なんといっても、講談社現代新書の
『ウィトゲンシュタイン』(ノーマン・マルコム著)です。哲学者ウィトゲンシュタインの弟子マルコムによる回想録です。教師としても生活人としても、非常に変わった人物だったウィトゲンシュタインですが、物事に取り組む時のある種の真剣な姿や、教師や友人として他者に接する様子が描かれています。基本的には「困った人」なんですが、独特な真摯さや誠実さにはとても感銘を受けます。若い人にぜひお奨めしたいものです。で、とてもよい本なのに残念ながら品切れになっていたので、それなら平凡社から出そうということで、私が担当して98年に「平凡社ライブラリー」として復刊した、というオチがつくんですが・・・。(笑)
平凡社は、所属部署に完全専業しなさいという会社ではないので、担当の仕事をちゃんとやったうえで、他部署の本を企画することもあります。「平凡社ライブラリー」からはその他
『ウィトゲンシュタインのウィーン』(S. トゥールミン、A. ジャニク著)など合計4冊ほど担当しました。新書の編集者が単行本を企画することもありますし、他の部署の人が新書企画を提案して、フィニッシュまで手がけることもあります。お互いに器を利用し合うことで、よりよい本作りを目指しています。
新書ではほかに、
『ことばと文化』(鈴木孝夫著、岩波新書)も記憶に残っています。言語学というよりも一種の日本文化論で、「なるほど」という感じを強く受けました。言葉の意味というより、用法や使い分けにもとづいて、説得力をもって書かれています。最近のものでは、
『道徳を基礎づける』(フランソワ・ジュリアン著、講談社現代新書)が印象深かったです。新書としては分量的にもレベル的にも難しい倫理学書なのですが、とてもインパクトがあって面白かったです。
新書以外の愛読書というと、すぐに思い浮かぶ1冊は、岩崎武雄さんの
『カント』(勁草書房)ですね。とてもわかりやすい入門書なのですが、それを超えて心に響くものがありました。大学4年のときに読んで、大学院に進もうと決めたきっかけになった本です。別にカント哲学を専攻したわけでは全然ないんですが、なぜか非常に感銘を受けた、思い出深い本です。読み終わったとき、アパートの部屋に夕日が差し込んでいた光景が、いまでも浮かんでくるんですよ。