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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
「新書」編集長にきく

第13回

学習研究社雑誌第三出版事業部 山本 尚幸さん
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進学校の授業をレポートした画期的名著
その21冊のなかで評判のよかった、あるいは思い入れがあるものはどれですか。
山本
 発売されたばかりで増刷が決定したのが、『名門中学 最高の授業/一流校では何を教えているのか』です。著者の鈴木隆祐さんが、麻布高校や武蔵高校、東洋英和などの授業そのものを取材しています。「中学受験」が盛り上がっている昨今ですが、学校を考えるときの原点は、やはり授業ではないか。先生が、なにを、どう教えているかが問題なのであって、偏差値のような流動的な数値で学校を評価するべきではないんじゃないかという視点で書かれています。こうした視点をもっている方は多いでしょうが、今まではそれを実践するのが難しかった。その点、鈴木さんは地をはうような努力で学校と交渉し、授業を取材しています。そして、それぞれの学校にどういう伝統があり、授業を通して伝統がどのようにすり込まれているか。鈴木さんの前著は、『名門高校人脈』(光文社新書)で、人格は大学よりも、中高時代にどういう教育をうけていたかが大きいと述べていますが、その文脈でこの本を読んでくれれば、画期的な1冊であることがお分かりいただけると思います。
確かに、現場に踏み込んだ内容は珍しいですね。鈴木さんとはどういういきさつで、「学研新書」から出版されたのですか。
山本
 授業の取材そのものは『読売ウィークリー』で記事をかくためにされていたんです。弊社と鈴木さんとは、歴史系の雑誌でのつながりでしたが、鈴木さんがそういう取材を別でしているときいて、それはぜひ、“教育”を標榜している学研でまとめさせてもらい、刊行したいとお願いしました。
その他にはどうですか。
山本
 柘植久慶さんの『断末魔の中国/粉飾決算国家の終末』もなかなかおもしろいです。柘植さんとも歴史系、「歴群新書」の方でのつながりでしたが、毒入り餃子事件が騒がれたタイミングだったためか、さっそく増刷が決まりました。それから“宗教”ものでは、『三種の神器/謎めく天皇家の秘宝』。これは「ブックス・エソテリカ」でお付き合いのあった稲田智宏さんに書いてもらいました。「三種の神器」と言うと、最初に「テレビ、冷蔵庫、洗濯機」を思い浮かべるのではないかと、営業サイドから心配されましたが(笑)、やはりこれを読まれる方は、ちゃんと本物の「三種の神器」であると理解して買ってくれましたね。「三種の神器」といえば、天皇家に伝わる鏡、勾玉、刀剣ですが、実はこれらの神器を実際に見た人はいない。天皇さえ見ることのできない宝物が皇位のシンボルとなっているのはなぜなのか。「三種の神器」という名は皆知っているけど、その実態をきちんと解説した本はありそうでなかった。そのテーマ設定が成功した理由かなと思います。
神道ものは新書でも増えていますね。実際に「新書マップ」でも2008年1月に「神道」という新テーマをたてました。
山本
 神道に関する書籍を読まれる方は、50~60歳の年配の方が中心だろうと思います。心のよってたつところへの回帰現象といいましょうか、自分たちが育ってきた日本という国が、いったいどういう国だったのか。神道といえば国家神道的なものを思い浮かべて、嫌悪感を抱いていた世代が、日本的アニミズムが自分のなかにもあるのだということを思い返せる時期にきているのかなと感じています。
ロシアン・ジョーク』の評判はどうですか。ついつい笑ってしまうおもしろい内容ですよね。一方で、『暗殺国家ロシア/リトヴィネンコ毒殺とプーチンの野望』という真逆の硬派なロシアものも出されていますが。
山本
 両者とも評判はいいですね。ロシアはだいたい極端から極端にゆれることが多いらしいのですが、今はプーチンがヒトラー化していて、完全に右よりに揺れています。
英語圏以外の国の情報ははなかなか伝わりません。そういう意味でもロシアを2冊も扱っているのはたいへん興味深いです。
山本
 出版されたタイミングもリトヴィネンコ毒殺の容疑者としてイギリス警察当局がロシアに引渡し要求をしたアンドレイ・ルガヴォイを、ロシア当局が拒否した問題などがちょうど話題にのぼった時期でしたし、注目度は高かったと思います。
新書サイズは黄金比の四角形
ところで、この表紙デザインはどのように決めたのですか。なにかアンモナイトをモチーフにしたようなデザインですが。
山本
 (笑)。この「渦巻き模様」はなんだ?とよくきかれるのですが、種明かしをするとこれは黄金分割比をもとにデザインしたものなのです。カバーを外すと分かるのですが、縦横比を黄金比で、つまり1:1.618 で作った長方形を次々に並べて、その頂点を曲線でつないでできる渦巻き、これは一般的に「黄金比の螺旋」と呼ばれていますが、これをデザインにしています。黄金分割比というのは自然界でもいろいろなところに現れているのです。例えば蔓植物のまきかたや、アンモナイトも「黄金比の螺旋」。自然界のなかに知を発見するという意味をこめています。実を言うと、新書のサイズは黄金分割比にほぼ合致するんですよ。
この淡い緑色はどういう意味なのですか。
山本
 色にはとくに意味をもたせていません。店頭効果は考えましたが、素直にタイトルが読めて、飽きがこない色ということで、何種類もの色から選びました。
これまで山本さんは、どういうお仕事をされてきたのですか。
山本
 学研には1985年に入社しました。担当してきたのは中学コース、美術書、豪華本など。それから宗教書や『5年の学習』、分冊百科「週刊神社紀行」もやりました。美術書は梅原猛さんに「人間の美術」というシリーズを書き下ろしてもらいまして、それを担当しておりました。
山本さんにとって新書とはどういう存在でしたか。
山本
 私たちの世代は、新書というのは学生が読むものというイメージがあります。値段が安くて、専門的なことがある程度わかりやすく書かれているので。新書は学生時代の“レポートの友”という感じでした。
具体的にはどんな新書を読みましたか。
山本
 私は大学時代、インド哲学を専攻していたので、講談社現代新書の服部正明『古代インドの神秘思想/初期ウパニシャッドの世界』(現在、講談社学術文庫)や『般若経/空の世界』(梶山雄一著/中公新書)などが記憶に残っています。
インドも国としては随分、注目されていますから、今後、自分の原点から新書をつくるということもお考えですか。
山本
 多少、秘策はあるんですが(笑)。それに中公新書や平凡社新書のようにわが道をいくスタイルには憧れますしね。私たちはブームにのって創刊したような感じではありますが、長く根強く残るようなシリーズにしたいと思っています。
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(2007年2月18日 連想出版にて)
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