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1.毒素遺伝子をもった種が世界に飛散する!?
2.食の問題に関する情報を発信したい!
3.カメムシを認めれば農薬を少しでも減らせる! |
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毒素遺伝子をもった種が世界に飛散する!? |
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タイトルの「自殺する種子」とは、とてもショッキングな言葉ですが、これはどういう意味なのでしょうか。
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安田
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専門的には「植物遺伝子の発現抑制技術」という遺伝子組み換え技術を使い、できた作物から採った種子を植えても芽が全く出ないという種子のことを言います。英語のterminate「おしまいにする」という意味から、遺伝子組み換え作物に反対するカナダの団体が名付けました。具体的には、種子に毒素タンパクを作る遺伝子を組み込んでおいて、二世代目の発芽のときにその毒素遺伝子が働くのです。アメリカ農務省とアメリカの企業が共同で開発し、1998年に特許を得たもので、「自殺種子技術」とか「ターミネーター技術」ともいいます。
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このような種子を開発した目的は何でしょうか。 |
安田
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モンサント社などに代表されるアグロ・バイオ(農業関連生命工学)企業は、自社の農薬と、その農薬だけに耐性があるように遺伝子を組み換えた植物の種とを、セットで売ることで巨大な利益を得ています。また、企業合併を繰り返し、今では世界の種子マーケットのほとんどを、数社のアグロバイオ企業が寡占しているのです。彼らは遺伝子組み換えの種には「特許」をかけています。ですから、農家がその種子で実った作物から種を採り、次の年にまくことは「特許侵害」であるとして禁じ、毎年新たに種子を購入するよう契約を結ばせるのです。
そして今後、こうした遺伝子組み換えの種子販売を途上国へも広げようとしているのですが、途上国では種採りは何千年も前から今に続く当たり前の行為です。特許種子は種採り禁止ということを理解させるのも、数多くの小農を監視するのも難しいので、種採りした種をまいても芽が出ないようにした「自殺種子」を開発したのです。
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実った作物から種を採って翌年まく、長い歴史のなかで農家が当たり前に行ってきたことを禁じた上、それを徹底するための技術ということですね。この種子から育つ植物は安全なのでしょうか。
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安田
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この種子から育った植物が、将来にわたって、環境や人体にどのような影響が生じるのかは、今のところ誰にもわかりません。そもそも遺伝子組み換え技術は、失敗に終わる例がとても多いということなのです。つまり、次世代の種すべてが計算通りのタイミングで「自殺する」かどうかはわからない。何らかの理由でその機能が働かず、発芽して次の世代を作ってしまう。そしてその自殺遺伝子が子孫や近縁種へ受け渡されていく中で、ある時突然その毒素遺伝子が働き、芽が出なくなることがあり得る。自殺遺伝子が知らない間に広がり、ある時突然多くの種が芽を出さなくなったら、大変な災禍になりますよね。
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一方で、今の日本の農家では、作物から種を採ってそれを翌年植えるという、自家採種はあまり行われていないということを聞いたことがあります。種は毎年買わなければいけない、という状況ならば、ターミネーターの種子に変わってもその点では問題がないように思ってしまいますが……
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安田
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日本の栽培野菜は、品種改良が進んだ結果、ほとんどの品種で一代交配種(F1、ハイブリッド種)と呼ばれる種を種苗会社が作り、農家はそれを毎回買って植えています。「交配種」とは、優良な形質を持つもの同士を人為的に受粉させて作られた種のことです。F1種は形がそろい、熟する時期がそろうなど市場出荷向けの利点があります。ただ、その優良な形質は一代限りで、次の世代では劣性の形質が現れて、品質にばらつきが出てきてしまうのです。ですから、農家は毎年、種苗会社からF1の種を買うことになる訳です。
確かに、毎年、種苗会社から購入し続ける点は同じですが、F1の種はまけば芽は出ます。遺伝子を操作してまいても芽が出なくなる「自殺種子」とは、根本的に違います。
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ターミネーター技術のような遺伝子組み換えの技術は、今後、世界的に広がっていくのでしょうか。
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安田
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強い批判を受けて、開発企業はどこも、食用作物には応用化しないと言っていますが、既にアメリカでワタ(綿実)には認可されています。ワタから作られる「綿実油」は食用なので、結局、食用か衣料用なのか、とても曖昧な部分があると思うのです。ちなみに、日本ではまだ認可されていません。
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「食べないものなら問題ないのでは」と、抵抗感の少ない非食用作物から実験的に始めて、いずれはほかの作物に広げていくということなのでしょうか。
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安田
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遺伝子組み換え技術に関しては、口に入るかどうかだけが問題なのではなく、その技術を利用した種子が、実験室を出て野外に植わった段階で、どんどん広がりうる危険性があります。例えば鳥が、こぼれ落ちた遺伝子組み換えの種を食べて、遠いところでフンをする。どこまで運ばれるかわからないのです。お金と労力と技術を寄せ集めても、知らないうちに広がってしまったターミネーターの種をきれいに除くことなどは、人類には不可能なのです。
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食の問題に関する情報を発信したい!
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『自殺する種子』には遺伝子組み換え作物問題のほか、鳥インフルエンザを生み出す近代化畜産、汚染米事件の背景など、今まさに解決すべき食に関する話題が詳しく取り上げられています。本書を出版することになったきっかけは何でしょうか。 |
安田
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消費者運動としてさまざまな活動をしてきたのですが、あるセミナーで私の話を聞いた平凡社の編集者から、「今一番伝えたい、食の問題について好きなだけ書いて下さい」と声をかけられたのがきっかけです。
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消費者運動に長く関わってこられたそうですが、活動を始めたのはなぜでしょうか。 |
安田
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結婚して家庭に入り、子育てをしている中で、食べ物の安全について不安を覚えるようになりました。いろいろ調べていくと、新聞やテレビなど、ふだん接するマスコミからの情報には表面的なものが多く、問題の本質はもっと根深いものではないかと、思うようになったのです。そして子育てが一段落したので社会復帰しようと、そして今度は、自分の納得できる仕事をしたいと考えていた矢先、職員募集があった日本消費者連盟の事務局で働くことになりました。1996年には「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」という市民団体を立ち上げ、日本消費者連盟の仕事と二本立てでやってきたのですが、2000年に選挙に出ることになり、両方ともやめることになりました。
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2000年の衆院選と、2004年の参院選に出られたのですね。 |
安田
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中村敦夫さんが「みどりの会議」という環境政党を創設するので、加わってほしいと誘われました。経済効率を優先させる政策ではなく、農業、環境、憲法にある基本的人権を優先する理念を政治に反映させたいと思ったのです。選挙では環境政党の思いが伝わらなかったのですが……
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今なら「環境」についての意識も高まっているので、もう少し違った結果になったでしょうね。 |
安田
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そうかもしれませんね。今は、経済が悪くなっていて、逆にそれどころではないという人もいるかもしれません。でも、環境とは生存基盤のことであり、今のような時代だからこそ優先されるべき政治課題だと思うのですが。選挙後は、食に関する情報発信を続けていきたいという思いで、「食政策センター ビジョン21」を設立しました。隔月にニューズレター「いのちの講座」を発行したり、ほかの消費者団体や市民グループとも力を合わせて政府との交渉や集会、セミナーを開いたりしています。
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食に関する事件が相次ぎ、「食の安全」という言葉がマスメディアで話題になることも増えました。 |
安田
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遺伝子組み換え作物の認可がされようとしていたとき、私たちは報道陣向けのレクチャーや勉強会を何度も開いたのですが、誰も記事を書かず、勉強会では参加者より主催者の人数が多かったこともあったくらいです。そして96年11月に輸入が始まった直後に集会をしたら、突然、たくさんの報道陣と市民が集まりました。あるテレビ局の記者なんて、「安田さん、撮影したいので渋谷で反対の署名活動とかしませんか」と言うんです。輸入前にはいくら言っても全く記事にしてくれなかったというのに。認可が下りてからでは遅いのです。認可される前に、問題点を勉強して、世の中にアピールしてほしかったですね。
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安田
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例えばイギリス政府は遺伝子組み換え推進ですが、市民は強く拒否をして、学校給食での使用は禁止、レストランのメニューに使用しているかどうかの表示を義務づけています。その背景には、新聞が「遺伝子組み換え」問題についてのキャンペーンを張ったことがあるのです。新聞紙上では、賛否両論、科学者も賛成・反対それぞれの立場から意見を載せていました。しかも1回きりでなく、ことあるごとに、ずっと記事を書き続けてきたのです。それを読んでいくうちに、一般の人は遺伝子組み換えのいろいろな問題点に気づいていったのです。
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「食政策センター ビジョン21」ではニューズレターを発行して、食や環境に関する情報発信を続けているということですが、情報源はどういうところでしょうか。 |
安田
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基本的には、私がこれは伝えなければと思った情報の裏を取って、その上で解説、コメントをつけるというスタイルです。今はインターネットで各省庁が発表するデータなども直接調べられるようになって便利にはなりました。また海外からの情報にも目を通して、「重要だ」と思った内容はじっくり調べたうえで発信しています。その他、直接話を聞いたり、一般の人からメールで情報が届くこともありますし、匿名の告発のようなものも中にはあります。
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遺伝子組み換えなど新しい食品の認可を検討する、審査会の資料なども公開されているのでしょうか。 |
安田
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企業秘密を守るためとして、会議は非公表で、認可が決まった後に申請書類が「公開」されることになっています。しかし、「公開」とは言えない状況にあります。企業秘密とされる箇所は黒塗りされ、書類のコピーや撮影は不可なのです。それで私たちは何人かで行って、手分けして資料を手書きで写してきたこともあります。それを専門家に見てもらい、問題点を指摘したこともあります。市民の目が厳しくチェックしているということを、企業や政府に見せることが大切ではないかと思います。
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カメムシを認めれば農薬を少しでも減らせる!
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今力を入れている活動にはどんなものがありますか。 |
安田
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今はもっぱら米のこと、特に農薬散布を減らすために「カメムシ斑点米」の規格をなくすよう、農水省との交渉に力を入れています。
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安田
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農家が米を出荷するときの検査規格の一つです。稲穂にカメムシが吸い付くと、吸ったところに斑点が玄米に残ります。この斑点米は食べても全く問題はありませんが、「斑点米」が1000粒に1粒混じると一等米、2粒混じると二等米、4粒を超えると三等米、というようにその混入率によって等級が決まります。等級が一つ違えば価格、つまり農家にとっては収入が大きく変わってしまうので、農家はカメムシ防除用の農薬を予防的に大量散布しがちになります。これは水田で使用される殺虫剤で一番多量に使用されているものです。
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例えば一等米と二等米では、見た目でかなり違うのでしょうか。 |
安田
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私たちは市販の白米に精米した斑点米を等級検査に合わせた割合で混ぜ、それを炊いて試してみましたが、斑点米はいずれの等級でも見つけようと探してようやくわかるほどですし、味も特に変わりませんでした。さらに、消費者がスーパーや専門店でお米を買う段階では、等級の表示はなくなっている。そもそも斑点米は色彩選別機という機械を使ってはじかれているのです。
農家と消費者の間に入った流通業者は、斑点米が混入していることを理由に農家から安く買い叩いておいて、出荷するときに斑点米を機械で除き、一等米に混ぜているのです。
斑点米があっても等級を下げないとすれば、少なくともカメムシを防ぐための分は農薬を減らせるのです。農家にとっても消費者にとっても、この規格は有害無益です。
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消費者としては、使わずにすむ農薬なら、ぜひ減らしてほしいと思います。ただし、除草剤などは農家の負担も考えると多少は仕方ないのかなと…。 |
安田
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有機農業では、農薬を使わなくても、草や害虫を食べてくれる生き物をうまく利用するなど、地域にあったいろいろなやり方もあるのですよ。農薬を散布すれば、カメムシや雑草はその時なくなるかもしれませんが、いずれ耐性ができて、より強い農薬をより多く使う、という悪循環になるのです。それにクモなどの益虫やそのほかの田んぼにいる生き物もいっぺんに殺してしまいます。また人体にも大きな影響があります。農薬にどれほど害があるかを、なかなか深刻には考えられていないのが現実ですが。例えばアレルギーになったとか、がんになったりする実例が多くあります。自分の身に実害がふりかかってからでは遅いのです。
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今後の日本の農業を守るために、どのようなことが重要なのでしょうか。 |
安田
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まずは衰退し崖っぷちにある稲作を守ることです。主食の米があれば生きていけるし、水田のある日本の原風景と食文化を大切に次世代に渡していきたいですね。また、流通の過程、システムも重要です。米は、不正がしやすいのです。非食用を食用にまぜたり、カビ汚染米をカビのところだけ削って流通させたり。こういうことが起こりにくい透明なシステム、罰則、内部告発者保護などの強化が必要です。
(2009年7月9日、「食政策センター ビジョン21」事務局にて)
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