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新書といえば三省堂と言われたい! — 神田本店「新書ガールズ」インタビュー
日本でも有数の売り場面積をほこる新刊書店、東京神田神保町の三省堂書店神田本店。ラインアップがますます充実する新書をより広く販売していこうと、有志の若い店員が“新書ガールズ”を結成、意欲的な販促活動を展開中だ。“新書ガールズ”を結成した経緯や意図、活動内容について聞いた。
1
「新書かわらばん」で新刊情報を提供
――
まず「新書ガールズ」を結成された経緯をお聞かせください。
小野
 神田にくるお客様は、言葉が少し悪いかもしれないですが、風変わりな人が多いんです。たとえば、新宿地区で『世界の日本人ジョーク集』(早坂隆著、中公新書ラクレ)がとても売れているときに、なぜか神田本店では『詭弁論理学』(野崎昭弘著、中公新書)が売れていたり。最近では、『高校生が感動した「論語」』(佐久協著、祥伝社新書)が売れています。他の地区の店舗や、新宿の紀伊國屋書店さん、丸の内の丸善さんなどに比べて、ちょっと変わった売れ筋を見せるのが、神田本店の特徴なんです。
――
たしかに目が肥えているお客様が多いでしょうね。
小野
 そうですね。場所柄、編集者さんや古書店関係者が多いので、本に対する目には厳しいものを感じます。また神保町に限らないことですが、書店に来るお客様は、何かを始めたいと思っている方が多いです。勉強を始めたいとか、スポーツを始めたいとか。あるいは、たとえば映画の「ダ・ヴィンチ・コード」を見て、それが面白かったと感じたお客さんが、その背景や周辺情報を知りたいと思っておみえになる。そういう知的好奇心が高い人が多いです。でも、そうしたお客様であっても、いきなり何万円もする聖書を買うわけではありません。ですから書店として、お客様の興味、関心に応じて、その分野の水先案内人という役割を新書に期待して、目的にかなった新書を提供できないかと。実際、新書は安価ですし、分量的にも手軽で非常におすすめしやすいものだと思ったのです。そこで、新書コーナーは2階に設けていますが、それとは別に、それぞれの専門分野のコーナーにも適切な新書を配置していこうと思いました。それを担当するために「新書ガールズ」を結成しました。
当サイトを参考にしたコーナーの前で。
右から小野さん、竹内さん、脇本さん、倉田さん。
――
メンバーは何人なのですか?
小野
 メンバーは4人です。私、小野さゆりは入社6年目なのですが、1、2年目に新書を担当していたこともあって、リーダーを務めています。他には、まず2階の新書コーナーを担当している新入社員の倉田大輔。彼は男性ですが、「ガールズ」のメンバーです(笑)。その他、倉田と同期、つまり新入社員の竹内蓉子(語学書担当)と脇本裕子(美術書担当)が担当しています。  お分かりのように、新入社員がメンバーの中心ですが、これは、彼らが販売促進を勉強してステップアップしてほしいということでもあります。
――
「新書ガールズ」はいつから活動されているのですか?
小野
 結成されたのは2006年9月1日です。最初は何をしていいか分からなかったのですが、11月からインターネットにブログを開設して、お勧めの新書などを紹介するようにしました。また12月からは「新書かわらばん」というA4版のフリーペーパーを月初めに発行するようにしました。現在、月で500部刷って、店頭に置いています。紙面の中心はその月の新刊新書のリストです。今月どんな本が出版されるのかを知りたいと思っているお客様が多いのですが、これだけたくさんの新書が毎月出版されると、それを全部調べるのはたいへんです。ですから、そのお手伝いをしようということで、新刊リストを掲載しました。単行本ですと、正直、書店の店員でも実際に本が届いてみないと分からないというのが現状ですが、漫画と文庫、新書については「来月刊行予定」が出版取次から送られてくるので、それをお客様用に書き改めています。
――
新書の他にも、文庫や単行本もあるわけですが、あえて新書の販売強化策をとったのはどうしてでしょうか?
小野
 新書は本屋として売りやすいというのが一番大きな理由です。景気回復といわれていますが、なかなか本は買ってもらえないのが現状です。その点、新書は安価ですから、お客様にも手にとってもらいやすい。書店にとって“しかけやすい”ということです。
――
なるほど。逆にいうと単行本は売れにくいということですか?
小野
 最近の単行本、なかでも文芸本は、『世界の中心で、愛をさけぶ』(片山恭一著、小学館)以降、純愛をあつかった透明感のある作品が多いですね。それはそれでもちろん良い作品なのですが、神田本店のように、“目の肥えた”お客様や年配の方が多い書店では、なかなかそう言った内容、分野の本は売れません。神田本店の顧客ニーズとは離れています。その点、新書には教養系のものも多く、その分野の入門書的なものが多いですから、神田本店では新書を販促した方が、確実に「プラス1冊」販売につながると思った訳です。
――
安価であるという意味では、文庫もありますが、文庫でなかったのはなぜでしょうか?
小野
 文庫は基本的に、書き下ろしでないからです。ある程度これは売れるというものが出版されるので、それはそれできちんと売っていけばいいと思うんです。私たちが販促することで、売れ筋になっていくという“夢”がもてるのは、新書の方かなと思います。
2
学生にもっと足を運んでもらうために…
――
それでは、皆さんのお勧めの新書をお聞かせください。
倉田
 お勧めの新書は、1年ほど前の新書で私が学生時代に読んだものですが、『10年後の日本』(『日本の論点』編集部編、文春新書)です。将来の日本がどうなるのかということに興味があるので。話題も年金、少子化、環境など豊富ですし、伝統ある『日本の論点』がもとになっているからか、読みやすかったと記憶しています。最近では『高校生が感動した「論語」』(佐久協著、祥伝社新書)です。「論語」は高校時代に習ったから懐かしかったのですが、きちんと読んだことはありませんでした。難しかったからだと思うのですが、その「論語」を分かりやすく説明してくれていて、いまの生活においても共感できる章句があることが実感できます。
脇本
 最近のものでは『スケッチは3分』(山田雅夫著、光文社新書)です。私は大学時代、美術サークルに所属していたのですが、3分でスケッチを書ける人なんていませんでした。いったいどうすれば3分で描けるのかな?と思って読んでみました。たとえば、手をスケッチするのは難しいですが、モノを握っているというシチュエーションにして、モノを中心にして手を副産物として描く。そうすると、手を上手に描こうという意識がなくなるから、上手に描けるんだと説いています。3分で本当に書けるかどうかは微妙ですが(笑)、今までにない手法を紹介していて新鮮でした。
竹内
 私の場合、お勧めというのとは少しニュアンスが違うのですが、「新書ってすごいな」と思わせてくれたのが、『歴史とは何か』(E.H.カー著、岩波新書)です。あれだけの分量、内容の濃さを、新書サイズに簡潔に収めていることに驚きました。ですから新書と言うのは、難しいことでも簡潔明快にまとめてくれているものなんだとイメージしていたくらいです。最近では、そこまで深い内容というか、専門的な内容のものにはなかなか当たりませんが...とは言っても、内容のいい新書はたくさんありますから、もっと学生さんに買ってほしいなと思います。たとえば『100文字でわかる 世界のニュース』(橋本五郎監修、ベスト新書)。よく100字でまとめたなと思いますが、時事ネタを身に付けるには便利かなと思います。
小野
 私のお勧めは、もう絶版なのですが『新宗教と巨大建築』(五十嵐太郎著、講談社現代新書)です。私が新書を担当したころ、新聞の書評にのっていて読んだのですが、「もっと突飛な建築を若い建築家はやってみよう」という趣旨だったと思うのですが、とにかくユニークな建築物が紹介されていて興味深かったですね。実際に何軒かは見に行きましたよ。滋賀県のミホミュージアムとか。
――
神田本店は他の地域などに比べて、お客様が特殊だという話がありましたが、ここならではの売れ筋のようなものはありますか?
倉田
 学生運動系のものが多く売れますね。「全共闘」とか「マルクス」という言葉が付いていると売れ行きがいいです。神田や神保町は大学が多いですが、若い頃、この辺りで大学生活を送った方々が、いまご年配になって神田本店で買い物をして下さっているのですが、そうした方にとっては、やはり学生運動とか「全共闘」というのは、今でも気になる存在、キーワードのようです。
脇本
 美術書のコーナーでは、1ヵ月ごとにフェアをやっていて、その時に新書も合わせて置くようにしています。そうすると、高額な専門書と一緒に、新書を買って行かれるお客様が多いですね。お客様の年齢層が高いからか、落語が売れ筋ですね。あとは春画です。毎月必ず5冊は売れます。春画に関しては、浮世絵のコーナーに平積みしています。隣に大判の美術書で春画ももちろんあるのですが、新書は安いし、手軽だから買いやすいんでしょうね。
竹内
 語学系では、新書ではないのですが、マイナーな言語、たとえばラテン語とかロシア語が予想以上に売れますね。そもそも、そういう言語を揃えている書店が少ないですし、あっても点数が少ないものです。三省堂書店ならではの品揃えを提供できていると考えていますし、これからもお店として、すべての言語について棚に在庫があるという状態にしておきたいですね。それから、やはり語学は学生さんに買ってもらいたいと思います。ですから、第二外国語のフェアをやって入門書の紹介をしたりしているのですが、なかなか来てもらえないんです(苦笑)だから、書店に来てもらうきっかけになるイベント、たとえば語学本の著者の方の講演などを企画しようかと考えています。

(2007年2月5日、三省堂書店にて)

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三省堂書店 神田本店

〒101-0051
東京都千代田区神田神保町1-1
03(3233)3312
 

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詭弁論理学

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佐久協著(祥伝社新書)

高校生が感動した「論語」

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佐久協著(祥伝社新書)

スケッチは3分

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山田雅夫著(光文社新書)

新宗教と巨大建築

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五十嵐太郎著(講談社現代新書)

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