今回の神保町のまつりで、新たにお目見えしたのが、「本と街の案内所」(神田神保町1-7-7)。古本屋が建ち並ぶなかでは、もっとも人通りのある靖国通り沿いに10月13日オープンしたばかりのスペースは、間口2間ほどの木造2階建て(一部3階)の1階部分に位置する。真っ赤な下地に個性的な文字で書かれた看板は、訪れる人たちの目をいち早く引きつけている。
この案内所は、神保町そのものを魅力あるまちにしようと、神田古書店連盟をはじめ、神保町や古書街の活性化に関わるNPO、さらに地域のボランティア、地元の民間企業などがかかわって運営。古書や地域文化に興味をもつグループ、建築やまち作りに興味をもつグループなど、さまざまな人たちの連携でスタートした。
神保町の交差点から数十メートルという立地もあってか、すでにまつりに入る前から立ち寄る人が後を絶たない。案内所内には、手弁当で詰めているボランティアが基本的に午前11時から午後5時半まで、相談や問い合わせに応じている。内外には、古書店連盟の作成したまちの案内や古書店や地域にある店の営業・イベント案内のパンフなどが置かれ、ここに来るとまつりだけでなく、神保町界隈で催されるさまざまな文化的イベントについての情報も得られる。
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案内所のなかにはタッチパネルと情報端末が常置されている |
店内には、大きなタッチパネルがあり、神保町界隈の様子をとらえた航空写真をつかって地域を大まかに把握できる。壁一面には、プリントされた大きな周辺地図が張り付けられていて、高齢者にとっては位置の把握がしやすい仕掛けになっている。また、コンピュータ端末が置かれていて、神保町に関わるいくつかの検索サイトへ自分でアクセスして(必要に応じてアドバイスを受けて)探すことができる。
その第一が「
BOOK TOWN じんぼう」だが、このサイトでは古書店の一覧から、各書店の紹介をはじめ、その位置まで地図で提示してくれる。書籍の検索としては、これらの古書店を横断的に、本のデータ(書名、著者名)からはもちろんのこと、「連想検索」という検索方法によっても探し出すことができる。たとえば、具体的な書名がわからなかったり、書名は特定しないが、「こんなテーマに関する本はないか」と思ったとき、関係する言葉や文章などを、検索ボックスに入れると、関連すると思われる書籍を拾い出してくるという仕組みだ。
このほか、今回のまつりにあわせてオープンしたサイト「
神保町へ行こう」があり、ここでは古書店情報のほか、まちの歴史や人との関わり、そして“グルメ情報”を知ることができる。まだその情報量は限られているが、細かく知りたい人には、「
ナビブラ神保町」というタウン情報サイトへつながるようになっている。
インターネットでかなりのことが、自宅あるいは、こうした出先で知ることができるようになったが、そこには限界があるのは当然。直接人づてに教えてもらおうと、古書店ガイドなどを片手に、案内所を訪れる人はひっきりなしで、まつりの間の日曜日(28日)には、300人ほどに上った。このなかで、具体的な問い合わせをしてきた例が100件ほど。
その内容を見ると、圧倒的に探している本に関するものが多く、この日は特に玄人好みの本の問い合わせや、どの古書店に行ったらいいのかといった質問が多かった。ほかには、ある特定の分野に強い古書店を教えてほしいという問い合わせ、例えばミステリーや音楽、国文学、マンガ、地図関係の質問が比較的多かったという。
「街の案内所」と掲げている限り、もちろん地域についての情報を求める声も届く。喫茶店はどこにあるのか、日本料理を食べたいが…、コインロッカーを探している、などといった質問が寄せられている。
海外からの来訪者もある。一例を紹介しよう。ハワイから来たというある中年女性は、英語で書かれた東京のガイドブックを片手に案内所を訪れた。洋書のブックバーゲンをしているところを探しているという。しかし、彼女がもつ本の情報は古くてすでにガイドにある店は閉じていたようだった。
話を聞くと、「セラミック(陶芸)を勉強していて、日本の陶芸に関する本を探している」という。そこで、案内所のスタッフがこうした分野に詳しい店まで彼女を案内した。そこで店主に尋ねると、いとも簡単にいくつかの陶芸に関する英語の本を見つけることができた。喜んで彼女は数冊を購入していった。この場合、ウェブ検索で彼女が目的の書店に到達することはまずできなかっただろう。
ウェブ上で目的の事物に到達することはあるだろうが、事と場合によっては、現実の案内所にまさるもののないことのいい例証だ。