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新書の「時の人」にきく
05 “カネ”の力が大統領を決めるか!? ヒラリー、オバマ、マケインの選挙戦をよむ
国際政治ジャーナリスト 堀田佳男
ヒラリー・クリントン、バラク・オバマによる民主党指名候補者争いで注目を集めるアメリカ大統領選。世界が注目する米大統領選を過去4回にわたって現地取材し、このほど『大統領はカネで買えるか?』を出版したジャーナリスト堀田佳男氏に、選挙の行方と注目点をきいた。
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1.個人の少額献金がオバマを躍進させた!!
2.ホワイトハウスにまた“クリントン”でいいのか?
3.資金力のあったジュリアーニの自滅
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個人の少額献金がオバマを躍進させた!!
――
ヒラリー、オバマの争いが注目を集めていますが、現時点では堀田さんは、どちらが民主党の候補になると予想しますか。
堀田
 いまはオバマでしょう。私が本を書いた昨年11月末まではヒラリーでしたが、年が明けてオバマに追い風がきました。政治献金の面をみるとこの1月だけで3200万ドルを集めましたが、ヒラリーは約1400万ドルでした。
  昨年の10~12月はヒラリーが5億円くらいリードしていて、支持率でも15ポイントくらいのリードを保っていました。つまり、この政治資金と支持率との間にはかなり強い相関関係があるんです。資金が集まればテレビのCMも打てるし、スタッフも集められる。さらにイベントも多く開くことができるのです。
  昨年二人が出馬宣言してから15、6回も討論会がありましたが、つねにヒラリーが15~20ポイント支持率が上でした。しかし、今年1月3日のアイオワ州党員集会の前にオバマがすごい資金を投入して同州で9900本のテレビCMをうったのです。一方ヒラリーは7100本でした。この差が、お金の差でもありますが、これがオバマのアイオワの勝利につながったとみられます。
――
では、どうしてオバマはそんなにお金を集めることができたのですか。
堀田
お金の画像 政治資金を集める大物支持者が、お金を集めてくる構造はオバマもヒラリーもかわりありませんが、オバマは小口の献金がすごく集まった。彼のホームページにアクセスしてもらって一人500円、1000円というくらいの額を集めてきて、その数は1月だけで25万人以上といわれます。こうした献金は200ドル以上は名前が公表されますが、それ以下は名前も必要ありません。
  本当の小口献金をする人たちは、なんにも見返りがあるわけではなく献金して、支持しているわけでその辺は本当に日本の政治風土と違うところでしょう。
  それと、オバマには若い支持者が増えていることです。これまで30代以下はあまり投票所や党集会へは足を運ばなかったのですが、4年前に比べると、民主党での投票数は州によってはほぼ2倍になっています。これはオバマへの期待の表れだと思われます。
2
ホワイトハウスにまた“クリントン”でいいのか?
――
オバマの方が人間的に魅力があるということですか。
堀田
 オバマはあまりワシントンの汚れた政治風土に染まっていないし、演説もうまい。今回の民主党の選挙は人物に焦点が置かれているといっていいでしょう。というのは、ヒラリーもオバマも政策ではそれほど大きな差はありません。イラク政策にしても両候補とも撤退を主張しているし、医療制度改革でも移民政策でも基本は同じです。つまり、どちらを選ぶかは政策より人物ということになるのです。
――
では、ヒラリー、オバマの支持者にはどんな特徴があるのでしょうか。
堀田
ホワイトハウスの画像 ヒラリー支持者は昔からのリベラルな民主党支持者をはじめ中・高年の女性が目立ちます。ウーマンリブを体験してきた人たちです。オバマの方は、従来の民主党支持層のなかでは新しい若い民主党員からの支持があります。高学歴で、BMWに乗ってスターバックスでニューヨーク・タイムズを読むような人たちです。それと、オバマ支持層には反ヒラリーという人たちがいます。
  1988年の選挙で“パパ・ブッシュ”が大統領になって、それからクリントンが大統領になり、さらにブッシュが大統領になる。これでヒラリーが大統領になったらブッシュ、クリントンの2家族で最低24年は大統領を占めることになる。これに対する反発です。
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資金力のあったジュリアーニの自滅
――
さて、一方の共和党ですが、こちらはマケインが出てくることにほぼ決定したようですね。アメリカのメディアも予想していなかったことですが、どうしてですか。
堀田
 いやーその通りですが、マケインの成功の理由としてまず、ジュリアーニの自滅があります。彼は一番集金力があったのですが最初の6州まで、闘いを捨ててしまった。他の候補の選挙資金が集まっていなかったので、スーパーチューズデー(今年2月5日)にかけて一気に資金を投入したんです。しかしそれが間違いだった。また、ジュリアーニの選挙対策本部がまとまりにかけていたし、人物的にも問題があったようです。
堀田氏の写真
――
選挙資金と支持率との関係を共和党でみるとどうなるのでしょう。
堀田
『大統領はカネで買えるか?』では、資金と支持率には相関関係があるということを書きましたが、今回の共和党候補のレースについては、これはあてはまらないと思います。一番集めたのはジュリアーニとロムニーです。ロムニーは自分の個人資産を50億円も投入したりしました。それで人工中絶反対などの政策で共和党保守層に訴えました。これは、牧師であるハッカビーも同じで、キリスト教福音派など保守層から支持を得ました。
  一方、マケインは保守的な部分だけでなく、共和党内の幅広い層から支持を得ました。彼はイラク戦争を支持して強行路線を主張しています。しかし、移民問題では不法移民に将来市民権を与えることを主張したり、環境問題へも積極的に取り組むようにいっています。保守の本流とは違います。こうして、保守派をとりこみながら、共和党の穏健派や無党派層からも支持を得て成功したわけです。この傾向は80年に当選したレーガンと似ていると思います。
  マケインが他の候補に勝っている州はカリフォルニアなどヒラリーが勝っている州と重なっているところが面白いですね。保守層の中西部はロムニーやハッカビーがとっているんですが、そうすると、カリフォルニアなどのばりばりの保守は誰を支持したらいいのかわからなくなってしまう。
――
最終的な闘いは、共和党はマケインでしょうが、相手の民主党がオバマとなるかヒラリーとなるかでどう選挙戦が変わるでしょうか。
堀田
 民主党の支持者には現段階ではまだオバマかヒラリーのどちらを支持するかをはっきり決めていない人がかなりいるようです。冷静に観察しているのでしょう。そうなると、最後にはマケインに勝てそうなのは誰かという基準で選ぶことになり、ならばオバマの方がいいということになるかもしれません。というのは、今のところ共和党支持者の穏健派でも、オバマの将来性や人物に共感をもって、彼に投票する可能性があるからです。
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PROFILE

堀田佳男

国際政治ジャーナリスト

1957年東京生まれ。
早稲田大学文学部を卒業後、ワシントンのアメリカン大学大学院国際関係課程修了。米情報調査会社などに勤務。永住権取得後、90年にジャーナリストとして独立。政治、経済、社会問題など幅広い分野で活躍。過去4回の大統領選を取材した唯一の日本人ジャーナリストでもある。著書に『大統領のつくりかた』(プレスプラン)、『MITSUYA 日本人医師満屋裕明―エイズ治療薬を発見した男』(旬報社)など。

堀田佳男さんのHP:
www.yoshiohotta.com/
 
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