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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
Series 本・文化
本の未来を考える 
08/06/15

第2回 出版、書店業界の現在と将来 文化通信社・出版担当部長 星野 渉 さん

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4.書店淘汰の時代
5.専門出版社とセレクトショップ
6.求められる優秀な人材
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書店淘汰の時代

 新刊書店はあきらかに再編淘汰ということで急激に減少しています。1997年には2万3000軒くらいあったのが、今は店舗を持っているのが約1万5000軒、本部とかを入れて1万6000軒余りまで減っています。去年も出店が380余軒、閉店が1200軒ほどあり、出店の殆どがチェーン店ですから、法人数は明らかに減少している。ただ、売り場面積は1年間で9万2000坪くらい増えており、これは歴史的にも記録的な増床でした。逆にこの現象が出版界にとって一番のリスクだと思っています。マーケットは増えていないのに売り場面積だけが増える状態がつづけばどういうことになるか、それは火を見るより明らかなわけです。
 実は、その背景にこの1、2年のショッピングセンターの駆け込み需要があり全国に沢山のショッピングセンターが生まれている。ここには書店がかなり有利な条件で入店が可能なのです。しかし、今年の後半からは今までのようなショッピングセンターの増設はないだろうと言われています。さらに、今年は旭屋書店が銀座店や水道橋店など10店舗ほど閉めますし、今まで積極的に出店を続けていた書店の中に息切れを起こしている所があり、これから売り場面積が減少していくことも考えられるのではないか、どこかの大きなチェーンが倒産したりしたら、取次はそれを支えられないのではないかと思います。今でも閉店の増加が返品率を押し上げる原因にもなっています。

大型書店が一人勝ちする!?

 雑誌が落ちてきて、一方で書店の出店にブレーキがかかった時に、出版業界にとって一番のリスクになるのが、取次の存続、再編の問題だと思います。どこかにブレイクスルーがあり、委託では儲からなくなる。そのときの事を考えて先ほどの、取次の方針転換があったのではないかとも思います。
 そうした情報化などに対応が出来る書店、つまりデータを開示できてきちんとしたオペレーションが出来る店と出来ない店では、取次側の扱いが全く違ってきてきています。取次も出版社も、POSデータを開示しない書店には配本したくないのは当然です。そうすると、マーケットが縮小した場合のシミュレーションをしているのかというのがポイントだと思います。中小の取次は厳しくなっていますからその辺もリスクとして考えられます。
 また、書店の集中度が上がっていますから、書店の発言力が強まり、取次や出版社への圧力が強まるということも考えられます。

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専門出版社とセレクトショップ

 専門出版社の生き残りという点では、ある程度決められた市場の中でいかにきちんとしたマーケティングが出来るかだと考えます。市場を把握して、市場にあったチャンネルをつかって販売するなど生産性を上げていくしかない。編集者もやはりマーケットを意識した視点、同じ内容でも、読者にアピールし、より買っていただける仕掛けを探ることが必要です。

「マーケティングが大切」は出版業界では“非常識”!?

 アメリカの出版人に聞くと、出版で一番大切なのはマーケティングだと必ず言いますが、日本の編集者でそんなことを言う人はほとんどいない。アメリカは80年代に出版不況があり、その中で生き残ったのはきちんとしたマーケティングが出来た所だけだった。そこで、アメリカで起こったことは、中小の出版社のインプリント化ですね。大きい出版社、例えばランダムハウスなどの流通や間接部門を使うという条件の下に、小さな出版社が買収されその傘下に入る。そこは編集部門だけを持っていて、あとはランダムハウスの販売網で売られるという図式です。いまランダムハウスだけで数百社のインプリントを持っています。アメリカでインデペンデントでネオコングロマリットに属していない有名出版社はほとんどないといいます。ランダムハウスもベルテルスマンの傘下ですし、殆どがリードエルゼビアグループとかネオコングロマリットのグループに入っていて、その中でまたどこかの出版社の傘下に入っているという状況です。日本でも角川グループやインプレスのように、ホールディングスで会社を買収しながらグループ化を図るところも出てきています。やがて大手取次にもそうしたグループ化、多角化をめざすところが出てくるのではないでしょうか。例えば日販はTSUTAYAと提携してMPDという取次会社をつくり、またブッキングという出版社もありますし、日本版「ミシュランガイド」の発売元を引き受けたIPSという関連会社、リブロも傘下ですが、出版社、書店、取次など垂直指向でグループ化を図っているようにもみえます。

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求められる徹底した商品管理とマーケティングの必要

 書店が規模の拡大を図っている。しかし、規模の競争は必ず限界がきますし、同じ事をしていては消費者に飽きられることも間違いない。その意味でも今後は書店の質が問われてくると考えられます。たとえばセレクトショップみたいな形で書店が雑貨を扱う。楽天の中で一番売っているアンジェというショップを運営しているのは京都のふたば書房ですが、実際の店舗にもアンジェのコーナーを作って雑貨や本も売っている。ヴィレッジヴァンガードなどはいち早くそうした志向で発展しています。ここにしかないという面白いコーナーをつくろうという方向に進んでいます。

書籍販売も価格競争の時代に

 そのためには人材が必要になるということで人材の育成にも力を入れています。将来は書籍もセレクトショップのような形に、という考えもある。そうするとコストがかかりますから、当然版元に対してマージンを上げろといった要求が出てきます。また、価格競争ですね。再販制度があるので価格競争はないといわれてきたのですが、ポイントカードの採用や、中古本の併売など、価格面での競争が出てきます。
 中古本に関しては、調達の問題があり難しい点がある。ですから急激に拡大する状況ではないです。ただ、ブックオフが現在、出版業界との接触を図っていますが、それはリメインダー、要するにバーゲンブック販売の量を拡大したいと考えているようです。新刊に関しては単品管理が全く出来ていない組織ですから、新刊を扱うには返品に対応出来ないのです。その点、リメインダーは買取りですからね。
 競争の質の変化によって、書店が優秀な人材を必要としてきています。地方でも1000坪とか2000坪という巨大な、ビデオなどとの複合書店が多数誕生していますが、本の売り場だけでも、400坪600坪という規模ですから、このスペースを魅力的な商品で埋めるには相当なノウハウを持った人材でないと対応は不可能です。人材こそが書店の競争の原資であるという認識は現実のものになっています。ただ、書店従業員の給与の低さは深刻です。そういう点からも、書店の粗利をあげる要望は強くなるでしょうね。

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