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[知ることの価値と楽しさを求める人のために 連想出版がつくるWEB マガジン
「新書」編集長にきく

第12回

生活人新書編集長 林 史郎さん
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教育番組テキスト編集部との強いつながり
5周年を迎えて毎月の刊行点数に変化はあるのでしょうか?ふだんは月3冊ペースでしたが、ここ2ヵ月は多いですね。
基本的には月3冊。これからもそのペースで考えています。3冊というのは他社に比べて少ない方だと思いますが、定期刊行の雑誌・テキストが多いので、宣伝などの面で、若干、手薄になってしまいます。そういうなかでやっていくのは月3冊くらいがちょうどいい。ただ、5周年と銘打って、私たちにとってはかなり大々的に販促活動をしましたが、やはりそれなりに効果があるものだなと分かりました。ですから今後、そういう強化月を、年に何回か設定していければいいなと思いますね。
現在の「生活人新書」編集部の構成や、NHK出版のなかでの位置づけを教えてください。
編集部は、契約編集員を含めて、6人で構成されています。「生活人新書」編集部と、外部には名乗っていますが、内部的には「生活文化編集部」というなかの“班”という位置です。「生活文化編集部」には、「趣味悠々」のテキスト、囲碁・将棋のテキスト、「まる得マガジン」のテキスト、俳句・短歌のテキストを作る“班”があって、「生活人新書」もそのうちのひとつという位置です。そもそも「生活人新書」の出自はそこだったということからも、創刊当初、生活系や趣味系の新書にしようとした意図を汲み取っていただけるのではないでしょうか。ちなみに「NHKブックス」は図書編集部に属します。
企画から出版まで、どんなプロセスを経ていらっしゃいますか?
とくに特別なことはありません。各々が企画を立て、編集会議をして、企画をしぼっていって、最終的に社内でオーソライズしていく、ごくごく普通のやり方ではないでしょうか。
会社によっては営業担当者が編集会議に入っていて、むしろ営業サイドの方が、企画にあがった新書を出版するか否か、最終決定をする場合もあるようです。NHK出版の場合、タイトルなどについても、最終決定は編集部がされるのでしょうか?
そうですね。編集部にかなりの裁量が与えられていると言っていいでしょう。タイトルに関しても、再考を促されることはありますが、「売れないからそんなタイトルはやめろ」といった干渉のされ方はありません。オーソライズについても、基本的には報告をするというスタンスですね。
著者について、どういう人に頼むか、基準のようなものはありますか?
それはありません。「NHKブックス」がアカデミズムなので、学者の方は「NHKブックス」に書いてもらおうというのはありますが、だからと言って学者はお断りというわけでもありません。学者でもゼネラリスト志向の強い人を選ぶ。自分が研究している学問なりを広く知らしめたいと思っている人を選ぶようにしています。
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誰も目をつけていない著者やテーマを追求!
「朝日新書」は、自社がかかえている優秀な記者さんを著者にして、独自色を出そうと考えられていますが、NHKも優秀な記者やディレクターがたくさんいるとおもいます。こうした人たちに書いてもらうことはないのですか?
そうですね...今までは、NHKの記者やディレクターは単行本で出すことの方が多かったですね。というよりも、ひとつの大きな番組、例えばシルクロードなどのNHKスペシャルとか、それを担当したディレクターが、取材内容についてより詳しく単行本で書くというのがオートマティックに決まっていたところがあります。私はもともと単行本を担当していたのですが、その経験から言えば、だんだん上製の単行本が売れなくなってきています。やはり値段が高いせいか、「これで700円だったら買うけどな」という話を耳にする機会が増えた。安いから売れるというわけでもないでしょうが、新書で出版することも考えていいと思っています。
NHKの番組とのつながりからいえば、棋士の梅沢由香里さんは囲碁番組で活躍されていて、本も書かれていますが、他社からも多く出版されていますね?
そういう人脈を生かすという目的があって、「生活文化編集部」に属しているのですが、どうしても他社に先を越されてしまうんですよね。わが社の特徴なのですが、競い合って奪い取るという文化がない。売れてる作家をつかまえて、なんとしても契約を取ってこい!みたいな、そういう“勝負”に巻き込まれていくよりは、他にまだ埋もれている著者を探そうと。それはNHK的な良さの部分かもしれないけど、他社がやっている二番煎じよりは、他がやっていないテーマのものを取り上げようと思ってしまうのですね(笑)。
林さんは編集長になられて2年くらいということですが、ご自身が初めからかかわった新書はここ1年くらいですよね?この1年くらいの「生活人新書」を見て、「生活人新書」は変わってきたなぁと思っていたのです。林さんのカラーが出てるということでしょうか。例えば、『太ったインディアンの警告』。アメリカの肥満社会はある種の文明病だと思いますが、その問題について文化的側面と科学的側面から書かれてあって、非常におもしろいと思いました。しかも他社がなかなか取り上げないテーマですので、眼の付け所がすばらしいなと。
ありがとうございます。これは早めに警鐘を鳴らさないとまずいぞ、と思って、私が手がけたものなんです。だから褒めていただけるのはたいへんうれしいですね。原稿は、かなり圧縮せざるをえなかったのですが、新書としてはちょっと欲張りすぎとも言われます。そのせいなのか、そんなには売れてないんですよね。書評はかなり出ていて、評価も高く、著者には講演依頼が増えたらしいのですが。
アメリカ人は、太っているという自覚がないらしいのです。アメリカでは300ポンド=130キロを超えて、はじめて「ちょっと太っている」と言われるらしいんですね(笑)。しかも彼らは、炭酸飲料が大好き。それも4リットルが普通なんですね。炭酸っていうのは気が抜けてしまうから早く飲もうとする。だからどんどん太ってしまう。こういう傾向は低所得者層ほど強いらしいのです。日本もだんだんとそうなってくるんじゃないかという気もして、アメリカでご活躍中のジャーナリスト、エリコ・ロウさんの話に乗りました。
今後出版されるなかで「これは一押し!」と考えていらっしゃるタイトルはなんでしょうか?
来月(2007年1月)刊は二冊ですが、そのうちの一冊が『団塊フリーター計画』です。これはなかなかおもしろいです。団塊世代の女性ライターが、同世代の男性にエールを送っています。メッセージとしては、「団塊世代と団塊ジュニアのポジションチェンジ」というのを提案している。団塊世代は退場して、団塊ジュニアに席を譲りなさいということです。どうしても仕事がしたいなら起業しろと。フリーランスで仕事をやっていけばいいじゃないかと。ご自身もフリーランスのライターとしてやってきているから、なかなか説得力があります。また、息子さんがフリーターで、アルバイトしながら音楽をやっているんですね。あるとき、このままじゃいけないと思って、息子さんを家から追い出そうと思った。それで、敷金礼金は出してやって一人暮らしをさせたんです。それで追い出した直後に自分たちも息子が帰ってこれないように2DKの狭いマンションに引っ越してお前の部屋はもうないぞという状況を作った(笑)。そういうユニークなエピソードも交えながら、団塊世代に「どう生きるか?」という、新しい提言がたくさん入っている内容に仕上がっています。
もう一冊は、『障害者市民ものがたり』。いまでこそ当たり前のように車いすの人がバスに乗っていますが、以前は乗れなかった。当たり前のように障害者を受け入れているようにみえるけど、初期にはどんな軋轢があったのか?ということを現代史として解き明かしていこうというまじめな内容です。
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ベストセラーを“いい間隔”で出していきたい
他社の新書を見て、これは気になるなというところはありますか?
光文社、新潮社は、タイトルのつけ方、テーマの選び方など、やはり上手いなと思いますね。負け惜しみでもあるのですが、ベストセラーを出して、その本を中心に販促をかけて、他の本も売る。そういう良い循環をつくると著者を獲得するのも容易だろうなと妙に納得してしまいます。単行本の場合、編集者によってどんな本の仕上がりになるか変わってくる。上製本にするか並製本にするか、判型はどうするか、どんな装丁家に頼むかなんかが編集者の感性にゆだねられる。新書の場合、どういう本になるかイメージがついちゃいますよね。判型はほぼ同じだし、装丁もほぼ同じ。タイトルまわりのロゴが変わるものでもない。著者にとって選ぶ基準は、どの新書に勢いがあるかではないでしょうか。もちろん、そんな単純な話ではないでしょうが、自分が書き手であれば、そう思ってしまいます。だから数社から話があれば、新潮社や光文社を選ぶ確率は高いだろうなと。特に新潮社は最初のラインナップに『バカの壁』を入れたのが成功のきっかけですね。ヒット商品がいい間隔で生まれるから、それを中心に広告も打てるわけですしね。そういう循環ができている新書はうらやましいと思いますね。
林編集長は、もともとはNHKにいらしたんですか?
いいえ。もとからNHK出版です。正式な社名は日本放送出版協会ですが、社歴は結構長いんですよ。もともとはNHKの出版局としてスタートしましたが、ラジオ第二放送が始まった昭和6年に株式会社として独立したんです。
入社されたのは1982年だとのことですが、どんな部署を経験されてきたのですか?
最初、販売部に2年間いました。その時、書店のことを少し学んで、その経験は今に生きていますね。その後、家庭番組のテキストをやって、女性誌の創刊に立ち会いました。『H2O(エイチ・ツー・オー)』という雑誌で、NHK出版最初の女性誌。すでに廃刊になっていますが、今でも「私、大好きだったんですよ」と言われて、うれしい思いをすることがよくあります。
雑誌の後は、15年くらいずっと単行本を手がけました。取材記、画集、写真集、児童書、学術書、シリーズもの、あらゆるものをやりましたね。
編集長と新書とのかかわりをお聞かせください。
学生時代にはあまり読んだことなかったですね。岩波新書の印象が強かったせいか、ちょっと難しいものと思って、敬遠していたところがあります(笑)。若いころは、小説ばかり読んでいましたから。
学生時代ではないですが、記憶に残っている新書と言えば、岩波新書の『競馬の人類学』です。なぜ記憶にあるかというと、サラブレッドの血統に関する企画を考えていたときに、「その企画、NHKブックスにしたらどうだ。岩波からもこんな本が出たし」と上司から奨められたのが、この新書だったんです。
新書の編集長になってから、気になった新書はありますか?
印象に残って、人に奨めた本が2冊あります。まず『ウェブ進化論/本当の大変化はこれから始まる』(梅田望夫著、ちくま新書)。うすうす感じていた事象が、はっきりと“像”を結んだエポックメイキングな本だなと思います。それから、『ガウディの伝言』(外尾悦郎著、光文社新書)。これもあらゆる人に奨めました。新書の枠を超えたつくりだと思います。380ページ、900円でカラー。なんで単行本にしなかったのかな?と思いましたが、逆に新書の価格帯を広げたなと。それに単行本で出したら、建築のコーナーか、伝記コーナーに置かれて終わってしまったのが、新書で出したおかげで広く世間に知られたんだと思いますね。読む人のおかれている状況によって、感じるものがまったく違うと思える味わい深い内容です。
今後、こんな新書を出版してみたいというのはありますか?
12月刊の『「ニッポン社会」入門』で実験的にやってみたのですが、書き下ろしの翻訳書ですね。新書担当に移る前の2年間、翻訳書もつくっていたので、日本語版をつくって、同時に英語版も出せないかと。以前、『ジーコの考えるサッカー』という本を作った際に、ブラジルでも出版したいという話がありました。日本語で出したものを著者の本国でも出したいというアプローチがあったのは、編集者として栄誉に感じました。著者と翻訳者がいて、印税の面などでなかなか難しい問題がありますが、日本のマーケットを意識しながら外国人に書いてもらって、それを本国でも販売する。そんなことができればおもしろいでしょうね。
新書以外なら、児童書ですね。単行本を担当していたとき、児童書のシリーズもので、パイロット版までつくって、かなり好評をえたものの、営業的に難しいということで止めたのがあるんです。それ自体をやりたいというわけではないのですが、最後は原点に返って、児童書で締め括りたいですね。
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(2006年12月22日、連想出版にて)
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『団塊フリーター計画』島内晴美著(生活人新書)
『団塊フリーター計画』
島内晴美著(生活人新書)
『障害者市民ものがたり/もうひとつの現代史』河野秀忠著(生活人新 
書)
『障害者市民ものがたり/もうひとつの現代史』
河野秀忠著(生活人新書)
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