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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
新書マップが新千代田図書館の“顔”に―キーボード不要!新書をのせるだけで連想検索!―
 5月7日、東京の千代田図書館がリニューアルオープンする。新しいレファレンス環境として、新書7000冊をテーマ別に並べた「新書マップコーナー」が出現する。書棚から興味のある新書を選んで専用の“書見台”に置くだけで、関連する電子情報を一気に連想検索できる。
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「新書マップ」をレファレンス・ツールに採用!
 2007年5月7日、千代田区立千代田図書館がリニューアルオープンする。場所は東京・地下鉄九段下駅から徒歩3分、新しく建て直された千代田区役所の9階と10階。皇居に隣接する北の丸公園が一望でき、面積は2600平方メートル。
  新装を機に千代田図書館は、指定管理者制度(公共施設の管理を民間法人に委託できる制度)のもとで企画、運営される。民間企業が図書館を運営するのは東京都の中央館では初めてで、全国でも兵庫県明石市についで2番目の試みとして、“新しい図書館”作りに注目が集まっている。田中榮博新館長は「今までの公共図書館にはないユニークなサービスを提供することが、私たちの役割です。日本の図書館像を変えたいと思っています」と意欲を示す。
新書マップコーナー 7000冊の新書と専用端末がならぶ
 その目玉が「新書マップコーナー」の設置だ。レファレンス環境を充実させるため、「新書マップ」に登録された新書7000冊(オープン当初は3500冊)をテーマ別に並べた専用の書棚を設置した。ウェブ上の新書データベースである「新書マップ」はオンラインで利用できるが、実際の新書群とあわせて利用できるのは、公共図書館では初めて。自分が調べたい分野の新書、気になるテーマの新書を実際に手にとることができる。
  さらにその実物の新書を数冊、美しい木製の書見台に置くと、その新書の内容と関連する電子情報が様々な情報源から自動的に収集されて、目の前の端末画面に表示される。千代田図書館の蔵書はもちろん、神保町古書店街の在庫や全国の大学図書館の蔵書、ウェブ上の百科事典なども検索される。専用端末は12セット用意されているので、じっくり腰をすえて調べ物ができる。今までのように、調べたいキーワードや文章を考えて、キーボードから入力して情報を探すのではなく、気になる新書を何冊か組み合わせて置くだけで、それらを基点として関連情報の収集を始められるわけだ。
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新書をかざすだけで新しい発見が!
 2004年6月、テーマで探す新書ガイドとして「新書マップ」はサービスを開始した。自分の探したい情報のキーワードや新聞記事などの文章を丸ごと入力して検索すると、それに関連する10のテーマと12のキーワードが表示される。各テーマについては、関連する新書(一部、選書)の一覧が作られていて、実際の書棚のように背表紙が並んだ写真も表示される。自分が直接知りたかったテーマだけでなく、関連するテーマも同時に示されるので、そこから新たな興味が生じたり、別の視点を得ることができる。連想検索という新しい検索技術の楽しさを体験できるサービスだ。
新図書館について語る田中榮博館長
 田中館長は、この連想検索を初めて見たときに衝撃を受けたと話す。「連想検索は“検索”という作業のイメージを覆らせてくれました。ふつう、検索と言えば、たくさんある情報の中から、必要な情報を絞り込んで導き出そうとするものです。ところが連想検索は絞り込むのではなくて、関連する情報が拾われていく。絞り込んでいく過程で気づかないうちに見落としていた良質な情報を、連想検索は拾い上げて発想をどんどん広げてくれる。これは凄い!と思いましたね」
  図書館を調査や研究のために利用するユーザーには、この連想検索が大きな力を発揮する。なにか調べたいことがあって書籍にあたろうとしたとき、絞り込み検索だけでは、有用な書籍を見逃してしまうことがある。連想検索では、少数のキーワードを苦労して選ぶことなく、長い文章や手がかりになる書籍そのものを基点にして検索できるので、内容的に近い書籍を見つけ出せる。特定のキーワードが含まれているかどうかといったピンポイントの検索に比べて、漏れが少ない幅広い検索が可能となる。この連想検索の仕組みを利用して複数の情報源から知りたい内容の近い情報を一覧できるサービス「想-IMAGINE Book Search」や「新書マップ」は、図書館のレファレンスにはたいへん有効となる。
新書をおく専用書見台
 千代田図書館のシステムがユニークなのは、この連想検索を実物の新書を置くだけで利用できるようにしたことである。テーマ別に並べられた7000冊の新書にはICタグが貼られていて、専用の書見台にはICタグの情報を読み取るアンテナが仕込まれている。書見台に数冊の新書を置くと、どの本が置かれたかをシステムが読み取って、その本を基点として「想-IMAGINE」の連想検索が起動される仕組みだ。
  オープン時に「想-IMAGINE」で検索できる情報源は、千代田図書館の蔵書、新書マップ、Webcat Plus(全国の大学図書館蔵書)、ウィキペディア、Book Town じんぼう(神保町の古書在庫)、文化遺産オンライン(全国の博物館収蔵品)などのデータベース。将来は、専門辞典や新聞記事アーカイブなどの商用コンテンツも利用できるようにする予定だという。
「プレオープン」で新書マップコーナーを紹介する高野明彦情報学研究所教授
 面白そうな新書を何冊か手に取って、それを組み合わせて書見台に置くだけで、関連する情報が目の前に広がるかつてないインタフェースによって、ユーザの発想を刺激することができそうだ。4月25日に開催されたプレオープンでシステムを試用した参加者からも驚きの声が上がっていた。
  このシステムは国立情報学研究所内の連想情報学研究開発センターが設計、構築した。その中心メンバーの西岡真吾教授は、「2〜3台ではなく12台もの端末を同時に動かす仕組みにするところが一番苦労しました。利用者が自由な発想でいろいろ使い方を試して、新たな発見をしてほしい」と語る。

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コンシェルジュが図書館の使い方を提案!
 「新書マップコーナー」のある9階北側は、主にビジネスのために調査、研究を目的とした利用者向けになっている。図書、新聞、辞書はもちろん、年鑑や白書も揃える。将来的には、商工会議所などとの連携も含めてビジネス関連資料を充実させていく方針だそうだ。
「セカンド・オフィス」ゾーン 赤の書棚が目印
 また、「セカンド・オフィス」ゾーンとよばれるこのスペースでは、「常識の範囲内で」ということではあるが、話をしたりミーティングに使うことも構わないという。「図書館では静かにというのが常識ですが、せっかく新書マップコーナーがあるわけですから、友人同士や職場の仲間で来てもらって、話し合いながら新しい発想を生んでもらう場にしてほしいのです。図書館という環境が、新しい研究やビジネスのスタートの手助けになれればうれしい」と、田中館長は利用者の有効利用を期待している。また、開館時間が夜の10時までというのも、仕事帰りの人たちには大きな魅力だろう。
「区民の書斎」ゾーン 緑の書棚が目印
   9階南側の皇居が一望できるゾーンは、利用者にリラックスして読書を楽しんでもらう「区民の書斎」ゾーンだ。ゆったりとしたソファが置かれ、230種類もの雑誌の新刊を手にすることができる。
  10階には、靴を脱いでゆっくり座れる「子ども室」も用意されている。くつろぎながら、子どもと一緒に絵本や紙芝居、図鑑などに親しめる。「リカレント支援サービス(有料、予約制)」も提供され、一時的に子ども預けることができるので、小さな子ども連れのお父さん、お母さんもゆっくり図書館を利用できるだろう。
  それぞれのゾーンでは、利用者のニーズに合わせてさまざまなサービスが提供されているが、その総合案内役が「コンシェルジュ」だ。案内係といえば、カウンターに常駐していて、分からないことがあれば利用者が聞きに行くというのが今までの形だが、千代田図書館では、コンシェルジュの方から積極的に動いて、利用者に接していきたいという。「図書館コンシェルジュ」というサービスは、全国でも初めての試み。館内のガイドツアーを定期的に行ったり、図書館サービスやそれぞれのゾーンを有効に使うための方法を利用者に提案していくほか、千代田区の地域案内なども行う予定だ。
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「新図書館」は千代田区のポータル拠点
神保町の古書店や飲食店などを見ることが出来るコンテンツ「神保町にタッチ!」も設置されている
 千代田図書館では、利用者に応じたサービスを提供すると同時に、地域との連携、千代田区にあるからこそできる活動にも重点をおこうとしている。
  千代田図書館の北側の窓からは、世界最大の古書街である神田神保町の町並みが見える。この古書街の各書店のもつ図書情報も図書館内で検索できるようになる。「新書マップコーナー」では、「BOOK TOWN じんぼう」のサイトを利用して古書店の在庫が確認できる。千代田図書館になかった本で面白そうだと思った本、図書館にあったとしても手に入れたいなと思った本があれば、そのまま神保町に出かければいいというわけだ。
  図書館内で古書の即売会も定期的に行われる予定だ。オープン時には、神田古書店連盟(今回は中野書店が担当)が手塚治虫の初期作品コレクション(23作28冊)を陳列、即売する。9階の南側と北側を結ぶスペースには、コレクション展示ができる「展示ウォール」を設置している。ふだんは閉架書棚にある古書コレクションを並べたり、大学や美術館、企業、NPOなどと連携して所蔵品を展示するという(オープン当初は図書館所蔵の古地図を展示)。
インタビューに応じてくれた企画の満尾哲広さん、田中榮博館長、広報の徳田加奈子さん(左から)
 「いずれは図書館から神保町への人の流れが作れればと思っています。また神保町には出版社も多い。編集者や本を書く人にはとくに、新書マップコーナーを使ってほしいですね。その結果、良質な出版物ができれば、千代田区の地域図書館としての役割も果たしていると思うのです」と、企画・システム担当の満尾哲広プロデューサーは地元との連携を考えている。
  神保町は、街全体がいわば開架式の図書館ともいえる。千代田図書館は、ビルの中の閉じた空間としての図書館ではなく、この「本の街」全体の案内所、まさに「神保町のポータル拠点」の役割も果たしながら、新しい公共図書館のあり方を模索し続けてくれそうだ。
PROFILE

千代田区立千代田図書館

東京都千代田区九段南1丁目2番1号 千代田区役所9・10階
開館時間:
<平日>10:00~22:00
<土曜>10:00~19:00
<日曜・祝日>
 10:00~17:00
アクセス:
地下鉄九段下駅から徒歩約3分
休館日:
毎月第4日曜日および1月1日から1月3日までの日
 
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