08年中に日本で公開された作品のなかで、私は8月に市民レベルでの研究会である
アジア系アメリカ人研究会の定例会でおこなわれた「60年目の東京物語」「お涙ちょうだい!ブラジル移民のひとり芝居」そして「パタゴニア 風に戦ぐ花 橋本梧郎南米博物誌」を見る機会があった。
「60年目の東京物語」は1996年に東京メトロポリタンTVで40分番組で放送された。60年ぶりに祖国日本に帰る日系移民の女性を追った作品で、彼女が音信の途絶えた姉と再会し、生き別れになっていた義母の消息を訪ね、そして日本へ出稼ぎに行っていた娘に会う姿をとらえた。
「お涙ちょうだい! ブラジル移民ひとり芝居」は、1994年に朝日ニュースターの30分番組で放送された。根っから日本の芝居が好きな移民男性が、歳を重ねつつもひとり芝居で「瞼の母」を演じつづける。同じ日系人を前に、熱演し涙を誘う彼の芝居人生を描く。
「パタゴニア 風に戦ぐ花 橋本梧郎南米博物誌」は、2001年に制作された。軍国化する日本を忌避して、未知の植物を求めて21歳でブラジルにわたった植物学者の橋本梧郎氏の人生を記録したもの。いずれも時代と空間を遠く超えて生き抜いてきた人生が淡々と丁寧に描かれている。
このほか、岡村氏の作品には、戦後半世紀経っても日本が勝ったと信じる老人をとらえた「大東亜戦争は日本が勝った!ブラジル最後の勝ち組老人」(1996年)、ブラジル内陸部の農場で晩年の生活を送る老移民夫妻を記録した「ブラジルの土に生きて」(2000年)、南米各地にある日本人移民の無縁仏を供養する旅の途中で消息を断った日本人を追った「アマゾンの読経」(2005年)などがある。
岡村氏は、1958年生まれ。東京都出身。1982年に早稲田大学第一文学部(日本史学専攻)を卒業。同年、日本映像記録センター(映像記録)入社。「すばらしい世界旅行」(日本テレビで放送)の番組ディレクターを担当し、ブラジルをはじめ中南米をおもに取材。1987年にフリーランスとなり、ブラジルに移住。1991年から映像記者スタイルで一人取材を開始。朝日ニュースター、東京メトロポリタンテレビジョン、NHKなどで作品を発表してきた。