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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2017年7月刊行から 編集部

NEW

17/08/15

日本の私有地の2割が所有者不詳に

 全国各地の自治体で、住む人がいないま老朽化した家屋が放置される「空き家問題」が深刻化している。『人口減少時代の土地問題/「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ』(吉原祥子著、中公新書)によると、空き家だけでなく、土地そのものの所有者が判明しない問題が広がっているという。日本の私有地のじつに約2割について、所有者の把握が難しくなっている、という国土交通省による調査結果を紹介している。
 土地は個人の財産であると同時に公共的な性格をもつものである。固定資産台帳、住民基本台帳などにより、その所有者は国や自治体により把握されているはず。これまでのそうした思い込みを覆すように、いま土地所有者の居所や生死が判明せず、所有者の特定が困難になり、固定資産税の徴収などに問題を抱えるケースが全国で表面化し始めている。
 人口減で土地の需要が減り、地価も下落するなか、土地を相続する利益より、税金や事務的な負担のほうが上回ることも多い。相続人が、利用する予定のない土地を国や自治体へ寄付したい、という希望を持っていても、行政が土地の寄付を受け取るケースは公共事業目的以外ではほとんどないという。その結果、相続手続きが途中で放置されることも多く、所有者の特定ができなくなってしまう事態が増えている。この「所有者不明化」は、関係する省庁の実態調査や議論が近年ようやく始まってきたばかりだという。
 問題の根源には、土地の相続や売買を繰り返しても登記簿の記載変更が義務づけられていない、日本の土地制度の欠陥にあるとしている。土地の所有や利用を行政が正確に把握できない現行の制度のままでは、今後で問題はさらに拡大するおそれがあると指摘する。
 著者がこの研究を始めるきっかけとなったのは、2008年夏、「北海道を中心に外国資本が日本の森林を買い占めている」という問題の実態調査だったという。日本のように外国人の土地取得に規制がないのは世界でも稀だという。「グローバルな商圏での転売が繰り返されればさらに所有者は分からなくなる」という懸念が現実のものとなっている。

爆買いされる日本の領土』(宮本雅史著、角川新書)は、まさにその「外資の土地買収」が引き起こす深刻な問題を正面から取り上げている。特に北海道では、後継者がいない農家、不便な山奥の僻地など、高齢化、過疎化により、厳しい環境で不動産を手放さざるを得ない状況が増えているのが現実だ。
 地元の人でも欲しがらない農地を集落ごと買収し、荒れ地にして放置している中国資本の真の狙いは何なのか。北海道に次々と建設される太陽光発電所の実態、中国との関わりが深い新潟県佐渡島の現状、韓国資本が大々的に不動産を買収している長崎県対馬市などを取材する。すでに事態は「目に見えない戦争である」という実態を明らかにし、国の無防備ぶりに警鐘を鳴らす。

縮小ニッポンの衝撃』(NHKスペシャル取材班、講談社現代新書)は、2016年9月に放映されたNHKスペシャル「縮小ニッポンの衝撃」の取材をもとに生まれた。番組は放送中からネットを中心に、取材班の予想をはるかに超えるほど多くの反響があったという。人口増、経済成長を前提とした社会設計は既に限界を迎えている。今後避けることのできない人口減少と折り合いをつけ、痛みを最小限にとどめていくための手だてはあるのか。
 人口が増え続けているのにじつは出生率が23区でも最下位、区外から転入してきた若者の平均年収が下がり続けている東京都豊島区。2007年に財政破綻し、事実上国の管理下におかれた夕張市。高齢化による「社会保障費の増大」と「収入(税収)の減少」という財政面での大きな痛みに既に直面する神奈川県横須賀市。取材で明らかになったこうした自治体の「縮小戦」のありのままの姿を、自分たちが住む市町村の未来図として直視していくべき、とうったえかける。

働き方改革

「働き方改革」という言葉が注目を集めている。『御社の働き方改革、ここが間違ってます!/残業削減で伸びるすごい会社』(白河桃子著、PHP新書)の著者は、「働き方改革」をただの時短、残業代削減、などに「矮小化」してはいけない、と指摘する。「早く帰れ」というかけ声だけ、持ち帰り残業が増えるだけの「残業削減」など、よくみられる、しかしやってはいけない「働き方改革」について取り上げる。
 その結果、売上が落ちる、離職率が上がり人材不足になる、労働関連の訴訟が起きる、など企業にとってもさまざまなリスクが生じるという。「労働時間を削減し、利益が上がり、出生率も上がった企業」の実例も紹介する。働き方改革を一過性のブームで終わらせるのではなく、日本の働き方を変えるきっかけにしていくべきだとうったえる。
 また著者は、これまで「ものを言わなすぎ」た労働者の姿勢も変えていく必要があるとしている。若者向けのキャリア教育は「好きなことを仕事に」とばかり言うのではなく、労働法の基本など「労働者として自分を守る方法」と、「生きていくのに必要なお金」についてしっかり教えていくべきではないかとしている。

これを知らずに働けますか?/学生と考える、労働問題ソボクな疑問30』(竹信三恵子著、ちくまプリマー新書)は、「働き方改革」以前に必要な、働く人を守る基本的なルールについて改めて確認しようというもの。これから社会に出ようという若者たちは「正社員になれれば勝ち組」、「公務員は安泰」と信じているようだが、著者の世代が常識として最低限もっていたような労働法などについての基本的な知識はほとんどなく、関心もなく、どこか他人事であると感じられるという。
「自分から会社を辞めるといったのに、会社に賠償金は払わなくていいんですか?」「労働法など知らない方がいいのでは」「労組って悪い人たちなんですよね?」……本書では、こうした率直な疑問に一つひとつていねいに答えていく。いまどきの若者たちが何を知らされず、どんなことに一人悩んでいるか、大人たちや学校の先生たちにも知ってほしいと著者はうったえかける。

超高齢社会2.0/クラウド時代の働き方革命』(檜山 敦著、平凡社新書)は、情報通信技術(ICT)を駆使して、「働けるうちはいつまでも働きたい」というシニア層の就労を後押しするさまざまな試みを紹介する。シニア層は若者に支えられる存在、という従来の「常識」から離れ、シニア層が現役世代と力を合わせて働くためにも、現役世代の「働き方改革」とあわせて、シニア労働力の活用を考えて行く必要性をうったえている。シニア層に空いている時間で柔軟な働き方を提供するためにも、またシニア層の生活の質を上げるためにも、日常的にICTに関心を持って使いこなすシニアを増やすさまざまな取り組みの最前線を紹介している。

最先端技術は社会を明るくするか

AIが人間を殺す日/車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』(小林雅一著、集英社新書)の著者は、AIのもつ「脅威」は「AIに人間の雇用を奪われる」というようなものだけではない、と警告している。本書では、「自動車」「医療」「兵器」に組み込まれるAI、つまり人間の生死を直接的に左右する分野についての懸念を考える。
 SF映画のようにAIが誤作動したり暴走したりするような恐怖や危険性を考えたことのない人はいないだろう。内部の思考回路が人間には分からないブラックボックス化する最先端のAIを、人間は制御できるのかどうか。「AIが出した医療診断」が間違っていた場合、医師や患者たちは納得できるのかどうか。完全「自動運転」技術は実用が目前に迫り、AI搭載の兵器も開発されている今、人の生死や国の安全保障という最重要事項について、AIに意思決定を委ねてもいいのだろうか、という課題に私たちは常に向き合う必要がある。
 著者は、いまあるAIの実力を過不足なくみきわめ、脅威の実態や程度を正確に把握するという慎重な姿勢がまずは必要であると主張している。

 人間は神の領域にまで手を伸ばそうとしているのでは、と考えさせられるもう一つの分野が遺伝子工学の分野である。
ゲノム編集を問う/作物からヒトまで』(石井哲也著、岩波新書)では、現在「第三世代」まで進化している新型遺伝子工学の強力なツール、「ゲノム編集」の最先端にふれる。従来の遺伝子組み換え技術よりも高い効率で遺伝子を改変することが可能になっているという。
 作物の品種改良では、ゲノム編集により新たな品種を生み出す事が劇的に容易になった。家畜の分野では、角が成長しないウシ、有効なワクチンのない特定の感染症に耐性のあるブタなど、様々な研究成果が報告されている。安全性や環境への影響などから議論を呼んだ「遺伝子組み換え作物」や、世界的にみてもほとんど普及していない「遺伝子組み換え家畜」のこれまでの状況から、ゲノム編集作物・家畜について、日本の消費者に受け入れられる日は来るのかどうか、可能性を探る。
 ゲノム編集を医療分野に応用しようという動きも活発となっている。私たち自身の「設計図」を自由に編集できる夢のような技術。誰がどう使い、なぜ使うのか、どう安全性を確かめればよいか。食や生殖、医療等、多くの国民が関係する事案だけに、国民が納得できるようなゲノム編集のルール作りが急がれる、としている。

風化させられない、戦争の記憶

一九四五 占守島の真実/少年戦車兵が見た最後の戦場』(相原秀起著、PHP新書)は、終戦後8月17日に国境の島でソ連軍と戦った、元兵士たちの貴重な記憶を取材したもの。占守島は、千島列島の最北端に位置し、(当時ソ連領の)カムチャッカ半島からわずか12キロ、終戦まで日本とソ連の国境の島だった。著者は日ソ両軍の元兵士たちにインタビューを重ねた。それぞれが敵兵を殺したという凄惨な体験を高齢になっても鮮明に記憶しており、後世への遺言のように証言を残していったという。両軍の戦没者慰霊のため、日本とロシア両国共同での遺骨収集と慰霊祭を、という声もあるが実現にはいたっていない。

飛行機の戦争 1914-1945/総力戦体制への道』(一ノ瀬俊也著、講談社現代新書)の著者は日本軍や戦艦大和についての著書も多い、日本近現代史の研究者。太平洋戦争の敗北の原因の一つとして「時代遅れの戦艦に固執して飛行機を軽視したから」という論があるが、著者は「飛行機は本当に軽視されていたのか」という点に着目する。
 本書は、戦前の一般的な日本人にとって飛行機はどんな存在だったのか、彼らが戦争における飛行機の役割をどう認識し、戦争に関与していったのかを解き明かしていく。近年の研究成果をもとに「日本軍=大鑑巨砲主義」という常識を覆すとともに、近代日本の軍や政府が、国民を新しい時代の象徴である「飛行機の戦争」へと説得していった過程を明らかにする。

観応の擾乱/室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』(亀田俊和著、中公新書)は、昨年大ベストセラーとなった、『応仁の乱/戦国時代を生んだ大乱』(呉座勇一著、中公新書)より前の時代に起きた歴史の分岐点を描く。この「マイナーな戦乱」が後世の室町幕府に及ぼした政治的・制度的な影響について論じている。以前は消極的であった将軍足利尊氏が、擾乱後は政治家としても武将としても別人のように積極的に「変化」した点に、著者は特に注目しているという。

(編集部 湯原葉子)

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『人口減少時代の土地問題/「所有者不明化」と相続、空き家、制度のゆくえ』
吉原祥子著
(中公新書)

『爆買いされる日本の領土』
宮本雅史著
(角川新書)

『縮小ニッポンの衝撃』
NHKスペシャル取材班
(講談社現代新書)

『御社の働き方改革、ここが間違ってます!/残業削減で伸びるすごい会社』
白河桃子著
(PHP新書)

『これを知らずに働けますか?/学生と考える、労働問題ソボクな疑問30』
竹信三恵子著
(ちくまプリマー新書)

『超高齢社会2.0/クラウド時代の働き方革命』
檜山 敦著
(平凡社新書)

『AIが人間を殺す日/車、医療、兵器に組み込まれる人工知能』
小林雅一著
(集英社新書)

『ゲノム編集を問う/作物からヒトまで』
石井哲也著
(岩波新書)

『一九四五 占守島の真実/少年戦車兵が見た最後の戦場』
相原秀起著
(PHP新書)

『飛行機の戦争 1914-1945/総力戦体制への道』
一ノ瀬俊也著
(講談社現代新書)

『観応の擾乱/室町幕府を二つに裂いた足利尊氏・直義兄弟の戦い』
亀田俊和著
(中公新書)

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