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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
SERIES 07 新刊月並み寸評
菊地 武顕
2005年4月刊行から

 毎月、約100冊もの新刊が登場する新書の世界。約20シリーズ以上が店頭に並ぶなか、ここにきて新たに2社が参入。テーマは、ジャーナリスティックなものからエッセイや実用書まで多種多彩。今月は、新創刊の「祥伝社新書」を眺めながら、05年4月刊行の新書を紹介する。

 4月に刊行された新刊新書を見ていく前に、新書の新たな仲間について触れておきたい。

祥伝社新書

 3月5日付けで祥伝社から、「祥伝社新書」が創刊された(実際に店頭に並んだのは2月下旬)。栄えある第1回刊行書籍は、以下の5点。
『抗癌剤/知らずに亡くなる年間30万人』(平岩正樹著)、『模倣される日本/映画、アニメから料理、ファッションまで』(浜野保樹著)、『「震度7」を生き抜く/被災地医師が得た教訓』(田村康二著)、『ガンダム・モデル進化論』(今柊二著)、『ウチの社長は外国人/成功起業家10人のサムライ精神』(大宮知信著)。
 ジャーナリスティックな書からオタク心をくすぐる本まで多様な新書が刊行され、第2回刊行が待ち望まれていた。
 果たしてその第2弾であるが、創刊から2ヵ月後の5月5日(正味4月下旬)に刊行された。
『医療事故/知っておきたい実情と問題点』(押田茂實著)、『都立高校は死なず/八王子東高校躍進の秘密』(殿前康雄著)、『サバイバルとしての金融/株価とは何か・企業買収は悪いことか』(岩崎日出俊著)、『そうだったのか 手塚治虫/天才が見抜いていた日本人の本質』(中野晴行著)、『水族館の通になる/年間3千万人を魅了する楽園の謎』(中村元著)、『マザコン男は買いである』(和田秀樹著)の6点である。
 これで計11点が出版されたことになるが、教養書に拘泥することなく、かといって柔らかい本ばかりでもない。バランスの取れたラインナップで、現代人が新書に求めているものを出版していこうという姿勢が見て取れる。同新書は今後も、2ヵ月に一度のペースで出版されるという。第3弾以降にも注目していきたい。

 また祥伝社新書とほぼ同じ時期に、日本文芸社より「パンドラ新書」が創刊された(奥付は2月25日)。同社は既に、「日文新書」というシリーズを持っている。これは歴史や宗教を扱う本が多く、また毎月の刊行というわけではない。
 それに対し「パンドラ新書」の創刊本をみると……。『[学校ごっこ]六輔、その世界史/六輔が活写する日本人の原点』(永六輔著)、『生きることは学ぶこと/成功&スキルアップできる人間の発想法』(福原義春著)、『人を見抜く心理術/すべてお見通し、心のツボの見抜き方』(多湖輝著)、『頭のいい子より賢い子の育て方/アドラー博士が実践する子どもの能力の高め方』(星一郎著)、『合コン&宴会芸大全/あなたもこれで人気者になれる!』(糸井重里著)というように、エッセイや実用書が並ぶ。
 講談社の「現代新書」に対する「+α新書」のような存在になるのだろうか。5月発売の第2弾の顔ぶれは『磯野家の謎/人気アニメ「サザエさん」の知られざる秘密に迫る!!』(東京サザエさん学会著)、『日本語の化学変化/時代とともに変わる日本語のルーツと正しい使い方』(岩松研吉郎著)、『他人の目が気になって仕方がない人へ/こうすればあなたはもっと楽に生きられる』(樺旦純著)、『がん患者よ、医療地獄の犠牲になるな/迫りくる終末期をいかに人間らしく生き遂げるか』(近藤誠、ひろさちや著)。これから毎月、出版されるという。

 ヤングアダルト向けの新書でも、昨年10月に「よりみちパン!セ」(理論社)、今年1月には「ちくまプリマー新書」(筑摩書房)が創刊され、ともに好評である。
 手に取りやすいパッケージ、求めやすい価格、そしてもちろん知の入門書としての性格――。新書を時代が求めているからこその創刊ブームであると信じたい。

『つくられた卑弥呼』の謎

 さて、本来のテーマである4月刊行本(奥付が5月2日のPHP新書を含む)の概観に移ろう。
 前の月には、広い意味で「日本に住むこと」を考えさせる本が数多く刊行された。
 その流れを受けたのかどうかはわからないが、4月は特に日本の歴史に関する本が目立った。歴史上のある部分を通じて日本人とは何かを考えさせてくれる書籍である。
 時代順でいえば、まずは『つくられた卑弥呼/〈女〉の創出と国家』(義江明子著、ちくま新書)。邪馬台国の女王卑弥呼は「すぐれた巫女であり、人に姿を見せることもまれで、弟が彼女を補佐して実際の政治を行っていた」という定説に、著者は疑問を呈する。卑弥呼は政治を執り行わなかったのだろうか? この定説はいつの時代にどのような背景の下に生まれたのか? 女帝論議にも一石を投じる論考が展開される。
『名刀 その由来と伝説』(牧秀彦著、光文社新書)は、記紀神話から徳川将軍家までの日本刀の伝説を検証する。『江戸の流刑』(小石房子著、平凡社新書)は、将軍のお膝元浄化という名分ゆえ流刑にされた人々のエピソードを通じて、江戸の裏面史に迫る。

 近代に移ろう。今年は日露戦争終結から 100年にあたる。『日露戦争史/20世紀最初の大国間戦争』(横手慎二著、中公新書)は、この戦争の背景・経過・影響を考察する。
 第2次世界大戦中、参謀本部の協力のもとで『FRONT』という対外宣伝誌が制作されたという。『焼跡のグラフィズム/『FRONT』から『週刊サンニュース』へ』(多川精一著、平凡社新書)は、かつて同誌で働き、戦後もビジュアル出版物の刊行に携わった著者による刺激的な回想記だ。『鎮魂 吉田満とその時代』(粕谷一希著、文春新書)は、戦艦大和に搭乗し奇跡的に生還、日本銀行のエリート行員として戦後を送った故・吉田満氏の生き方を描きながら、戦後日本を浮かび上がらせている。
『レンズに映った昭和』(江成常夫著、集英社新書)は、木村伊兵衛賞、土門拳賞を受賞した気鋭の写真家が、戦争花嫁、中国残留孤児、被爆者ら数々の被写体について書き下ろしたもの。『そうだったのか 手塚治虫/天才が見抜いていた日本人の本質』(中野晴行著、祥伝社新書)は、手塚作品を通じて日本人を考察する。
 さらに、戦後政治に関する本も2冊出た。『自民党と戦後/政権党の50年』(星浩著、講談社現代新書)、『戦後政治家暴言録』(保阪正康著、中公新書ラクレ)である。

新しいウェブ時代、「ブログ」入門

 最近の新書の定番というべき「日本語」本では、ノウハウものばかりが目立った。『ほんとうの敬語』(萩野貞樹著、PHP新書)、『そんな言い方ないだろう』(梶原しげる著、新潮新書)、『「速く・わかりやすく」書く技術/原稿用紙3枚をラクラク30分!』(栗田昌裕著、ベスト新書)、『国語教師の会の日本語上達法』(石田佐久馬著、講談社+α新書)、『新日本語の現場〈第3集〉/困ってませんか? 職場の言葉』(橋本五郎監修、読売新聞新日本語取材班著、中公新書ラクレ)といった顔ぶれである。
 ノウハウものといえば、「パソコン」に関連する書籍も目立った。「パソコン」についてはかつて、特にウインドウズの入門書がたくさん刊行された時期があった。その後、落ち着きを見せていたのだが……。今回の新刊新書は、当時の本とは一線を画していると感じる。
『マニュアル不要のパソコン術/パソコンをもっと快適に使うひと工夫』(朝日新聞be編集部著、ブルーバックス)、『そんなパソコンファイルでは仕事ができない!』(鐸木能光著、プレイブックス・インテリジェンス)などは、なるほど人々がある程度パソコンを使いこなせるようになった現在だからこそ求められるノウハウを示す。また『「ブログ」入門/簡単にできて、すぐ使える!』(滝田誠一郎著、ベスト新書)のように、最近流行のブログに絞ったノウハウ本も出た。『ウェブ時代の英語術』(森摂、馬越恵美子著、生活人新書)は、cog、spat、dip といったウェブで多用される英略語をはじめ、インターネット時代の英語解説本だ。

なぜ今スピノザなのか

「哲学」も新書には欠かせない定番テーマだが、4月にはなかなかユニークな本が出た。『スピノザの世界/神あるいは自然』(上野修著、講談社現代新書)は、「有徳なる無神論者」といわれたスピノザに関する入門書。なぜ今スピノザなのかよく分からないが、この本が売れているという。
『退屈の小さな哲学』(ラース・スヴェンセン著、集英社新書)は、ノルウェーのベストセラーの翻訳。退屈という身近で不思議な現象を探求していく。翻訳本といえば、動物行動学者が人間に幸福をもたらす源泉を分析した『「裸のサル」の幸福論』(デズモンド・モリス著、新潮新書)も、「哲学」ものの一種といえるかもしれない。
 さらに変わり種は、『キリスト教は邪教です!/現代語訳「アンチクリスト」』(F・W・ニーチェ著、講談社+α新書)。その名の通り、ニーチェの『アンチクリスト』を平易な現代日本語に訳したものだ。
 また『靖国問題』(高橋哲哉著、ちくま新書)は、歴史や政治でのみ語られがちな靖国神社を思想の問題として斬るという試みが面白い。

「博物館」、「水族館」の魅力を説く

 ところでこの連載は月ごとに刊行される新刊新書を分類し、その傾向を伝えている。今回で連載7回目を数える。前述の「パソコン」もそうだが、4月には、これまでここで一度も取り上げなかったテーマ(つまりは過去6ヵ月間、取り上げるほどの刊行点数がなかったテーマ)の本が、充実していた。
『この博物館が見たい!』(桑原茂夫著、ちくま新書)と『世界の博物館 謎の収集』(井出洋一郎監修、プレイブックス・インテリジェンス)。前者は国内の無名な、後者は海外のメジャーな博物館のガイドブックである。同様に水族館の魅力を説くのが、『水族館の通になる/年間3千万人を魅了する楽園の謎』(中村元著、祥伝社新書)だ。またちょっと毛色は違うが、『東京美術骨董繁盛記』(奥本大三郎著、中公新書)は18軒の美術骨董商を巡ることで、私たちを一種独特の美の世界に誘う。

「スポーツ」のルポルタージュも、これまでここで取り上げなかったテーマだが、4月には入念な取材に基づく新刊が2冊出た。『サッカーがやってきた/ザスパ草津という実験』(辻谷秋人著、生活人新書)と『強いだけじゃ勝てない/関東学院大学・春口廣』(松瀬学著、光文社新書)。地域密着を掲げるJリーグの中でも特異なサッカーチームと、近年メキメキと力をつけ伝統校を蹴散らす大学ラグビー部の物語だ。
 同様に「環境問題」でも面白い本が出たので記したい。『生きものたちのシグナル』(毎日新聞科学環境部著、岩波ジュニア新書)は、新聞記者が必死に足で集めた生きものの情報であり、中高生だけに読ませるにはもったいない充実ぶり。異色なのは『古代中国の文明観/儒家・墨家・道家の論争』(浅野裕一著、岩波新書)。古代中国でも都市建設に際し大規模な自然破壊が行われた。そのとき、孔子・墨子・老子等諸子百家はどう考え、どのような論争をしたのか。それによって彼らの文明観を探ろうと試みる。

 以上のように、今や定番となった「日本史」「日本語」に関する本が充実した一方で、最近あまり刊行されることのなかったテーマの本がたくさん出た月であった。今後も新たなジャンルにどんどん挑戦していって欲しい。そう強く願っている。

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PROFILE

菊地 武顕

雑誌記者
1962年宮城県生まれ。明治大学法学部卒業。86年1月から、「Emma」(当時は隔週刊。後に週刊化)にて記者活動を始める。以後、「女性自身」、「週刊文春」と、もっぱら週刊誌で働く。
現在は、映画、健康、トレンドを中心に取材、執筆。記者として誇れることは「病欠ゼロ」だけ。

抗癌剤/知らずに亡くなる年間30万人

『抗癌剤』
平岩正樹著
祥伝社新書

[学校ごっこ]六輔、その世界史/六輔が活写する日本人の原点

『[学校ごっこ]
六輔、その世界史』

永六輔著
パンドラ新書

つくられた卑弥呼/〈女〉の創出と国家

『つくられた卑弥呼』
義江明子著
ちくま新書

名刀 その由来と伝説

『名刀 その由来と伝説』
牧秀彦著
光文社新書

焼跡のグラフィズム/『FRONT』から『週刊サンニュース』へ

『焼跡のグラフィズム』
多川精一著
平凡社新書

鎮魂 吉田満とその時代

『鎮魂 吉田満とその時代』
粕谷一希著
文春新書

ほんとうの敬語

『ほんとうの敬語』
萩野貞樹著
PHP新書

新日本語の現場〈第3集〉困ってませんか? 職場の言葉

『新日本語の現場〈第3集〉
困ってませんか? 職場の言葉』

橋本五郎 監修、読売新聞新日本語取材班著
中公新書ラクレ

マニュアル不要のパソコン術/パソコンをもっと快適に使うひと工夫

『マニュアル不要の
パソコン術』

朝日新聞be編集部著
ブルーバックス

「ブログ」入門/簡単にできて、すぐ使える!

『「ブログ」入門』
滝田誠一郎著
ベスト新書

スピノザの世界/神あるいは自然

『スピノザの世界』
上野修著
講談社現代新書

退屈の小さな哲学

『退屈の小さな哲学』
スヴェンセン、ラース著
集英社新書

世界の博物館 謎の収集

『世界の博物館 謎の収集』
井出洋一郎 監修
プレイブックス・インテリジェンス

東京美術骨董繁盛記

『東京美術骨董繁盛記』
奥本大三郎著
中公新書

サッカーがやってきた/ザスパ草津という実験

『サッカーがやってきた』
辻谷秋人著
生活人新書

生きものたちのシグナル

『生きものたちのシグナル』
毎日新聞科学環境部著
岩波ジュニア新書

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