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新書の「時の人」にきく
08 貧困が若者を襲う! なぜ若者までホームレスになるのか
飯島裕子
ホームレスといえば中高年の男性を想像しがちだが、近年20、30代の若者のホームレスが増えている。彼らはなぜホームレスとなってしまったか。どのような人生を歩んできたのか。また現在の境遇をどう考えているのか。ホームレスの自立を応援する『ビッグイシュー日本版』創刊のころから、若者の雇用問題を追い続け、『ルポ 若者ホームレス』(ちくま新書)で50人の若者ホームレスをインタビューした飯島裕子氏に、その実態と彼らの心情をきいた。
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仕事を提供しホームレスの自立をうながす
若者ホームレスは"ホームレス"っぽくない
お金を手にするとパチンコに走ってしまう…
ルポ 若者ホームレス
飯島裕子著(ちくま新書)
仕事を提供しホームレスの自立をうながす
――
この新書はビッグイシュー基金の協力で書かれたそうですが、まずビッグイシュー基金について教えて下さい。
飯島
 ビッグイシュー基金とは何かという話の前に『ビッグイシュー』についてまずお話するのがいいと思います。『ビッグイシュー』は、ホームレスの人だけが売ることができる雑誌で、1991年にロンドンで生まれ、日本では2003年9月にビッグイシュー日本が創刊しました。また、雑誌『ビッグイシュー』を販売する仕事を提供し、ホームレスの人をビジネスパートナーとして、自立を応援する事業でもあります。東京や大阪のターミナル駅などで、ホームレスが販売しているのを見たことがある人もいるのではないでしょうか。
 そしてビッグイシュー基金は、ビッグシュー日本を母体としてつくられた非営利団体です。非営利団体の特性を生かし、他団体や行政、ボランティアの方々とも協力して、医療や住宅相談といった生活自立支援や、就業応援事業、文化スポーツ活動など、ホームレスの人たちに対して、一歩踏み込んだきめ細やかなサポートを行っています。
――
飯島さんがこの著書を書かれたのは、どういった経緯だったのですか。
飯島
 私はフリーのライターですが、『ビッグイシュー日本版』創刊1年目のころから記事を書いていて、関わりがありました。ちょうど2007年ごろだったと思うのですが、ビッグイシュー代表の佐野章二さんから、20~30歳代の若いホームレスが増えてきているという話を聞きました。さらに彼らはなぜか販売活動が長続きしない、ホームレスとしての自覚が乏しい、切実感がないなど、中高年のホームレスの人たちに比べ、違った属性をもっていること、そんな彼らにスタッフもどのように接したらよいか戸惑っているということを知ったんです。
そこでまずは彼らのことを知るために、ビッグイシュー基金として調査を始めることになり、もともと若者の雇用の非正規化や雇用問題全般に興味があったので、「私やりたいです!」と手をあげ、調査に関わることになりました。
若者ホームレスは"ホームレス"っぽくない
――
調査にどのくらいの時間がかかりましたか。また具体的にどのような調査方法だったのですか。
飯島
 2008年11月から2010年5月まで約1年半の間に、40歳未満の若いホームレスの人に対する聞き取り調査を行いました。50人はすべて男性です。調査といっても堅苦しいものではなく、生い立ちや仕事経験、現在の生活などを自由に話してもらうようにしました。一人につきだいたい2、3時間かけたでしょうか。
――
調査対象のホームレスはどのようにして選んだのですか?
飯島
 最初は『ビッグイシュー』の販売者から聞き取り調査をスタートさせました。調査を始めたころは、『ビッグイシュー』の販売をしている若者はそう多くなかったので、20人程度で終わってしまいました。しかし2009年に入ったころから、増え始め、春を過ぎるころには、幸か不幸か、話を聞く相手を探すのには困らないほど多くの若者が「ビッグイシューを販売したいのですが・・・」とやって来るようになったんです。「年越し派遣村」から数ヵ月、リーマンショックから半年経ったころのことでした。
 またビッグイシューを訪れる人だけでは対象者が偏ってしまうため、公園等でやっている炊き出しなどに出かけていき、並んでいる若者に声をかけ、話を聞かせてもらったケースも複数あります。
――
調査場所は東京都内ですか。
飯島
 50人中42人が東京都内、残り8人が大阪です。ただ彼らの出身地は様々で、北海道から九州の離島まで、全国各地から都会に集まってきていることもわかりました。
――
普段、東京の新宿駅構内や大阪の梅田駅構内などで、多くの路上生活者を見ますが、ほとんどが中高年で若者を見掛けることはあまりありません。彼らはどこで寝ているのでしょうか。
飯島
 そうした質問をよく受けます。これは若者ホームレスの特徴でもあると思うのですが、彼らは身なりに気を遣っているので、見た目だけではなかなかホームレスだとは気付かれません。また実際、路上でのみ生活している人が少ないのも若者ホームレスの特徴です。懐具合に応じて、ネットカフェ、ファストフード店、サウナなどで夜を明かすことも多い。都会では小銭を稼げる機会もあるので、そうしたところに寝泊まりするようです。
お金を手にするとパチンコに走ってしまう…
――
調査をする前と調査した後で、実感として変わったことはありますか?予想とどう違ったか聞かせて下さい。
飯島
 よく言われるように、突然派遣切りにあって路上生活を余儀なくされるということは一種の "労働災害"ではないかと思っていました。つまり、雇用さえ確保できればそういった状況には陥らないのではないか。雇用問題を解決することで、ホームレスの多くはいなくなるのではないか、と。特に若い人の場合、この点が顕著だと考えていました。
 しかし、聞き取り調査を続けるうちに、問題はもっと根深いと感じました。ほぼ全員が退職や解雇を引き金にホームレス状態に陥っているという点で、雇用の問題は非常に重要です。
 さらに彼らの生い立ちを聞いてみると、たとえば施設で育った若者であったり、父親からの暴力から逃れるため、実家を出た若者であったりと、生まれた時からとても不利な条件をいっぱい背負っている人が少なくないことが明らかになりました。また、依存症や知的障害などが原因でホームレスになってしまう人がいることもわかってきたんです。
――
依存症というと、アルコールですか。それともギャンブルでしょうか。
飯島
「パチンコ依存症」的な傾向にある人が多かったですね。若者でアルコール依存症というのは少数派ではないでしょうか。中高年だと、パチンコよりもアルコール依存の方が多いのとは対照的だと思います。むしろ、お酒やお酒の席に苦手意識を持っている人が多い。仲間と集まって酒を飲むというより、一人パチンコやゲームをしているほうがストレス解消になると考える人が多いように感じました。
 パチンコに代表されるようなギャンブルに夢中になっていたという若者にインタビューしましたが、聞けば聞くほど、これはやはり病気としか考えられないと改めて感じましたね。ちゃんと職に就いて仕事をしていても、現金を手に入れた瞬間に"スイッチ"が入ってしまう・・・・・・というような感じでパチンコ屋に向かってしまう。意志が弱いと言ってしまえばそれまでなのですが、パチンコに走ってしまう衝動を抑えられない、まさに依存症なのですね。
 また若者を依存状態にさせる要因の一つに消費者金融の問題があると思っています。若者ホームレスの約半数は消費者金優等から借金をした経験があると答えています。身分証さえあれば、学生でも誰でも簡単に借金ができてしまう。パチンコ依存と借金の問題はセットになっていると感じました。
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PROFILE

飯島裕子

東京生まれ。ノンフィクションライター。一橋大学大学院社会学研究科博士課程在籍中。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に雑誌、新聞等で取材・執筆を行っている。
 
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