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「新書」編集長にきく

第11回 朝日新書編集長 岩田 一平さん

朝日新聞社から10月13日、「朝日新書」が創刊される。カバーデザインを公募するという今までにないアイデアを出した編集長の岩田一平氏。新書の読者が少ないと言われている女性をターゲットにした新しいテーマの創出、記者というプロの“ライター集団”による幅広いテーマを展開するなど、新聞社ならではのラインアップを提供したいと抱負を語る。
新聞がカバーするテーマをラインアップに
創刊にあたってラインアップはどう決められたのですか?
岩田
編集部は、昨年の11月1日に店開きしました。フリーの人を含めて10人。書籍を作った経験のあるのは2人くらいで残りは、『週刊朝日』と『アエラ』の編集部からが半々。本当に寄せ集め所帯です。
だから、テーマについては、編集者が自分で興味のあるジャンルから考えたり、編集者の人脈に頼ったりと、色々でしたね。当初は、新聞社だからジャーナリスティックなもの、時事的なものをと考えたけれど、結果的には、かなりバランスのとれたラインアップになりました。
創刊ラインアップでの読みどころをご紹介ください。
岩田
書店の反応がとくにいいのは、『愛国の作法』(姜尚中著)と『御手洗冨士夫「強いニッポン」』(構成・街風隆雄)ですね。おもしろいのは、藤川太さんの『サラリーマンは2度破産する』。これは最初、『戦略マネー塾』だったかな、別のタイトルを考えていたのですが、大阪の書店への取次に関する説明会で、とある女性の店員さんから「タイトルは面白くないけど話は面白い。その話をストレートにタイトルにしたらどうか?」という指摘でかえました。なかなか目をひくタイトルでしょ?(笑)
著者の藤川さんは、わが社に「定年後はどう生活設計すればいいか」といったテーマでセミナーに来ていただいてるんですね。それでその時の話が面白かったので、声をかけました。「2度破産」っていうのは、まず30歳代で家を買っちゃう人が多いんだけど、これでまずショートしやすい、それからもう一つは定年過ぎて65歳で年金をもらうまでの間にショートしやすい、って話です。
それから、ラインアップで特徴的というか意識したのは、新聞社は記者という“ライター集団”を持っているから、その財産を活かしたいということですね。自薦他薦問わず、新聞記者の書き下ろしをラインアップに入れていきたいと思っていたので、そのトップバッターとして、まず編集局長の外岡秀俊さんに『情報のさばき方/新聞記者の実戦ヒント』。自分が今までどうやって情報を整理して、どう人脈を使って記事を書いてきたのか、さらに裏どりがいかに重要かなどを書いてもらいました。情報産業にかかわる人に対してだけでなく、一般の人にも有益になるように。いわゆる情報リテラシーですね。
それから、岩井克己さんは皇室関係の取材・報道に20年間携わってきた経験を生かして、さらに女性天皇について彼なりの主張も持っているので、そのあたりを書いてもらいました。つい先日、秋篠宮さまに親王様がご誕生になられたし、そういう意味では時事的なテーマですね。あと、星浩さんの『安倍政権の日本』。9月26日に安倍政権が誕生したから、それに合わせて。3本ともタイムリーな感じで出せると思っています。
清水良典さんの『村上春樹はくせになる』は、10月21日ノーベル文学賞の発表があるんだけど、かなりの確率で取りそうなので加えてみました。斎藤孝さんのは『アエラ』で「読書術」をテーマに連載してもらっているのがコンテンツになっています。千住博さんの『ルノワールは無邪気に微笑む/芸術的発想のすすめ』は、千住さんに販売店向けの画集を出してもらっていて、その際に読者からの色々な質問を募集するコーナーがあるんですが、その質問を集めて、Q&A方式で千住さんに答えてもらうというものです。
企画から編集まではどういうプロセスで決まるのですか?
岩田
編集会議は月2回ですが、企画は随時、部員から私のところに上げてもらっています。毎週木曜日にデスク会というのがあって、私と副編集長、それから出版本部長補佐兼務のマネジャーと販売次長の4人が集まって、みんなで意見を集約。そこでOKが出れば、翌週火曜日の「新書企画会議」にかけて本部長をはじめ、本部長室や販売担当の人など7、8人で最終的に決定していましたが、今後はもっと効率いい方法に変えます。企画が通ってから原稿をもらうのに、だいたい半年ぐらいのサイクルを考えていますが、なかなかスケジュール通りには行かないですね(笑)
創刊月は12冊と多いですが、今後は毎月何冊くらいになりますか?
岩田
毎月5冊ずつですが、それを本屋さんに伝えたら、一般的には偶数なのになんで奇数なんだといわれました。なんでか分かりますか?奇数だと横に並べるしかないけど、偶数だと四角に並べられて見栄えがいいからなんですって。あと、書店からは「読書論」っぽいのが多いといわれた。新聞社らしいものはもっとないのかと。でも、新聞というのは社会面も経済面、政治面もあれば、スポーツも文芸欄もある。新聞がカバーしている部分は拾っていきたい、守備範囲にしていきたいなと思っているし、それが朝日新書の特徴なのかなと思ってます。
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編集長すら知らなかった過去の“朝日新書”
朝日新聞社からは文庫と選書がすでに出版されていますが、なぜ新書を出すことにしたのですか?文庫や選書と、どう“棲み分け”を考えていらっしゃいますか?
岩田
まずなぜ新書を出すかというと、単行本のノンフィクションがなかなか読者に届かない状況になっているというのが背景にありますね。うちの書籍の売上などをみても実際、そういう感じがある。だから、簡便さ、お値ごろ感を考えると、新書という“器”は今の時代にマッチしているのではないか、と。
文庫や選書とはテーマなどで確かにダブるところがありますが、競い合えばいいのかな。文庫には第2次出版という側面もありますが、新書は書き下ろしオンリーでいきたい。それから、選書はちょっと専門的で難しいという印象を読者に与えるから、それよりは簡便なものというか、分かりやすいものを新書で出す。その上で、新書を入り口にして選書や単行本も読者が読んでくれればうれしいですね。
新書を出そうといつから話があがったのですか?
岩田

実はね、朝日新聞社が出す新書って、今回が初めてではないんですよ!1953年に創刊した『朝日文化手帖』(写真・下)というのが新書版で、100冊ぐらい刊行されたんです。でもこれ、実は私たちも知らなかった(笑)。創刊プロジェクトが立ち上がった当初、倉庫みたいな部屋で仕事していたんですが、その時、部屋の中を整理していたら出きたんです。内容的にも結構おもしろくてね、復刊もちょっと考えているんです。あと、朝日ニュースショップ新書というのを95年から出していました。全部で60冊ぐらい出したところで撤退しました。朝日ニュースショップ新書は、文春新書や新潮新書よりも早い創刊だったんだけど、逆にちょっと早すぎたんでしょうね。だから今回で朝日新聞社としては3度目の新書。3度目の正直です!

朝日新書の創刊について、書店側の反応はいかがでしたか?
岩田
書店の反応はだいたい良かったですね。もっと刷った方がいいっていってくれたお店もあったし、仮注文も入ってます。目立つところに置いてくれることを約束してくれたところもある。三省堂さんなんかは、かなり好意的でしたね。たぶん、新書の世界もメガヒットが一段落して、ちょっと空白感が漂っているからかな。目新しいものが並ぶことでテコ入れしたいという感じではありました。
そういう新書市場を眺めてみて、朝日新書が定着していくために、どんな戦略を考えていらっしゃいますか?
岩田
とりあえず、新書界がマンネリ化しているから、違う銘柄ということで読者に飛びついてもらえればと思ってます。最初が肝心ですから。これだけたくさんの新書が出されているので、その中で目立つのは難しいというのは分かる。確かに「朝日新聞」というネームバリューはすごいけど、出版社としてはまだまだですからね...。とはいっても逆に、新聞など自社の媒体を使って宣伝ができるというのはかなり強みですね。
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他にはないテーマや新しい著者の発掘など冒険したい
著者についてですが、中公新書のように原則、学者と決めているところもあるようですが、朝日新書では何か決めていらっしゃいますか?
岩田
うちの編集部には雑誌編集の経験者が多いので、著者については、学者だけに偏ることはなく、かなり柔軟に雑多にお願いしていこうと思ってます。逆にまとまりがなさそうといわれそうだけど(笑)。実際、南海キャンディーズの山ちゃんにも書いてもらう予定なんです。安定した部数を出すためには、過去に実績のある著名な人、斉藤孝さんとかですね、そういった方を起用した方がいいと営業サイドからはいわれるんだけど、編集者としては新しい著者を発掘したい気持ちがある。そのバランスというかせめぎ合いがなかなか難しいですね。ただ、本屋さんに聞いても、今は何が売れるかは分からないっていう。だけど店頭にならんで3日経てば分かる!っていうんです。だから注文したら在庫切れのないように、重版を可能にしておいてほしい、と。「機動力」が求められているのかなと思う。
ま、いずれにせよ新しい著者やテーマの発掘に関しては、“冒険”したい気はありますね。例えば、翻訳物も出したいなと。翻訳物って予算の都合上、なかなか新書では難しいんですが、例えば海外のジャーナリストが書いた良質な薄い本を翻訳して出せないかなと思っています。「国際的」というカラーは、うちにも合っていると思いますしね。
タイトルの付け方には、なにか方針や社内的な取り決めはないのですか?
岩田
タイトルだけで売れている訳ではないと思うけれど、確かにタイトルの付け方が上手いと思うものがありますよね。だから、色々と学びたいというか考えているんだけど、今回はこれが限界でしたね(笑)。売れるためには、タイミングと人選とタイトルが重要なのは確か。ただ、タイミングはなかなか運っていうかな、カンもあります。ジャンルやタイトルの付け方などを、最初から決めてないのはよくないのかもしれないけれど、どこに“釣り堀”があって何がひっかかるか分からないですから、あえて自分の手を縛るようなことはしない方がいいかなと思うんですよ。
 
『週刊朝日』や『論座』などの雑誌を持っていることの強みというのはありますか?
岩田
論座でよく執筆している姜尚中さんが、今回の創刊のなかの一冊で『愛国の作法』を書いていますが、ここではベストセラーとなった、藤原正彦さんの『国家の品格』(新潮新書)に対して大反論を展開しています。今、右の論壇が言論界においても強すぎるきらいがあるので、そういう風潮に対抗していきたいというのはありますね。こうした論調に共感する“朝日のファン”が少なからずいますし、世の中の流れに迎合する気はないですから。朝日新聞の論調を背負う気もないけれど、言えること、言いたいことは言っていきたい。
集英社新書や岩波新書でも、右の論壇への反論という姿勢が見えますね。
岩田
そうですね。朝日・集英社・岩波ってのが論壇を引っ張っていくようにならないと!最近はあまりにも、右の論調が強すぎる気がするんですよ。
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PROFILE

岩田 一平

1957年生まれ。早稲田実業から早稲田大学政経学部卒。
80年朝日新聞社入社、鳥取支局員、週刊朝日編集部員、大阪出版本部員、週刊朝日副編集長、アサヒカメラ編集長などを経て、05年11月、新書発行プロジェクト編集長、06年4月、新書編集長
著書に『縄文人は飲んべえだった』(朝日文庫)、『遺跡を楽しもう』(岩波ジュニア新書)、『珍説・奇説の邪馬台国』(講談社)など。

『愛国の作法』
『愛国の作法』
姜尚中著
『御手洗冨士夫「強いニッポン」』
『御手洗冨士夫「強いニッポン」』
『サラリーマンは2度破産する』
『サラリーマンは2度破産する』
藤川太著
『情報のさばき方/新聞記者の実戦ヒント』
『情報のさばき方/新聞記者の実戦ヒント』
外岡秀俊著
『天皇家の宿題』
『天皇家の宿題』
岩井克己著
『安倍政権と日本』
『安倍政権と日本』
星浩著
『村上春樹はくせになる』
『村上春樹はくせになる』
清水良典著
『使える読書』
『使える読書』
斎藤孝著
『ルノワールは無邪気に微笑む/芸術的発想のすすめ』
『ルノワールは無邪気に微笑む/芸術的発想のすすめ』
千住博著
『新書365冊』
『新書365冊』
宮崎哲弥著
『日中2000年の不理解』
『日中2000年の不理解』
王敏著
『妻が得する熟年離婚』
『妻が得する熟年離婚』
荘司雅彦
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