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ヒューマン・ライツ・ウォッチが東京事務所を開設――日本政府へ積極的に働きかける
 世界の人権侵害に関する調査報告や監視活動を行う国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch、以下HRW)の東京事務所が4月9日開設した。本部ニューヨークからエグゼクティブ・ディレクター、ケネス・ロス氏が訪れ、同時に開かれた記者会見で人権保護のため日本政府が積極的に関与すべきだと訴えた。
 HRWはニューヨークに本部を置き、ロンドン、ブリュッセル、ワシントンDC、パリ、ヨハネスブルク、モスクワなど、世界各地に事務所を有し、80ヵ国で活動している。しかし、アジアにはこれまで拠点がなく、東京事務所はアジアでは初めての事務所となる。
記者会見をするケネス・ロス氏(中央)、土井氏(右)、ボーチー氏(左)
 所在地は千代田区神田駿河台にある明治大学のアカデミーコモン・ビル内。本誌で「人間を傷つけるな!」を連載する、東京代表で弁護士の土井香苗氏とスタッフ一人が常駐する。事務所開設と同時に、都内の日本外国特派員協会で記者会見が行われ、HRWのケネス・ロス代表、土井氏、そしてビルマ(ミャンマー)の著名な人権活動家で元政治囚のボーチー氏(ヒューマン・ライツ・ウォッチ2008年人権アワード受賞者、ビルマ政治囚支援協会 創設者・事務局長、タイのメソト在住)が同席した。
 土井氏から事務所開設に至る経過などが報告され、つづいてロス代表が、「世界の中の大国で、かつ世界で有数の援助提供国でもある日本政府は、人権の促進のため、一層大きな役割を担うことができる。われわれが東京事務所を開設したのは、日本政府が持つ人権保護のための潜在的な力を発揮するのをサポートするためだ」と述べ、日本政府に対して強く働きかけていく姿勢を示した。
 また、日本のマスコミや一般市民に対しても、人権問題に関してHRWが行う調査活動の結果を提供することによって、さらなる政府への働きかけをするという。
 この会見に先立ち、HRWは、麻生太郎首相宛に書簡を送った。このなかで、「麻生首相は外務大臣在任中の2006年に人権を、民主主義や法の支配とともに、日本外交の四本柱の一つとすると発表したが、このビジョンは意味ある形で実行されていない」と、批判。
 さらに、日本政府は北朝鮮に対する以外は、人権実現のために力強く発言したり、国際的なリーダーシップを発揮していないとし、北朝鮮に関してもそこに住む人々のための人権改善の取り組みは後手に回っていると批判、人権外交を積極的に推し進めるべきだと主張した。
会見後、記者の質問に答えるケネス・ロス氏
 具体的には、アジアのなかでスリランカやビルマに対する援助に際して、人権問題と絡める必要性を訴えている。OECD開発援助委員会のメンバー国のなかで、対ビルマ援助で高い比率を占める日本が、政治囚の無条件解放や国内の少数民族に対する軍事的な攻撃を停止するよう訴えるべきことなどを示した。
 会見場では、最後にボーチー氏から2010年総選挙に向けて、ビルマ軍事政権の動向や政治囚の最新情報についての報告などが行われた。詰めかけた日本のメディア関係者などは約50人。報告のあと、具体的な事務所運営についてや企業からの援助と活動との関係、紛争中の国での活動に際しての立場の問題などについて質問があった。
 東京事務所開設はHRWにとって新たな活動の一歩であり、日本としても世界の人権問題への距離が近づいたともいえるが、今回の会見を見る限りでは、参加者の数からしても、いまのところ日本のメディアのこの種の問題への関心はそれほど高くはないようだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのHP:
http://www.hrw.org/
 
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