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「新書」編集長にきく

第2回

岩波新書編集長 小田野 耕明さん
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教養主義は死んでも教養は生き残る
読者高齢化の中、2006年新赤版は1000点に
教養主義は死んでも教養は生き残る

新書戦争といわれる状況の中で、岩波新書全体をどういう方向にもっていかれますか。

小田野
これだけ歴史と伝統のある媒体ですので、急にがらっと方向を変えることはまったく考えていません。今までの教養新書の路線を引き継いでやっていきます。
ただ、他社がつぎつぎと新書を創刊して、それぞれの新書のカラーが問われてきていると思うので、岩波新書らしさを再定義しながら、時代や読者の要請をきちんと受け止め、新しい教養路線を作っていければと思っています。

ちょうど竹内洋氏のインタビューを掲載していますが、70年代くらいまでは学ぶことやものを知っていることに対しリスペクトする価値観が世の中や若者の中にあったと思います。ところが現在は新書すら、という言い方が適当かどうかはわかりませんが、あまり読まれていません。

小田野
竹内さんの問題提起は面白いですね。ぼくも教養主義は死に絶えたと思っています。教養主義を支えていた大学という場もいろいろな形で今、波を受けています。仕事柄、大学の先生と話す機会が多いのですが、昔ながらの研究スタイルで、たとえばある資料を丹念に読み解いていくといった時間のかかる仕事はできなくなっていると聞いています。
でも、竹内さんの話にもありましたが、教養自体が意味を失ったかというと、そんなことはない。教養主義は死んでも教養は必要とされ、残っていく。そして教養を提供する一つの媒体として、岩波新書を考えていきたい。このことは創刊以来、今まで果たしてきた役割ではありますが。
ただし、時代の変化の中で、これからは提供の仕方を変えていかなければならないと強く思っています。また、教養の中身についても、考え直していかなければならないでしょうね。
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読者高齢化の中、2006年新赤版は1000点に

最近の新書はテーマから書き方、スタイルまでいわゆる従来の教養新書とは大きく変わってきています。その中で形や分量まで含め、このスタイルは守る、あるいはこう変えていくというお考えは具体的にありますか。

小田野
読者はがきを見ると、やはり中心になる年齢層が高くなってきています。だから活字を大きくして欲しいという要望は目立ってありますね。外面の話でいえば、活字を大きくしたりゆったり組んだりすることは考えてもいいかなと思っていますし、ものによってはすでにそうしています。

内容についてはいかがですか。

小田野
岩波新書は四つの柱で考えています。一つは、先ほど言った教養の提供。教養とは生きる上での糧となる文化的なものでしょうから、具体的には歴史、思想・哲学、そして文学が中心だと思います。二つ目は、学問へのいざないとなる入門書。「~学入門」といったものですね。三つ目はアクチュアルな、ジャーナリスティックな関心にもとづいて作ったもの。四つ目はエッセイなどの軽い読み物。
現在の新赤版がスタートしたのは1988年で、このときに以前は月3冊だった発刊数を4冊に増やしました。それでウィングを広げようということで、従来の岩波新書では扱っていなかった軽い読み物を加えていくことになったんです。永六輔さんの「大往生」などがこれにあたります。
しかし、柱があるからこそウィングを広げられるのであって、これからもメインは教養の部分にあると思っています。

これだけ新書が出てくる一方で、それはあまり読者層の拡大に結びついていないし、書店の棚のスペースにも限りがある。すると売り方の面での競合対策も必要になってきますが、何かアイデアは。

小田野
なかなかいい手立てはないですね。岩波新書は新刊によっている部分も大きいですが、66年やっていますので同じくらい在庫の部分も強い。これが新規参入組とは大きく異なるところでしょうね。この強みを活かして、岩波新書の棚の前に行けば、自分の知りたいテーマの本がある。そう読者に思ってもらえるようなラインナップを構成していきたいですね。
企画を考えるときも、棚を眺めて、そこから抜けている分野を強化していくとか、少し古くなった書目についてリニューアルすることは、議論しながら進めています。

33歳での編集長ご就任ということで、抜擢人事といってよいかと思いますが、岩波書店は小田野さんに何を期待されたんでしょうか。

小田野
よくわかりません(笑)。再来年、新赤版は刊行点数が1000点に達します。岩波新書にとっては大きな節目を迎えるのですが、ではその後どうするのか。これを考えることが日常の企画活動と合わせ、新書編集部全体の大きな課題になっています。
まだ具体的なイメージは固まっていませんが、器としての岩波新書を打ち出す格好の機会ですので、それを可能とする書目を集めたい。作業としてはこれから来年にかけて、執筆者の方に依頼をしつつ、ラインナップを揃えていくことになります。
2004年7月22日、国立情報学研究所内で
(きき手 フリーランスライター 宮内 健)
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