ジャンルとしては、「教養新書」とされていますが、もちろんハウツーものも出しています。全部が全部、生真面目一辺倒である必要は毛頭ないと思います。それだけだと売れませんし。(笑)
集英社新書の特徴を一言で言うならば、「色んな手法を試している」と言えるでしょう。苦し紛れに編み出した感もありますが、例えば、それまでの新書の世界では、あまりなかった「対談」という手法で作ったのが、
『ナショナリズムの克服』(姜尚中、森巣博著)などです。他には、「聞き書き」も試しました。これは、編集部とライターと著者との共同作業です。例えば、
『板前修業』(下田徹著)の著者は、銀座の小料理屋の板さんです。この店に出入りしていたライターが、「彼の話がすごく面白いから聞き出してみようぜ」ということで、最初から「聞き書き」で本を作ることになりました。これも、一種の「知的な楽しみ」だと思います。このように、本来、物書きではない人を、新書という器の中に入れ込んでいくのは面白い手法だと考えています。
『魚河岸マグロ経済学』(上田武司著)も全く同パターンです。少し変わっているのに、
『天才アラーキー写真ノ方法』(荒木経惟著)があります。これなんかは、完全に「喋り」です。荒木さんは、カメラマンとしては超一流だし、言っていることも面白いのですが、文章にするとハチャメチャでわかりにくいんです。これも、最初から「聞き書き」にすると決めて、荒木さんに喋ってもらいました。また、
『星と生き物たちの宇宙』(平林久、 黒谷明美著)は、メールのやりとりです。
『臨機応答・変問自在』(森博嗣著)では、名古屋大学助教授の森先生が、実際に学生から募集したヘンテコな質問に全て答えていくという掛け合いの手法を取っています。このように、色々なパターンで、今まで新書としては見られなかった手法を使ったところに、集英社新書の特徴があると思います。つまり、「この人、話すと面白いんだけど、書けそうもないから」と言って諦めるのが普通ですが、そこで僕らは諦めずに、その人を表現するには、どういう形が可能かということを考えます。編集者の仕事は文字にして表現することですから、文字化するためにどういう方法があるか、ということを試行錯誤するわけです。今までは、「文字」をいただいて本を作っていましたが、文字としていただけないなら、こちらで作ればいいということになります。
あと一つ付け加えるとすると、他社に比べて翻訳ものの割合が高いと思います。例えば、ノーム・チョムスキーさんの
『覇権か、生存か』は、2004年の売り上げ4位ですが、2003年にも
『メディア・コントロール』を出しています。