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蔵書全文デジタル化の先に見える図書館の未来(2) (2)
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質疑応答
Q.本のデジタル化とは具体的にどういう意味でしょうか?
本のデジタル化と言う場合、スタンフォード大学では、ページを一枚の画像として処理するのでしょうか? それとも文字を検索可能な情報とするということでしょうか?


ケラー:私たちは両方の処理を行っており、これらの作業は連続して進められています。ページのイメージを撮影し、OCRというソフトウェアをつかって画像中の情報を文字として認識させファイルを変換していきます。そして文字をインデックス化します。
高野:イギリス国教会成立からの資料をオンライン化して有料で提供するケンブリッジ大学のパーカー・ライブラリーのコレクションについても同様に文字情報として認識可能なファイルに変換したのでしょうか?
ケラー:いいえ、画像イメージとしては撮影していますが、手書きの文書に関しての現代の文字への変換及び認識作業はまだ行われていません。


Q.Eブックの価格はどのようになっていくのでしょうか?
本がデジタル化するのに伴い、出版社と図書館の関係はどのように変化し、本の価格はどのような基準で決定され、また著者にはいかなる影響を及ぼすとお考えですか?


ケラー:出版社と図書館の関係は確かに変化すると思います。ただ、図書館は不特定多数の誰にでもEブックを提供するのではなく、ライセンスという手段を用いて読者を限定することによって秩序を保っています。世界中のどこにおいても、スタンフォード大学のEブックへはメンバーでなければアクセスできないのです。
 価格に関しては実際にはさほど変化はないように思われます。出版社は、現在は小規模でも今後十分Eブックによって収益をあげていくことが可能だと思います。私たちも通常Eブックを買うときは、紙の本を買うのと同じ価格で購入しています。ただ、お気づきのように、KindleやEブックリーダーで数多く提供される人気書籍については、市場を作るために価格を下げて提供されることがあります。ただし、これらは一時的なものであり、再分配がなされるときには価格は引き戻されるのが慣例だと思います。
 また、Googleとの契約をもとに、今後デジタル化に伴って出てきたデジタル書籍によって市場を作り出していくことの可能性について、現在ニューヨークシティの法律の下で議論されていますが、例えばオンデマンドパブリッシングによる紙の書籍として、またファクシミリなど他の方法などによる様々な形式によってデジタル書籍がさらに提供されていくでしょう。


Q.書籍のデジタル化によって、出版社と読者の関係はどのように変化するとお考えですか?
これまで物理的制約と著作権によって縛られていた書籍は、今後著作権とともに契約によって制限を受けるようになるということですが、出版社と読者の関係において、パブリックとプライベートの役割分担はどのようになっていくと思われますか?


ケラー:契約が重要なのは確かですが、最終的には法律によって判断される体制が作られていくのではないかというのが私の意見です。また基本的に、読者と出版社の関係は書籍のデジタル化によって影響を受けることはないと思います。Eブックを購入するときに契約は必要ありませんし、Eブックリーダーを購入する際にも、契約なしでただ代金を支払うだけでデバイスを手にすることができます。ただ、そのコンテンツをどのように扱うかによっては、契約が発生しないケースでも法律の定める処罰の対象になることはあるでしょう。また、一体誰が本を読んでいるのかといった個人情報は保護されるべきでしょう。私企業の場合についてはよくわかりませんが、やはり法律による制限のもとでの体制作りが進められていくことになると思います。
高野:図書館においては個人の貸出記録は機密事項として扱われる伝統がありますが、今後私企業によって展開されるEブック市場で購入記録などの個人情報が流出するのは避けるべき事態だと思います。銀行のシステムのように信頼関係に基づいて、顧客の情報管理を行ってほしいと思います。


Q.アーカイブ事業の運営において、課金・財政状況はどうなっているのでしょうか?
パーカー・ライブラリーやシリコンバレーアーカイブスなどのアーカイブはどのように課金されていて経営的に成り立っているのか、また新たに進んでいる同様の計画があるのかをお聞きしたいと思います。


ケラー:パーカー・ライブラリーは、Andrew W. Mellon Foundation(メロン財団)の援助を受けて、2002年にデジタル化の計画が始まりました。基本情報は無料ですが、アップグレードバージョンを利用するためには料金が発生します。また専門家によって加えられた書誌情報を得るのと手描きの文書を読むのも有料となります。このようなシステムを取っている理由は、私たちは情報を追加していくのに資金が必要なのと、メロン財団より課金請求があるためです。
パーカー・ライブラリーの手描きの文書の閲覧のシステムは中世の他のマニュスクリプトのインターフェイスのプロトタイプとなっており、今後のサービスの指針となる重要なプロジェクトであると考えています。
一方シリコンバレーアーカイブスのほうは無料で提供しています。ウェブで見ることができるものもあれば、スタンフォード大学だけで閲覧可能なものもあります。


Q.これからのライブラリアンに求められる素質とは?
日本と欧米のライブラリアンの現状の違いをふまえたうえで、図書館長としてこれからの図書館の職員にどのようなことを期待していますか? また日本でこれから「サイブラリアン」を育てていくにあたって、どのような人材が必要だと思いますか?


ケラー:日米での図書館情報学の教育の相違についてご指摘がありましたが、必ずしもスタッフが皆工学の学位を持っている訳ではありません。私自身が学んだのは音楽学ですし、のちに学んだ図書館情報学も非常に原始的なものでした。むしろ私がライブラリアンとして最も重要だと考える点は、知へのあくなき探究心だと思っています。また利用者にとって何がもっとも有用な情報であるかとつねに想像力を働かせることです。それぞれのスタッフの専門性、たとえば、情報工学や言語などの能力をお互いの協力体制のなかで活かすとともに、コミュニティにとっての共通の知識を導入して、どのような貢献ができるかと考えることだと思います。新しいことや可能性に対して柔軟に対応し、絶えず切磋琢磨していく姿がこれらのライブラリアンに求められていくと思います。


Q.今後さらに検索技術が進むなか、ライブラリアンはなにを提供すべきとお考えですか?
デジタル化が進み、本を探すテクノロジーは発展し、人々はどんどん本を探しやすくなっていますが、本を借りようとしている人に対してライブラリアンが最後にできる仕事とは何でしょうか?


ケラー:これはこれからの図書館の課題に関する重要な質問だと思います。すべての本がデジタル化されると考えるのは現実的ではないので、ライブラリアンとしての役割の余地は残されていると思いますが、ライブラリアンはオンラインの検索機能が提供できる以上の質とサービスを提供していかなくてはいけないでしょう。そもそもオンラインカタログは図書館員によって人的に製作されてきたという背景もあります。
 また図書館は絶版となったものも含めてカタログ上の書籍を保存しアクセス可能にするという役割も担っています。実際書店で本を購入できることはすばらしいことですが、たった数年ののちに著作権が存続しているにも関わらず書店から消えてしまうことがあります。そこに図書館の書籍の保存倉庫としての役割があると思います。
 また図書館が扱っているのは本だけでは決してありません。図書館はあらゆる形式の知識を統合して、情報・知識のサイロを作り上げ、利用者の個々人の用途に合わせてパッケージ化して提供することができるのです。本の他に、Eジャーナル、音声ファイルや映像、地図、データなどあらゆるフォーマットの情報をユーザーが有効に活用できるようにするのがライブラリアンの役割だと言えると思います。さらに最終的には図書館は自然言語処理を用いた解析機能を持つ施設として存続していくでしょう。その際に特定の形式にとらわれる必要はないのです。実際スタンフォード大学の工学図書館は紙の蔵書を持たず、授業や研究に必要な情報を集めたウェブ上の図書館として機能しています。
 さらに膨大な量の情報を扱うために必要な最新の技術やデバイス、大容量のメモリは、通常情報学者やエンジニアによって扱われています。政治経済などの社会科学の分野でも情報処理に関する環境はずいぶん変化してきています。図書館は彼らと協力することによって、ユーザーのニーズとその提供に必要な最先端の技術とをつなぎ合わせ、サービスの可能性を考えていく役割を果たすことが必要なのです。
高野:今回マイクさんをお呼びした理由でもありましたように、未来の図書館、図書館の未来を考えるにあたって、本日ご紹介いただいたような先鋭的な活動報告を通じて、非常に示唆的なお話を伺えたのではないかと思います。マイクさん、本日は本当にどうもありがとうございました。
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PROFILE

Michael A. Keller

1993 年から現在まで、スタンフォード大学図書館長(Ida M. Green University Librarian)。1995 年にHighWirePress を設立、今では世界中の1000タイトル以上の学術誌の電子出版を手がけるその非営利団体の創立者・出版人である。その活動を通じて学術誌の電子化が商業出版社の利益追求の道具とされることに一貫して抵抗してきた。2000 年からは、スタンフォード大学出版の発行人も兼任している。

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