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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
小学館、日経が参入。顕著な「格差、貧困、労働」―08年「新書」事情を振り返る 03
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7. 大手企業も「派遣切り」。労働者はいかに闘うか
8. 団塊世代向け趣味提案本が売れる?!
9. フィクションも「新書」で出版?!
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大手企業も「派遣切り」。労働者はいかに闘うか
■川井
 さて、来年出そうだというテーマ、こういう内容を期待したいというものは何でしょうか。
■田嶌
 世界的な不景気で、トヨタも赤字、ソニーも世界で1万6000人の人員カット、キャノンも大分で派遣や請負労働者を解雇するということで「派遣切り」だと言ってもめている。トヨタやソニー、キャノンなどの大手企業が“平気で”派遣切りをやるとなると、それを言い訳にしてしまう中小企業も出てくることが予想される。「トヨタでもそうなんだから、ましてやウチなら切らざるを得ないよ」とか。非正規雇用の問題はおそらく、来年になればいろいろな切り口で扱われるでしょうね。
■菊地
 そうすると、組合を作りましょうとか、ユニオンを作りましょうという動きが出てくると思うので、「私はこうして組合を作りました」とか「こうやって企業と闘いました」みたいなハウ・トゥー本も出るかもしれません。
 もちろん、今年11月に出た『家計破綻に勝つ!/40代からの生き残りマネー戦略』(荻原博子著、学研新書)や『年収防衛/大恐慌時代に「自分防衛力」をつける』(森永卓郎著、角川SSC新書)のような生活防衛、節約マニュアルももっと出るでしょうね。
■川井
 今年は「蟹工船」がブームになったし、もしかすると“共闘系”が出てくるのかもしれませんね。無保険(健康保険について)の子供が増えていることがニュースになっていますが、中には保険証を他人から借りて使っている例すらあるらしいですね。保険証は写真もついていないし、本人確認もしないですから使えちゃうのでしょうが、格差の問題は深刻です。
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団塊世代向け趣味提案本が売れる!?
■田嶌
 あとは、政治がどでかく動く年。時期はともかく総選挙がある訳ですから。民主党研究、小沢一郎研究の新書が出るでしょうね。いま、政治に対する不安というか、もやもや感が国民の中にありますよね。もちろん不景気であることも大きいのだけれど、とにかく、政治がこの後、どうなるか分からない。日本だけでなくアメリカも。オバマ新政権になって、彼がどういった政策を本当にとるのか、まだまだ不透明な点も多い。となると、企業も思い切った自己投資、資本投資をしないのではないかな。焦って大決断をする必要はないと、もう少し見通しが立つまで様子見している感じがしますね。
■川井
 逆に、政治や景気の流れが変わっても、どっこい起き上がらないといけないと、自分の生活を防衛する動きもありそうですね。都会は貨幣経済偏重で金がないと生きていけない。だから地方移住のような話が出てくる。地方に行けば土地はあるし、住まいもある。例えば、島根県では漁師募集などを積極的にやっているし、農協でも帰農支援をやっています。北海道では、移住促進の政策をとってますよね。現実に、移住が可能かどうかは別として、ムードとしてはそういう流れが起きるんじゃないかな。
■菊地
 高度経済成長時代、それこそ「三丁目の夕日」の舞台となったような“いい時代”ものを読みたいという人が、ますます増えるのでは? 団塊世代向けの本はもっと出版されるんじゃないかな。鉄道ブームも続くようだし、「旅もの」は一層注目されそうです。旅に限らず、時間が出来た団塊世代向けに、日々の生活を楽しめるような趣味提案型の本が多くなるでしょう。
■田嶌
 昔懐かしい復刻版がよく売れているみたいですね。第1ファミコン世代とでも言うか、テレビゲームを子供の頃に遊んでいて、いま30代、40代になった人が、リメイク版で遊んでいる。これはゲームの話なので、本として成り立つかはどうかは分からないけれど、でも工夫次第でそういった復刻もの、リメイクも期待できるはずです。
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フィクションも「新書」で出版!?
■川井
 先ほど、3ヵ月先を見越した企画も必要ではないかという話がありましたが、さて来年2009年、注目される動きは何でしょうか。
■菊地
 新書では相変わらず日本史ものがよく出版されていますから、2010年の平城遷都1300年を見越して、「奈良」本は多く出ると思います。
■田嶌
 世界に目を向けると、まずイラン大統領選。それからイラン革命からも30周年に当たるので、イランは取り上げられるだろうし、取り上げてもらいたい。科学ネタでは、ダーウィンが生誕200周年ですから、進化論はきそうですね。あと、皆既日食。アインシュタインの相対性理論は皆既日食によって実証されたし、科学ファン、天文ファンにはたまらない内容ですよ。
  そういえば今月は「世界人権宣言」60周年なのに、特に動きはなかったですね。「人権」を考えるような硬派な新書も期待したいところです。
■川井
 人権侵害に関する調査報告で世界的に信頼のある「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が、来年の東京事務所開設に向けて準備をしています。「風」では、その中心で活躍されている土井香苗さんのインタビューを記事にし、以降、土井さんに世界の人権問題の現状や「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の活動や日本政府への提言などを、定期的に語ってもらう予定です。でもやはり、「人権」という言葉から受ける印象が、どうしても抽象的であいまいな感じがする。これが、「人権」を正面から扱う内容のものがほとんど出ない理由かもしれませんね。
■田嶌
 確かに言葉の問題は大きいですね。「人権」は「ヒューマン・ライツ」をそのまま訳したに過ぎませんからね。日本人の心から発した言葉でないから。「ヒューマン・ライツ」が言っているところの「人権」とはもっと大きな視点なんです。
■川井
 今年は新書でも、ビジュアルものが多く出たり、10月には“手帳”も出ました。新書という判型で今後出そうなジャンルはどんなものが考えられるでしょうかね。
■菊地
 新書は文庫よりも活字が大きくできるし、読者にとって読みやすい判型だと思うんですよ。そう言う意味では、小説も新書にすればいい。今でも「ハヤカワ・ミステリ」などのようにフィクション系の新書シリーズもありますが、ミステリーだけでなくて、純文学、近代文学も新書で出すと、団塊世代を中心に喜ばれるのではないでしょうか。
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