アメリカ軍は即座にワタダ中尉を軍法会議にかける。イラク派遣の部隊に合流しなかった「任務拒否罪」、任務拒否に伴う「上官侮辱罪」(2件)、メディアを通じイラク戦争を批判した「将校としてふさわしくない行為」(3件)の計6件の罪を問うたが、これらがすべて有罪として認められると懲役7年の刑に相当する。
一方、ワタダ中尉側は、イラク戦争が国連安全保障理事会の承認なしに始められたこと、当時報じられていた捕虜への扱い、クラスター爆弾などの兵器使用が国際法などに違反していると指摘。国の政策を批判した事に対しては、アメリカ憲法にある「言論の自由」は万人に認められた権利と主張した。
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支援者へ感謝するワタダ中尉の母親、キャロライン・ホーさん。 |
平和活動家を含め、ワタダ中尉を擁護するグループは、アメリカ各地で集会を開き、彼の父親でベトナム戦争で徴兵拒否の経験を持つボブ・ワタダさん、母親のキャロライン・ホーさんら家族が各地をまわり、一般市民へ支援を訴えた。
その後の予備審理で「上官侮辱罪」2件と「将校としてふさわしくない行為」の1件が取り下げられ、軍法会議では3件について争われることになった。罪状がすべて認められた場合の懲役は4年となったが、ワタダ中尉が主張するイラク戦争の違法性は、あくまで軍法会議では審議対象外とされた。一方ワタダ中尉は、自らの主張を貫き通すかわりに有罪となる覚悟を口にしていた。
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2月5日、フォートルイス基地前に集まるワタダ中尉擁護派。 |
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ワタダ中尉に賛同する市民たち |
軍法会議は07年2月5日に始まった。この日、フォートルイス基地の前では、反戦派として知られる俳優のショーン・ペンさんら反戦活動家とワタダ中尉を擁護する人たち数千人が集会を開いた。一方、これに反対するグループもまた、「言い逃れをするワタダを投獄せよ」といったプラカードを片手にアピールを繰り広げた。
注目を集めた公判は開廷3日目の2月7日、ジョン・ヘッド軍判事が審理無効を宣言し、意外な形で閉廷を迎えた。理由は、訴訟内容の事前合意書にある「イラク従軍の任務に応じなかった」という一文に両者の理解不一致が見られたということだった。軍側がもっとも裁きたい任務拒否の罪は、ワタダ中尉が主張するイラク戦争の違法性にまで審議が及ぶ必要性が生じたこともあり、これをとりあげることを避けた様子がうかがえた。