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Series 時事・社会
米・大統領選を追う 堀田 佳男
08/02/29

第1回 代議員とは何か

4年に1度のアメリカ合衆国大統領選挙。2008年はとくに、予備選から激戦が続いており、日本メディアの注目度も高い。過去4回の選挙を現場で取材したジャーナリスト・堀田佳男氏が大統領選とは何かを解説する。第1回では、代議員について詳述しながら、今後の大統領選挙の行方を探っていきたい。

  米大統領選挙が予備選の山場を迎えた。2月末の段階で、共和党はジョン・マッケインが候補にほぼ決まったが、民主党はバラク・オバマ候補とヒラリー・クリントン候補が激戦を続けている。だが代議員数(ディリゲーツ)ではオバマ候補がリードし、代表候補へ近づきつつある。選挙報道は日本でもさかんだが、予備選で再三登場する代議員(ディリゲーツ)の本当の意味を、日本人は明確に理解していないのではないだろうか。新聞などでは一応の説明はされたが、浸透していないように思える。無理もない、代議員の顔が見えないからである。

一般代議員と特別代議員がいる

  大統領選挙の行われる年には必ず新聞やテレビで代議員という代名詞が登場する。ところが米国にいる特派員の多くは実際の代議員に会ったことがないため、核心はぼやけたままだ。さらに代議員には一般代議員と特別代議員(スーパーディリゲーツ)がいる。いったい代議員とはどういう人たちなのだろうか。
  各州の予備選で投票所に足を運ぶと、投票用紙には普通にヒラリー・クリントンやバラク・オバマという候補名が記されている。有権者が支持する候補を選んで一票を投じるところまでは日本と同じである。だが、そこからが違う。
  2月5日に予備選を終えたカリフォルニア州を例にとってみたい。クリントン候補の得票数は約243万であったのに対し、オバマ候補は約200万だった。40万票も差がついたので「ヒラリー圧勝」といえた。両候補の得票率は52%と42%。大統領選挙はここからがやや複雑になる。
  同州にはすでに370人の一般代議員が配分されていた。全米50州では4049人におよび、人口比でその人数が決まる。この人たちは全員が夏の民主党全国大会に出席する州の代表者なのである。一言でいえば代議員は州の代表者ということになる。
  カリフォルニア州の場合、クリントン、オバマ両候補は370人を得票率で取り分け、それぞれ203人と167人を得た。50州で同じことが行われ、全州の代議員総数4049の過半数である2025を獲得した候補が、今年の民主党代表候補に指名されるというのが一連の流れだ。この説明だけで「シックリ」くる方はまだ少ないかもしれない。

普通の市民が選挙によって代議員になる

  過去4回の大統領選挙党大会に出席して実際に代議員と顔を合わせると、ごくごく普通の市民であることがわかる。テキサスで菓子屋を営む40代の女性であったり、オレゴン州の小学校教諭だったりする。最初の頃、代議員は党の重鎮だと思っていたので拍子抜けした。けれども彼らは党大会で貴重な一票を投じるのである。
  なぜ日本の選挙のように、一般投票の総数だけで決めないのか。答えは米国の建国当初の歴史にある。米国がイギリスから独立した18世紀後半、トーマス・ジェファーソンらが独立宣言を起草して採択する際、何度か大陸会議を開いた。そこに集ったのが13植民地の代表たち、すなわちディリゲーツ(代議員)だった。当時は一般市民ではなく、本当の代表者が集まって政(まつりごと)を執り行ったのだ。それが紆余曲折しながら連綿と続いて今にいたるのである。
  それでは現在の代議員はどう選ばれるのか。再びカリフォルニア州を例にとろう。同州に住む民主党員(18歳以上)であれば、基本的に誰でも代議員になる資格がある。代議員になりたい人は、まず、そのための申請用紙をインターネットでダウンロードし、4月2日までにカリフォルニア州の民主党本部に電子メールかファックス、郵便で送付する。基本的な個人情報を明記するとともに、クリントン支持かオバマ支持かも記す。その後4月13日に、申請者たちだけが出席し、その中から選挙によって代議員が選ばれ、党大会に送り込まれる。ただ、代議員に選出されても党からカネが出ることはなく、党大会への旅費や滞在費はすべて自前だ。
  さらに予備選挙には特別代議員という人たちもいる。総数は795人。彼らは連邦上下両院議員、州知事、以前の正副大統領(たとえばゴア副大統領)、党の幹部などだ。全員が党大会に出席でき、自らの意思で代表候補に一票を入れる権限をもつ。

「男性」と「メディア」からの支持もオバマに追い風

  今年に入ってなぜオバマ候補の支持率が全米レベルで伸びたのか。学究的で冷徹な分析は大統領選挙終了後になされるだろうが、現段階で両候補の明暗を推察してみたい。まず「期待感」が挙げられる。極めて曖昧な言葉だが、今年のオバマ候補を象徴する言葉である。
  クリントン候補とオバマ候補の政策の違いを精察しても、大きな差異はみあたらない。オバマ候補はカリフォルニア州での討論会の席上、医療制度改革について「クリントン候補と私の政策は95%が同じです」と言い切った。両候補の有権者が5%の違いに着目して投票を決める人はまずいない。あとは期待感である。ブッシュ政権下で沈滞した米国の外交や経済を、新しい方向へ導いていくビジョンを提示したのがオバマ候補だった。
  オバマ候補の伸張は、クリントン支持者がオバマ支持者に代わったことでもある。はっきりと数字に表れている。クリントン候補は女性からの支持が厚く、過去2ヵ月間変化はないが、男性からの支持率は昨年12月の42%から2月には28%にまで落ちた。逆にオバマ候補の男性の支持率は12月の26%から2月は67%にまで急伸している。多くの男性がクリントン候補の人物、指導力、エネルギーに限界を感じたと思わざるを得ない。
  さらにメディアの力も大きい。米国報道機関の記者の約7割はリベラルな考え方を持つ。その中でもオバマ候補への期待はクリントン候補の比ではない。両候補が同じ時間に遊説を行ったら、テレビ局はオバマ候補に画面を固定させるだろう。視聴率が取れる候補ともいえる。
  もう一点はカネである。政治献金と支持率には強い相関関係がある。カネが集まる候補の支持率は間違いなく高い。逆にカネが集まらない候補が予備選を勝ちぬくことはできない。民主党のジョン・エドワーズ候補、共和党のマイク・ハッカビー候補が好例だ。選挙資金がふんだんにあれば、テレビ・ラジオCMの本数を増やせ、スタッフを増員でき、電話勧誘も百万件単位で実施できる。今年に入ってからオバマ候補の集金額はクリントン候補のほぼ2倍であることを考えると、オバマ候補優位が見えるのである。

(敬称略、つづく)

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PROFILE

堀田佳男

国際政治ジャーナリスト

1957年東京生まれ。
早稲田大学文学部を卒業後、ワシントンのアメリカン大学大学院国際関係課程修了。米情報調査会社などに勤務。永住権取得後、90年にジャーナリストとして独立。政治、経済、社会問題など幅広い分野で活躍。過去4回の大統領選を取材した唯一の日本人ジャーナリストでもある。著書に『大統領のつくりかた』(プレスプラン)、『MITSUYA 日本人医師満屋裕明―エイズ治療薬を発見した男』(旬報社)など。

大統領はカネで買えるか?/5000億円米大統領選ビジ ネスの全貌

『大統領はカネで買えるか?/5000億円米大統領選ビジ ネスの全貌』
 堀田佳男著
 (角川SSC新書)

堀田佳男さんのHP:
www.yoshiohotta.com/

 
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