風
 
 
 
 
 
 
[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
「新書」編集長にきく

第4回  講談社現代新書出版部部長 上田 哲之さん

1964年に創刊された講談社現代新書は、今秋40周年を迎えた。なじみのあるクリーム色の装幀からイメージを一新、白地に一冊ごと全く違う色を配した、斬新な表紙デザインが書店の棚に加わる。編集長の上田さんが語る"第三の新書"としての意地と今後の抱負とは。
1
なじみの色を脱ぎ、一冊一冊すべて違う色で勝負
新規参入戦争につづく老舗の挑戦
12月までは毎月10冊「今までの倍ですが、手は抜きません」
なじみの色を脱ぎ、一冊一冊すべて違う色で勝負
40周年を迎えて装幀を一新されましたが、内容や基本的な姿勢に大きな変化があるのでしょうか。
上田
今、世界は大きな変わり目を迎えていると考えられます。そういう時だからこそ、「新書の時代」ではないかと思うのです。新書は、新しく魅力的な思想や文化、価値観、情報といったものを、わかりやすくコンパクトに提示でき、価格も安いので手軽に入手できる、現代人にとって必須のメディアと言えます。我々はこの新しい時代に向き合うためにも、「新しい書」に取り組んでいきたいのです。
昨今の新書の世界を顧みると、10年前のちくま新書創刊以来の「新書戦争」は、「新規参入戦争」だったと言えます。岩波新書、中公新書、講談社現代新書のいわゆる老舗の御三家は攻勢を受ける側でした。この新書戦争によって、新書の可能性は多様に拡がりましたが、今度は、むかえ打った側、つまり、老舗の側が「新しい新書」を作り出す姿勢を示すべきではないかと考えたのです。そのためには、企画が一番大切になるのはもちろんですが、まずは「装幀」という新書の「顔」を33年ぶりに思いきって変えることで、今度は我々が世間に問いたいと思いました。
ずいぶんと印象が変わりましたね。一冊一冊はシンプルになりましたが、こうやって10冊並ぶとカラフルですね。それぞれの色は、特にジャンルや何かで決まっているのですか。
上田
あくまでもデザインとしての色という考えで、意味はなく、内容にも全く関連がありません。今までは、図版が必ずついていましたから、意味を表示していたわけですが、新装幀では逆に意味を剥奪したのです。中島英樹さんというデザイナーが考えたことですが、最も意味のないものにしたかったので、デザインは白地に正方形になりました。例えば丸だと、赤を使ったら日の丸に見えてくる、そういうことを避けたかった。一冊たりとも同じ色は使わないというのが、中島さんの主張です。背表紙が並ぶと、タペストリーのようになります。タイトル書体はゴシックで統一しました。新書としては初めてのはずです。
では、逆に言うと、意味があるのはタイトルですか。
上田
タイトルと帯です。帯は、書店で手にとって買ってもらうためのものです。買って自宅の書棚に置く時には、帯は外してもいいわけです。また、本好きの読書人の中には、カバーが邪魔だと言う人も沢山いますが、カバーを外しても格好いいと思っています。カバーをめくった本体の表紙の色も統一してあります。現代新書という昔からある新書が、ある種の逆襲を始めるということを多くの人々に告知できたとは思います。
<< PAGE TOP
新規参入戦争につづく老舗の挑戦
先ほど、「企画が一番」と仰っていましたが、「顔」が変わることで、当然「中味」も今までの講談社現代新書とは変えていくということになるのですか。
上田
「リニューアル」であって全面変更ではないので、これまでの講談社現代新書を否定するものではありませんし、継続するものだと考えています。
岩波、中公、講談社現代新書の三社で考えた場合、岩波、中公がアカデミズムの権威あるものや学術的でオーソドックスな内容であるのに対して、講談社現代新書は"第三の新書"ということで、二社よりも「わかりやすく、おもしろい」ということが一つのスタンスだったと思っています。色々な会社が参入していますが、我々はこれまで"第三の新書"として進めてきたことを継続したいと考えています。ただ、新規参入された新書のひとつの傾向として、一時間半で読めるような手軽さ、生活情報的な利便性を求める方向もあったと思います。それを考えると、我々は本来の新書のあるべき姿に戻りたいとも思っています。変動期だからこそ、学術的な知識や一般教養を啓蒙書として提示するという、新書の本流に戻るべきだと考えています。「様々な考え方が芽生えている」ことを読者に提供できるような側面を、今までより強めたいと思っています。
前回の編集長インタビューで、中公新書の松室徹さんは、「作為による知識よりも事実を重視する」という「中公新書刊行のことば」を指針の一つにして、「教養を軸に伝統を守る」と言っておられました。岩波新書の小田野耕明さんも「教養の路線」をめざすと言われました。講談社もやはり、岩波、中公のように教養を前面に出したいと思っておられますか。
上田
講談社も「現代新書の刊行にあたって」の中で、「教養は万人が身をもって創造すべきものであって、一部の専門家の占有物として、ただ一方的に人々の手もとに配布され伝達されうるものではありません」と記しています。「講壇からの天下りでもなく、単なる解説書でもない、もっぱら万人の魂に生ずる根本的な問題をとらえ、掘り起こし、手引きし、しかも最新の知識への展望を万人に確立させる書物を、新しく世の中に送り出したいと念願している」と書かれているように、今こそ、新書の本流に戻る時代だと考えています。読者もまた、様々な「思想」の可能性を求めているのではないでしょうか。
では、ラインナップとしては、エッセイ的なもの、実用的なもの、ハウツーものよりも、学術的なものの比重を高めるということですか。
上田
そうですね。新装幀の10点を見ていただければ、我々の方針がはっきりと出ていると思います。
講談社現代新書 新装丁
<< PAGE TOP
12月までは毎月10冊「今までの倍ですが、手は抜きません」
ラインナップの予定は、どのくらい先まで決まっていますか。一度に10点はかなり多いと思いますが。
上田
予定は12月まで決まっています。点数に関しては、月にこれまでは時折5点出すこともありましたが、基本的には4点でした。この三カ月は10点の予定ですから、今までの倍作ることになりますが、絶対に手は抜けません。
この10点については、いつ頃から方針を決めていましたか。
上田
装幀の変更を含めて、創刊40周年という大きな記念が今回のタイミングでしたので、2、3年前から考えてはいました。具体的には、装幀も変えるということが正式に決まった半年ほど前から準備しました。
見た目が新しく変わっても、中身は、先月まで出していたものとは全く色合いが異なるわけではないですよね。書店や取り次ぎの反応はいかがですか。
上田
誤解のないように申し上げますが、新装幀であって、新創刊ではありません。ベテランの書店員の中には、なぜ変えるのか、クリーム色こそが講談社現代新書ではないか、という声もあったそうです。新装幀は長年これまでの装幀に愛着を持って下さった方々を裏切る行為ですから、全員に受け容れられるとは思いませんし、反発もあるかもしれません。一方で、実際に現場で新書の棚に携わる人の多くは、楽しみだと言ってくれているそうです。
1 2
BACK NUMBER
PROFILE

上田 哲之

1955年広島市生まれ。
1979年、東京大学文学部卒業。同年、講談社入社。「週刊現代」編集部、「月刊現代」編集部を経て、93年、講談社現代新書出版部。99年より同出版部部長。

新装幀10冊

『大人のための文章教室』(清水義範著)、『情報と国家』(江畑謙介著)、『生きづらい<私>たち』(香山リカ著)、『武士道の逆襲』(菅野覚明著)、『教育と国家』(高橋哲哉著)、『漱石と三人の読者』(石原千秋著)、『幸福論』(春日武彦著)、『私・今・そして神』(永井均著)、『中国の大盗賊・完全版』(高島俊男著)、『公会計革命』(桜内文城著)

<< PAGE TOP
Copyright(C) Association Press. All Rights Reserved.
著作権及びリンクについて