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検索の世界を牛耳るグーグルの野望とは?―巨大企業をとらえたNHKスペシャル、担当ディレクターが明かす (2)
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3. 検索結果は客観的な情報なのか?!
4. あらゆる履歴を収集 プライバシーの侵害か、検索の効率化か
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検索結果は客観的な情報なのか?!
――
経営的な側面をお聞きしたいのですが、グーグルは広告収入が主になっていますよね。そう言う意味で、ビジネスモデルとしては単純だと考えられますか?
岡田
 ある意味では単純だと思います。ただ、彼らは広告という市場をとても広い意味でとらえているんですよね。広告というのは単にネット広告だけではなくて、新聞だとか雑誌だとかテレビだとか、あらゆる媒体が自社の収益につながっていくと見ているのは明らかです。だからこそ、あらゆる情報とあらゆる広告をつなげようとしているんだと思います。これをどのように我が手におさめるかについては非常に複雑な動きがありますが、ビジネスモデルとしての原点は非常に単純であるように思います。
――
あらゆる情報を集めるということが、現実になってきているように思えます。そしてその規模が大きくなってくればくるほど、検索結果が妥当なのかどうかといったことを指摘されたり、公平さに問題があるとして訴訟になることも多くなりましたが、こうした状況に対して、グーグルの社員は動揺しているのでしょうか?
岡田
 検索結果の品質には非常に気を使ってはいます。ですから、この点については何度もいろいろな人が繰り返し反論をし続けています。しかし、裁判そのものにはまったく動じていないのではないかと思いました。CEOのシュミット氏がたびたび発言していますが、そもそも、裁判とはビジネスで決裂したから裁判で訴えてきているだけで、多くがビジネス交渉を裁判所で行っているようなものだと言っている。つまり、お金なり、ビジネス上の利益を分け与えてあげることで、彼らは納得してしまうから、要はお金が欲しいと思っている人が裁判を起こしているのだと認識しているようです。
――
中国政府にとって都合が悪い話題に関して、検索結果が意図的に削られているという、いわゆる「中国問題」以降、グーグルと国家との関係、政治的な圧力に対しての対応は変わったのでしょうか?
岡田
  そこは非常に微妙なラインですね。中国の件に関しては、非常に苦しい選択だったと語っているものの、その結論はユーザーの利便性につながるから正しかったと主張を続けています。でも政府に従ってばかりいるわけではなく、ある時期を境に随分と態度を変えた部分もあると思います。
  しかし、原則として検索結果をどう決めているのかを公開していないので、結局わからない部分を抱え込んだままではあります。特にグーグルが最近慎重になっているのが、国家とプライバシーの関係についてです。昨年、ブラジルの検察が捜査上の情報提供をグーグルに求めたところ、プライバシーの問題だからとこれを拒否しました。裁判になって反則金を科すことでようやく開示に至っています。つまり、ブラジルでのビジネスに支障をきたすようになって、初めて情報を出したと言うことです。そのくらい、政府や権力とプライバシーの関係については敏感になっています。
  では、なぜこの問題についてはそこまで敏感な反応をするのか。それは、その扱いを間違ってしまうとユーザーが離れていってしまうからだと思うのです。つまり、常にユーザーを多く抱えていたいというのが根本的な発想なのです。ですが、そういうことをしながらも、ビジネス上の利があれば、中国のような事例に至る。このあたりのバランスをグーグルが社内の議論だけで決めているということに一定の限界があることには変わりはありません。
――
検索順位を上げるために、グーグルの検索アルゴリズムを解析して、それをWWWページに反映させるビジネス、つまり過度のSEO(サーチ・エンジン・オプティミゼーション)ビジネスがもたらす問題があります。検索結果は操作することもできるのが現実で、検索結果=公平ではないと。検索アルゴリズムとこうした順位上げ“競争”についてはまだ決着はついていないと考えてよいのでしょうか。
岡田
  そうですね。まだ、SEOスパムなどの方法と、グーグルの決定権の間の綱引きでは、グーグルが「勝っている」と思っています。しかしそれはある種そうしたものを「抑え込んでいる」状況なわけで、公平性という意味でいうと、非常に微妙な状態にあるわけですね。その結果として、グーグルは「自分たちが公平だと思うものを出しています」というしかなくなっている。検索結果は、検索アルゴリズムの数式で導かれていますが、ある種のオピニオンであって、客観的な情報でないと認めているわけです。グーグルとしても、ウェブスパムが増えるとインターネット情報の信頼性にかかわるので、かなり重視して対策をしており、少しでも価値あるものを上手く救いあげることに努力しています。
  しかし、それは検索アルゴリズムの変更・改善で常にスパムを抑制する方向で行われますから、SEOビジネスとの“イタチごっこ”は、おそらく永遠に続くのではないかと思います。検索結果がどのような「バランス」を持つようになるのか、その行方はまったくわからないというのが現状だと思います。
――
実社会においては検索結果がパワーを持ってきています。
岡田
  このような状況で生み出された検索結果が、経済的利益や力になっているから問題も大きくなるのです。純粋に科学的にどうすればスパムをなくせるか、どうすれば客観的にいい検索結果になっているかという問題だけでは済まなくなっているのです。例えばアメリカでは、弁護士のビジネスの中で交通事故を扱うのが最も収益が大きいらしいのですが、その専門の弁護士情報をグーグルでもちろん検索できるわけです。ところが、実際の弁護士としての能力が高いかどうかということとは別に、検索結果の上位にくる弁護士の収益が大きくなるという現象が起きているわけです。実際にミシガン州の弁護士は、グーグルランキングが上位になっただけで収益が7倍になったそうです。
――
と言うことは、下手をすると悪徳業者でも上に行く可能性は当然あるわけですよね?
岡田
 可能性としてはもちろんありますよね。私もその疑問をグーグルの社員に投げ掛けてみました。すると、「それはユーザが黙っていないから大丈夫です。悪徳であれば、悪徳だという情報が次にかけめぐって、その悪徳業者の情報を潰すだろう」と。ある意味、“性善説”に立っているんですよね。確かに、これまでのメディアがそうであったように、その検索結果を見たユーザーのひとりひとりに対して責任をもてるのではないということでしょう。だから、彼らの主張もわかる部分はあります。しかし、ここまでパワーを持ってくると“性善説”に頼った考えだけでいいのだろうかとも思っています。
  今までのメディアには、長い伝統のなかでメディアをどう作り上げるかといった倫理が組み立てられてきて、どういった情報を載せたらいいのかといったある種の歯止めになっています。
  しかし、検索を新しい”メディア”ととらえると、まだ歴史が浅いため、「検索倫理」みたいなものが確立していない状況だと思うのです。また、もしあったとしてもそれはグーグルの社内で秘密裏に行われている。社会との往復の議論がまだ不足している気がします。今後どうしたらよりよい検索結果が出せるのかというのは、一社の問題ではなく、社会の問題になりつつある点は注意しなければならないと思うのです。
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あらゆる履歴を収集 プライバシーの侵害か、検索の効率化か
――
これから先、グーグルが新しく広げていこうとしている分野、媒体は何でしょうか?
岡田
 ひとつは明らかに携帯電話です。これは内部の技術者が何度か語っていますが、携帯電話に実装されているGPSの位置情報と、検索内容とをマッチングすることは、技術的に可能だというのです。もちろん、日本でこのようなことはまだ行われていませんが、これが可能になれば、今まで以上に「ターゲッティング」、ひとりひとりの興味の内容と場所とを合わせてそれから類推される情報や広告を流すということにつながります。
――
具体的にいうとどんな状況設定でのビジネスを考えているんでしょう?
岡田
 いつどこで誰がどんな検索をしているかを把握する、つまり検索している場所や時間を特定することができるようになるということです。特に検索している場所の情報を獲得できるというのが大きい。例えば、渋谷で、「酒」とか「ワイン」などの語を携帯電話で検索したとします。そこに、GPSによる場所情報を加えられれば、ピンポイントに「渋谷の最寄りの居酒屋」や「渋谷の最寄りのワイン・バー」を、検索結果の上位にもってくることができるという訳です。
  さらには、ひょっとすると電話番号も、そして音声内容も検索できる技術が登場するかもしれない。
――
多くの情報を連携させて、より効果的な情報の提示を目指している訳ですね。「すべての情報」を集めることはもちろんですが、それを有機的に結びつけることに力が入っているように思えますね。
岡田
 その通りだと思います。グーグルが買収する企業やベンチャーを見ていると、そこに利用できる「履歴」があるということが大きな要因になっているように思えます。ビジネスとしてはもうけがすぐには出なくても、そこにグーグルが持っている情報を補足・補完できる情報や履歴があれば買収しようとしているように思えます。実際に今現在も、多くの形式の情報に対応しようという動きは広がり続けています。
  本にも書きましたが、グーグルは衛星ケーブルテレビネットワークと提携して、セットトップボックスというチャンネル選択の装置を通じて、視聴者の番組視聴習慣を記録し、それに基づいて広告を行う試験サービスを開始しています。何を聞いたか、何を見たか、ネットではクリックの数や検索キーワードの統計をはじめ、私たちの番組でもご紹介した、グーグルが無料提供するWiFi(無線LAN)を使ったアンテナの位置など。多くの情報利用履歴がグーグルに集まっている。
  そして、徐々にこうした情報が「統合」され始めているのも事実です。この統合が、結果的に、どこまで行くのかを注視していく必要はあると思います。
グーグルWIFIが計画されているサンフランシスコ市
――
そうした「履歴」が集中することについて、ユーザーは不安に感じないものでしょうか?
岡田
 それがプライバシーと検索や広告の効率性との問題を引き起こしてしまうのだと思うのです。履歴は非常に有益なデータであると同時にプライバシーの問題にもなるからです。あまり見られていませんが、グーグルのプライバシー・ポリシーにはグーグルのネットワークの中では検索結果やサービスの向上のためにはこうしたデータを使うこと、第三者とは共有しないことが明言されています。
  しかし、具体的にどのサービスのどのデータとどのデータということは明らかではない。そのあたりに不安はあるのではないかと思います。また、履歴を有効に使おうとしているのは、別にグーグルだけではありません。こうした履歴を何十年も保管できるのは、デジタル技術の普遍的な性質だからです。ヤフー、マイクロソフトといった検索を提供する各社は当然のこと、ショッピング・サイトであるアマゾンや楽天など、みんなやっていることです。アマゾンで買い物をすると、「この商品を購入した人は、こんな商品も買いました」というアナウンスが出ます。これなんかは「履歴」を使ったサービスですよね。
  グーグルのエンジニアはこれを「便利なサービスだ」と言っている。だから匿名とプライバシーのギリギリのところの情報がこれからもっと利用が進むのだろうと思います。
グーグルアドセンスで
月90万円稼ぐ若者ゲールさん
またグーグルはユーザーがどういう心理でどう行動するのかをよく見てサービスを組み立てているという印象を持っています。先に述べたグーグル・チェックアウトでは、ユーザーのクレジットカード情報を登録する必要があります。アメリカではクレジットカード番号というのは、ある種究極の個人情報で、日本以上にネットに登録することに抵抗を覚える人が多いのですが、グーグル・アドセンスで生計を立てているゲールさんという若者は、「他の会社に預けるよりは、技術者が優秀でセキュリティが高いグーグルに預ける方がはるかに安心だ」と答えました。チェックアウトのサービスを構築した社員は、他社よりも安全で便利なサービスを作れば、よりユーザーが増えると語っており、ユーザーが自分の会社を選ぶか、ほかの会社を選ぶか、そういった心理までをも見通しているのだと思います。
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