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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
新書の「時の人」にきく
09 迫る真のレアメタル危機官・民・学協同の資源戦略を!
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このままでは、あと2、3年で破綻する
あと30年は現役!
「いけず」な京都人はビジネスでも強い
このままでは、あと2、3年で破綻する
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日本は技術立国、モノづくり国家と言われてきましたが、今やその地位は危ういのですね。これから、日本の産業を支えていくために、どのようにすればよいのでしょうか。
中村
 危機意識をもち、官・民・学が協力して対応しなくてはいけません。大変だ、大変だ、と騒いでいる割には、みなさんどうも人ごとなんですよね。
『レアメタル入門』の執筆中も、終わりのほうで日本の資源政策における改善策を書いているうちに空しくなってきてしまいました。なぜかというと、一つ一つの対策は決して難しくはないのですが、それには日本全体の体質を変えなくては無理だ、ということが分かってきたからです。
 常識的に考えて、このままのシステムでいくとあと2、3年でこの国は破綻するでしょうね。どうしたらいいかは、わからないけど。うちだって、会社をシンガポールかどこかに移そうかって考えているくらいですよ(笑)。
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中村さんのように、お仕事で国内外の行き来が多いと、日本の問題点もはっきり見えてくるのでしょうね。一年間のうち、海外出張は何日間ぐらいになるのですか。
中村
アフリカ、コンゴでのコバルト採掘現場にて(写真提供:中村繁夫氏)
 2010年は150日ぐらい海外で仕事をしていました。今までで一番多かったですね。代替材料・資源の開発が主です。先日も1週間で中国、ベトナムのハノイ、香港、ソウル、と1.5日ぐらいずつ行って来ましたが、短期間にまわると各国の状況がよく分かります。ベトナムは今、中国の代替資源立地として各国がしのぎを削って集中しているんですよ。その金融センターがシンガポールであり香港になっている。韓国の勢いは今一番すごいです。1週間の最後に韓国を訪れ、KORES(韓国資源事業団)、日本でいうならJOGMECのような政府機関がありまして、頼まれて講演をしてきたのですが、サムソン、LG、ヒュンダイなど超一流企業の方がたくさん見えまして大変真剣に話を聞いてくれました。しかも質疑の内容が実に当を得ているんです。きちんと考えとるな、と感銘をうけました。それが帰国してテレビや新聞を見ると、日本は政治の混乱が続いているし、何だか行動を伴わない議論ばっかりしていてがっかりしますよ。
――
最近訪れたなかで特に印象に残る国はありましたか。
中村
 今後に注目しているのは、ミャンマーです。昨年スーチーさんが解放されました。あの国は変わりますよ、これから。
 今まで95ヵ国訪問しました。最近アフリカに行くようになって、どっと数が増えましたね。今年のうちに100ヵ国になると思うので、その100あるいは101ヵ国目に、北朝鮮に行ってみたいと思っているんです。崩壊する前の記念にね。
あと30年は現役!
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お話をうかがっていると、相場だけではなく政情にも左右される取引、ハードなスケジュールなど、心身の健康を保つのにご苦労がありそうですね。緊張感あふれる現場を乗り切る秘訣は何かあるのですか。
中村
 毎朝4時に起きて犬の散歩などした後、5時から11時まではインプットの時間と決めています。勉強をしたり、本を読んだり、原稿を執筆するのもこの時間です。その後夕方5時まではアウトプットの時間。人と会う約束や、会議や講演はこの時間に集中してやる。そして5時になったらすぱっと仕事をやめて、完全にプライベートな時間です。酒を飲んだり、家族と過ごしたり、趣味を楽しんだり。そして11時には爆睡します。50歳になる前からずっとこのやりかたにして、もともと誰に何をいわれようと、仕事だって好きなことしかしてきませんでしたから。好きなことをやらないと、体がもたないでしょ。夕方5時から後は頭の中をプログラミングしている時間、睡眠中はメモリーのバックアップをしている、そういうイメージでやっているんですよ。
「社長はあと何年やるのか」と聞かれて、「あと10年やります」とか真面目に答えてるようではだめなんですよ。私は「あと30年はやります」と答えることにしているんです(笑)。今の仕事をやめて残りの人生はどうしよう、とか考えてもしょうがない、ずっと好きなことだけをやっているほうがいいでしょう。もちろんトレーダーとしても現役だし、現場を退くつもりは全くないんです。
 趣味としては、最近は時間がとれなくてあまりできませんが、仏像の彫刻に凝っています。もともと祖父が京都で仏壇屋をやっておりまして、実家の蔵から古い仏画や仏像なんかがたくさん出てくるんですよ。そういうものを眺めているといろいろとイマジネーションがわいてきます。小乗仏教の国に行くことがあって、仏像を集めたり。そうしたものを集めるのも、自分で彫るのも好きですね。
「いけず」な京都人はビジネスでも強い
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若い頃に海外35ヵ国を放浪した体験を綴った著書も出されているのですね。その体験で、今日のビジネスに通じるものは何かあるのでしょうか。
中村
放浪ニートが、340億社長になった!
中村繁夫著、ダイヤモンド社
 若い頃の放浪体験、「放浪ニート」というのは私が作った言葉ですが、好奇心だけは人一倍強かったからあちこち放浪してきたんですね。そこでいまのビジネスで必要な素地ができたように感じます。まず、危機意識が芽生える。それから「ディアスポラ(離散)」というか「さまよえるユダヤ人」のような意識というか。追放されたユダヤ人とは違って自分で放浪しているんですが、いつかは帰りたいと、常にふるさと、祖国のことを考えるようになります。愛国心が強く、日本が好きになりますね。あとは、放浪していると居候もしなくてはいけない。「居候、3杯目にはそっと出し」っていうのがありますね。「そっと出し」というのが大事です。遠慮とか、謙虚さとか、そういう気持ちをもちながら、自分の権利や居場所を探す知恵もついてきます。その発想が、商売をやる上で確実に役に立っています。家庭で何不自由なく大切にされて、内でも外でも権利を主張しているままでは、感じる機会がないでしょう。鉱物資源を求めて、非常に貧しい国に行くことも多いのですが、彼らを上から見下ろすのではなくて、一緒に向上しましょう、という発想が先に出るんです。それが、商売の上で一番重要なコツなんですね。日本はずっと経済的に優位にきたから、ついつい上からの目線になってしまいますが、そうしたおごり高ぶりが今の日本ほど色濃く出ている国は他にないでしょうね。
 危機感が人一番強くなり、ソフトパワーという知恵が身に付く、それが放浪の効用じゃないかと思っています。
――
ご出身は京都だそうですね。帰りたい「ふるさと」というのは京都をイメージしているのでしょうか。
中村
 17歳まで京都で育って、そのあと大学は静岡に行ったので京都を出たあとのほうがずっと長いんだけど、本質的には今でも京都人のつもりですね。いつも帰るのはあの場所、という気持ちがあります。京都人には、日本の長い歴史を作ってきたんだ、という思い込みのようなものがあるでしょ。中国人の持つ中華思想に似た、そういうプライドの高いDNAみたいなものがあるんだと思っています。それと、京都人は性格が悪い、とよくいわれるでしょ(笑)。「いけず」っていうのわかりますか。真綿でじわじわと首を絞めるように、相手の弱いところをしつこく責めていったりする。意地悪いんですよ。でも、そういう京都人タイプの人は、うちの会社にもいますが、中国人とのビジネスでもいい勝負になる。負けないんです。日本はもっと京都人的な交渉力を学ばないとこれからやっていけないんじゃないでしょうか。

(2010年12月21日、アドバンスト マテリアル ジャパン社長室にて)
編集部より:「新書」の時の人、ということで中村氏にインタビュー依頼をしたのが、レアアース問題が紛糾していた10月初め。返答がなくあきらめかけていたころ、「ようやく落ち着いたのでインタビューお受けできます」というメールが届いた。その後の中村氏のレスポンス(ときには海外からも)は迅速で、ニュースの渦中は外野が想像する以上に大変な混乱だったことがうかがえた。インタビューではレアメタル業界から見た日本の課題について語ってもらった。自身が辛口、とおっしゃるほどには辛辣な印象を与えないのは、カラオケも得意だというやや低めの美声と、京都弁のニュアンスがなせる技もあるだろうか。ご本人の肉声をお聞かせできないのが、今回は特に残念である。アメリカ大使館にもほど近い昭和の雰囲気が残るビル、ガラス張りの社長室でのあっという間の濃い1時間だった。
(湯原 葉子)
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