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新刊月並み寸評

毎月、約100冊もの新刊が登場する「新書」の世界。「教養」を中心に、「実用」、「娯楽」と、分野もさまざまなら、扱うテーマも学術的なものからジャーナリスティックなものまで多種多彩。時代の鏡ともいえる新刊新書を月ごとに概観し、その傾向と特徴をお伝えする。

2018年3月刊行から 編集部

NEW

18/04/15

検閲とは無縁のままの日本でいられるか?

空気の検閲/大日本帝国の表現規制』(辻田真佐憲著、光文社新書)では、「検閲」というシステムについて多くの人が思い浮かべる時代、つまり帝国日本の表現規制、検閲の現場について詳しく検証する。公権力が、明文化された法令や規則に基づいて表現内容を審査し、不適当と認めるものに発表禁止などの規制を行っていたものがいわば「正規の検閲」である。一方で、タイトルにある「空気の検閲」とは、出版人や言論人とやりとりしながら、当局の意向を「忖度」させ、自己規制や自己検閲を行うように誘導したものをさす。現場に空気を読ませ、忖度させることで検閲のコストを下げ、法制度が時代に追いつかないことで法の抜け穴ができてしまうことを防ぐねらいがあったのでは、と著者は指摘する。現代日本には、「正規の検閲制度」が存在しないが、空気や忖度にもとづく表現規制とは無縁ではないのではないか、と著者はいう。

陰謀の日本中世史』(呉座勇一著、角川新書)の著者は、『応仁の乱』(中公新書、2016年)が大ベストセラーになったことで一躍有名になった歴史学者。「本能寺の変には明智光秀のほかに黒幕がいた」といった歴史の「陰謀説」が大好きな日本人。専門家の間では定説となっている最新学説をもとに、数々の「トンデモ陰謀説」を論破していく。なぜ騙されるのか。意外なことに、教養あるインテリ層が、陰謀論に騙される例は枚挙に暇がないとしている。専門家から見て一目で荒唐無稽とわかるような説の間違いを証明しても、学会では研究業績にならないため、あえて相手にしないようなところがある。陰謀論が後を絶たないのは、トンデモ説を黙殺してきた歴史学会にも責任があるのでは、と指摘している。

英国公文書の世界史/一次資料の宝石箱』(小林恭子著、中公新書ラクレ)では、さまざまな調査目的のために世界中から多くの人々が訪れる、英国国立公文書館(英公文書館)をとりあげる。幅広い分野にわたる一次資料が保管され、誰でもしかるべき手続きをとれば閲覧できるようになっている。本書では、夏目漱石のロンドンでの足跡を示す下宿記録、原爆開発に関する覚え書き、英国調査団の詳細な報告による原爆投下後の広島・長崎の光景、ビートルズ来日報告書など、日本に関わる公文書や、大英帝国から東西冷戦までの英国の歴史にまつわる文書などを紹介している。公的記録を残し、保管していくことの重要性がクローズアップされている今、英国と日本両国の、公文書に対する「本気度の違い」について考えさせられる。

大人こそアップデートしたい「恐竜」の知識

大人の恐竜図鑑』(北村雄一著、ちくま新書)で紹介される、「恐竜には羽毛があった」「恐竜の祖先は鳥」「ティラノサウルスは直立できない」などの「恐竜についての最新の学説」は、最新の図鑑を読んでいる子どもたちから見れば当たり前の内容が多いかもしれない。著者はサイエンスライターであり、図鑑などのイラストも描く。著者の子ども時代、ティラノサウルスといえばゴジラのように上半身を起こしてしっぽを引きずる姿で描かれていた。
 恐竜図鑑に描かれる復元図は、牙をむきだしにし、ウロコがとげとげしく、口からダラダラとよだれをたらし、どう猛なイメージのものが多かった。恐竜をドラゴンや悪魔的なものとして描くキリスト教の影響が強いこうした世界観は、最新の研究成果からすると明らかに間違いだという。現代の説では恐竜は羽毛を持ってたとされるが、基本的に骨しか残っていない。残っていないものをどう描くべきか。恐竜学者による最新の学説と矛盾しない形で、一般の人々のイメージとかけ離れない程度の復元図を描く。著者がこの難しい問題にどう対応しているかという解説も興味深い。

鳥! 驚異の知能/道具をつくり、心を読み、確率を理解する』(ジェニファー・アッカーマン著; 鍛原多惠子訳、ブルーバックス)は、脳があまりに小さく軽いので、「愚か」と考えられてきた鳥たち。しかし近年の研究では、霊長類に近い知性をもつ鳥もいる、ということが知られてきているという。多様な環境で生き延びてきた鳥類が、どのように「複雑」な認知能力、を獲得してきたのか。鳥は私たちが思うよりずっと賢いのではないか、とさまざまな例から紹介している。鳥のさえずりにはその地方により「訛り」がある、という研究など面白い。

絶滅危惧の地味な虫たち/失われる自然を求めて』(小松貴著、ちくま新書)によれば、日本には、名前がついているものだけで3万種近く、推定上は10万種にものぼる昆虫がいるとされている。そうした昆虫の多くが、人間による環境破壊に伴い、生態がよく知られないままにひっそりと姿を消していっている。
 環境庁の作成する「絶滅が危惧される」レッドデータリストに載っている昆虫のうち、保護活動の対象になりやすいのは人気が高いチョウやホタル、カブトムシなどの大型甲虫ばかり。著者は、それら「人気者」以外の、小さくて地味、キモい、虫愛好家や研究者たちさえ調べたがらない「いかにもどうでもいいような風貌」の昆虫に注目している。
 著者は、生き物に対する一般の人々の無理解・無関心というものが絶滅危惧種を生む、と警告している。福島第一原発の事故を機に「自然にやさしいエネルギー」と喧伝されて日本各地に急速に建設されているメガソーラーは、希少な生物とその生息地を奪う、はかりしれない規模での環境破壊を生み出している、と批判している。「環境にやさしい」という場合の「環境」は、あくまで人間中心にあるということを、私たちはもう少し自覚したほうがよいかもしれない。

生物学の基礎はことわざにあり/カエルの子はカエル? トンビがタカを生む?』(杉本正信著 、岩波ジュニア新書)は、古くから伝わる「ことわざ」を題材に、現代人が知っておくべき生物学の入り口へと誘う試み。昔の人々から受け継いで来た「人生の知恵」であることわざの多くに、遺伝や進化、免疫のしくみ、生物多様性など、生物学の本質をついたものが数多くみられて興味深い。

政教分離と信教の自由は両立可能か

ライシテから読む現代フランス/政治と宗教のいま』(伊達聖伸著、岩波新書)は、厳格な政教分離を共和国の理念とするフランスで、信教の自由と政教分離は矛盾しないのかなどといった、さまざまな葛藤を紹介する。
 ライシテとは、「フランス独特の厳格な政教分離」とも言われ、公立校でイスラームのスカーフを禁止するなど、他の国には例を見ない。数々のテロ事件を受け、「カトリックに寛容、イスラームに厳しい」と言われる現代のライシテを、フランス人はどう受け止めているのか。大統領選の主要な争点にもなった、政教分離に対する寛容と厳格さのバランスを読み解く。

マーティン・ルーサー・キング/非暴力の闘士』(黒崎 真著、岩波新書)は、非暴力をうったえ、貧困のないアメリカの実現を願って活動を続けたキング牧師の生涯をたどる。今日、多くの人が思い浮かべるキング像は、1955年~65年の南部公民権運動を指導した際の姿、有名な「私には夢がある」演説、ノーベル平和賞受賞したカリスマ的指導者像としてのキング氏である。
 しかし、著者は、こうしたキング像は、政治的に無害な、万民に受け入れやすい「公的記憶としてのキング」である、と指摘する。キングは、ベトナム戦争の際に反戦表明をしたが、黒人の地位向上のためにも戦争協力は欠かせなかったこの時代、連邦政府を敵に回したキングは一転して非難の的となった。貧困根絶の取り組みも生涯続けていたが、そうしたキングの活動は、当時の政府にとって不都合があったばかりでなく、その後歴代大統領たちによっても「なかったもの」とされている。暗殺から今年で50年の今、現大統領自ら、アメリカ第一主義と人種偏見の発言を繰り返している。アメリカはキングの「夢」からむしろ遠ざかっているのではないか、と著者は指摘する。

スポーツ国家アメリカ/民主主義と巨大ビジネスのはざまで』(鈴木透著、中公新書)では、野球、アメリカンフットボール、バスケットボールといったアメリカ生まれの競技(著者は「アメリカ型競技」と呼ぶ)を中心に、スポーツがこの国のあり方にどう影響を与え続けているかを考察している。
 人種の壁、女性差別の壁とスポーツはどう向き合ってきたか。巨大放映権ビジネスはスポーツに介入し、ルールの変更もたびたび行われている。スポーツ、特にアメリカ型競技の成り立ちから、アメリカという国を新たにとらえなおそうとする斬新な視点である。2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのホスト国として、スポーツを社会の中でどう位置づけていけばよいか、身近な問題として考えるきっかけにしてほしい、としている。

AIをどう理解していくか

 新書に限らず、さまざまな分野・角度から「AI」をテーマにした書籍は続々と刊行されている。『高校生のための ゲームで考える人工知能』(三宅陽一郎; 山本貴光著、ちくまプリマー新書)は、ゲームのキャラクターの人工知能という「具体例」を使ってAIについて理解してみようというもの。
 著者は二人とも気鋭のゲームクリエイター。コンピュータゲームの世界は、コンピュータの性能が格段に向上し、複雑で大規模なゲーム世界をリアルタイムで動かしたり、ネットワークにつながることで、たくさんのプレイヤーが同時に遊ぶことも当たり前になってきている。プレイヤーを飽きさせない状況の変化や物語をどうつくりあげていくか、若い世代に向け、最先端ゲーム開発の舞台裏を紹介している。

教養としてのテクノロジー/AI、仮想通貨、ブロックチェーン』(伊藤 穰一; アンドレー・ウール著、NHK出版新書)は、AI、仮想通貨、ブロックチェーン……などの新しい言葉が次々と登場し、理解できないために「自分とは関係ない」と思っている人のための一冊。AI、仮想通貨、ブロックチェーンなどに代表されるテクノロジーは、すべての人が技術的な仕組みを理解するのは難しいかもしれないが、「教養」というレベルで理解していくことが、現代社会を生きていく上では必須である、と著者らはいう。
「労働」や「国家」「資本主義」「教育」は新しいテクノロジーの登場によりどう変化していくのか、変化の激しい時代に日本人はどう変わるべきなのかをうったえかける。

ゆるいつながり/協調性ではなく、共感性でつながる時代』(本田直之著、朝日新書)では、肩書きが重要視される昭和的なつながりと比較して、SNS時代に必要な「ゆるいつながり」とは何かを論じている。AIには真似できない、自分ならではの価値をどう磨き、楽しく生きていくか。「人脈」という従来の言葉では表せない人間関係の新しいありかたを模索しているという。

(編集部 湯原葉子)

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『空気の検閲/大日本帝国の表現規制』
辻田真佐憲著
(光文社新書)

『陰謀の日本中世史』
呉座勇一著
(角川新書)

『英国公文書の世界史/一次資料の宝石箱』
小林恭子著
(中公新書ラクレ)

『大人の恐竜図鑑』
北村雄一著
(ちくま新書)

『鳥! 驚異の知能/道具をつくり、心を読み、確率を理解する』
ジェニファー・アッカーマン著; 鍛原多惠子訳
(ブルーバックス)

『絶滅危惧の地味な虫たち/失われる自然を求めて』
小松貴著
(ちくま新書)

『生物学の基礎はことわざにあり/カエルの子はカエル? トンビがタカを生む?』
杉本正信著
(岩波ジュニア新書)

『ライシテから読む現代フランス/政治と宗教のいま』
伊達聖伸著
(岩波新書)

『マーティン・ルーサー・キング/非暴力の闘士』
黒崎 真著
(岩波新書)

『スポーツ国家アメリカ/民主主義と巨大ビジネスのはざまで』
鈴木透著
(中公新書)

『高校生のための ゲームで考える人工知能』
三宅陽一郎; 山本貴光著
(ちくまプリマー新書)

『教養としてのテクノロジー/AI、仮想通貨、ブロックチェーン』
伊藤 穰一; アンドレー・ウール著
(NHK出版新書)

『ゆるいつながり/協調性ではなく、共感性でつながる時代』
本田直之著
(朝日新書)

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