創刊以来のベストテンは、2004年7月集計時点で、1位が
『中坊公平・私の事件簿』(中坊公平著)、2位が
『上司は思いつきでものを言う』(橋本治著)、3位が
『知の休日』(五木寛之著)、4位が
『英語屋さん』(浦出善文著)、5位が
『文明の衝突と21世紀の日本』(サミュエル・ハンチントン著)です。
一番驚いたのは、創刊2年目に出した売り上げ4位の
『英語屋さん』です。ある女性スタッフが、大学時代の同級生に、ホームページでおかしなことを書いている物書きがいると言ってきました。見ると、確かに面白かったので、一冊の本として読めるようにまとめてみようか、ということで動きだしました。著者は、産業英語の翻訳者ですが、物書きとしては素人です。約2万部刷ったところ、あれよあれよといううちに、20万部弱売れました。おそらく、読者は、店頭でタイトルを見たとき、最初は、英語の攻略本かと思って、手に取るはずです。ところが、実は、この本は、英語本の面白さもありながら、中身は「社長漫遊記」のような社内話で、しかも、ソニーという巨大ブランドでしたので、こうしたコラボレーションがうまくいきました。そのうち、口コミでどんどん広がっていくようになったんです。
2位の
『上司は思いつきでものを言う』ですが、これはタイトルが効いています。最初は、別のタイトルを予定していましたが、途中で変えることになりました。同じ著者の
『「わからない」という方法』も、6、7万部売れています。いわゆる実用新書の装いをしながらも、実際は非常に哲学的な本です。そういう意味では、まさに新書らしい本だと思います。橋本さんは、論理の展開が実に巧妙な方ですので、軽く読むことができるような気分にさせながら、きちんと読もうとすると、なかなか一筋縄ではいかないという本になっています。我々は、このような書き手を見つけること、そして、彼らに何を書いていただくかということが、重要なことだと思っています。
1位の
『中坊公平・私の事件簿』は、実は創刊時の目玉にするつもりでしたが、当時、中坊さんは国民的英雄でお忙しかったので、創刊一周年記念として出しました。彼は、携わった事件の全てをファイリングしている方ですから、編集部で、面白そうな事件を14件選び、それについて中坊さんに1件ずつ話をしていただいて本になったという、まさしく「事件簿」です。ちょうど、バブルが崩壊して、人々が皆、日本の行く末に危惧を感じ始めた頃ですが、そういう時に、中坊さんのような方が、ひどい事件を洗い直して処理していく姿は、とてもかっこよかったわけです。ですが、逆に言えば、英雄待望論が出てくる時代は、あまりよくないですよね。中坊さんが英雄になったのは、時代の悪さだったのではないかと思っています。