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ブラジル移民を1人で記録しつづける
 日系ブラジル移民がはじまって100周年にあたる今年もあとひと月となったが、日系移民を追いつづけるブラジル在住のドキュメンタリー作家、岡村淳氏の最新作が近く日本で公開される。最新作の情報とこれまでの岡村氏の作品などを紹介する。
 岡村氏はブラジル最大の都市、サンパウロを拠点としながら、長年ブラジルに住む日系移民のさまざまな人生を取材しドキュメンタリー作品として発表し続けている。広大なブラジルの奥地や、日本へもたびたび足を運び、その作品は毎年日本でも全国各地で上映されている。
 上映会場となるのは、映画館をはじめ、地方の公共施設や大学、カフェなどで、2008年は11月までにおよそ30ヵ所で行われた。このなかにはブラジル音楽に精通するミュージシャンの宮沢和史とのトークを交えた上映会(5月9日、新宿文化センターにて)といったユニークなものもあった。また、カリフォルニア・サンノゼでも上映され(サンノゼ州立大学など)、同じ日系移民の歴史をもつ、日系アメリカ人の関心も集めた。
 これまでの上映会や予定についての詳細はウェブサイト「ブラジルに渡ったドキュメンタリー屋さん」(http://www.100nen.com.br/ja/okajun/)で知ることができるが、この12月に日本で予定されるものについて紹介したい。12月6日には「あもーる あもれいら」第2部完成記念上映会が、兵庫県尼崎市の尼崎商工会議所で、また、翌7日にも同作品が神奈川県藤沢市湘南台の「多目的ホールCHACARA」で上映される。
「作品はどれも自分の子供のようなもの。深い思い入れがあります」と岡村氏が話す最新作の「あもーる あもれいら」第2部「勝つ子 負ける子」は上映時間が1時間45分。ブラジル南部の田舎町、アモレイラを舞台に、この町の貧しい家庭の子供たちが預けられる託児所の姿を一年間にわたって記録した「あもーる あもれいら」第1部(2007年制作)の続編となる。
 先進国でのバイオ燃料となるサトウキビの畑が周囲に広がるこの町の託児所には、日本から派遣されたカトリックのシスターたちが保育士として奉仕活動をしている。貧困がもたらす暴力、麻薬、アルコール依存などさまざまな問題を抱える環境のなかで暮らす子供たちとシスターたちを追った。
さまざまな移民の人生の足跡を描く
2008年8月28日のアジア系アメリカ人研究会で上映会後、作品について語る岡村淳氏
 08年中に日本で公開された作品のなかで、私は8月に市民レベルでの研究会であるアジア系アメリカ人研究会の定例会でおこなわれた「60年目の東京物語」「お涙ちょうだい!ブラジル移民のひとり芝居」そして「パタゴニア 風に戦ぐ花 橋本梧郎南米博物誌」を見る機会があった。
「60年目の東京物語」は1996年に東京メトロポリタンTVで40分番組で放送された。60年ぶりに祖国日本に帰る日系移民の女性を追った作品で、彼女が音信の途絶えた姉と再会し、生き別れになっていた義母の消息を訪ね、そして日本へ出稼ぎに行っていた娘に会う姿をとらえた。
「お涙ちょうだい! ブラジル移民ひとり芝居」は、1994年に朝日ニュースターの30分番組で放送された。根っから日本の芝居が好きな移民男性が、歳を重ねつつもひとり芝居で「瞼の母」を演じつづける。同じ日系人を前に、熱演し涙を誘う彼の芝居人生を描く。
「パタゴニア 風に戦ぐ花 橋本梧郎南米博物誌」は、2001年に制作された。軍国化する日本を忌避して、未知の植物を求めて21歳でブラジルにわたった植物学者の橋本梧郎氏の人生を記録したもの。いずれも時代と空間を遠く超えて生き抜いてきた人生が淡々と丁寧に描かれている。
 このほか、岡村氏の作品には、戦後半世紀経っても日本が勝ったと信じる老人をとらえた「大東亜戦争は日本が勝った!ブラジル最後の勝ち組老人」(1996年)、ブラジル内陸部の農場で晩年の生活を送る老移民夫妻を記録した「ブラジルの土に生きて」(2000年)、南米各地にある日本人移民の無縁仏を供養する旅の途中で消息を断った日本人を追った「アマゾンの読経」(2005年)などがある。
 岡村氏は、1958年生まれ。東京都出身。1982年に早稲田大学第一文学部(日本史学専攻)を卒業。同年、日本映像記録センター(映像記録)入社。「すばらしい世界旅行」(日本テレビで放送)の番組ディレクターを担当し、ブラジルをはじめ中南米をおもに取材。1987年にフリーランスとなり、ブラジルに移住。1991年から映像記者スタイルで一人取材を開始。朝日ニュースター、東京メトロポリタンテレビジョン、NHKなどで作品を発表してきた。
PROFILE

川井 龍介

「風」編集長
 
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