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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
古本街がかわる、神保町が活気づく 大人のまちとして注目される神田神保町界隈
 古書の集まる場所としては、「世界遺産」といってもいい東京・千代田区の古書店街で、恒例の「神田古本まつり」が10月26日から開かれた。今年は、その中心となる神田神保町に「本と街の案内所」がオープンしたり、この地区を魅力あるまちにとボランティアの協力もあって、“神保町”をとりまく環境は徐々に姿をかえている。
1.180もの店舗が集積する“神保町”の古書街
2.散策は「本と街の案内所」からスタート!!
3.大人が楽しめる場所として評価が高まる
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180もの店舗が集積する“神保町”の古書街
お目当ての古本を探す人で賑わうワゴンセール
 今年で48回を迎えた「神田古本まつり」(主催:千代田区、神田古書店連盟)は、オープニングの10月26日とつづく27日は、あいにくの雨に見舞われたが、台風一過の28日は、青空が広がりようやく靖国通り沿いやすずらん通りなどの歩道に、例年通り古本を満載したワゴンが登場した。
  連なる提灯が賑わいを添えるなか、掘り出し物を探そうと人だかりができ、またこの時期にお目当てのものを買いそろえようとする人たちが、それぞれ古書店に出入りする光景が見られた。
  古本まつりは一般に神保町(じんぼうちょう)の古書街、古本街などとよばれる一帯でおこなわれる。約180店舗といわれる古書店の多くは、靖国通りと白山通りが交わる神保町交差点を中心とした地域に集積しているが、広く東はJR神田駅、北はJR水道橋駅やJR御茶ノ水駅方面にかけてもこのうちの30店舗ほどが点在している。
  地名でいえば、この神保町交差点付近は「神田神保町(1丁目~3丁目)」というが、このあたりを知るたいていの人は単に「神保町」と呼ぶことが多く、また、古本街のことも「神保町の古本街」などと呼んでいる。しかし、その内容は神田神保町だけを指すのでなく、その周辺部にも広がる古書店を含めていて、「神保町エリア」とか「神保町界隈」などという呼び方をするときもある。
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散策は「本と街の案内所」からスタート!!
赤い看板が目印の「本と街の案内所」
 今回の神保町のまつりで、新たにお目見えしたのが、「本と街の案内所」(神田神保町1-7-7)。古本屋が建ち並ぶなかでは、もっとも人通りのある靖国通り沿いに10月13日オープンしたばかりのスペースは、間口2間ほどの木造2階建て(一部3階)の1階部分に位置する。真っ赤な下地に個性的な文字で書かれた看板は、訪れる人たちの目をいち早く引きつけている。
  この案内所は、神保町そのものを魅力あるまちにしようと、神田古書店連盟をはじめ、神保町や古書街の活性化に関わるNPO、さらに地域のボランティア、地元の民間企業などがかかわって運営。古書や地域文化に興味をもつグループ、建築やまち作りに興味をもつグループなど、さまざまな人たちの連携でスタートした。
  神保町の交差点から数十メートルという立地もあってか、すでにまつりに入る前から立ち寄る人が後を絶たない。案内所内には、手弁当で詰めているボランティアが基本的に午前11時から午後5時半まで、相談や問い合わせに応じている。内外には、古書店連盟の作成したまちの案内や古書店や地域にある店の営業・イベント案内のパンフなどが置かれ、ここに来るとまつりだけでなく、神保町界隈で催されるさまざまな文化的イベントについての情報も得られる。
案内所のなかにはタッチパネルと情報端末が常置されている
  店内には、大きなタッチパネルがあり、神保町界隈の様子をとらえた航空写真をつかって地域を大まかに把握できる。壁一面には、プリントされた大きな周辺地図が張り付けられていて、高齢者にとっては位置の把握がしやすい仕掛けになっている。また、コンピュータ端末が置かれていて、神保町に関わるいくつかの検索サイトへ自分でアクセスして(必要に応じてアドバイスを受けて)探すことができる。
  その第一が「BOOK TOWN じんぼう」だが、このサイトでは古書店の一覧から、各書店の紹介をはじめ、その位置まで地図で提示してくれる。書籍の検索としては、これらの古書店を横断的に、本のデータ(書名、著者名)からはもちろんのこと、「連想検索」という検索方法によっても探し出すことができる。たとえば、具体的な書名がわからなかったり、書名は特定しないが、「こんなテーマに関する本はないか」と思ったとき、関係する言葉や文章などを、検索ボックスに入れると、関連すると思われる書籍を拾い出してくるという仕組みだ。
  このほか、今回のまつりにあわせてオープンしたサイト「神保町へ行こう」があり、ここでは古書店情報のほか、まちの歴史や人との関わり、そして“グルメ情報”を知ることができる。まだその情報量は限られているが、細かく知りたい人には、「ナビブラ神保町」というタウン情報サイトへつながるようになっている。
  インターネットでかなりのことが、自宅あるいは、こうした出先で知ることができるようになったが、そこには限界があるのは当然。直接人づてに教えてもらおうと、古書店ガイドなどを片手に、案内所を訪れる人はひっきりなしで、まつりの間の日曜日(28日)には、300人ほどに上った。このなかで、具体的な問い合わせをしてきた例が100件ほど。
  その内容を見ると、圧倒的に探している本に関するものが多く、この日は特に玄人好みの本の問い合わせや、どの古書店に行ったらいいのかといった質問が多かった。ほかには、ある特定の分野に強い古書店を教えてほしいという問い合わせ、例えばミステリーや音楽、国文学、マンガ、地図関係の質問が比較的多かったという。
「街の案内所」と掲げている限り、もちろん地域についての情報を求める声も届く。喫茶店はどこにあるのか、日本料理を食べたいが…、コインロッカーを探している、などといった質問が寄せられている。
  海外からの来訪者もある。一例を紹介しよう。ハワイから来たというある中年女性は、英語で書かれた東京のガイドブックを片手に案内所を訪れた。洋書のブックバーゲンをしているところを探しているという。しかし、彼女がもつ本の情報は古くてすでにガイドにある店は閉じていたようだった。
  話を聞くと、「セラミック(陶芸)を勉強していて、日本の陶芸に関する本を探している」という。そこで、案内所のスタッフがこうした分野に詳しい店まで彼女を案内した。そこで店主に尋ねると、いとも簡単にいくつかの陶芸に関する英語の本を見つけることができた。喜んで彼女は数冊を購入していった。この場合、ウェブ検索で彼女が目的の書店に到達することはまずできなかっただろう。
  ウェブ上で目的の事物に到達することはあるだろうが、事と場合によっては、現実の案内所にまさるもののないことのいい例証だ。
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大人が楽しめる場所として評価が高まる
『古本屋のワルツ』(波に月レコード)
黒船レディと銀星楽団のHP: http://kurofunelady.net/
 案内所のなかでは、やわらかいメロディーがよく流れているが、この曲が「古本屋のワルツ」といい、いまでは古書街のテーマソングともなっている(?)。

♪昔なくした本を探して
 今さら私は古本屋を訪ねている…

  こういう歌詞ではじまるこの曲を演奏するのは、「黒船レディと銀星楽団」。郷愁を誘う大人のファンタジーといった雰囲気をかもしだし、ポップスやジャズを好む層を中心にファンを獲得している。これまで“古本と音楽”というと、「古本音頭」なる歌があったそうだが、こうしたイメージとはがらりとかわって、洒落た古本の世界を演出している。
  まちのイメージという点でも、神保町界隈はこのところ徐々に変化している。今年7月には吉本興業がお笑い劇場「神保町花月」をオープンし、この影響もあってか若者の姿が多くなった。また、写真集などビジュアル系の古本を集めた店や、1960年代、70年代をコンセプトにした品揃えの古本屋が現れている。
  さらに、レトロでオシャレな雑貨を扱うところ、またコーヒーショップを兼ねた店なども町中に登場している。神保町界隈では、そもそも食事をするところには事欠かないというくらい、和・洋・中からエスニックまでさまざまな店がある。カレーショップはとくに豊富で、「神保町カレー戦争」などとメディアで話題になったほどだ。
  喫茶店をとっても大手のチェーン店だけでなく、味のある昔ながらの喫茶店やコーヒーショップがいまだ健在だ。
「いいですね、このあたりは大人がゆっくり楽しめる感じがするな。うちの周りはこういうところがないから……」。
  会社のある渋谷から久しぶりに神保町を訪れ、古本街をぶらり歩いて、その後近くの居酒屋へ入ったというある会社員(48)は、こう感想を漏らした。一方、地下鉄神保町駅から歩いて数分のところにオフィスのある別の会社員(52)は言う。
「六本木に行ってきたんだけれど、夜歩いてたら道ばたの外国人に『いまなら、フォー・サウザンド・エンよ』って、キャバレーかなんかの勧誘されて、ここは日本だろうに。こっち(神保町)に帰ってくるとほっとするね」
  これらは最近の話だが、神保町に関係するこうした意見は中年のサラリーマンからよく聞く。どことはいわないが、騒がしさを活気と取り違えたり、あるいは賑やかならその内容は問わないというような繁華街に少々辟易している大人たちからは、神保町がほっとする空間だというのだ。
  JR神田方面へ向かえば、さらに酒と食を楽しむ店が目立ち、JR御茶ノ水駅にかけては楽器店が並ぶ。淡路町方面ではスポーツ用品店も昔から大きく店を構えている。本あり、食あり、音楽ありと、神保町界隈は大人が楽しむ一大ゾーンとして今後さらに注目を集めるだろう。
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