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「新書」編集長にきく

第15回 日経プレミアシリーズ編集長 野澤 靖宏さん

日本経済新聞出版社の「日経プレミアシリーズ」が創刊されて1年が経った。“日経”らしく、経済情勢を分かりやすく解説したものを多く扱う一方で、『リンゴが教えてくれたこと』(木村秋則著)など、読み物として興味深い内容のものもそろえる。野澤靖宏編集長は、仕事を離れたところでもビジネスパーソンが共感できるものを、これからも出版いきたいと抱負を語る。
新書にこだわった創刊ではなかった
「日経プレミアシリーズ」が創刊して1年が過ぎましたが、まず、このシリーズを刊行することになった経緯を教えて下さい。
野澤
 日本経済新聞出版社には、新書サイズでいうと「日経文庫」というシリーズがすでにありました。ビジネスパーソン向けの実用書が中心で、例えば、決算書とか財務諸表といった、ビジネスの現場で参考になるテーマを扱うシリーズです。書店では実務書コーナーに並んでいることが多いのですが、このシリーズの本の企画を考えているとき、実務的ではないもの、ビジネスの役にも立つ読みものなどを、コンパクトなサイズで展開したいという希望があがっていました。そこで、その「器」として「日経プレミアシリーズ」を創刊することになったのです。当初から新書サイズをだすと決まっていたわけではなかったのです。
最終的に新書サイズになったのはなぜでしょうか。
野澤
「日経プレミアシリーズ」の企画が実際に進み始めたのは、プロジェクトチームが発足した2007年からでした。そのチームの中で、多くの人に読んでもらうには、どういった判型がいいだろうか、値段はいくらぐらいが適当だろうかと、いろいろと話し合われたわけですが、その結果、新書サイズが一番いいのではないか、という結論になりました。このサイズになったのは、営業サイドや書店からのアドバイスによるところも大きいです。中途半端な判型にしてしまうと、書店としてはどこに置けばいいか迷ってしまう。結局のところ、その本の内容に応じて、ジャンルごとの書棚に散らばってしまい、シリーズ化する意味がないのではないか、と。しかし社内的には「新書」とはしていませんでした。08年1月の日経新聞に出した創刊の社告でも、「コンパクトに読める書籍のシリーズを発刊する」とうたっています。
以前、「日経新書」というシリーズがありましたね。そのシリーズの名前を引き継ぐといったことは考えられなかったのでしょうか。
野澤
 はい、かつて「日経新書」というシリーズがありました。社内でもいろいろな意見があって、その名前を引き継ぐことはしませんでした。現在は、先ほど申し上げた新書サイズの「日経文庫」、文庫サイズの「日経ビジネス人文庫」、そして「日経プレミアシリーズ」が、展開しているシリーズです。
社内的にはやはり、「日経プレミアシリーズ」は新書ではないわけですね?
野澤
「プレミア」とか「プレミアシリーズ」とか言っています。でも、アプローチをかける書店さんには、「新書」と言うようになりましたが(笑)
『リンゴが教えてくれたこと』で新しい読者層を獲得
「日経プレミアシリーズ」では、どのようなジャンルをラインアップに加えていこうとお考えですか。
野澤
 もともと、実務書としての「日経文庫」とは違った内容のものをラインアップにしよう、と始まったシリーズですので、いわゆるビジネスものでも読み物的なものを考えています。とは言っても、日経新聞が主な宣伝媒体になります。読者はやはりビジネスパーソンが中心と考えていますので、ビジネスにも役に立つような内容だったり、オフの過ごし方だったり、ビジネスパーソンが興味のありそうなテーマを選んでいますね。
読者層は日経新聞の読者と重なるということですが、具体的にはどういった年齢層、性別を考えていらっしゃいますか。
野澤
 ビジネスパーソンはもちろん、シニア世代や主婦、学生にも読んでもらいたいと思って、テーマを考えています。今までの日経の出版物にはおかたい、真面目なイメージがあるかもしれませんが、もっと柔らかい内容のものまで含んでいきたいと思っています。
これまで(09年7月現在)、「日経プレミアシリーズ」は47冊がありますが、振り返ってみて、想定していた新しい読者層は獲得できましたか。
野澤
 ビジネスパーソンに関心の高いものとして、榊原英資さんの『間違いだらけの経済政策』とか、滝田洋一さんの『世界金融危機 開いたパンドラ』などは好評です。わが社の編集者はもともと、ビジネスや経済ものに強い人が多いので、こういったテーマのものはやっぱり強いのかなと思います。しかし一方で、編集者の興味関心の幅が意外に広くて…(笑)。09年5月に刊行した『リンゴが教えてくれたこと』(木村秋則著)などは読み物として多くの方に読んでもらえているようです。今までのイメージとは違ったのが、読者にも書店にもうけたのではないでしょうか。
『リンゴが教えてくれたこと』はよく売れているようですね。
野澤
 おかげさまで、すでに4刷で9万部いきました。それ以前に木村さんが、NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」という番組で紹介されて広く名が知られていて、木村さんを取り上げた本もよく売れていたのですが、タイミングがうまく合いました。この本は、「農業家」で著者の木村秋則さんと、彼を紹介してくれた日本経済新聞の編集委員とが20年近く付き合いがあって、企画を進めていたものだったのです。本当にいいタイミングで、木村さんが「時の人」になってくれました(笑)
読者の反響はいかがですか。
野澤
「読者ハガキ」を入れているのですが、この本に関してはとても多くのハガキが返ってきます。しかも年齢層も幅広くて、女性も多い。普段だったら、弊社の本を買わない人にもアピールできているのかもしれません。
『リンゴが教えてくれたこと』以外で、よく売れたな、という本はどれでしょうか。
野澤
 創刊のときの『音楽遍歴』(小泉純一郎著)と『傷つきやすくなった世界で』(石田衣良著)はよく売れました。その他では先ほども出しましたが、榊原さんの『間違いだらけの経済政策』も売れています。この本は、企画しているときには全く意図していなかったのですが、ちょうどリーマンショックで、「さあ日本の経済はどうなる?」といった関心が広がったときに出版されたことも大きかったですね。
 それにしても、実際に新書のマーケットを一年間みていると、単行本に比べて「勝負期間」が短いなと感じますね。この判型だと2~3週間であっという間に平積みでなくなってしまう…自分の学生時代に比べると、本当に新書の回転が早くなりました。売れればもちろん、そこそこ長く平積みされていますが、そうでなければすぐに棚に入ってしまう印象ですね。
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PROFILE

野澤靖宏
(のざわ・やすひろ)

1969年生まれ。92年早稲田大学政治経済学部卒業、同年日本経済新聞社入社。出版局電子 出版部でビデオソフトなどを制作、98年より同局編集部で書籍編集を担当し、2007年1月に日本経済新聞出版社発足と同時に文化出版部へ。

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