朝ごはんにはミルクが似合う。牛乳の白さが、一日の始まりの気分と合うのだろうか。フレッシュなオレンジジュースでもよさそうなものだけれど、朝のイメージにはミルクの方がぴったりする。
あたためしミルクがあましいづくにか最後の朝餉食(は)む人もゐむ
大西 民子
あたたかいミルクを飲んでいると、子ども時代に戻ったような気分になる。砂糖を入れなくても温めたミルクはほの甘い。満たされた気持ちでこくこくと飲んでいる作者は、ふと「この瞬間、私と同じように朝ごはんを食べている人がどれほどいるのだろうか」と思う。そして、「その中には、最後の朝ごはんを食べている人もどこかにいるのだろうなあ・・・」と考えを巡らす。
いま自分と同じことをしている人がいて、その人が今日死ぬかもしれない、と想像することだけでもすごい。満員電車に揺られつつ、「いま事故に遭ったら、この人たちと一緒に死ぬのだな」と考えることは私にもあるけれど、朝ごはんを食べながら、目の前にいない人のことを思う想像力には敬服する。希望に満ちた朝を象徴するミルクと、見知らぬ人の死を組み合わせた感覚には、歌人の透徹したまなざしがある。
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