風
 
 
 
 
 
 
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Series コラム
明日吹く風は 
10/05/15

第1回 友愛の精神が泣いている-基地とダムと民意

風のように毎日が過ぎてゆく、あしたはどんな風が吹くだろうか。

 原子力発電の安全性や必要性について、日本で議論が巻き起こったときに、『東京に原発を』(広瀬隆著、集英社文庫)という、原発の危険性などを説く本が出版されて話題になった。「原発が本当に安全だというのなら、送電面などエネルギー効率のいい東京につくればいいではないか、なぜ田舎の人たちばかりが危険な目に遭うのか」と、本書はメッセージを投げかけた。
 沖縄の普天間飛行場の移設問題、そして八ッ場ダムの建設をめぐる混乱をみると、このメッセージを思い出す。沖縄の米軍基地は日本の安全保障のために、そして八ッ場ダムをはじめ全国各地のダムは都市部の水需要や治水対策のために必要だとして建設されてきた。
 その存在によって、長い間地域住民は危険な目に遭ったり、住民間で反目し合うことにもなり、ときには平穏だったコミュニティーが分断されることもあった。しかし、そこに暮らしている人にとっては、簡単に移動するわけにもいかないから、長年にわたって問題と共存することを余儀なくされた。
 こうした、国家や公共の利益に名を借りて一部に負担を強いる政策を推進してきたのは、地域の利権を巧みに政治的に利用してきた自民党政権、あるいは自民党的な政治だった。それが民主党政権にかわって変化した。ダム建設は見直され、 は辺野古に同じ沖縄の移設せずに、国外、あるいは最低でも県外へ移設することを決めた。しかし、ダム建設見直しでも、基地の移設の問題をめぐっても、結局、長年苦しんできた地元の側に立つどころか、徳之島を含めてかえって地元に混乱を巻き起こした。
 普天間問題に限って言えば、「国外、県外」と、一国の首相が決意を述べたわけだから、当然、抑止力など安全保証問題との関係を十分研究、検討した上での結論だと、国民の誰しもが考えるのが当たり前のことだ。しかし、実際は「抑止力に対する勉強不足」を理由にあっさりと公約を撤回してしまった。これには驚いたが、さらに民主党のある代議士に聞いたところによれば、鳩山首相が考える普天間移設案を、側近のブレーンが詰めて検討してきた形跡はほとんどないというのだから信じられない。

問題点とリスクはなにか

 この問題の解決をめぐっては、安全保障、アメリカとの関係、地元沖縄の負担軽減という要素を考慮するわけだが、そのバランスをどうとるかで結論は違ってくる。たとえば、沖縄の民意を尊重し県外、国外へ移設するのであれば、抑止力という点では相対的に低くなり、アメリカとの関係も悪化するかもしれない。また、アメリカとの関係を最重視するのであれば、別のリスク、問題点が出てくるだろう。
 大事なのは、そのいくつかの案について、具体的なリスクや問題点を国民の前に提示し、あわせて政府、政権政党の考えをしっかり示すことだ。特に、特定の地域に負担を強いるなら、それを補って余りあるほどの地域振興策や補償、環境への配慮などを同時に提案することは欠かせない。そうすることで、沖縄の基地の問題を国民の問題として考えるという、当たり前の義務を国民は認識することができる。
 今回の問題解決に向けて鳩山首相がとった一連の言動に一貫した姿勢や思想は見られなかった。しかし、あえて言えば国民の側にも切実感が足りなかったのではないだろうか。「国外、最低でも県外」という方針を支持しても、おそらくたいていの人が「そうは言っても、自分のところには基地は来ない」と思ったに違いない。
『東京に原発を』が訴えた、なぜ地方だけがリスクを背負うのかという視点にならえば、基地は、沖縄以外のどこにもってきてもいいはずだ。そこまでの覚悟を持つことを、政府はこの際国民に訴え、どこの地域も同様のリスクと義務を背負っているという考えに立って、安全保障、地域、そして生活という観点から、もう一度広く民意を問うたらどうだろうか。
 一度、基地をつくったら環境や生活に与える影響は多大であるのは言うまでもない。自民党政権末期からみれば、首相がころころ替わり政権も同様にかわるなら、その都度振り回される国民はたまったものではない。首相の座、あるいは代議士の座をおりても悠々自適に暮らせるような人たちは、何十年にわたって、基地やダム問題に生活を揺さぶられてきた人たちのことをいったいどう考えているのだろうか。真の友愛、そして国民の生活が第一という精神をなんとか示してほしいものだ。
(編集部 川井 龍介)

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