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新書の「時の人」にきく
05 “下流”を喰う「悪魔的ビジネス」の実態をえぐる
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編集部から
編集部から:
 ある読者が『下流喰い』を読んで、「おそろしい本だ」と感想を漏らしていた。おそろしいことが書いてあるという意味である。所得の低い者たちに金を貸し、絞り上げる。それも破産されると困るから生かさず殺さず借金漬けにする。麻薬による“シャブ漬け”と同じである。須田さんはこれを「悪魔的ビジネスモデル」という。返せなくなり自殺に追い込まれる者、そしてその死をも生命保険で金に換えるビジネス。それが大手を振ってまかり通り巨額の収益を上げる。
  借金をするもの、返せなくなるもの、これらの多くは所得の低い層に属し、社会も消費者金融をめぐる問題をどこか「下層の問題」として見過ごしてきた感がある。しかしそうしているうちにこの問題は、社会の土台をシロアリのようにむしばんでいることに多くの人が気づきはじめていた。まさにそういう時に、須田さんは、長年の取材の成果として、行政、マスコミが長い間本腰を入れてこなかった消費者金融の実態と問題を浮き彫りにした。実際に借金の返済で追われる人や追う側の現場を訪ねると同時に、経済的な仕組みを解き明かすという、新聞社でいえば社会部と経済部のもつアプローチで問題をとらえる。ここ20~30年間で社会がどう疲弊していったかを映す鏡のようでもある。
  これだけ悪魔的で、反社会的ともいえるビジネスモデルでありながら、大手金融機関が関与し、テレビ局などメディアもまたこのビジネスから広告料を得て、広告を垂れ流す。「ご利用は計画的に」などといわれ、顧客となった人間から吸い上げた金が一流企業で働く者に回っている。また、地方都市をはじめかつては賑やかだった商店街がさびれていくなかで、どぎつい色の看板が繁殖する。「美しい国」とはほど遠い光景が日本中で見られるようになった。
  とんでもないビジネスではあるが、一方でこうした企業は大きな“雇用主”でもあるという点を考えれば、ただ批判するだけではこのビジネスのあり方を変えることはできないだろう。また、借りる側をみれば、労働意欲のない者、あるいは物欲に負けて安易に借りる者がいる一方、生活困窮のため借金苦に陥る層が存在する。この点は、須田さんが指摘するように、困窮の原因を解消する施策を国がとるべきなのだろう。
  いずれにせよ、さまざな意味で“弱い”人間はたくさんいる。しかし、それを救おうとするのではなく、喰いものにするビジネスがこれだけまかり通っていて、社会の土台を崩しはじめていることを知らせてくれる点で、『下流喰い』は、より多くの人に読まれてしかるべき優れた書であることは間違いない。(川井)
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