低いシベリアのタイガ、季節によって乾燥する日本の山火事など、気候や植生、土壌、人間の経済活動との関連によって異なるという。
 一方、人間が介入して森林火災を完全に防ごうとすると、本来の動植物の生態系を崩す可能性もあるという。例えば、オーストラリアの森林にはコアラが食べるユーカリの木(油分を含むため燃えやすい)が多いが、火災からコアラを守ろうとして、防火を徹底してしまうと、定期的に山火事が起きる環境に対応してきたユーカリ以外の植物が増えることになり、ユーカリが淘汰され、結果的にコアラのためにならない、ということもあるという。森林の再生、といってもただ木を植えればいいというわけではないし、「囲って守れば自然の生態系が戻るわけではない」としている。地球規模での森林生態系のメカニズムから、実効的な気候変動対策について論じている。

 国内では、新型コロナワクチンの5回目接種も進み、接種回数・接種者が増えている。それに伴い、接種後の「副反応疑い」による死亡や障害など重篤なケースも増えていると警告するのが『ルポ 副反応疑い死/ワクチン政策と薬害を問いなおす』(山岡淳一郎著、ちくま新書)である。本書では、「副反応疑い報告制度」で報告されない死亡例、報告されながら「ワクチンとの因果関係が認められない」または「評価不能」と判定される事例も増えていると指摘している。
 国は医療費や医療手当を支給する健康被害救済制度も用意しているが、「副反応疑い報告制度」と健康被害救済は全く別の制度でありながら、「因果関係不明」と判定された遺族は被害救済の申請ができないと諦めてしまうことも多いという。申請の窓口である地方自治体には因果関係を審査する権限はないのに、多くの余計な書類を要求され、申請が滞り困る遺族も多いという。また、申請されても、厚労省は生きている患者への補償を優先しがちで、死亡一時金など遺族への補償が認められたのはわずかな件数となっている。
 本書では、「副反応疑い死」の認定、救済が遅れている構造的要因をさまざまな角度から検証している。どんなにすぐれたワクチンでも、副反応が必ず生じる。避けられない副反応をどう減らしていくか、これから研究を続けていくためにも、死亡など重篤な副反応が起きた場合の報告を曖昧にすべきではない、とうったえる。

(編集部 湯原葉子)

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『ウクライナ戦争』
小泉 悠著
(ちくま新書)

『日本の歴史問題/「帝国」の清算から靖国、慰安婦問題まで』
波多野澄雄著
(中公新書)

『武器としての国際人権/日本の貧困・報道・差別』
藤田早苗著
(集英社新書)

『虐待したことを否定する親たち/孤立する親と子を再び』
宮口智恵著
(PHP新書)

『ゆるい職場/若者の不安の知られざる理由』
古屋星斗著
(中公新書ラクレ)

『総合商社とはなにか/最強のビジネス創造企業』
猿島弘士著
(平凡社新書)

『小学校受験/現代日本の「教育する家族」』
望月由起著
(光文社新書)

『メタバースと経済の未来』
井上智洋著
(文春新書)

『Web3とは何か/NFT、ブロックチェーン、メタバース』
岡嶋裕史著
(光文社新書)

『森林に何が起きているのか/気候変動が招く崩壊の連鎖』
吉川 賢著
(中公新書)

『ルポ 副反応疑い死/ワクチン政策と薬害を問いなおす』
山岡淳一郎著
(ちくま新書)

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