やっぱり養老先生でしょうか。お付き合いも長くて、20年になりますから。
『解剖学教室へようこそ』を担当したことは、今思えば、とても大きな出来事でした。この本の後、なぜかすごく楽に仕事ができるようになったんです。実は、「バカの壁」という言葉は、私も、それこそ20代の頃から知っていたんですね。
『形を読む』(養老孟司著、培風館)に出てきますし。それがある時、「先生、私にもわかるようにやさしく書いて下さいね」と申し上げたら、「それは無理です。磯さん、バカの壁ってご存じですか」って言われて、「そりゃ、言葉は知ってますけど。え? もしかして私のこと? 私が壁かあ」(笑)。
新潮新書編集長インタビューで三重さんが
『バカの壁』の経緯を話されていましたが、やはり養老先生とお付き合いの古い新潮社の石井さんは、「バカの壁」をタイトルにしよう、とずっと思ってらしたようですね。私は、「壁かあ…」と思っただけ。この差は大きいです(笑)。
私の場合、編集者としてたくさん本を読んでるほうではないので、出会いから仕事が展開していくことが大きいですね。養老先生に会わなければ自然科学の本は作らなかったと思いますし、玄侑先生に会わなければ仏教に興味を持たなかったかも知れません。出会いから興味が広がったと思います。きっかけがあると人は変わるものです。
影響を受けた新書は、
『胎児の世界』(三木成夫著、中公新書)や
『サブリミナル・マインド』(下條信輔著、中公新書)でしょうか。ロングセラーになっていますし、どちらも繰り返し読む名著だと思います。ごく最近のものではリービ英雄さんの
『英語でよむ万葉集』(岩波新書)。リービさんの文章は、とても心地いいんです。