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Series 時事・社会
米・大統領選を追う 堀田 佳男
08/08/31

第4回 選挙人制度がもたらす、本選挙の行方は?

大統領選は11月4日の本選挙までいよいよ秒読み段階といえる時期にきた。民主党バラック・オバマ候補と共和党ジョン・マケイン候補の一騎打ちは、各種世論調査の結果を眺める限り互角である。今回は選挙の趨勢を眺めながら、本選挙で採用されている選挙人制度と、それがどう本選挙の行方を左右するかを考察してみた。

 アメリカの大統領選挙システムを分かりづらくしている理由の一つは間接選挙にある。しかも予備選と本選挙ではシステムが違う。端的に述べると、両システムとも有権者の一票の集積が候補の獲得する代議員数や選挙人数に比例しない点にある。
 日本の選挙と同じように、一般投票数がそのまま生かされれば理解しやすいが、一般投票数をもとに、違う数値に置き換えられて競われるので理解しづらい。予備選の代議員についてはすでに「シリーズ第1回 代議員とは何か」で説明したので、ここでは本選挙で登場する選挙人制度について述べたい。
 

ほとんどの州が採用するユニットルール・システムとは

 有権者が投票所に足を運んで一票をいれる点は日本と同じである。ただ州や郡によっては投票用紙ではなく、コンピューターのタッチスクリーンに触れて候補を選ぶ投票所が増えている。同日夜に開票されるところまでは日本と一緒だ。しかし、その後が違う。
 本選挙では選挙人という人たちが登場する。選挙人の数は全米で538人と決まっている。候補たちは11月4日、538人の取り合いをして次期大統領を争うのである。当選ラインは過半数である270の選挙人となる。
 538という数字の内訳を記したい。連邦上下両院議員の定数である535人に、普段は連邦議員を選出できないワシントンDCから3人がつけ加えられた総数である。ワシントンDCは州ではないので、議員を連邦議会に送り出せないが、大統領選挙の時だけは3人を送り出す。
 連邦議員数は上院が全米50州からそれぞれ2人ずつの100人、下院は州ごとの人口比で構成された総数435人の計535人である。その議員総数と同じ数を、大統領選挙時だけ「選挙人」と呼んでいる。たとえば人口の最も多いカリフォルニア州には55という選挙人が割り振られている。テキサス州は34、ニューヨーク州は31、人口の少ないノースダコタ州は3となっている。勝負はその選挙人の蓄積で決まる。
 開票は州ごとに集計され、各州の勝者が決定されていく。たとえばオバマ候補がニューヨーク州で勝つと、31という選挙人を獲得できる。勝者はそれぞれの州の選挙人をすべて獲得できるという特典があるので、同州で負けたマケイン候補の取り分はゼロとされる。これを「ユニットルール・システム」という。ただ例外として、メーン州とネブラスカ州は同システムを採用せず、比例配分制を採用している。

二大制政党の維持と州の主権を守るための現行制度

 この「ユニットルール・システム」には大きな問題がはらんでいる。一般投票数で勝ちながら、選挙では負ける場合がでることだ。2000年のゴア候補対ブッシュ候補(当時)の戦いがそうだった。全米での総獲得票数はゴア候補の方が54万票も多かったが、選挙人数では271対266でブッシュ候補が勝つという波乱が生じた。
 このシステムを改正しようという動きは根強く、実は何百回も改正法案が連邦議会に提出されている。だが、間接選挙としての「ユニットルール・システム」が改められ、一般投票による直接選挙には移行していかない。
 主因は二大政党制が崩れる可能性があるためだ。現行システムは共和・民主両党の中から大統領が誕生するように仕立て上げられている。第三政党の候補や独立候補がポッとでてきて大統領になりにくいシステムになっている。二大政党にだけ政府から選挙助成金が出されているからだ。というのも、立法府にいる党の重鎮たちが二大政党制の存続を望んでいるので、改正法案は簡単に成立しない。
 さらに法改正は州の主権を奪う危険性もある。いくら小さな州であっても、州独自の判断で勝者を選択できる自治性がアメリカのよさである。間接選挙から一般投票になってしまうと小さな州の存在意義が薄れる。州単位で大統領を選択するという意識はアメリカ的なものであり、改正案が提出されても簡単に成立しないのだ。

勝敗の鍵を握るのはオハイオ州と第三の候補の登場?

 本選挙の票の流れを予想すると、カリフォルニア州やニューヨーク州、ワシントン州といったリベラル州はほぼ順当に民主党オバマ候補に流れると思われる。一方、テキサス州やルイジアナ州、アラバマ州、オクラホマ州などでは、確実に共和党マケイン候補が勝ちそうである。歴史的に、太平洋に面した州と北東部のニューイングランド地方の諸州は民主党寄りであり、「バイブル・ベルト」といわれる中西部諸州、「サンベルト」と呼ばれる南部諸州は共和党寄りで、今年もその構図に大きな変化はない。
 すでに大統領選挙を研究する専門家たちは、州ごとの勝敗表を作成している。今年の激戦州はオハイオ州、フロリダ州、インディアナ州、コロラド州、ニューメキシコ州、ミシガン州、ネバダ州、バージニア州などだ。
 その中でも鍵を握るいくつかの州がある。これまでオハイオ州を制する候補が大統領になってきたというジンクスがあり、両候補ともオハイオ州には多額の選挙資金を投入してテレビ広告を打っている。さらに、これまで保守の地盤として共和党が奪っていたバージニア州が今年は激戦州となっており、民主党に傾く可能性がある。さらにフロリダ州もどちらに転ぶか予想は困難だ。そのため、現在までオバマ・マケイン両候補のどちらかが圧勝という図式には至っていない。
 また夏以降、第3の候補が出馬する可能性も捨てきれない。その候補が大統領に当選する可能性は極めて低いが、選挙人を奪うことはある。そうなると、どの候補も270という過半数を奪えない場合がある。その時は大統領選が連邦下院の採択に委ねられる。州の議員団が1票を投じるが、そこでも決まらない場合は上院に持ち越され、上位2人のどちらかを選ぶ投票が行われる。
 いずれにしても一筋縄ではいかないのが大統領選挙である。11月4日までは何があってもおかしくない。
 
 (敬称略、つづく)

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PROFILE

堀田佳男

国際政治ジャーナリスト

1957年東京生まれ。
早稲田大学文学部を卒業後、ワシントンのアメリカン大学大学院国際関係課程修了。米情報調査会社などに勤務。永住権取得後、90年にジャーナリストとして独立。政治、経済、社会問題など幅広い分野で活躍。過去4回の大統領選を取材した唯一の日本人ジャーナリストでもある。著書に『大統領のつくりかた』(プレスプラン)、『MITSUYA 日本人医師満屋裕明―エイズ治療薬を発見した男』(旬報社)など。

大統領はカネで買えるか?/5000億円米大統領選ビジ ネスの全貌

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堀田佳男著
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堀田佳男さんのHP:
www.yoshiohotta.com/

 
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