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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン

新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2017年12月刊行から 編集部

NEW

18/01/15

獣医学部と軍事研究

科学者と軍事研究』(池内 了著、岩波新書)は、2016年6月刊行の『科学者と戦争』(岩波新書)のいわば続編。特に、軍事研究のターゲットとなっている工学系分野の研究者が置かれている実情について報告する。競争原理が厳しくなり、短期間で研究成果を問われることで常に心理的に追い詰められている彼らに対し、財政的な力で国家が優秀な科学者を軍事研究に参加させようと促す方策をとっている、と指摘する。ただし、著者らによる「軍学共同反対」運動が大学関係者に与えた影響もあるのか、防衛省は露骨な軍事化路線をとるのではなく、産業界主導による「軍産学」の結びつき強化策など、巧妙な手法をとるようになっている。「科学と大学を取り巻く状況は非常に深刻であり、このままでは日本の学術全体の実力低下は確実」と警告している。
 昨年大きな話題となった獣医学部新設の件だが、これももしかすると軍事研究と絡むのではないか、と予想しているという。実際に調べていくと、新設される獣医学部の重要な役割として、「人獣共通感染症」対策や創薬のための「動物実験の重要性」がうたわれ、「生物化学兵器の実験・開発・対応」を担う役割が期待されている、という側面がみえてきたという。「軍事研究については、また続編を書かなければいけない」としている。

日本軍兵士/アジア・太平洋戦争の現実』(吉田 裕著、中公新書)では、多くの部隊史や兵士の回想記といった一次資料をもとに「兵士の目線・立ち位置」からアジア・太平洋戦争を改めて振り返る。これまで戦記では語られることの少なかった、戦場での餓死、自殺、落伍していく傷病兵への「処置」(自決を勧告し、強制する)を克明につづる。また、戦争中に得たマラリヤ、水虫などに敗戦後何年にもわたり苦しめられていた人々や、覚せい剤中毒の深刻さについても伝えている。事実をもとに、日本軍兵士が「どのように死んでいったか」「どのような凄惨な体験を強いられていたか」をきわめて具体的に検証していく。
 日本軍の戦闘力を過大評価するような論調や、日本陸海軍を「礼賛」するような論調で、先の戦争を美化するかのような声が根強くあがる昨今の風潮を警戒し、こうした「死の現場」の報告を、繰り返しうったえていく必要がある、としている。

マスコミに登場する障害者は「頑張る」か「かわいそう」のどちらか

目に見えない世界を歩く/「全盲」のフィールドワーク』(広瀬浩二郎著、平凡社新書)の著者は、13歳の時に失明し、「全盲のハンディを乗り越え」京都大学に進学、現在は民俗学博物館の准教授をつとめる文化人類学者。友人やボランティアの支援を得ながら学んでいた大学時代に「目が見えなくてもできることを増やす努力や工夫には限界がある」と悟り、「目に見えない」世界の研究対象とすることにしたという。視覚情報を補うためだけではない、「さわる文化=触文化」の奥深さと豊かさをうったえる。
 パソコンの読み上げ機能の進化、インターネットの利用などで、点字を使わなくても情報収集が可能になってきた。その一方で、昨今深刻だと著者が感じている、視覚障害者の「点字離れ」の現状にもふれている。マイノリティからの発言・発信がなければ、社会を変えることはできないと、目が見えない自分にしかできない、知的生産の可能性を日々探っていくという。

 同じく、マイノリティから声をあげないと社会は変わらない!と「お笑い」という武器をつかって声をあげ続けているのが、『考える障害者』(新潮新書)の著者、ホーキング青山氏。車イスのお笑い芸人としてデビューしてから20年以上になる著者は、先天性の難病により生まれた時から両手両足が使えない。
 デビュー当時の障害者への捉え方は、「聖人君子のように扱うもの」と、「厄介者」として扱うもの、この2つの両極端のものしかなかったという。この20年で、世間の障害者への認識の何がどう変わったのか、変わっていないことは何か。なぜ障害者は「気を遣われ」そこから「タブー」が生まれるのか。著者が「大事だけれどあまりふれられていない」と指摘するお金の問題にもふれる。障害者の暮らしについての「コスト」をどう考えるか、障害当事者以外にはなかなか踏み込めないところへ切り込んでいく。

どこまで進む日本人の清潔志向

「消毒」「殺菌」「抗菌」「消臭」「除菌」をうたう商品が次々と誕生し、目には見えない「バイ菌」への恐怖感をあおるテレビコマーシャルが頻繁に流される。日本人の「いきすぎた清潔志向」が年々「過激に」なっていると指摘するのが『手を洗いすぎてはいけない/超清潔志向が人類を滅ぼす』(藤田紘一郎著、光文社新書)。
 著者は寄生虫学や免疫学の専門家。「健康のため」に多くの人が励行している、薬用せっけんによる手洗やアルコール消毒などは、免疫力を下げ風邪をひきやすい身体をつくる元凶だと警告している。身の回りの菌は100%排除したい、などの「誤った」超清潔志向に陥っていないか、思い当たる節がある人は一読をおすすめしたい。

 明治時代になるまで、日本人は肉を食べる文化がなかった、とはよく言われている。しかし、『ニッポンの肉食/マタギから食肉処理施設まで』(田中康弘著、ちくまプリマー新書)の著者は、日本人も太古の昔から普通に肉を食べていたことを紹介する。いまや完璧にシステム化されたウシ・ブタ・ニワトリなどの食肉処理と流通の現場。「ジビエ・ブーム」により注目を集めるようになったシカやイノシシ、ウサギといった野生獣の狩猟と解体の現場。ここ半世紀ほどで急激に変化をとげた日本人の肉食文化を考察している。

炎の牛肉教室!』(山本謙治著、講談社現代新書)は、すばり「牛肉」のみに焦点をあてた珍しい一冊。「肉フェス」というイベントが各地で人気を集め、骨付きステーキ肉の専門店が激増している、「空前の肉ブーム」だという。国産牛肉と輸入牛肉の違い、牛肉の「美味しさ」は何で決まるのか、ブランドと化した「黒毛和牛」の格付け問題など、知っているようで知らない牛肉のあれこれを語りつくす。

 ストーカーによる凶悪事件がマスメディアによって大きく報道されることが増えている。『ストーカー/「普通の人」がなぜ豹変するのか』(小早川明子著、中公新書ラクレ)の著者はストーカー、DVやハラスメントなどのカウンセリングを行う専門家。被害者からの依頼により、ストーカー加害者とのやりとりも行うことがある。警察ではなく、第三者や代理人が間に立つことで、被害者は精神的にも楽になり、加害者も被害者の気持ちを冷静に聞くことができるようになることが多いという。
 著者が扱ってきたストーカーについての相談案件のほとんどは、ニュースになるような凶悪な事件ではないが、「男女間のよくある小さなトラブル」も、一歩対処を誤ると、取り返しのつかないような事態になる危険性もある。昨今では、SNSを利用した素性を知らない相手による「顔のないストーカー」も激増していることや、リベンジポルノなど悪質な手口への対応策など、現代人の誰もが知っておくべきことが書かれている。ストーカーの心情を知ることで、一歩間違えばストーカーの「加害者」になってしまう危険性についても改めて考えさせられる。

明治維新150年

 明治維新から150年の今年2018年、NHK大河ドラマ「西郷どん」の主人公として注目を集める「西郷隆盛」。『西郷隆盛/手紙で読むその実像』(川道麟太郎著、ちくま新書)では、西郷自身が家族や親友に書いた手紙という「一次史料」に注目し、その生涯を綿密に読み解こうという試み。
 一時は「慶応の功臣にして明治の賊臣」だった西郷が、のちには再び忠君愛国の鑑として、また悲劇の英雄として扱われるようになる。これまでもその生涯について書かれた書籍は数多いが、激動の時代に生きた人物だからこそ、そこには虚偽や虚構、後世の歴史家によって歪められた事実も多いと著者は指摘する。歴史上の大人物ではなく、本名・西郷吉之助としての人物像にできるだけ近づこうとしている。
 西郷については昔も今もなぜかいろいろな人が語りたがる。西郷隆盛は、それぞれの人の理想を託して語られる「イメージ先行の男」ではないか、と評しているのが『徳川家が見た西郷隆盛の真実』(徳川宗英著、角川新書)の著者。50年の間に何度も名前を変え15も名前を持っていたという西郷の「イメージ」の陰に隠れているさまざまな謎をどう見るか。田安徳川家第十一代当主という著者ならではの視点で、徳川家や島津家にまつわるエピソードを交えながら西郷隆盛の実像に迫る。 
 2018年は明治維新150年とならび、「蝦夷共和国150年」でもある。『榎本武揚と明治維新/旧幕臣の描いた近代化』(黒瀧秀久著、岩波ジュニア新書)では、幕末の激動期にオランダに渡り海外の科学技術の最先端を学び、日本の近代化に大きな役割を果たした榎本武揚の生涯を学ぶ。榎本が夢見た「蝦夷共和国150年」とは何なのか。箱館戦争で敗れた後も、旧幕臣でありながら北海道開拓や殖産興業に大きな役割を果たすことができた要因は何なのか、その人物像に迫る。

(編集部 湯原葉子)

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『科学者と軍事研究』
池内 了著
(岩波新書)

『日本軍兵士/アジア・太平洋戦争の現実』
吉田 裕著
(中公新書)

『目に見えない世界を歩く/「全盲」のフィールドワーク』
広瀬浩二郎著
(平凡社新書)

『考える障害者』
ホーキング青山著
新潮新書)

『手を洗いすぎてはいけない/超清潔志向が人類を滅ぼす』
藤田紘一郎著
(光文社新書)

『ニッポンの肉食/マタギから食肉処理施設まで』
田中康弘著
(ちくまプリマー新書)

『炎の牛肉教室!』
山本謙治著
(講談社現代新書)

『ストーカー/「普通の人」がなぜ豹変するのか』
小早川明子著
(中公新書ラクレ)

『西郷隆盛/手紙で読むその実像』
川道麟太郎著
(ちくま新書)

『徳川家が見た西郷隆盛の真実』
徳川宗英著
(角川新書)

『榎本武揚と明治維新/旧幕臣の描いた近代化』
黒瀧秀久著
(岩波ジュニア新書)

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