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「新書」編集長にきく

第13回 学習研究社雑誌第三出版事業部 山本 尚幸さん

2007年6月に創刊された「学研新書」。「学研」の名で古くから知られる学習研究社が、教養系単行本をコンスタントに出し続けてきた蓄積を生かし現在隔月4冊ほどを出版。創刊から半年を経てたしかな手応えを感じている新書編集長の山本尚幸氏は、学研が得意とする歴史、宗教、教育、科学を軸に、教養新書として息のながいシリーズにしていきたいと抱負を語る。
新書を出さずにはいられない!!
まず学習研究社から新書をだすことになったいきさつを教えてください。
山本
 教養新書をシリーズとして出せないかという話は、かなり以前から社内で声があがってはいたんです。というのは、当社は百科事典や全集、学習参考書、学年誌を中心に出版していますが、実際には教養書も相当てがけているので、そのなかで培ってきたノウハウや人脈など、新書を出すための蓄積が社内には充分にあったからです。しかし、新書創刊については、企画が出ては流れ、流れては企画が出ての繰り返しでした。
  そして、いわゆる新書ブームがながく続くなかで、あちらこちらでメガ・ヒットが続出しているという状況を目のあたりにして、ここ数年、社内的に盛り上がってきたというのが、新書創刊の経緯です。学研がもっているノウハウを考えれば、新書を出さずにはいられない! という状況だったかなと思います(笑)
なるほど、時代の流れと社内的な財産が合致したというわけですね。社内的な財産というと、一番大きいのはやはり人脈だと思いますが、例えばどのような人脈でしょうか。
山本
 代表的なのはやはり、歴史系の著者との関係でしょうか。弊社には『歴史群像』シリーズという硬派な雑誌がありますが、たいへん好評です。そのシリーズで得られた著者との関係は広がりをもっています。
『歴史群像』といえば「歴史群像新書」シリーズというのも出版されていますね。「学研新書」シリーズとの差別化はどう考えていますか。
山本
 「歴史群像新書」シリーズ、通称「歴群新書」と言っていますが、こちらは基本的にフィクション、読み物系です。一時流行ったシミュレーションが中心で、完全に小説です。「学研新書」は教養としての歴史ものを扱っていきます。
学研は歴史、宗教、教育、科学が強み
先ほど新書ブームにのって学研でも新書を出すように社内的に盛り上がったという話がありましたが、実際に多くの新書が毎月刊行されています。それぞれの出版社にそれぞれの特徴がありますが、「学研新書」はどういうシリーズを目指していますか。
山本
 そうですね。やはり私たちがもっているノウハウの大きな部分である“歴史”は柱のひとつです。それから、歴史から派生して“宗教”。また学研は教育誌出版社としてスタートした歴史がありますから“教育”。そして、学研といえば“科学”。学研としてのコンテンツはこの4分野が代表かなと思っています。実際にほかの雑誌や単行本などの商品も、この4分野が基本にあります。もちろん、それらのテーマ以外のものは出さないというわけではありませんが、歴史・宗教・教育・科学が私たちの強みです。
たしかに、2008年2月までに出版された学研新書21冊のなかでも、歴史ものが多いですね。
山本
 先ほどもふれましたが、やはり歴史系の著者とのつながりは強いですから。例えば『戦国の城』(小和田哲男著)。小和田先生はいろんな媒体で本や記事を書いていますが、これだけの図版を新書に入れるのは、他ではなかなか出来ない強みだろうと思います。これも『歴史群像』などの蓄積があってのことです。
大きな柱として“教育”をあげられましたが、たしかに学研といえば若い人への教育雑誌という印象があります。そういう意味では、例えば「ちくまプリマー新書」や「岩波ジュニア新書」シリーズのように、中高生を対象にするような新書をだすという議論はなかったのでしょうか。
山本
  もちろん、ありました。ただ新書はやはり30代以降の男性が購買層の中心だということもありましたし、若い読者向けのシリーズに踏み込んでいくのは、まず大人向けのシリーズで地盤を築いてからだろうという思いがあります。当社には児童書部門という実績をあげている確固たる部署があります。実際に若い読者向けにシリーズを出すとなると、そういったところとうまく連動できればいいと思っています。
実際に新書を作るにあたって、例えばページ数や著者について制約を設けていますか。
山本
 いいえ。とくにそういう部分について“縛り”を設けてはいません。もちろん基準はありますので、編集会議で企画を決める際に、枚数でいうとこれくらいがいいんじゃないか、ページ数はこれ以上は多くしたくないよねとか、そういう話は出ます。しかしあくまでも、ゆるい基準で、はっきりと明文化した方針というのは決めていません。
新書編集部の構成はどのようなものですか。
山本
 当社の場合、新書編集部というのを作ってはおらず、雑誌第三出版事業部という部署に新書編集のチームがあるという感じです。チームといっても専任ではなく、メンバーは新書も作るけれど、ほかの雑誌や単行本も作っています。自分も含めて6人の社員と、外部スタッフとで、原則、週に1回、企画会議をやっています。そこで、企画を出しあい、議論していきます。
編集会議の具体的な工程はどうのようなものですか。
山本
 編集会議で編集者が企画をだすし、それに対してみんなが意見をだす。出版するものは合議制で決定していきます。タイトルや帯の文言は、それぞれの担当者が決めていきますが、みんなで言い合いながら最終的なものを決めていく感じですね。タイトルや帯のキャッチについては、最終段階で営業サイドの社員からも意見をきいています。
タイトルについて、何か取り決めはありますか。21冊をざっと見渡す限り、素直なタイトルが多い気がしますが。
山本
 基本的にはありません。もちろんどのタイトルも、最終的に決まるまでにはいろいろと議論があったうえでの結論ですが。新書に限らずですが、どんなタイトルかはとても重要なので、企画会議で時間をかけます。ギリギリまでもめにもめることが多いです。
今後の刊行はどのくらいのペースを考えていますか。
山本
 現状、隔月で3~4冊ですが、今後しばらくこのペースでいきたいと思っています。
企画は退職した編集者がもってくる!?
社内的に新書に対する評価、期待というのは高いですか。
山本
 社内的には数字というシビアな基準があるので、かなりのビッグ・ヒットが出て、ようやく一息つけるかなと思います。ただ、新書という“器”ができたので、この企画、この内容はこの器に入れられるかも、という空気が大きいのは事実ですね。この企画はどうですかとか、こういう内容のものはいかがといった社内持込みの企画が非常に多いです。
  また、OBの方からの持込みも多いですね。新書などの教養シリーズを出したいと常々思っていたが、ついに果たせず定年退職を迎えたような方々からの持込みが多いですね。ひとむかし前の編集者の方が、今よりも教養系のものを扱ってるんです。例えばジャーナリスティックなものを追いかける一匹オオカミ的な編集者がいたりと。そういう方々がよく電話をかけてきます(笑)
そういった人からみると、新書という“出口”ができたことはうれしいのでしょうね。
山本
 そうですね。今までも単行本で教養系のものは出していましたが、やはりどうしても単発で出すしかないですから、1冊1冊が勝負で、それにつまづくと次はない。“器”があってそこに放り込んでいくということが今まで、なかなかできなかったわけですから。
ホームページをみても、一般書という大きなカテゴリ・メニューはないですね。
山本
 一般書は、いろんな部署がそれぞれに出していますので、特に一般書の部署というのはないんですよ。私が属している第三出版事業部は一般雑誌というカテゴリーになり、担当しているのは「歴史群像」、「ムー」、「歴群新書」、「学研M文庫」です。それと宗教関係の雑誌で「ブックス・エソテリカ」というシリーズです。
宗教といえば、幻冬舎新書の『日本の10大新宗教』が売れていますね。“宗教”は強みとのことですから、気になるのではありませんか。
山本
 既刊の21冊で、宗教がどれかと言われるとなかなか困るのですが(笑)、一般向けの宗教に関するものは、これから出していきたいと思っています。
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PROFILE

山本 尚幸

1960年生まれ。85年京都大学文学部卒。同年、学習研究社入社、「中学コース」編集部に配属。美術書、宗教書、「科学・学習」、分冊百科などの編集を経て、07年より現職。

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