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新書の「時の人」にきく
05 “下流”を喰う「悪魔的ビジネス」の実態をえぐる
ジャーナリスト 須田慎一郎
なぜこれほど消費者金融が急成長したのか。その理由は低所得者層という“下流”を喰いものにしてきた「悪魔的ビジネスモデル」があるからだという。『下流喰い/消費者金融の実態』(ちくま新書)の著者・須田慎一郎氏に出版の背景、問題の構造についてきいた。
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1.他に先駆けて社会・経済問題として消費者金融に取り組む
2.「金利見直し案」が業界有利に進められていた中で
3.世田谷区から足立区へ移って実感した“ギャップ”が原点
4.「○○円以上収入のある須田さんにはお金は貸せません」?!
下流喰い/消費者金融の実態
須田 慎一郎 著
(ちくま新書)
1
他に先駆けて社会・経済問題として消費者金融に取り組む
――
好調な売れ行きだとお聞きしていますが、現在(10月26日現在)、どのくらいの部数になりましたか?
須田
5万2千部売れました。あらたに2万部を増刷することになっています。合わせて7万2千部ですね。こんなに本当に売れるのか?って編集者と顔を青くしているという状況ですね(笑)。
初版は2万部だったのですが、それもちくま新書ではかなり異例の多さだったらしいですね。その後、7千、5千、2万、と増刷していって、比較的反応がいいので、さらに2万部増刷することになりました。なんとか売り切れるようにがんばろうと思っています(笑)。
ちょっと話がそれるかもしれませんが、ノンフィクションの作家さんの新書の書き方としては、書き手の意識として二つあると思うのです。一つは、どこかに連載したものをまとめたものでいいから名刺代わりにとにかく出す。もう一つは、それではなかなか売れないのだから、書き下ろしにこだわって売っていこうというやり方。私は後者なんです。だから一緒になって売っていかなきゃいけないから、プレッシャーは大きいですね。
――
須田さんはこれまで社会・経済的な問題について多くの著作がありますが、今回の新書ができあがる背景や事情を教えていただけますか?
須田
消費者金融はずっと取材をして取り組んできた問題なんです。夕刊紙や月刊誌などに記事も書きましたし、商工ローンの問題については『週刊ポスト』で連載もしました。しかし、書きっぱなし状態だったんですね。まとめていなかった。というのも、今まではあまりニーズがなかったから。また、武富士の盗聴事件に象徴されるように、書いたら訴えられるみたいなネガティブな反応がかえってくる。あまり書き手が書きたがらないテーマでした。
それから、宇都宮健児さんなどの弁護士さんが書いた本に代表されるように、借金で苦しんでいる側の救済を目的にした本はありましたね。それはそれで、もちろん意味があるのだけれど、要するにジャーナリスティックな視点から、社会問題だけでなく経済問題として取りあげるものは皆無だったんですね。
それに、マスコミとしては大スポンサーですからね。コマーシャル媒体をもっているメディアが真っ正面から取りあげるのは難しい。あまりきれいな話ではないから取り上げたいとも思わない訳ですね。
とは言え、いずれはまとめたいなぁ、と思っていたところへ、ちくま新書が声をかけてくれた。編集者の方から声をかけてくれたんです。ただ日々いろんな仕事をかかえていて、しかも取材する方が好きなたちですから、書くことがどうしても後手後手にまわってしまう。で、結局、3年くらい待ってくれたのかな。その間、僕が病気にかかってしまうアクシデントもあって。潰瘍性大腸炎という病気なんですけども、原因が不明で、炎症を止める薬しかない。内臓系の病気ってやる気が失せちゃったりして、ずるずると時間が過ぎてしまったんです。
でも、今年の梅雨ぐらいかな。編集者から「いつまでも待てません」て言われて、じゃ本格的にやろう、と。編集者は、「好きに書いてくれていいですよ」と言ってくれたんです。広告媒体をもっていない強みかもしれない。「固有名詞もあげていいですよ」と。
そういう意味で、この新書ができ上がったのは、じっくり待ってくれて自由に書かせてくれた出版社のスタンスがとても大きかったと思います。
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2
「金利見直し案」が業界有利に進められていた中で
――
「下流社会」などが問題となっている昨今、結果的には良いタイミングでの出版となりました。
須田
それは本当に偶然ですね。グレーゾーン金利の問題がこれほど大きく取り上げられる前から、すでに出版の話はあった訳ですし。今でもはっきり覚えているのですが、今年2月の最終土曜日。とても寒い日でした。この日に全国クレジット・サラ金問題対策協議会(通称、クレサラ協)主催のシンポジウムが、御茶ノ水の総評会館でありました。宇都宮さんたちから講演を頼まれたのでやったのですが、ちょうど西武鉄道の商法違反事件などの取材でヘトヘトに疲れていたときでした。それでその帰り道に急に発病しちゃったんです。すぐに病院へかけ込んで。そういう因縁話が、この問題には私自身いろいろありますね。

話がそれちゃいましたが、そのシンポジウムが開かれた2年前に、ヤミ金規制を強化する法案が成立していたのですが、金利を巡る問題は先送りにされてしまったのです。そのなかで「3年後をメドに上限金利について見直しをする」と決められていたんですね。それで、その“3年後”まで1年となった。
上限金利の問題、つまりグレーゾーン金利の見直しですが、お金を借りている側から考えると、金利見直しとは、グレーゾーンを撤廃して、利息制限法の上限に合わせるという意味で取りますよね。つまり、金利が下がると。ところが、貸している側はそうはとらなかった。グレーゾーンの撤廃とは、利息制限法の上限金利を上げてグレーゾーンを撤廃する。つまり高い方を下げて撤廃じゃなくて、低い方を上げて撤廃するんだという、なんともよく分からないロジックを持ち出すんですね。しかし、そのロジックで政界へのアピールを強めはじめた。そこで「貸す側が手間暇をかけ始めているぞ、金も使っているぞ」と、借りている側に危機感が募ったんです。
そこで、この問題は社会問題として大きく盛り上げていかないといけない。1年後を見越してフォローアップをする仕事をしないといけないなと。その初めての試みとして全国大会が開かれたのです。
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世田谷区から足立区へ移って実感した“ギャップ”が原点
須田
それからもう一つ、下流社会という問題に関して。今回の新書の私のプロフィール欄を見てもらうと、「足立区に育つ」って書いてある。そんな略歴はふつうないだろう!と編集者には突っこんだんだけど(笑)、小学2年生から高校卒業するまでかな、足立区に住んでたんです。バブル期に入る少し前ぐらいの時期でした。足立区の前は世田谷区の下馬という高級住宅地に住んでました。それで、足立区の西新井というところに引っ越すと学校の先生に言ったら、「それはたいへんだ」と心配されるんですね。「なんでだろう」と思いつつ、初めて足立区の学校に行ったら、まず子供たちの姿がちがう。半ズボンは僕一人。それから給食では、世田谷のときは白いプラスチックの清潔感あふれる食器。先割れスプーンなんて使っていなかった。それが足立区にくると、アルミの食器に、スキムミルクが出る。「なんなんだこの違いは?」と子ども心に思ったんです。その“ギャップ”を興味をもってみるようになってくる。もちろんその時は“格差”なんて意識はなかったけれど、いったいどうしてそんな違いが生じるのだろうか?と。
あと、象徴的だったのは就学支援制度。例えば修学旅行費が免除になったり、文房具代なんかは支給される。準要保護制度という名前で呼ばれていた。これを足立区では4割の世帯がもらっていたんです。クラスのなかで、もらうのが当たり前みたいな雰囲気があったんです。このあたりに、ある意味で言えば、貧乏な人たちの“したたかさ”みたいなものがありますよね。
それで家に帰って、親に「うちももらわないと損だよ」と言ったら「おまえ、何を勘違いしているのか!」って怒られる怒られる(笑)。その時は、なんで親が怒っているのかピンとこないんです。
でも高校生になるとだんだんと世界が広がっていって、世田谷との対比が分かってくる。足立区の空気というか風情というか、それが私は好きだったので、「ああ、こんなにも違うのか」って思いました。
――
それは「こんな状態ではいけない」という問題意識ですか?
須田
いやいや。そこまで高級なものじゃない。どうしてこんなに差があるのだろう?って、とてもシンプルな疑問です。だって、給食なんて食パンとスキムミルクに、ワカメとじゃがいものみそ汁。それにキュウリを横からパッと切って、「船底きゅうり」って言ってましたけどね、そのきゅうりに食塩を付けて食べるという、まるでキリギリスが食べるようなものですよ(笑)。すさまじい内容なわけです。要するに入ってこないんですね、給食費が。決められた栄養素は満たさなくてはいけないからって無理やり作った感じです。
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4
「○○円以上収入のある須田さんにはお金は貸せません」?!
――
須田さんが、消費者金融問題に関心をもった、そもそものきっかけは何ですか?
須田
もともと私は、銀行を取材していたんです。金融業界には業界用語として「雑金」という言葉がある。「銀行」とつかないところは全部「雑金」。信用金庫や消費者金融がそれです。つまり銀行というエリートからみた差別用語なんですね。だから、消費者金融なんて金融記者としてもあまり扱いたくない分野。銀行を相手に金融についてコメントする立場のメジャーな我々が、触れるフィールドじゃないよ!という差別意識があった。だから、あえて関わらないようにしてきたところがある。何か問題があっても、知らんぷり、見て見ぬふりをしてたんです。
私が消費者金融に関心をもったのは、10何年か前のクラボウ事件。大阪の繊維会社なんですが。そのクラボウに、東誠商事という大株主がいきなり登場してくる。そしてこの東誠商事っていうのが、完全な山口組系のフロント会社なんです。上場企業に暴力団系の会社が株主になって入ってくる。いったいこれは何が起こっているんだろうか?って。バブルのさなかですよね。いろいろと調べていくと、その資金源がレイクのオーナー社長(当時)で、浜田武雄氏というんですが、株が好きな人なんですね。買い集めた株を高値で売却するために、暴力団系会社を利用したというのが事件の真相だったんですね。
その時はプロミス、アコム、武富士、レイクが大手4社と言われていた。その大手の一角を占める会社が、なんでこんな反社会的な行為をしているのか?それが消費者金融に関心をもったそもそものきっかけでしたね。
90年代前半、たぶん92~93年だったと思うのですが、経済誌『財界展望』で、この事件とレイク問題をテーマに連載を始めたんです。すると、かねてから面識のある、とあるミニコミ誌の社長がきて、「須田君、これをだまって受け取ってくれ、レイクを頼むよ」と、現金を出すんですよ。5~6百万円くらいあったかな。レイク側が私を懐柔するように頼んだんでしょうね。
もちろんつっ返しましたけどね。でもこれで、その業界の一端を思い知った。「え、こういう業界なの?」っていうね。異常なんですよ。取材を続けていくと、消費者金融業界にはそういうテイストを強く感じる。
――
もうその時は独立されていたのですか?
須田
ええ。すでにフリーランスとして経済誌などに書いてましたね。ちょうどバブル崩壊直前っていう時期でした。この時期の社会問題は、新聞社でいえば社会部的な視点と経済部的な視点の境界ラインから見ていかないと、事件の本質が分からないものが多かったんですね。私自身、そういう部分の問題にもっとも関心のあったのも事実です。
消費者金融について言えば、あるとき、武富士の幹部を取材したときに「須田さんの年収は500万円以上あるでしょう。もしあったら、われわれは須田さんにお金は貸しません。もっと低所得者が対象です」って。それを聞いて「なんでだ?普通は逆だろう?」って思った。そこに、消費者金融のいかがわしさを感じたんです。まさに“下流喰い”の原点がそこにはあるのではないかと。これは単なる融資じゃないぞ、と。しかし一方でどんどん業績を伸ばしてきている。その矛盾というかギャップについて、構造的に書かれた本はあまりありません。現象としてはいくつも書かれているけれど。私には経済部的な感覚があったから、「何かおかしい」とピンと感じたのだと思います。それって、ビジネスとしておかしいじゃないか?ってね。
――
これは社会的に問題だという意識ですね?
須田
もちろん、そうです。低額所得者を相手にしていながらあれだけの業績をあげている。債務者からは容赦のない取り立てをしている。彼らには、適性利益とか社会還元とか、そういう考え方がない。しかもそんな企業が上場するのですから、大問題です。
――
そうした消費者金融を野放しにしていた責任はどこにあると思われますか?
須田
端的に言って、監督官庁がなかったことがすべてです。新書のなかでも書きましたが、法の網をかいくぐって存在しているのですから。先ほどの武富士幹部がうそぶいていましたよ。「僕らの監督官庁は警察だ」ってね。警察以外はどこにも縛られないぞってことですね。
――
消費者金融はどういう人たちが作ったのですか?
須田
市井の金貸しからのたたき上げですね。そこには何かカリスマ性であるとか、「いけいけどんどん」の経営手法でもって、その他多くから抜きんでてきた訳です。
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PROFILE

須田 慎一郎

金融ジャーナリスト

1961年、東京生まれ。経済ジャーナリスト。
日本大学経済学部卒。経済誌の記者を経て、フリー・ジャーナリストに。「夕刊フジ」「週刊ポスト」「週刊新潮」などで執筆活動を続けるかたわら、テレビ朝日「サンデープロジェクト」「サンデースクランブル」「ワイドスクランブル」「朝まで生テレビ」「スーパーモーニング」などの報道番組にも出演。政界、官界、財界での豊富な人脈を基に、数々のスクープを連発している。
主な著作:
 
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